シャンフロSS集〜小道に咲く花々〜   作:HIAMA

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コミカライズ範囲まで
あなたが夢見る先は《斎賀玲》


これは、今から5ヶ月ほど前の話。

 

………………

…………

……

 

「えー、明日から春休みです。もうどこかに遊びに行く予定を立てている人もいるかもしれませんが、ハメを外しすぎないように。それから、勉強も少しはやっておくこと。クラス替えは始業式の日に掲示されるからそれを見てください。じゃあ解散」

 

終業式の日。それは同時に学校からの解放記念日でもある。かつては友達と会えなくなるから寂しい、という人もいたようだが、現在ではSNS、さらにはVRの発展により、失われるのは鬱陶しい授業のみとなった。だが、斎賀玲の頭の中は、春休みではなく始業式の日のことでいっぱいだった。

 

「ねえ、玲は春休みどうするか決まってるー?」

 

「……あ、頼花さん。はい、特には決まってないですけど、稽古もありますし遠出することはないかと」

 

「ん?ちょっと上の空っぽかったけどどうしたの?あっ、さてはクラス替え?別に玲と違うクラスになっても休み時間は会えるんだし、そんな気にすることないでしょ」

 

得間の話は概ね正解だが、少しだけ間違いがある。まず、玲が気にしているのは得間と別のクラスになるかもしれないことではない。確かに同じクラスの方が嬉しいが、それこそ休み時間に会えばいい話である。真に気がかりなのは来年も意中の人と同じクラスになれるかどうかであり、そして……

 

(この間、やっと楽郎君からお菓子を貰えたばかりなのに……)

 

そもそも雑談すらできていない、ということである。現状の進展といえば、ホワイトデーに楽郎の()()()()()()()()()()()()()()()()ことくらいだ。それすなわち、別のクラスになれば彼と近づく機会が殆どなくなってしまうことを意味する。

 

「……それも、そうですよね。頼花さんは、何か予定はあるんですか?」

 

本当はそれもそうで済ませられないのだが、今は考えてもキリがないと思い、玲は話題を変えることにした。

 

 

 

 

 

 

そして、運命の日。

 

 

 

 

 

 

楽郎がいるクラスに玲の名前は、無かった。

 

 

 

 

 

 

「それは残念だったけど、学校は同じなんだし、チャンスはまだあるんだから、玲ちゃんは気にしなくてもいいの」

 

「でも……やっぱりクラスが違うと…………」

 

同じクラスにいても話しかけられなかった玲にとって、クラスが別になるのは死活問題だ。このまま話しかけられずに終わるのではないか。もし楽郎が別に好きな人がいたらどうしようか。そんな思いが、頭の中を駆け巡る。その時であった。

 

「岩巻さーん、バカゲー寄りのクソゲーで何かオススメありません?」

 

側から見れば、先程まで同じクラスになることを熱望していたのに、その姿が見えただけで隠れるのは随分と滑稽であるのだが。そういうところだぞ、と思いながら岩巻は楽郎に対応する。

 

「あらいらっしゃい、新学期早々ここに来たってことは、あれクリアできたの?」

 

「本来はそうなっている予定だったんですけど、いろいろあって丸一日分の進捗が全部消し飛んじゃって……流石にメンタルに響きましたね」

 

玲にとって、彼女が挫折したゲームをいとも簡単にクリアしてしまう楽郎は尊敬の対象でもある。そんな彼がゲームを投げ出す、という光景を見たのはこれが初めてだった。とはいえ、流石にクソゲーでデータリセットをされるとやってられないだろう、と同情していたが。

 

「なのでちょっと別ゲーを挟んでからもう一度やろうかなって。その方が頭もスッキリするんで」

 

彼の口から出てきたのは、まさかのリトライ宣言であった。なぜ心が折れないのか。いや、一度は折れているかもしれないが、どうして立ち直れるのか。

 

「普通ならやり直そうなんて思わないんだけどね……どうして陽務君はそんなに頑張れるの?」

 

岩巻はそう質問した後、ちら、と一瞬玲が隠れている方向に目を向けた。楽郎も何か引っかかったのか、ん?と一瞬だけ間を置きながらも、こう答えた。

 

「まあここで諦めたら一日分どころかゲームに費やした時間全てが無駄になりますからね。それに、クソゲーにトラブルは付き物ですし。でも、そういう理不尽に打ち勝って、達成感と共に叫ぶあの瞬間が楽しいから、それを目指すからやめられないんです」

 

 

 

 

「……話、聞いてたでしょう?あの陽務君だってそんな都合良くゲームをクリアしてる訳じゃないのよ。だから玲ちゃんもクラスの事とか気にしない。あと、彼とはここロックロールっていう接点があることを忘れてない?私も協力するから、これから地道に距離を縮めていきましょう。まあ今は気分転換にシャンフロでもやってみたら?」

 

「……そう、ですよね。ちょっと落ち着きました。岩巻さん、話を聞いてくれてありがとうございます」

 

その感謝の言葉は、今はもういない楽郎にも向けられていた。彼がクソゲーに向ける熱意、それは玲が陽務楽郎に向ける熱意と同じである。このまま落ち込み続けるのはよくない。いつの日か彼と一緒に、そんな瞬間を目指し続けようと思えたのであった。

 

ただ、その熱意は現実でのアプローチではなく、いつか楽郎がシャンフロを始めたとき、彼と一緒に遊べるよう更に強くなるために向けられたが。やけにシャンフロにのめり込むようになった姿を見て、岩巻は深くため息を落とすことになるのだが。

 

……

…………

………………

 

それから月日は流れ。

 

スカーレットホエール号、船上。クターニッドとの決戦を終えた一行は、フィフティシアへの帰路についていた。斎賀玲はサイガ-0として、紆余曲折こそあったものの、サンラク(陽務楽郎)と一緒にゲームをしている。以前の玲からしてみれば信じ難い光景であるが、それは紛れもなく彼女が成したことだ。

 

フレンド登録をした、パーティを組んだ、さらにはユニークモンスターをも討伐した。一度は離れてしまった彼との関係が、ゲーム内とはいえ着実に進展している。()()彼と一緒に過ごしたい。あの日から消えること無く持ち続けていたその思いが叶うとするならば。

 

「その……折り入ってお願いが……あるのですが……!!」

 

勇気を振り絞って出した言葉。それは、彼女の新たな()の始まりを謳うものであった。

 

 




最後は(大差はないですが)コミカライズバージョンです。
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