幻葬職員がソルセドフに向かっている間、ルグラは事務所の掃除をしていた。四肢全身に絡む鎖が邪魔にならない所作はかなり洗練されている。
「今日の整理、終わりか。」
ほこりを払い終えたルグラは分厚く重なる紙の束といくつかの鏡を机に置く。紙には無数に文字列が並び鏡は大人一人の全身が余裕で映る大きさだ。
「確か昨日は行動分岐の過程による展開の変化まで出したのか。なら、今日は作品での世界観にあたる前提条件の違いの存在証明か。やれやれ、無いことを証明することは有ることを証明することより困難なはずなのに無いと言い張ることは有ると言い張るよりも無責任で簡単なことだな。これは何日かかることやら。」
ルグラは鏡に映る自分の虚像を撫でる。だが、鏡の像は彼女の動きに合わせず両足で立ったままである。
「いつの日か、再び会えるのかな。鏡を隔てた私よ。向き合う顔を背けた在りし日の肖像よ。欠片に映るそなたの心は何を抱えているだろう。深い水に沈み藻掻きが遅れた私は沈むばかりだ。」
虚像の頬を撫でるのをやめたルグラは
「それでも、ずっと寒いままでいることはできないさ。私が生きている間は。苦痛を愛さぬ日はないが温まれる日は時にはあったから。」
ルグラはそれからは言葉を発さず紙に文字を書き連ねる。過去の所業、己が傷付けたすべての者への贖罪となりえる狂者がほざく夢物語としか思えない都合の良い理論なんてまやかしを証明するために。己が辿れる一方をかなぐり捨てないと会えぬ美しい苦しみを探すため、今日もペンを執る。
「……。」
十二時間後、ルグラは潰れていた。休憩も食事をしていないのでさもありなん。
「一度、休めるか。」
ルグラは炊事場に向かうとありあわせの食材で軽食を作るとゆっくり噛み締めるように食事を摂る。人間では満足しないような量だが本人は腹がいっぱいのようである。
「また、描くか。」
休憩がてら絵を描き始めるルグラは過去、偶然の交差が映した己を描いていた。修正の利かない羽ペンだが迷いなく輪郭が浮かぶ。
「できた。」
無邪気な笑いをする彼女の手元には本体がすっぽりと入るサイズの棺桶を背負い時計の長針単針と歯車が合わさった大剣を握り、ぼろ切れと言って差支えのない上着を羽織りつつ釘でずり落ちないように固定をした彼女自身が今にも動き出そうな雰囲気の中紙の上に存在していた。
「休息はしたし、又式を…いや、先にあの子の手入れか。」
ルグラは椅子に手をかけ立ち上がるとルグラの部屋に向かった。