原因はおそらく、色彩だったと思います。
「アヤネ! 起きてよアヤネ!」
私はセリカちゃんらしき声を聞いて起き上がりますが、周囲は見知らぬ森へと変貌していました。
メガネを掛け直し、周囲を見回しますが、やはり見覚えはありません。
「セリカちゃん、これは一体……」
「分かんない。でも、絶対にアビドスじゃないよね」
「そうですね。アビドスにはこんな森なんて存在しません」
「そもそも木が存在しない!」
……ブラックジョークはやめましょう。悲しくなります。
タブレット端末を起動し、現在位置を把握。幸い、電源は問題無くつくようでした。
「……こんな場所、キヴォトスにありましたっけ?」
「そんなに変な場所なの?」
「いえ、そういうわけではありませんが……きっと勘違いですね。私も、キヴォトスの全てを知り尽くしているわけではありませんし」
それよりも、周囲にいくつかの反応があることの方が気になります。
「もしかしたら、敵かもしれません」
「ありえるわね。ここに連れてきた元凶だって可能性もある」
「どうすれば良いか分からない以上、接触する以外に選択肢は無いでしょう。言葉が通じれば良いですが、ダメだった場合……」
「大丈夫。私が撃つわよ」
私はオペレーター。サポートはできても、前線に出て攻撃を受けることすらできない。
歯痒さを覚えながらも、セリカちゃんに指示を出す。
「一際大きい反応があります。そちらと接触しましょう」
「了解!」
私達は、おそるおそるそちらへと近寄る。
「誰か、居るのかい?」
がさがさと、まるで合成音声のような声が聞こえてくる。
しかしどうしてでしょう。どこか、懐かしさを覚えました。
「セリカちゃん。まずは友好的に」
「了解……助けてほしいの! ここのこと教えてくれない?」
「分かった」
その要求は、案外すんなり受け入れられました。
そして、現れたその人は……
「あ、アンタは!」
「ま、間違いありません!」
以前激戦を繰り広げた、色彩の嚮導者、プレナパテスでした。
「アヤネ下がって!」
「ダメです! セリカちゃんだけでは勝てません!」
「……もしかして、私の……彼の生徒さんかな?」
「……! 言葉が、通じるのですか?」
「そうだね。この世界に来てから、生きることも死ぬこともできなくなった。もちろん、私を凌駕する力の持ち主には殺されるけど、私自身に寿命はない」
セリカちゃんと顔を見合わせ、私が頷くとセリカちゃんは銃を降ろしました。
「キミ達はキヴォトスから来たんだよね? ここはアストライア大陸といって、キミ達の住む世界ではない。できれば返してあげたいけど……ごめんね。私の力ではできないんだ」
「そこまでの期待はしていません。私達もしばらくここに滞在することは想定していました。……こんなことを、敵だったあなたに頼んで良いモノか分かりませんが……街までの案内を頼めませんか?」
「もちろん。他にも、金銭の稼ぎ方なんかも教えるよ。私と一緒に居るのは嫌かもしれないけど、できれば、ついて来てくれると嬉しいな」
プレナパテス。以前は世界を壊す魔王か何かだと思っていましたが、こうして会話してみると案外……
「先生、みたいね」
そうか。プレナパテスは、終わった世界の……
「そうありたいと、思っているからね」
「……あなたの生徒だった、シロコさん」
「……!」
「彼女は、住居を転々としてはいますが、それでも生活自体はできています。心配は、必要無いかと」
「そう、か。そうですか……!」
こんなにも、人とは思えないような見た目をしているのに、涙を流すんですね。
「ふ、ふんっ! せいぜい先生に感謝することね!」
「はい……本当に、なんとお礼を言ったら良いのか、分かりません……!」
「そこまで、ガチ泣きされても困るんだけど……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
その悲鳴に、私はそちらへと向きつつ端末を確認しました。
「正面! 誰かが猛スピードで接近してきます!」
「誰!?」
「あっ、忘れてた」
「無理無理無理無理!」
飛び出してきたのは、女性二人と、二人に担がれている女性と男性でした。
小柄で白髪の……エルフのような彼女は見事に着地し、もう一人の猫耳の方は、顔からダイブして女性を手放し、そちらの方も木に思いっきりぶつかっていました。
「な、なに?」
「だだだだ誰だか知らないけど助けて!」
私の背に隠れる猫耳の彼女。エルフの彼女は男性を優しく寝かせ、槍を構えます。
「急に巻き込んでしまい、申し訳ございません! わたくしは主様の従者、コッコロと申します!」
「というかアンタプレナパテス! 急に居なくなって心配したわよ!」
「ごめんね。迷ってしまって」
「えっと、コッコロさん。これは一体、どういう状況なのですか?」
「話は単純です。私達は現在……とても大きなイノシシに追いかけられています」
「「え?」」
そして、現れました。
とても大きな咆哮に、私の髪は靡きます。
「……これは……」
「いやいやいやいや!」
「みんな! 戦闘準備!」
「絶対にムリィィィィィ!」
セリカちゃんは絶叫しながら、銃を構えて突撃しました。