ゼンレスゾーンゼロ 虚ろいを行く者達   作:清少納言

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第五話  玉折─弐─

──土煙が晴れるよりも早く、それは姿を現した。

 

それは真っ黒な巨体に、変形した標識柱を武器のように携えたエーテリアスであり、その身から異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「デットエンドブッチャー⁉もう新しく発生して──」

 

俺達に驚愕の暇を与えることなく、奴は標識柱をこちらに振り下した。

 

「一時撤退だ!」

 

フィンがそう叫ぶと同時に俺達はその場から駆け出した。

 

そうしている間にも逃がさないと言わんばかりに奴は標識柱を振りかざし追ってくる。

 

何とか駅のホームに上がり、その向かい側に位置する建物の陰に俺達は身を隠した。

 

「まさかあんなのに遭うことになるとは......まぁこんなところで油を売っていればこうなるか」

 

フィンが毒づく。

 

「もうこうなった以上逃げ場はない。大人しく投降することだな」

 

セスがこちらに言う。

 

「逃げ場がないのはお前達も同じだろ。今はそんなくだらない諍いをしている場合じゃないだろ」

 

「確かに今は出口を探すことが最優先ですね」

 

朱鳶はフィンに同調した。

 

「水を差すようで悪いがその出口の事だが──辿り着くにはあやつと戦わねばならんぞ」

 

青衣が口を開く。

 

「どういう事ですか」

 

セスが尋ねる。

 

「我に搭載されているキャロットによればこのホロウの出口に通ずる道はあやつが今うろついている場所を通らなければ辿り着く事はできん」

 

俺も手元にあるキャロットを確認する。確かにそれを見るとこのホロウの出口に辿り着くにはあのデットエンドブッチャーがいる場所を通らねばならないようだ」

 

「迂回して違う出口を探すって言うのはどうですか?」

 

「それだと時間がかかりすぎますし、更に迷う可能性もあるのであまり得策とは言えません」

 

セスを朱鳶が諭す。

 

「じゃああれと戦わないといけないっていうことですか。たった三人で」

 

「落ち着けセス坊。何もこれは我々だけの問題ではないだろう」

 

青衣と朱鳶はこちらに視線を向ける。

 

──彼女らの言いたいことは分かる。このホロウを脱出するため、俺達も協力しろということだろう。

 

「いくら危機的状況とはいえ犯罪者と手を組めってんですか⁉そんなの到底──」

 

二人の考えを察したセスが猛抗議する。

 

「確かにセス坊、うぬの考えもごもっともだが事態は急を要する。今は体裁にこだわっている場合ではない」

 

「貴方達もご協力をお願いします」

 

朱鳶が頭を下げる。

 

「分かった。この状況ではそうした方が合理的だからな」

 

フィンがそう答えた。だが青衣が一言付け足す。

 

「だがその前に一つ質問に答えてもらう。フィンとやら、お前は一体何者だ?」

 

彼女の問いにフィンその厳めしい顔を微かに歪める。

 

「お願い、フィン君。貴方がどうしていなくなったのか知りたいの」

 

朱鳶は俯きながら言った。

 

「──妙に法律に詳しい上にその武器、前から怪しいと思っていたがさっきのやりとりで確信した──フィン、お前は元治安官だろ」

 

もうほぼ答えは出ていたも同然だが、俺はフィンに追い打ちをかけるように言った。

 

「......そうだよ」

 

フィンはそう呟いた。

 

「俺は昔治安官で朱鳶とは同期だった。とはいえこいつ程優秀な治安官じゃなかった俺は挫折を味わい、現実に打ちのめされ、治安局を去った。それだけだ」

 

フィンは朱鳶を見てそう言った。

 

「けどフィン君は人一倍正義感も強くて、沢山努力もして、真っ直ぐな人で──そんなあなたがどうして」

 

「昔の話だ。理想や正義なんてもの、俺の心からとっくの昔に腐り落ちた。それに世の中には知らない方がいい事、幸せな事があるってことだけ言っておく」

 

そう語るフィンの顔はいつになく暗かった。

 

「──話は済んだか」

 

青衣が静かに告げる。

 

「まずはあやつに挑むための作戦、陣形を考える必要がある」

 

「作戦としてはあいつをひたすら叩いてダウンしたらその隙をついて逃げる、という奴にしよう。あいつを殺すなんてのは虚狩りでもない限り無理だ」

 

俺は自分なりの作戦を提示する。

 

「うむ。確かにうぬの言う通りだ。次に陣形だが」

 

「それなら彦斎と朱鳶を主戦力に据えよう。確かデットエンドブッチャーはエーテル物質の侵蝕に弱いはずだ。俺とセス、青衣が奴をひたすら叩き、出来た隙に彦斎と朱鳶が攻撃を仕掛ける」

 

「実に理にかなった作戦だ、やるではないかフィンとやら」

 

「俺は最適解を示しただけだ」

 

「耐えるのは得意だからな」

 

セスが盾を構える。

 

「──準備は整いましたね。では行きましょう」

 

朱鳶は俺たちにそう言った。

 

 

 

 

先程逃げた道には未だにデットエンドブッチャーがうろついており、同じ場所を何度も行ったり来たりするその様子からは俺達への強い殺意が伺えた。

 

「まずは我が先陣を切る。うぬらはそれに続け」

 

「はい」

 

セスの返事を聞くと、青衣は単身で奴に向かった。

 

青衣は思い切り地を踏みしめ、高く跳躍すると油断していた奴の頭に三節棍を振り下ろした。三節棍から溢れる電流が暗いデットエンドホロウを照らす。

 

奴は空から舞い戻った邪魔者を今度こそ殺さんとばかりに標識柱を振るう。

 

だが青衣はそれを軽々と躱し、その隙を縫うようにがら空きの足にセスが突撃する。

 

更に現れた邪魔者を殺そうと奴が足元に意識を向けたその時、フィンが背後からさすまたを奴の背中に叩き付けた。

 

完全な不意打ちには流石の奴も面食らったのか、デットエンドブッチャーは前方によろけた。

 

「今です。我々も向かいましょう」

 

朱鳶と俺は奴に突撃した。

 

朱鳶が奴の頭部にエーテル弾を打ち込むと同時に、俺は奴の足を切り付けた。

 

このデットエンドホロウの主というだけあり奴の表皮は普通のエーテリアスの何倍も固く、そして分厚かった。

 

次々と湧く邪魔者にその怒りが頂点に達したのか、奴は咆哮し、持っていた標識柱をめちゃくちゃに振り回した。

 

青衣はその小柄な身体を生かし、奴の攻撃を躱しながら反撃を続ける。

 

そしてその標識柱は最終的にセスに向かって振り下ろされた。

 

「負けて、たまるか!」

 

セスは標識柱を盾で受け止め、盾を変形させ大剣のようにしてカウンターの一撃を見舞った。

 

その攻撃を受け後方にのけぞった奴の背中にフィンと青衣が同時に叩き込む。

 

その攻撃が致命傷になったのか、奴はその場に膝をついた。

 

「今だ‼」

 

その隙に俺と朱鳶は攻撃を仕掛けた。

 

一心不乱に朱鳶はエーテル弾を撃ちこみ、俺も奴の身体をひたすらに斬りつける。

 

だが程なくして奴は再び立ち上がった。

 

「噓だろ、五人がかりでこれかァ‼」

 

セスに標識柱が振り下ろされる。

 

「セス君‼」

 

俺と朱鳶の間にも標識柱が振り下ろされた。

 

暴れる奴を必死に止めようと青衣とフィンが攻撃を叩き込むが、怒りが頂点に達した奴の前にはそれも虚しく、二人は軽く撥ね退けられてしまった。

 

俺と朱鳶も攻撃を仕掛けるが効いている様子はまるでない。

 

「まだ......俺はこの程度で‼」

 

セスが奴に一撃を叩き込む。

 

彼の武器が奴の体表を斬り上げた時、その頭部に傷が見えた。

 

「狙うならばそこか!」

 

青衣と彼女の考えを察したフィンは奴の足元に一撃を見舞う。

 

「今だ朱鳶!」

 

青衣が言うと同時に朱鳶は奴の頭部にエーテル弾を撃ち込んだ。

 

奴の頭からエーテル物質が吹き出し、爆発する。

 

奴は握っていた標識柱を落とし、その場にへたり込む。

 

「漸く限界が来たか。化け物め」

 

だがそんなフィンの期待を裏切るように、デットエンドブッチャーの背中から虹色に光る白い物体が現れた。

 

 

第五話  完




キャラクターファイル  03

フィン・レンブラン

陣営  アルゴナウタイ

年齢  24歳

身長  183cm

武器  改造したさすまた

属性  電気   役職  異常 

登場人物の過去を深く掘り下げたスピンオフ小説要りますか?

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