舞台は京都、夜の町。龍宮院流を修めている一人の剣客は、今宵も幕末の動乱に身を委ねる。
◇
大上段から振り下ろす、刀を返した斬り上げ。あと少しだったが躱されるか。僕が一人だったら危うかったが、今日はもう一人いる。
「オラァ!こっち見やがれ!」
「おっと」
サンラクが二刀による追撃を加える。相手は一旦後ろに引く構え、ここで間合いを詰め、踏み込んで一閃。受け止められるが、あれは反撃に移れる体勢ではない。まだこっちのターンのままだ。今の所、あの「レイドボス」に対して有利と言っていい状況だろう。だが、その程度で屈する相手ではないはずだ。ここは慎重に……
「っっ!!」
危なかった……サンラクが腕を引っ張ってくれたおかげで助かった。投擲された刀が相手の防御を強制させ、その隙に体勢を立て直し、再び斬りかかる。
「京ティメット!助けてやったんだから少しくらい時間稼げ!」
「僕もやられっぱなしじゃやってられないからね、今度はヘマはしないよ」
サンラクが後ろに下がり、一時的にレイドボスさんの相手を一人で受け持つことになる。
「いいの?」
「これくらいはできないと、幕末志士なんてやってられないよ」
一対一では自動的に防戦のターンになる。集中。左肩狙い、右へのステップで回避。今度は右、これは刀で受ける。首狙いはしゃがんで対応、低い姿勢のまま突き……は避けられるか。だがいい、意識するのは無駄な動きを減らすこと。相手からの反撃を回避、ここは一旦基本姿勢に戻って……
「すごい、雨みたい」
何事かと見上げた空には、降り注ぐ大量の刀とそれを展開したサンラク。相手はどうする。弾くようならその隙に切れるし、それは向こうもわかっているはず。安全地帯は右、だけど……
「……まさか」
あえての逆方向への回避。かなり強引な一手だが、それを通せるのが「レイドボス」。本来なら逆をつけているだろうが、今回はお見通しだ。相手の反応とほぼ同時に動き、大上段から真下へ一閃。着地後、滑るような動きで背後を取ったサンラクによる下段から真上へと二閃。文字通りの刀の雨と加えて、全てに対応するのはどう足掻いても不可能。ここだ。
「「天誅!!」」
たった一瞬のことだろうが、体感では何倍にも引き延ばされたかのような時間の後、そこには、二人の侍と大量のドロップアイテムが残されていた。それが示す事実はただ一つ。
「これは……やったんだよね……?」
「それフラグ……まいいや、今までやられっぱなしだったけど、いざってなると実感って湧かないもんだな」
「二人での天誅は新記録じゃない?一生自慢しても怒られないよ」
「そうだな、あの外道共にも思いっきりドヤ顔してやろうぜ。ところで、この戦利品どうする?どうせ即質屋だろうけど、お互いの取り分とかは……」
「サンラクが好きなだけ持っていっていいよ、僕はこの刀一本さえあれば十分だし、君みたいに何本も使わないからさ」
「んなこと言っても少しは持っていけよ、これとか確か秋イベの一位報酬だったはずだし」
「悪いね、じゃあ……」
「おいおい、勿体ぶるなら俺が全部頂いちゃうぜ?あのレイドボスさんを天誅したのは驚いたが、逆に言えば今の獲物はお前たちだってことくらい分かるよなぁ?」
この声は「俺たちの勇者」か。他にもぞろぞろと人が集まってくるが、この程度、今の僕にとっては敵じゃない。
「獲物はそっちだよ、君たちの刀もついでに貰ってあげる」
試しにおすすめされたこれを使ってみるか。気分はレイドボス、大勢のカモ共に向かって駆け出して……
(枕、布団……ああ、夢、かぁ……でも、いい夢だったなぁ……)
心身ともにだいぶ汚染されている京極は、「幕末」の夢はよく見る。が、それは全ていい夢とは限らない。普通に天誅したりされたりするだけではなく、城に常駐しているはずのSYO-GUNが延々と追ってきたり、いつぞやのバグのようにレイドボスさんが増殖したり、果てには幕末をやってないはずのペンシルゴンやサイガ-0(斎賀玲ではなく)が天誅を仕掛けてきたりしたこともある。だが、今回の夢は何年経っても覚えていそうなほどの素晴らしい夢であった。
そんな夢を見た後である。幸いにして今日は休日、稽古も無いため、心置きなく遊べる。まだ眠気が残っている中、慣れた手つきででVRを起動した京極は、高揚した気分のまま幕末の動乱へと飛び込むのであった……
◆
「だ!か!ら!地布武鬼は!もう!回収してるんだろうがぁ!!」
「あの時レイドボスさんに天誅されたのはあなたのせいですよね?というわけで
くっ、理不尽な怨みパワーのせいでこのままではジリ貧だ。少なくとも一対一の構図をどうにかしないと…………おっ、向こうに人影が。ちょうどいい、うまく混戦に持ち込んで……
「あっ、サンラク?」
「げぇぇ京ティメットォ!?」
パーフェクトバッドタイミング!なんならレイドボスさんと遭遇するより酷いまであるぞこれ。ついこの前なんかは自走式肉盾兼ビーコン利用漁夫の利天誅に利用したし、トトカルチョはいつものことだし、他にも数えきれないほどの怨みをツケているからなぁ……こりゃ共闘は無理だ、ていうか逆に俺が共闘される流れじゃないか。
「うーん、この借りは 必ず返す 倍にして……」
「戦う前から辞世の句なんていただけないよ?それにあんな奴に負けているようじゃ僕が困るんだけど」
いや何言ってんだお前は。くっそ有利状況だからっていい感じにイキりやがって……誠意大将軍はこの際しょうがないとしてもこいつだけは意地でも天誅してやる。
「余所見なんてずいぶんと余裕そうですねぇ?」
「ああもうお前は黙ってろ!こっちは忙しいんんんん!?」
ぐい、と背中が引っ張られる感触。まずった、京ティメか?微塵も殺気が感じられなかった、いつの間にそんな技量を身につけたんだ?これは詰んだか……
「危ないなぁ、今僕が引っ張らなかったら死んでたよ?」
はい?別にあれくらいは避けられるし……というかどうしたこいつは、イキりはイキりだが普段とは違うなんかこう…………いやちょっと待て、誠意大将軍、京ティメ、位置関係……いける、予想外を味方につけろ、なんだか知らんがこれはチャンスだ。
「そう、今の僕なら君なんかに負けることは……!?」
「隙あり団子天誅!悪いな京ティメット、辞世の句ならSNSの方によろしく!」
「ぐ……!?……まさか、誘われました……か……」
いや京ティメットとの遭遇は全くの偶然なんだけど……とはいえ我ながらナイスアドリブ!一瞬焦ったが、なぜか俺を無視して誠意大将軍に斬りかかってくれて助かった。さて、何かレアな武器はあるかな……あ、レイドボスさんちーっす。見逃してくれたりは……ですよね、ぐはぁ。
夢には当人の深層心理が表れているらしいですね。