ゼンレスゾーンゼロ 虚ろいを行く者達   作:清少納言

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第九話  道

トラキアンが槍を差し向けたと同時にライカンが飛び出し、その機械仕掛けの義足で槍を受け止める。

 

「さぁ──狩りの時間です」

 

そう言ってライカンは奴の身体に蹴りを叩き込んだ。その隙を見計らい俺とエレンも追撃を仕掛ける。

 

だが奴はその両刃を躱し、長大な槍で俺とエレンを払いのけた。

 

そして俺達と入れ替わるようにテレジアとリナのボンプが奴に突撃する。ボンプ達が冷気や電流を放ちながら奴を牽制しているうちに俺は態勢を立て直し、奴に切りかかった。

 

その表皮はデットエンドブッチャー程ではないが硬く、ダメージを与えるにはあと何回か攻撃を与える必要がありそうだった。

 

「──っ!」

 

俺の顔面に鋭い槍の刺突が迫る。咄嗟に上体を逸らして躱し、その図体を蹴飛ばして地面に降りた。

 

「よそ見しない‼」

 

その隙を突き、エレンが大鋏を奴の体に刺し込む。不意打ちを喰らった奴の体の高度が一気に下がる。

 

「カリンちゃん!」

 

「は、はい‼」

 

カリンの丸ノコが奴の甲殻にめり込む。

 

だがトラキアンは咄嗟に槍を振り回し、カリンを払いのけると再び天高く舞い上がった。

 

その手に握る槍に電流が迸る。

 

──まずい、と思った時には奴の槍が眼前に迫っていた。槍の穂先はそれを回避した俺とエレンの足元に突き刺さり地面に十字の亀裂を入れる。

 

「なっ──」

 

更にその亀裂から電撃が吹き出した。

 

リナは何とかそれを躱すが、その隙を潰すようにトラキアンの槍が高速で迫る。

 

俺とライカンが奴を抑えようとするも、奴の槍はそれよりもなお速く彼女の胸元に──

 

「危ない‼」

 

テレジアは咄嗟にリナに抱きつき、刺突から彼女を庇う。トラキアンの槍はテレジアの体こそ傷つけることはなかったが彼女のジャケットを一文字に切り裂いた。

 

「テレジアちゃん......」

 

「何ぼさっとしてんのよ、さっさと助力しましょうよ叔母さん」

 

テレジアが作った一瞬の隙を突き一斉に畳み掛ける。

 

長大な槍の演武を躱し、できた僅かな隙に攻撃を刺し込む。

 

流石の奴もその応酬がまどろっこしくなったのか槍を構え、こちらに真っ直ぐに突進してきた。

 

「残念──だったな!」

 

俺は奴の懐に潜り込み、その体に突きを見舞った。その突きはそのまま奴の甲殻を貫く。

 

「今だ!やれライカン!」

 

「畏まりました!」

 

そう言ってライカンは弱ったトラキアンに蹴りの嵐を浴びせる。

 

「頑張れ私......!」

 

そう言ってカリンは奴の傷口に丸ノコを押し付け、大ダメージを与えた。

 

更に怯んだ奴にリナのボンプが電流を浴びせ、その動きを止めた後にテレジアがボンプから放つ冷気で奴の体を凍らせる。

 

「やりなさいよ!彦斎‼エレンちゃん‼」

 

「言われなくてもな‼」

「言われなくてもね‼」

 

俺とエレンは奴のコアに同時に攻撃を叩き込む。

 

爆散する奴をバックに俺は刀を鞘にしまう。

 

「いい動きじゃん。なかなか良かったよ」

 

エレンはこちらを見ながら言った。

 

「お前も、な」

 

「何はともあれ......一件落着ですね」

 

カリンは物陰から出てきたボンプを撫でながら言った。

 

「いえ、まだ残っていることがあります。ですよねテレジア様、リナ」

 

そう言ってライカンはテレジアとリナの方に視線を向ける。

 

「......何よ、彦斎もライカンも」

 

テレジアは呟く。

 

「──テレジアちゃん」

 

リナが静かな、しかしはっきりとした声で告げる。

 

「本当に、家に戻ってくるつもりはないの?」

 

「ごめんなさい、リナ叔母さん。勝手にいなくなったりして。けどもう二度と私はあの家には戻るつもりはない。私はセバスチャン家の子女じゃなくアルゴナウタイの一員ととして生きていく──今までも、これからも」

 

「そう......それが貴女の選んだ道なのね」

 

リナは穏やかな声でそう言う。

 

「もうあの時の──いたずらをしてクローゼットに閉じ込められて泣いてるような、嫌なことがある度に私の部屋に来て慰めてもらったような、泣き虫で甘えん坊なテレジアちゃんはいないのね」

 

リナの声が僅かに震える。

 

「それが貴女の選んだ道だと言うなら私は何も言わないわ。テレジアちゃんは自分の選んだ道をお行きなさい。けどその代わりどんなに辛いことがあっても言い訳できないし、逃げることなんてできないわよ」

 

「そんなことはとっくの昔に知ってる。じゃなきゃ私はここに立ってない」

 

テレジアは静かに、しかし力強くそう言った。

 

「ふふ、それなら良かったわ。でも最後にこれだけ言わせて」

「テレジアちゃん──本当に、見違えるくらい強くなったわね」

 

リナのその言葉を聞き、テレジアは泣きながら彼女に抱きついた。対するリナも聖母のような微笑みを浮かべ、テレジアを抱き締めながら静かに涙を流した。

 

 

 

 

 

その翌日の朝、アルゴナウタイのオフィスはひどく賑やかになっていた。それは大きな依頼が入ったと言うことでもなければ、今日がアルゴナウタイの設立記念日だったという訳でもなく、単純に珍しい客の来訪に全員が興奮していただけだった。

 

「マジかよヴィクトリア家政って実在してたんだな!」

 

ヒストリアはひどく興奮した状態で言った。

 

「はわわ......」

 

カリンが困ったような様子で呟く。彼女の左側にはリナとエレンが立っており、ライカンはトーマスと共に遠巻きにその様子を見ている。

 

「やめろヒストリア。ヴィクトリア家政は富裕層の御用達だ、下手を打てばこちらがどうなるか分からん」

 

「いや別にそんなにかしこまらないでいいよ。私達もう仕事仲間なんだしさ」

 

エレンがフィンをそう宥める。

 

やがてこの状況に耐え兼ねたテレジアがリナに駆け寄る。

 

「ってかなんでこういい感じに別れたのにずけずけと来るワケ⁉あの時の涙返してよ!」

 

「何も私は家と決別するということを認めただけで私は個人的に貴女とこれからも付き合っていくつもりですわ。それにボンプの使い方も色々と教えないといけないですし」

 

「......もう、本当バカ」

 

テレジアは照れくさそうに呟いた。

 

「後それはそうと手ぶらで来るのも憚られますし今回は特別に手料理を──」

 

そう言ってリナは異臭のする重箱を取り出してきた。

 

「ごめんリナ、私急にお腹空いちゃった」

 

そう言ってエレンはリナから重箱を取り上げる。

 

「いけませんわエレン、これはお客様の──」

 

「食べさせてやれ」

 

俺含めたアルゴナウタイの面々、同じ家政の面子が声を合わせてそう言う。本能的な恐怖を呼び起こさせるあの料理をエレンに押し付けていいのかは疑問だが生存本能がやめろと叫んでいる以上は逆らえない。

 

「心配ないって、私は大丈夫だから」

 

そんな俺の心境を読み取ってか、エレンは俺にそう耳打ちしてきた。

 

 

 

 

 

「とても賑やかですね」

 

ライカンは向こうで騒ぐアルゴナウタイとヴィクトリア家政の様子をトーマスと眺めながらそう言った。

 

「にしても驚きです。まさかあの『蝮の彦斎』がこのアルゴナウタイに所属していたとは。エレンとそう年も変わらないというのに......」

 

「まだまだ頼りねぇがな」

 

トーマスはハンチング帽を被り直しながら言う。

 

「それはそうとライカン、お前に一つ聞きたいことがある」

 

「何でございましょうか?」

 

「職業柄、裏社会にも詳しいお前なら分かるだろうが──モッキンバードっていう怪盗団のことを知ってるか」

 

「......」

 

ライカンは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 

「──彼らにも何か用でもあるのでしょうか」

 

「俺はその首領である男を殺さないといけない、何としてでもな」

 

そう言い放つトーマスの冷たい眼差しの奥に、業火の如く燃え盛る復讐心が宿っていることをライカンは察した。

 

「......お言葉ですが、例え仇の首を獲り、そこから滴る血を古傷に垂らしてもそれは古傷を癒す薬とはなりません」

 

「そんな事は分かっている。それでも、俺は必ずあいつを殺す」

 

トーマスはハンチング帽を深々と被りながらそう言った。

 

 

 

第九話  完

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