異世界にバレンタインデーがない理由   作:語部創太

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2.初心な少年と逃げる少女

 エレノアに教えてもらったお店へ向かう。

 

 しかしエレノアも失礼な奴だよな。

 なにが「ミアにはまだ早いんじゃない?」だよ。

 お菓子1つも買えない幼児だと思われてるのかアタシは。

 はじめてのおつかいは3歳で済ませてあるっつうの。

 

 それともなんだ。ドレスコードが必要なくらいの高級店なのか?

 今日のアタシはTシャツに短パン。こんなラフな格好だと入店すらさせてもらえないとか?

 ……いや、そんなことないか。エレノアも普通の私服だったしな。

 金もそこそこ持ち合わせてるし、いかにチョコレートが高級品とはいえ、金が足りないってことはないはずだ。

 

 それにしても、女に生まれ変わってからだいぶ味覚が変わった気がするなぁ。

 男だった時は甘いモノはそんなに好きじゃなかったのに、今じゃ週に1回は甘味を食べないと満足できないもんなぁ。

 この世に転生してから18年。18年ぶりに食べるチョコレートの味はさぞ格別だろうなぁ……。

 

 ジュルリ。

 やべ、想像しただけでヨダレが。

 

 さて、エレノアに教えてもらった店の場所はこの辺りだったと思うんだけどな。

 たしかピンク一色の趣味が悪い外観をしてるって言ってたけど……。

 おっ、アレかな?

 看板に書かれてる店名は──うん。合ってるな。その下に何か書いてあるな。なんだ?

 

 【Adult only】

 

「………………マジか」

 

 チョコレートって、そんなエッッッな代物だったっけか?

 

 

 

---

 

 

 

「お嬢ちゃんにはまだ早いんじゃないかな~?」

「ガキ扱いするんじゃねえ! アタシは成人してるって言ってるだろ!」

「…………え? そんなちんちくりんなのに?」

「ブッコロスぞこの野郎!!」

 

 

 

---

 

 

 

 うぅ、ひどい屈辱を受けた。

 いくらアタシが背の低い幼児体型だからって、店員の野郎に猫なで声でなだめられるとは。

 ちなみに冒険者ギルドのライセンス証を見せたら一瞬だった。もう首からぶら下げておくようにしようかな……。

 

 何はともあれ、チョコレート購入完了!

 あとは拠点にしてる宿に戻って、久しぶりの甘味をじっくり堪能するとしよう。

 

 ……おっと、忘れるところだった。

 相棒の家に寄らないとな。

 

 せっかくのバレンタインデーだ。日頃の世話になってるついでに義理チョコの1つでもくれてやらないとな。

 前世ではそれほど甘いモノが好きじゃなかった俺でも、学校でクラスメイトの女子が配ってた義理チョコをもらうのは楽しみだった記憶がある。

 

 ちょっとでも気分を良くしてもらって、また次のクエストでもアタシの盾として頑張ってもらわないとな。

 手作りじゃなくて既製品で悪いが、そこは目をつぶってもらおう。

 なんせアタシは料理らしい料理が出来ないからな! ガッハッハ!

 

 ……いや、女として情けない限りではあるんだが。

 どうにもこう、チマチマとした作業が苦手でなぁ。

 【鍵開け】とか【罠作成】は得意なのに、こうした指先の器用さをなぜか私生活には活かせないんだよなぁ。

 まあ、向き不向きってやつなんだろうな。

 

「──あれ、ミア?」

「おぉ、アレンじゃねえか」

 

 鼻歌を歌いながら歩いていると、向こうからエレノアの片想い相手──アレンが歩いてきた。

 どうやら勇者パーティーも今日はお休みらしい。

 

「久しぶりだね。遠征はどうだった?」

「それが聞いてくれよ! 『ゴルド』の奴、村で抱いた女に性病を移されたらしくてさぁ!」

「う、うわぁ……」

 

 ドン引きじゃねえか。話題のチョイス間違えたか?

 

 アレンとは同じ孤児院で育った幼馴染っていう間柄だ。

 前世とは違ってこの世界では珍しい黒髪。青い瞳に宿る剣の紋章が【勇者】の証らしい。

 幼い頃はアタシに負けず劣らずのヒョロガリだったくせに、【勇者】として王城に引き取られてからよっぽど良いモノを食わせてもらったのか、今ではすっかり体格の良い好青年だ。

 未だにチビガキなアタシに、その身長と筋肉を少しでもいいから分けてほしい。

 

「ミアは何してたの?」

「武器はメンテナンスに出してるからな。暇を持て余してブラブラしてたところだ」

「そ、そっか。それなら一緒に街を見てまわらない?」

 

 アレンから暇つぶしに誘われる。

 さっきまでのアタシだったら、その誘い文句にホイホイ乗っかってただろう。

 しかし残念ながら、アタシの興味はいま手元の紙袋にあるチョコレートにしかない。

 さっさと相棒『ゴルド』に義理チョコを届けて、自分のチョコレートを味わいたいのだ。

 

「悪いな。せっかくデートのお誘いだけど、野暮用があるんでな」

「で、デートとかそんなつもりじゃ……!」

 

 お~お~、顔を赤くしちゃって可愛いなコイツ。

 相変わらず初心なおこちゃまだぜ。

 こんな草食系男子のくせに、どうして勇者パーティーはあんなハーレムパーティーなんだろうな?

 エレノアもそうだが、あと2人のメンバーも女だし、アレンに恋する乙女たちだ。

 出会ったばかりの頃は、アレンと幼馴染だってだけで勝手に恋敵認定されて大変だった。

 

「それじゃあ仕方ないね。また今度、2人で遊ぼう」

「おう。それじゃあな」

「……あれ? ミア、何か落としたよ」

 

 アレンに背を向けて歩き出したところで、また呼び止められる。

 振り返ると、アタシが買ったチョコレートがアレンに拾われたところだった。

 なんだよ、紙袋の底に穴が開いてるじゃねえか。

 

「悪いな。拾ってくれてありがとよ」

「うん。それはいいんだけど、これって何?」

「あぁ、ただのチョコレートだよ。エレノアに店を教えてもらってな」

 

「え゙っ」

 

 うん? どうしたそんな石像みたいに固まって。

 メドゥーサにでも睨まれたか?

 

 ………………あぁ!

 そうか。うっかりエレノアの事をバラしちまった。

 アタシのせいでエレノアの告白が失敗したらどうするんだ。

 

「い、いや何でもないんだ! じゃあアタシはもう行くからよ!」

「ま、待ってミア! そのチョコレートをいったい誰と食べるつもりなの!?」

「あんまりしつこく聞かないでくれ! これ以上お前に教えることはない!」

「そんなぁ!?」

 

 なんでそんな根掘り葉掘り聞こうとしてくるんだよ!?

 これ以上問い詰められたらうっかりエレノアのこと全部言っちゃうから勘弁してくれ!

 えぇい、しがみついてくるな! アタシの服を掴んでる手を離せ!

 

「あばよアレン! お前も今日はフラフラ遊んでないで早く帰った方がいいぜ!」

「ミアァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 アレンの叫び声を振り切って、アタシはゴルドの家に向かって走り出した。

 

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