ゼンレスゾーンゼロ 虚ろいを行く者達   作:清少納言

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第六話  玉折──参──

その虹色の物体は急激に膨張し、やがて大樹のような一対の剛腕と化した。

 

真の姿を現した奴は地に響かんばかりの咆哮を上げる。

 

「第二ラウンドっていう事か」

 

「デットエンドホロウの主がこの程度で終わる訳なかろう」

 

フィンはさすまたを握りしめ、青衣と共にデットエンドブッチャーに突撃する。

 

だが奴はその剛腕を振るい、まるでコバエを払いのけるように二人を弾き飛ばした。

 

「青衣先輩!フィン君!」

 

朱鳶の悲痛な叫びをかき消すように奴は剛腕を振るいながらこちらに迫る。

 

豪雨の如く振り下ろされる腕をかいくぐり、奴の後方に移動した俺はそのがら空きの背中に一閃を叩き込む。

 

が、奴の剛腕が背後からの急襲を見逃すはずがなく、俺はまるでゴミでも撥ね退けるように奴に弾き飛ばされた。

 

天地が絶えずひっくり返り、地面に強く投げ出された俺の眼前に追撃を食らわさんとする奴が現れる。

 

──万事休す。その四文字が脳裏をよぎったその時、セスが奴の剛腕を防いだ。

 

「諦めるな!諦めたらそこで負けたも同然だ!」

 

そう叫びながらセスは奴の剛腕を防ぎ続ける。

 

程なくして現れた青衣が俺を抱え、その場を離れる。

 

「がむしゃらに攻撃を食らわせれば手痛い反撃をもらうのは必然だろう。全く、若者は血気盛んだな」

 

そう言う彼女の機体はあちこちに損傷が見られる。

 

「血気盛んで悪かったな!」

 

俺は青衣と共に奴の頭上から攻撃を食らわせる。

 

「無駄な足搔きはやめろ‼」

 

頭上からの攻撃に怯んだ隙を突き、フィンの一突きが奴の胴体に突き刺さる。

 

さすまたから放たれた電流は奴の皮膚を流れ、そして感電させた。

 

いくら奴と言えども感電のショックには耐えられなかったのか、その動きを止めた。

 

「今だセス!思いっきりぶちかませ!」

 

「──覚悟はいいか、裁きを受けろ‼」

 

セスは盾と警棒を組み合わせ、出来た大剣で奴の胴体を激しく斬り上げた。

 

思わぬ強力な攻撃に怯みながらも、奴は態勢を立て直し、空高く跳躍した。

 

「逃げる気か!」

 

セスが叫ぶ。

 

奴は先程までいた場所の向かい側に着地し、その剛腕の掌を天に掲げ合わせる。

 

「まずい!強力な攻撃がくるぞ!」

 

合わせた剛腕の掌に虹色の光が溜まり、やがてそれは強力な光線として放たれた。

 

俺と青衣、セスは地面を縦一文字にえぐりながら進むその光線を紙一重で躱す。

 

だがその光線の軌道上にいた朱鳶は回避が遅れ、逃げられずにいた。

 

後少しでその身体が真っ二つになろうとしたその時、フィンが朱鳶を突き飛ばした。

 

「くっ......」

 

光線の軌道上に沿って起きた爆発に二人は吹き飛ばされる。

 

「フィン君、私をかばって......」

 

呆然とする朱鳶に奴の剛腕が迫る。

 

「させぬ!」

 

青衣はそう言って三節棍で剛腕を受け止めた。

 

「己が罪と向き合えい‼」

 

そう言って青衣は奴を滅多打ちにした。

 

その攻撃が決定打となり、奴は再び膝から崩れ落ちた。

 

「好機は今だ‼やれ‼」

 

「──我が刃に阻めるものなどない‼」

 

青衣に言われ、渾身の一撃を俺は放った。

 

更に朱鳶も銃を構え、

 

「サプレッサーK22、全弾発射‼」

 

と、叫びエーテル弾を超至近距離から放った。

 

その一撃を受け、奴はその場に倒れ込んだ。

 

「今だ!奴が回復する前にここを脱出するぞ!」

 

フィンがそう言うと同時に俺達はその場を離れた。

 

「出口はこのまま真っ直ぐに走っていけばある。そこまで気を抜くな」

 

青衣が俺達に忠告する。

 

「「はい」」

 

朱鳶とセスは同時に答えた。

 

打ち捨てられた駅や瓦礫、エーテル物質の結晶が生えた建物が並ぶ中を走り続けていくうちに、前方の三百メートル先にホロウの出口が見えた。

 

「後少しで......」

 

俺達と出口の距離が半分ほど縮まった時、絶望は再び俺達の前に立ちはだかった。

 

「もう傷が癒えたのか」

 

驚く間も与えんとばかりに奴は剛腕を振り回し暴れる。

 

「お前はもういいんだよ‼」

 

俺は奴の掌を斬りつけ、奴の股下をくぐって進む。

 

「行っけぇっ......」

 

奴の剛腕が迫りくる中、俺達は一斉にホロウの出口に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

──刹那、目の前の景色が急に変わり、俺達は全員ホロウの外に投げ出された。

 

「間一髪で助かったな」

 

フィンは服に着いた砂埃を払う。

 

俺が立ち上がろうとしたその時、三節棍の先端が俺に向けられる。

 

「協力はここまでだ。お縄につけい」

 

青衣がそう言うと同時にセスも警棒と盾を構える。

 

「大人しく投降して罪を償え。お前達にはやり直すチャンスがある」

 

──この体では抵抗はおろか、逃げる事すら叶わないだろう。

 

俺とフィンは武器を地面に置き、両手を上げた。

 

「詳しい話は──」

 

「いえ。彼らは署には連行しません」

 

セスの発言を遮るように朱鳶は言った。

 

「どうしてですか⁉いくら元同僚だからって──」

 

「情に流された訳ではありません。彼らはこのデットエンドホロウにおいて襲い掛かってきたデットエンドブッチャーの撃退に協力し、我々の脱出を手助けしました。この一件に免じ貴方達の事は上に一切報告しません」

 

朱鳶はそう言った。

 

「そうか......我は何も言わぬ」

 

それがお前の意向なら、と言わんばかりに青衣は腕を組み黙り込んだ。

 

「青衣先輩も......もう」

 

説得が無駄だと悟ったのかセスも黙り込んだ。

 

彼らの意図を汲んだのか朱鳶は

 

「但し、また私達と会うような事があったら、その時は必ず署までご同行お願いします」

 

あくまでも今回だけだ、と釘を刺すように付け足した。

 

「分かったよ」

 

そう言い、俺とフィンは武器を持ってその場を去った。

 

後ろを振り返ると、朱鳶はこちらに敬礼のポーズを取っていた。

 

フィンもまた、彼女の方を向きこそしなかったが敬礼のポーズを取っている。

 

それは夕陽が沈み行く中、お互いの姿が見えなくなるまで続いた。

 

 

 

 

 

「ボロボロじゃない。それに結構年季入ってるし捨てたら?」

 

テレジアは俺の羽織を修繕しながら言った。

 

「人が愛用してるものを古いとか言うな」

 

「じゃあ直してやんない」

 

「スミマセンデシタ」

 

俺とテレジアのやり取りを見ていたトーマス達が一斉に笑う。

 

「すっかり夫婦漫才がここの名物になったな」

 

トーマスが冗談半分に言う。

 

「なわけないだろ!」

 

「なわけないでしょう!」

 

「息ピッタリじゃないか」

 

「そんなことよりもお前達も仕事をしろ。全く、治安官時代の同僚に出くわすわデットエンドブッチャーに襲われるわで散々だ」

 

フィンが毒づく。

 

「いやお前そればらして......」

 

再び大笑いが起こる。今度はテレジアも笑っていた。

 

「どういう事だよ......」

 

「フィンが元治安官なんてこと私達はとっくの昔に知ってるんだよ」

 

ヒストリアが笑い転げながら言った。

 

「やっぱ強がってるけど所詮あんたも尻の青いガキだったってことね。新入りちゃん」

 

テレジアはこちらを小馬鹿にしたように言った。

 

怒りをこらえながら俺はパソコンに目を戻す。

 

そして検索ツールが表示したネット記事にはこう書いてあった。

 

ローズグループ

 

旧都崩壊以前から存在していたギャングで、構成員の服の袖元に薔薇のアップリケが施されているのが特徴。当時の裏社会において最も影響力を持っていたとされる。その最盛期には構成員の数は一万人を超えており、規模の大きさと裏社会への影響力の大きさから当時は讃頌会に並ぶ危険度を誇る組織だったが、旧都崩壊により首領含めた大多数のメンバーが亡くなった事により滅んだ事になっている。だが模倣犯や残党と思わしきギャングが活動しているためまだ存続しているのではとの声もある。

 

「なるほど。そういう事か」

 

どうやら俺達は今回の一件で大きな闇、その一端に触れてしまったのかもしれない。

 

そう思いながら俺は天井を眺めた。

 

 

 

第六話  完

登場人物の過去を深く掘り下げたスピンオフ小説要りますか?

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