「あくまで俺はここに輝磁の採掘に来ただけの何でも屋だ。本当にそうだ」
「では何故アンビーと交戦したのでしょうか?また、どのようにしてここに来たのですか?」
彼女はライフル銃の銃口を俺の顔面に向けながら尋ねる。
「俺は転移現象に巻き込まれてここに飛ばされただけだ。それに戦ったのはこいつが襲い掛かかってきたからだ」
「貴女から先に攻撃を加えた・・・・・・と彼は言っていますがそれは本当でしょうか?」
「ええ、私から攻撃を仕掛けたのは本当よ」
「そうですか、次に貴方は自分を何でも屋と言っていますがそれは本当でしょうか?口ぶりからして貴方は複数人で来ていると推察できます。もしその仲間が実在しているなら連絡がとれると思われますが」
「そんな疑うなら──」
俺はスマホを渡そうとポケットに手を伸ばす。だがアンビーはそれよりも早く俺のスマホをポケットから抜き取った。
アンビーはそのまま俺のスマホを調べ、「貴方の仕事仲間の連絡先は?」と連絡先の映し出された画面を俺の前に突き出してきた。
「トーマスって書かれたとこだ」
「トーマス、ね。通話を繋いでおいたわトリガー」
そう言ってアンビーは女に俺のスマホを手渡す。
スマホを持ったトリガーはこちらに背を向け、そのまま通話を始める。一体どういう会話を行っているのかと聞き耳を立てるが、そのことを察したのかアンビーは双剣を更に俺の首筋に近づける。
「──分かったよ」
「・・・・・・」
暫しの沈黙の後、通話を終えた女がこちらの方に向かってきた。
「彦斎さん、どうやら貴方が言っていたことは本当だったようです。どうか先程の無礼な行いをお許しください」
トリガーは申し訳なさそうな声でそう言った。
「先程の件のお詫びとしてとはなんですが、貴方のことは同じくラマニアンホロウを訪れた仲間の元に帰るのをお手伝いさせていただけないでしょうか」
「ああ、ならそれに甘んじよう」
こんな訳の分からない場所に長居するのは肉体的にも精神的にもよろしくない。早くこのホロウから──
「但し、こちらからも条件を提示させてもらいます」
「──今、私達が極秘で進めているこの任務に参加してください」
トリガーは低い声でこちらにそう告げた。
「──その極秘任務って言うのはやっぱり危険な任務なのか?」
俺は黙々と歩みを進める二人に聞いた。
「特段危険な任務、という訳ではありません。ただ目的地とその周辺を爆破してしまえば済む話ではあるのですが、如何せん場所が場所でしてね」
トリガーが躊躇いがちに言う。
「今回我々に与えられた任務はこのラマニアンホロウに設立されたホロウ調査協会の研究施設、そこで起きた重大な事故の後処理です」
「いや待て、ホロウ調査協会の研究施設がここにあるなんて知らないぞ」
「それもそうでしょうね、何てったってその研究施設の存在は公にはされていないものだから」
アンビーは淡々と告げた。補足するようにトリガーも再び口を開く。
「その研究施設はTOPSの援助により設立された施設で、そこで行われる研究の内容は同じホロウ調査協会の人間ですら把握できないような謎に包まれたものです。ですがつい先日反乱軍の襲撃を受け施設が壊滅、施設にいた人間は反乱軍の者も含めて死亡、生き残った者も漏れ出したエーテル物質に被曝しエーテリアスとなり周辺をさまよっています」
「そして私達はエーテリアスと化したその研究員達を始末するために送られてきたの」
「そうか、そんな重大なことを部外者の俺にベラベラ喋って大丈夫なのか?」
「いえ全然そんなことはないわ」
アンビーは全く感情を感じさせない声でそう告げた。
「本来ならば貴方はこの作戦を知った時点で、あの場所に現れた時点で始末されるべき対象ですが、ただ迷い込んだ存在を始末する程私達は酷薄な人間ではありませんので」
「じゃあ何で俺を殺さずこの作戦に参加させたんだ?」
「貴方はアンビーと渡り合える程の実力者ですからね、排除するよりも作戦に利用した方が効率的だと判断しただけです」
トリガーはライフル銃の手入れを行いながら言う。恐らく、いや間違いなくその気になればこの二人は俺を殺すことができるだろう。もしあのまま二人が戦闘を続けていれば十分と経たず俺は間違いなく殺されていた。
とはいえ今はその二人は仲間、彼らとエーテリアスを共に掃討してこのホロウからとっとと抜け出せるならば御の字だ。
「それはそうと彦斎さん、貴方は何故アルゴナウタイに入ったのでしょうか」
トリガーが尋ねる。恐らく弱みを聞き出すつもりだろうが今の俺は逆らえる立場にない。おとなしく白状した方が恐らくいいだろう。
「ホロウの中でそいつらと偶然会っただけだ。そこから紆余曲折あってって言う感じだな」
「アルゴナウタイ......最近ニコが目の敵にしてる同業者だけれどもまさか貴方がその一員だなんて思いもしなかったわ」
「おい待て。アンビー、もしかしてお前あの邪兎屋か⁉」
「ええ、今は邪兎屋の社員としてそこで働かせてもらってるわ」
「まさかこんなところで同業者と会うとはな。それはそうと何故邪兎屋のお前が防衛軍に手を貸してるんだ?」
「私は実は昔防衛軍に所属していたの。今は抜けたけど色々あって怪我で療養中のトリガーの同僚の代わりに任務に当たってるのよ」
「他のメンバーには協力を仰げなかったのか?」
「他のメンバーは今は軍の特殊作戦群に参加しているため今回の任務には参加できない状態でして、こちらとしては猫の手も借りたいくらいです」
変な話にも思えるが俺やアンビーのような外部の人間の力を借りている時点で事態は相当急を要するのだろう。
「──こちらからも話を伺わせてもらいたいのですが、いつから彦斎さんはホロウで活動するようになったのですか?」
トリガーが柔らかな声で尋ねる。
「14歳の時に旧都崩壊の被災者支援が打ち切られた時からだな。日に日に寂しくなっていく懐を潤すためにやむなく賞金稼ぎになったんだ」
「ご家族や友人は心配しないのでしょうか?」
「家族なら旧都崩壊で全員死んだ。父親と母親、そして姉もな。血の繋がってなかった俺でも実の子供みたいに扱ってくれた優しい家族だったよ。友達、と言っていいのかわからないが幼馴染は一人いたな」
「その方はどのような人なのでしょうか?」
「言っても信じてもらえないかもしれないが、あの最年少の虚狩りとして有名な星見雅だ」
二人の顔に驚愕の色が浮かぶ。
「それは......本当ですか?」
「信じてもらえないかもしれないが本当だ。昔はよく剣術を教えてもらったものだな、もっとも教えてもらったのは基本だけで剣術自体は我流なんだがな」
「......確かに貴方の足さばきや型はあの人に似ているものもある。あの人の剣術は間近で見たことがあるけど付け焼き刃や見よう見まねで真似できるものじゃない」
「──それともう一つ質問したいのだけれど、さっき戦った時どうして私の右足を斬らずに峰打ちを入れたの?」
一気に空気が凍る。
「戦いの時も獲物に嚙みつこうとする毒蛇のような目をしている癖に、私の隙に挟み込んでくる攻撃は全部峰打ち、まるで殺すのを極端に怖がっているみたい」
アンビーが鋭い視線をこちらに向ける。彼女の言わんとすることは手に取るように分かる。こいつは俺を──
「今でも雅さんと交流はあるのですか?」
この空気を晴らそうとトリガーが口を開く。
「旧都崩壊の時以来会えていないな。またいつか会って話したいと思っているが、俺は彼女に会っていいような人間じゃない」
「それは......どういう事でしょうか」
トリガーが心配そうに尋ねる。
「あの人は虚狩りであり高潔という言葉を体現したような人間だ。そんな人に俺みたいな薄汚い犯罪者が会っていいと思うか?」
そうだ、俺は薄汚い犯罪者だ。それに──
「いえ、私はそうは思いません」
トリガーははっきりとそう言った。
「あのような厄災があっても大切な人が生きている、ということはそれ自体が尊いものです。貴方が雅さんをかけがえのない存在と思っているように、雅さんにとっても貴方は大切な存在であることは間違いありません。だから自分をそのように卑下するのはやめてください」
トリガーはいつになく真剣な表情でそう告げた。
「殺されている家族に背を向けて逃げ、今なお罪を重ねて生きる俺にそんな資格があるか?」
「関係ありません。今貴方や私がここに立っているのはこの先も生きたかった方々が、貴方のお父様やお母様、私の戦友が命を賭したからです。生き残った者はその意志を無駄にしないために彼らの分まで生きるべきではないでしょうか」
「貴方には生き別れた親子や兄弟が時を越えて再会する、そんな感動できる映画をオススメするわ」
そんな会話をしていた時、ふと二人が立ち止まる。どういう事だと思っていると風に乗ってエーテル物質が流れてきた。
「まさか......」
「──どうやら目的地に着いたみたいね」
そう言ってアンビーが覗き込んだキャロットは、目的地である研究所がすぐ近くにあることを示していた。
第十一話 完
登場人物の過去を深く掘り下げたスピンオフ小説要りますか?
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いらない