「買い出し終わったぞ」
そう告げると同時に俺はアルゴナウタイの玄関の扉を開ける。
このアルゴナウタイに入ってから一か月、俺はこのアルゴナウタイの雑用兼買い出し係と化した。
「おっ、お疲れ様」
ヒストリアは顔を上げこちらに言ってきた。
「遅いじゃない、もっと早く来てよ」
テレジアはボンプを操り、俺の抱える紙袋の中から雑誌を抜き取った。
「ふ~ん、今はこういうファッションが流行りなのね」
テレジアはコーヒーに口を時々つけながら優雅に雑誌を読んでいる。その様子は普段の言動とは打って変わって名家のお嬢様を彷彿とさせるものがあった。
「あのなぁ、テレジア。せめてこういう雑誌くらい自分で買ってくれよ、男がこういう雑誌買うの恥ずかしいんだぞ」
「ホロウへの無断侵入やってる身に恥じらいも何もないでしょ。それにあんたの事なんて誰も気にしてないし自意識過剰なんじゃない?」
「それはそうだが......」
「そんなに嫌ならいっそのこと女装したら?癪だけどあんた顔のパーツ悪くないし......」
「やる訳ないだろ!」
「痴話喧嘩はいいから仕事をしてくれないか」
俺とテレジアがそんな会話を繰り広げていると、トーマスがこちらの間に割って入ってきた。
「悪いな、それよりなんだ?依頼か?」
「ああ、ある企業からホロウに行ったっきり戻って来ないうちのボンプを見つけてくれと依頼が入ってな。明日、指定されたホロウに二人で向かってくれ」
「分かった。明日向かえばいいんだな」
「ああ、彦斎、テレジア、頼んだぞ」
そう言い、トーマスはコートの下から豹の尾をくねらせながら自分の机に戻った。
「にしても最近依頼多いわね」
テレジアはそう言った。
「そうなのか?」
「前なんかもっと依頼なかったわよ?具体的に言えば週一......いや月一回依頼が入ってたらラッキーって感じだった」
「あまりうちの内情をばらすなテレジア」
危機感を覚えたのかトーマスはテレジアにそう言い放つ。
「もう彦斎はうちの一員でしょ?なら言ったところでノーダメージだしそれに最近邪兎屋がヴィジョンの悪事を暴いてその知名度上げてる中でこうして依頼が来てる分だけマシじゃない?」
そう言ってテレジアは雑誌に視線を戻す。
「確かに、こんな事言いたくないが同じ荒事も請け負う何でも屋として俺達は邪兎屋にその知名度と存在感を食われてるしな」
フィンが伸びをしながら言った。
「でもしょうがないわよあいつらクソ強」
テレジアはいきなりコーヒーを吹き出した。
「どうした⁉」
「コーヒーが熱かっただけよ」
そう言って彼女は吹き出したコーヒーを自ら掃除する。
ふと彼女が読んでいた雑誌に目を向けると、そこには
『未だに根強い人気!その秘密は?メイド喫茶特集』
と、タイトルが書かれた見開きとオムライスを運ぶメイド服に身を包んだサメのシリオンの少女の写真がでかでかと載っていた。
次の日、俺とテレジアは指定されたホロウへと向かった。
そのホロウの中は、郊外に近い場所という事もありあちこちにサボテンとエーテル結晶が生えた荒野だった。
「ボンプを回収するだけの仕事だし、さっさと見つけて帰りましょ」
テレジアはそう言って引き連れたボンプと共に前方に進もうとした時、
「......いる」
と、突然呟く。
それと同時に俺の背後から風切り音と共に大鋏が飛んできた。その大鋏の刃の表面には霜がついている。
俺は咄嗟に刀を抜き、それを受け止める。
程なくして黒い影が大鋏を奪い去った。
よく見るとその影はメイド服に身を包み、腰の辺りからサメの尾を生やした少女だった。
「誰だお前は」
問答無用、と言わんばかりに彼女は大鋏をこちらに振り下ろしてきた。
こうなっては致し方無い。俺は思考を戦う事に切り替え、振り下ろされる大鋏を刀で受け止めた。
更に彼女の背後からテレジアの操るボンプが迫る。
チッ、と舌打ちをして彼女は後方に下がった。
「誰だか知らないが俺達はお前の標的じゃないぞ。というかお前ここで何をしてるんだ、それとも最近のメイドは他人を闇討ちするものなのか」
「ホロウの中はルール無用でしょ。それにこんなところで武器ぶら下げてたら誰だって疑うじゃない」
少女は大鋏を構えそう言った。
お互いの間合いを探り、お互いに隙を見つけようと睨み合いが続く中、
「やめなさいエレン。彼らは今回のターゲットではありません」
と、互いを制止する声が響いた。
「......それなら最初に言ってよ、ボス」
そう言うと彼女は大鋏を地面に突き刺し、気だるそうに自分から見て右側に視線を移した。
彼女と同じ方向を向くと、そこには白い体毛の上から執事服を纏ったオオカミのシリオンがいた。
更に彼の後ろから髪型をツインテールにし、メイド服に身を包んだ気弱そうな少女が現れる。
「だ、誰......?」
テレジアは不安そうに呟く。
「おい、あと一人いるだろ。もうバレてんだよ、出てこい」
俺は「奴」のいる後方を向いてそうに言った。
「あらあら、気付いておられたのですね」
程なくして、どこからともなくメイド服を纏った柔らかな雰囲気の女性が宙を舞いながら現れた。自分と同じく浮遊する呪いの人形のような見た目のボンプと共に浮遊するその姿はどこか幽霊を彷彿させる。
「なかなかヤルナ‼」
彼女に付き従うボンプが俺の横を素通りしながら言った。
メンバーが出そろったのを見計らい、狼男は口を開く。
「申し遅れました。我々はヴィクトリア家政と申します、以後お見知りおきを」
そう言って彼はこちらに深々と頭を下げた。
「ヴィクトリア家政......都市伝説じゃなかったのか」
「おや、ご存知とはお目が高い」
狼男はその隻眼を僅かに細める。
ヴィクトリア家政、新エリー都の富裕層御用達の家事代行サービスであり超高額な報酬を要求するがその腕は一流、時にホロウ内での荒事さえ請け負う私兵団としての側面もある。そのことから考えるに彼らは全員それなりの場数を踏んだ実力者であり、下手を打てばこちらが負けるのは目に見えた結果だ。
「では貴方達が何故このホロウにいるのか、30秒程でご教授お願い致します」
男は懐から懐中時計を取り出し、それを眺めながらこちらに尋ねてきた。
「俺達はある企業からの依頼でこのホロウで失踪したボンプを探しに来ただけだ」
「このホロウで行方知れずのボンプの捜索、と」
「ああ、決して俺らはあんたらの邪魔をしない。こうしているのもお互いにとって時間の浪費だ、とっととこの場を去れ」
「賛成。とっとと仕事終わらせちゃおうよ、ボス」
サメのシリオンの少女、もといエレンは男の方に眠そうな目を向け言った。
「......確かに、我々もいつまでもホロウに居られる訳ではありません。リナ、エレン、カリン、急ぎましょう」
そう言って彼がこの場を離れようした時、
「ライカン、その前に少しいいかしら?」
と、今まで黙っていた柔らかな雰囲気のメイドが口を開く。
「どうしたのリナ、まだ何かあるの?」
エレンが彼女に尋ねる。
「ええ、先程からずっと気になってた事があって」
彼女はテレジアに視線を向ける。
「こんなところで何をしているの、テレジアちゃん」
彼女の冷たい声が響く。
「別に関係ないでしょ。リナ......叔母さん」
テレジアはずっと閉じていた口を開いた。
第七話 完
キャラクターファイル 04
テレジア・セバスチャン
陣営 アルゴナウタイ
身長 168cm
武器 冷気を放つ二体のボンプ(名前はニーチェとフリードリヒ)
属性 氷 役職 支援
登場人物の過去を深く掘り下げたスピンオフ小説要りますか?
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