異世界にバレンタインデーがない理由   作:語部創太

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 バレンタインデーなので思い付きと勢いで書き始めました。
 だいたい10話くらいで完結させることを目標に頑張ります。


1.隠す乙女と暴く少女

「──お?」

 

 たまの休日にウィンドウショッピングに勤しんでいると、大通りの向こうによく見知った顔を見つけた。

 

 常日頃はギルドに集まるクエストを片っ端からこなして金銭を稼ぐ冒険者を生業としているアタシだが、今日は珍しく仕事をお休みにしていた。

 というのも昨日、1ヶ月に及ぶ遠征クエストからようやく拠点である王都まで帰ってきたばかりだったからだ。

 武器や防具も傷んでいるし、修理もしばらくかかりそうだって事で、パーティーを組んでる相棒としばらくは冒険者稼業をお休みしようと決めた。

 

 そんな訳で久しぶりの休日。

 久しぶりすぎて何をするか特に思い付かなかったので、こうして街をブラブラ歩いて暇を持て余していたんだけど……

 

「……怪しいな」

 

 遠くに見えた知り合いは、どこからどう見ても怪しいとしか言えない挙動不審な様子だった。

 

 常日頃から手入れは欠かしていないとドヤ顔で言っていた、陽の光に当たるとキラキラ輝く綺麗な金髪は、深めに被ったニット帽に隠されている。

 エルフの象徴である長く尖った耳は真っ赤に染まり、アタシより頭2つ分くらい高い長身は目立たないよう、こころもち屈み加減になっている。

 キョロキョロと周囲を不安げに見渡し、その控えめな胸元に紙袋を大事そうに抱えている。

 

 ……怪しい。

 誰が見ても怪しい。

 

 どっからどう見ても「やましい事があります」といった様子。

 何やら面白そうな事が起こりそうな予感を感じたアタシは、ニヤッと口角を吊り上げた。

 

 すぐさま【気配遮断】のスキルを発動。

 息を潜め、足音を忍ばせ、エルフ娘の死角から近付いていく。

 周囲を警戒するエルフ娘はしかし、彼女お得意の【気配察知】スキルは発動していないらしく、あっさり背後を取れてしまう。

 

 そのまま尾行すること数分。

 アタシに気付かないまま、大通りから人気のない裏路地にサッと曲がったその瞬間!

 

「エ~レ~ノ~ア~?」

「キャァァァァァァァ!?」

 

 耳元で吐息まじりにささやくと、期待以上のリアクションが待っていた。

 ドッキリは大成功だ。

 可愛らしい悲鳴と同時に跳びあがるエルフ娘──『エレノア』が、青い顔で振り返る。

 

「ミミミミミミミミミア!?」

「そんなセミの鳴き声みたいな名前じゃないやい」

 

 ニタニタと笑いながら肩を組むアタシに、ビクッと身体を震わせるエレノア。

 ひどいなぁ。そんな猛獣に会ったみたいな反応しなくても。

 

「な、なに? どうしたのよ『ミア』。私に何か用かしら?」

「隠し事はナシだぜぇ、エレノア? 一緒にエルフの里を救った仲じゃないかぁ」

 

 そんないかにも「やましい事があります!」みたいな反応されたら、余計に気になってきちゃうじゃないか。

 エレノアがクシャクシャになるくらい強く抱きしめた紙袋を指差して、お願いする。

 

「その紙袋の中身、見~せて?」

「こ、この中は空っぽよ!」

「誤魔化すにしても雑じゃねえ?」

 

 どこの世界に空っぽの紙袋を後生大事に抱えるエルフがいるのか。

 エレノアは頑固な性格で、一度決めたらテコでも動かない。

 どれだけ説得しても聞く耳持たず意固地になるけど、そんなエレノアの秘密を聞き出す方法をアタシは知っている。

 

「ほら、『アレン』の使用済みパンツ」

「好きなだけ見るがいいわ」

 

 紙袋ゲットだぜ☆

 アレンっていうのは、エレノアの片想い相手だ。

 この国の国王から『勇者』なんて大層な称号を賜った、この国最強の冒険者。

 エレノアはそんなアレンのパーティーメンバーの一員なのだ。

 

 クンカクンカと、整った顔にパンツを押し当てて臭いを嗅ぎまくる変態エルフから受け取った紙袋の中を覗くと、中には小さな板状のモノが入っていた。

 やたらカラフルな包装紙に包まれた、薄い長方形。

 なにやら甘い匂いがするけど、食い物か?

 

「…………なんだこれ?」

「ジュルペロ、ゴクン! …………ふぅ、おこちゃまなミアには分からないでしょうね」

「黙れ変態」

「誹謗中傷!」

 

 純然たる事実だろうが。股間部分を舐め回しやがって。

 クールビューティーな外面を信じてる後輩エルフが見たら泣くぞ。

 

 アタシの冷たい視線に耐えかねたのか、真っ赤な顔でパンツをポケットにしまうと、ゴホンと大きく咳払いする。

 

「これはね……」

「おん?」

 

 

 

「チョコレートよ!」

 

 

 

「…………あぁ、そう」

「あっれー!? 反応うすくない!?」

 

 いやだって、ただのお菓子じゃねえかよ。

 あれだけひた隠してたから、てっきり男性器の張り型でも持ってるのかと思ったぜ。

 たかだかチョコレート1枚で大げさな奴め。

 

 ……いや、待てよ?

 そういえばこの世界でチョコレートの現物を見た事なかったな。

 嗜好品としてそれなりに出回っていてもおかしくなさそうだけど、ひょっとしてかなりの高級品だったりするのか?

 だとしたら、エレノアがコソコソしてたのも分からないでもないが。

 

「……で? このチョコレートをどうするつもりなんだよ?」

 

 興味がなくなったアタシは、チョコレートの入った紙袋をエレノアにポーンと投げる。

 エレノアは鼻をフンと鳴らし、小馬鹿にしたように見下ろしてくる。

 

「まだまだオコチャマねー、ミアは」

 

 ……なんだろう。ムカつくからやめてもらっていいですか?

 片想い相手のパンツを顔面に擦り付けてクンカクンカしてる奴に大人の何たるかを語ってほしくない。

 これだから数百年ものの初恋をこじらせた残念エルフは。

 アタシの殺意と哀れみのこもった視線に気付かないまま、エレノアはドヤ顔で紙袋をキャッチした。

 

「もちろん! アレンに食べさせるのよ!」

 

 おぉ……。

 ……おぉ?

 

 …………あぁ、そうか。

 今日は2月14日だったか。

 なるほどな。

 女が男にチョコレートを渡すにはうってつけの日だもんな。

 バレンタインデーな。そうかそうか。

 

「つまり、大勝負ってことだな?」

「えぇ! そういうことよ!」

 

 とうとう覚悟を決めたか。

 おそらくチョコレートを渡して愛の告白に踏み切るつもりなんだろう。

 顔を合わせる度にアレンとの恋愛相談に付き合わされていた身としては、ぜひとも成功してほしいもんだ。

 

「がんばれよ。エレノアなら絶対に大丈夫さ」

「あ、ありがとう。アレンの身も心も手に入れてみせるわ」

 

 まあ男なんて、バレンタインデーは母親以外のチョコレートをいくつもらえるかで頭がいっぱいになってる悲しきモンスターだ。

 美人エルフのエレノアが頬を赤らめながらチョコレートを渡してきたら、誰だってイチコロさ。

 問題はアレンが筋金入りの朴念仁だってところだが……まぁ、ストレートな告白を受ければどんな鈍い男でも女からの恋心に気付くだろう。

 

「そ、それじゃあ行ってくるわ!」

「おぉ~、頑張ってな~」

 

 鼻息荒く気合も漲るエレノアに手を振る。

 力が入りすぎて紙袋クッシャクシャだけど、本当に大丈夫か?

 

 …………あぁ、そうだ。

 せっかくだし、アタシもチョコレートでも買って帰ろうかな。

 

「なぁエレノア」

「何? ミア」

 

「チョコレートって、どこで売ってんの?」

「………………え゙っ」

 

 おい。なんだその引き攣った顔は。

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