「つまり......テレジアさんはリナさんの姪っ子、って言うことですか?」
髪を二つに結った気弱そうな少女、カリンは丸ノコを握りながら言った。
言われてみればテレジアとリナは瞳の色や髪の色が同じで、顔立ちもどことなく似ているように見える。
「ええ、そうなのよ。テレジアちゃんには昔メイドとしての作法やボンプの使い方を教えたの。あの頃のテレジアちゃんはそれはもう......」
「そういう話他人の前でするのやめてくれる?」
テレジアは怒気を孕んだ声でリナに告げる。
「あらあら、別に赤の他人の事を言っても構わないでしょう?」
「何よ年増、認知症にでもなったわけ?」
一触即発の空気が漂う中、狼執事、ライカンはわざとらしく咳をする。
「二人共、不毛な争いはやめてください。今は任務の遂行が最優先ですよ」
「確かに、それもそうですわねライカン」
リナは柔らかな笑みを浮かべる。
「それはそうと彦斎様、貴方方もこのホロウに用があると聞いています。同じホロウで顔を合わせた以上、ここはお互い手を組むというのはいかがでしょうか」
ライカンは俺にそう提案してきた。
「それもそうだな。お互い協力した方がここは効率的だ」
「はぁ?正気なの彦斎、私こいつと一緒に仕事するなんて嫌なんだけど」
テレジアは嫌悪丸出しの表情でそう言った。
「しょうがないだろ、今は依頼をこなす事が最優先だ」
「......分かったわよ」
テレジアは心底嫌そうに承諾した。
「だからもうあの家に戻る気はないって何度言えば分かるのよ!」
「そういう話じゃないのよ、テレジアちゃん」
こうしてヴィクトリア家政という強力な助っ人を手に入れることができたはいいものの、テレジアとリナの諍いは道中でも続いた。
延々と続く言い争いにカリンは怯え、エレンは辟易し、ライカンは頭を抱えていた。
「大体ね、厳しく育てられてそれで大人になったら金持ちにペコペコ頭下げて下働きしてはした金貰うなんて馬鹿馬鹿しいじゃない。私に自分の人生を生きる権利はない訳?」
「そういう訳じゃないって何度言えば──」
「リナ、テレジア様、これ以上はよしてください。カリンも怯えていますしエレンも彦斎さんも呆れていますよ」
不毛な言い争いを聞くのに疲れたのか、ライカンが二人の諍いを制止する。
「何で分かってくれないのよ......」
テレジアはリナに向かってそう呟いた。
「......そう言えば彦斎様、まさか貴方が何でも屋に所属していたとは驚きでした」
気まずさからか、ライカンは俺に話しかけてきた。
「驚きって......俺はそんな有名人じゃないだろ。アルゴナウタイだって加入したのは最近だし」
「いえいえ、腕利きの賞金稼ぎ『蝮の彦斎』はこの筋の人間では知らない方がおかしいくらいですよ」
「大袈裟だな」
「へぇー、あんたそんな有名人だったんだ」
エレンが口を開く。
「──じゃあ何でこんな小規模な何でも屋で細々とやってる訳?その実力があるなら一人でもやっていけるんじゃないの」
「まぁな、色々あってって言う感じだな。お前こそ何でこのヴィクトリア家政にいるんだ?」
「私も──まぁそんな感じ。同じだね、私達」
エレンはそのしかめっ面を僅かに緩める。
その刹那、背後からカランと何かが地面を転がる音が聞こえた。“それ”が何か本能的に理解した俺と家政の面々は咄嗟にその場から離れる。
程なくして背後から大爆発が起こり、砂埃を載せた爆風と轟音が辺り一帯に響いた。
ふと前を向くと、そこには赤と黒の混ざった制服に身を包み、武器を携えた柄の悪い男が数人いた。更に周囲を振り返ると同じような格好をした数十人の男たちが様々な銃火器を手に俺達を取り囲んでいる。
「おいおいお姉さん方、悪いが犬と半魚人の散歩は他所でやってくれねぇかな」
一人の男が野次を飛ばす。
「......いえいえ、こちらこそ探す手間が省けて何よりです」
ライカンはその表情を一切変える事なく言った。
「はぁ?何言ってんだお前。まさか俺達を探してたのか?」
「ええ、いかにも」
「──率直に申し上げますと皆様にはこのホロウから即刻立ち退いて貰おうと私達は思っています」
「ほう、てめえ、口の聞き方を知らねえのか?」
男は低い声でそう語りかける。
「ここは私達の『ご主人様』がエーテル資源を採掘するためにその所有権を握っている、言わば私有地です。本来ならばここは許可を貰った人間以外が立ち入る事は禁じられています。ですから我々としては貴方達にはここから──」
「さっきから黙って聞いてりゃくだらない権利の話ばっかりしやがって、なめてんじゃねぇぞ。俺達はローズグループだ。逆らったらどうなるか教えてやるよ‼」
数人の男が武器を振り上げる。
それと同時にライカンは強烈な蹴りを放ち、数人の身体を空中にかちあげた。振り上げた義足は展開され、冷気が漏れ出ている。
「できればこの手段は使いたくなかったのですが、致し方ありません。リナ、エレン、カリン、彦斎様、テレジア様、いきましょう」
ライカンがそう言うと同時に各々が戦闘態勢に入る。
「舐めやがって、この人数差で勝てると思うなよ‼」
ローズグループの面々も武器や銃火器を構える。
銃弾や怒号が飛び交う中、俺は刀を抜き、奴らの中に飛び込んだ。
それと同時に居合切りを放ち、手前の数人の武器と武装を切り飛ばした。
「このガキィ‼」
振り下ろされる武器を躱し、放たれる弾丸を斬りながら奴らをなぎ倒す。
ふと周りを見るとライカンは先程のように鋼鉄の足で敵をなぎ倒し、エレンも大鋏で有象無象を蹴散らしている。カリンもチェーンソーを振り回し襲い来る敵を返り討ちにし、テレジアとリナは操るボンプから放つ冷気と電流で敵を制圧していた。
残りの一人の腹にライカンの蹴りが直撃し、奴は地面に倒れ伏せる。
「クソ......」
なおも足掻こうとする男の前にライカンは立ちはだかる。
「改めて言いましょう、このホロウは我々のご主人様のものです。即刻立ち退いてください」
「の──」
気迫に押され、男は白目を向いて気絶した。
「やっぱり強いな。それはそうとこいつらはどうするんだ?」
「それに関しては事前に治安局に通報しましたのでご安心ください。おそらく後十分もすれば到着するでしょう」
そうしてその場を立ち去ろうとした時、銃の撃鉄を降ろす音が響いた。
「くたばり......やがれ」
メンバーの一人が震える手でマシンガンを構える。
他のメンバーが反応するよりも早く俺は刀を抜き、奴のマシンガンを斬り裂いた。更に怖気づいた奴の鳩尾に蹴りを入れる。
更に峰打ちを入れようとしたその時、後ろから強い力で肩を掴まれた。
「何を──」
「彦斎様、流石にそこまでやる必要はないかと」
ライカンは俺をそう宥める。見れば男はもう既に気絶していた。
「それもそうだな。早く行こう」
そう言って俺は刀を鞘に納め、ヴィクトリア家政の面々について行った。
「やっぱり見つからないわね」
「しょうがないじゃん。ホロウって無駄に広いし」
エレンがそう毒づく。
かれこれ五分は探しているが探しているボンプの姿は全く見えない。
「済まないな。俺達の事情に突き合わせてしまって」
「いえいえ、そうさせてしまったのは我々も同じですから。それよりも──」
ライカンはその顔を僅かにしかめる。
「彦斎様、先程何故気を失っている者に更に攻撃を仕掛けようとしたのですか?」
「そんなの簡単だ。傷を負っても他人を傷つけるような奴はこの先ずっと同じことをやり続ける、だから再起不能にしてやろうと思っただけだ」
「......」
ライカンは更にその顔をしかめる。
「──確かに悪人を許すことができないという気持ちは分かります。ですが再起不能になるまで痛めつけるのはいかがなものかと」
「ああいう人間はそのくらいの罰を受けないと変わらないからな」
「ですが限度というものがあります。私的な感情で他者を痛めつける人間は彼らと何ら変わりません」
「そんな事言ったって──」
その刹那、俺の脳裏にある少女の──赤い瞳と狐の耳が特徴的な女性の顔がよぎる。
すると、どこからともなくとぼとぼと足音が聞こえてきた。
「まさか......」
後ろを振り返ると、そこにはヘルメットを被ったボンプがこちらに一心不乱に走って来ていた。
「あのボンプは──」
「ええ、私達が探してたボンプ」
──その刹那、空からそのボンプ目掛け何かが降ってきた。
よく見るとそれは長大な槍であり、その表面には電流が走っている。
上を向くと、そこには槍を携えたエーテリアスことトラキアンが宙を舞っていた。
「大丈夫。心配しなくていいから」
テレジアは震えるボンプを後方に下げる。
「全員、そして彦斎様、テレジア様、構えてください。──どうやらこのお方は槍の演武をご所望のようです。付き合って差し上げましょう」
ライカンがそう言うと同時に、トラキアンはこちらに向かって槍を振り下ろしてきた。
第八話 完
登場人物の過去を深く掘り下げたスピンオフ小説要りますか?
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いる
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いらない