クラウドがFate世界に迷い込む話 作:ジ-ェ-ノ-バ
「…………っ」
目が覚める。
意識が覚醒する。
突き刺すような冷気。
ザラザラな木材の感触。
何も響かない静音。
クラウド・ストライフは、重くのし掛かるような意識を持ちながら辺りを見回した。
「……」
灯りは無かった。
薄暗く不気味な建物の中に、幾つも並べられているガラス窓から青色の月光が入り込んでいる。
それだけが光源となって視界を広げていた。
手のひらから感じた木材の感触は、自身が座っているチャーチチェアのモノだったらしい。一つの椅子に4、5人は座れる長さの物が、無数に並んで正面へと向いている。
はっきり言って、それ以外には何もない。
何も無い、というのは言い過ぎだが、本当に言葉にするほどのモノは何も無いのだ。
……しかし、これが正常なのかもしれない。
何故なら、クラウドはこのような場所をすでに知っていたからだった。
「ここは……教会か?」
ここは、クラウドが知っている教会と似たような造りだった。
と言っても、もともと知っていた教会はこれ程までには整備されていない。
天井には穴が空いているし、中央付近には多くの花が咲いている。同じ造りとなってはいるが、景観はまったくもって別物だった。
「……」
クラウドは自身の横に立て掛けられていた愛剣を手に取ると、立ち上がってそれを背中に収めた。
カラン、という鉄が組み合わさる音がする。
クラウドは現状の確認のため、いったん教会の外に出ようとした。
しかしその時、教会の奥にある扉が開いた。
「─────おやおや、こんな夜更けに何用かな?」
男の声はやけに響いた。
クラウドは声にする方に振り返る。
そこには薄暗い視界の向こうで、背の高い男が堂々と立っていた。
「……」
2メートルにも届きそうな背丈。
薄気味さを覚えさせる笑み。
暗い服に、胸元にぶら下げた十字架のネックレス。
クラウドはその格好を見て、ある程度の予想をつけた。
「あんたは、ここの神父か?」
「いかにも。私は言峰綺礼。……君の名前を聞いてもいいかな?」
「……クラウド……クラウド・ストライフ」
「クラウド・ストライフ、か」
言峰綺礼と男は名乗った。
正直言って、聞き慣れない名前だ。
当然、クラウドとあの男は初対面だ。
知るはずもない。
聞き慣れない名前と感じたのは、そのイントネーションとでも言うのだろうか。何と言葉にすれば良いのか分からないが……とにかくこちらの大陸とは少し違ったように取れる。
しかし、言語は通じている。
どう言うことなのだろうか?
(……いや、いい。後回しだ)
クラウドは雑念を振り払うと、男に向かって疑問をぶつけた。
「ここはどこだ?」
「私の教会だ。それとも住所の話をしているのかな?」
「住所はいい。聞いてもどうせ知らない」
「ふっ、そうだな」
男は嘲笑うように鼻で笑うと、淡々と答えた。
「ここは日本の冬木だ。60年周期で行われる聖杯戦争の舞台。そしてここは、その中立区域とでも言うべきところかな?」
「聖杯……? 中立……なにをいって─────」
「さて君は、何番目のサーヴァントなのかね?」
男は教会の奥から、こちらへと近づいてきた。
カツ、カツ、カツ、と。
天井が高いせいか、やけに音が響く。
クラウドの困惑を気にすることもなく、男は自身の言葉をまるでサンドバッグに向けて拳を放つように淡々とぶつけ続けた。
それを受けて、クラウドは眉を顰めるしかなかった。
「…………」
「……」
クラウドは男の胡散臭さにため息をつくと、自身について語った。
「俺はサーヴァントじゃない。そもそも、なんだそれは?」
「ほう。ではマスターか」
「マスターも知らん。勝手に決めるな」
「成る程成る程。では君は、明らかに銃刀法に抵触する大剣を背負い、コスプレのような服装に身を包んだ一般外国人であると?」
「さっきからメチャクチャだな。俺はソルジャー……元ソルジャーだ。それ以外の何でもない」
男の言葉は意味が分からない。
マスターだとか、銃刀法だとか。
まるで言葉だけが通じる異界に来てしまったような、とてつもない違和感を感じる。
と、クラウドの言葉を聞いた神父は、変わらない笑みを浮かべながら小さく頷いた。
「そうか……なるほどな」
「……」
「わかった。いいや、いささか呑み込めてはいないが、君の状態は理解できた」
「なに?」
男はほんの少しだけ目を瞑ると、慣れていると言った調子で語り始める。
「聖杯戦争とは、七人のマスターが七騎の英雄を従え覇を競いあう戦いだ。彼らの願いはただ一つ、他全てのマスターを下した後に現れる聖杯のみ」
「……」
「聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望機だ。金、権力、力。望むもの全てを手に入れる事ができる」
「全て?」
「ああ、全てだ」
「ふっ、それは良い」
クラウドは半分呆れたように言った。
事実、信じていなかったのだ。
あらゆる願いを叶える聖杯なんて、そんな物は存在しない。そんな物があるという噂が流れれば、神羅が黙っている筈がないからだ。
あの組織は、そういう情報には過敏に動く。
元ソルジャーのクラウドだからこそ、より一層理解していることだった。
「……信じるも信じないも君次第だ。そこはご自由に」
男はクラウドに背を向けると、これもまた慣れていると言った調子でそう言った。
そして、
「だが、この教会を出て坂を下るといい。そこに答えは待っている」
「……」
答えとは何なのか。
クラウドには良くわからなかった。
しかし、教会の外に出ろと言うことだ。
言いなりのようになるのは些か癪だが、クラウドはこの地の情報を手に入れるため、どのみち外には出ようとは思っていた。
クラウドは信じていないように、背を向ける。
教会にある大きな扉に向けて足を向けた瞬間、
バチッ!! ジジ────!! と。
突き刺すような頭痛と共に、ノイズが走った。
「聖杯の下に来い、クラウド」
「……っ!?」
聞き慣れない、聞き慣れた声。
ドッ、と。
大量の冷や汗が、流れた。
「うん……? どうした?」
神父はクラウドのおかしな様子を感じ取ったのか、離れた位置からそう問い掛けた。
はぁ……はぁ……、とクラウドは息を整えると、
「…………なんでもない」
そう言って、今度こそ教会の扉を開いた。
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「……?」
カンッ──────キィン────、と。
鉄と鉄がぶつかる音が、夜の街に響いていた。
クラウドは神父の言葉通り坂を下っていた。
答えがあると、神父は言った。
この音の正体こそが、彼の言う答えなのだろうか。
クラウドは立ち止まり、考えた。
「……」
鉄と鉄がぶつかる衝突音。
それが何度も何度も響いている。
恐らくこれは、戦闘から成る音だ。
しかも、尋常じゃない規模の。
(……まぁいい。行くぞ)
クラウドは自身に言い聞かせるようにして、その足を音の方へと向けた。
何度も響き渡るその音までの距離は、思っていたよりも遠かった。おおよそ1分ほどかかって、ようやく着いたようだった。
クラウドは眼下の光景を目にして、眉を顰めた。
「……危ないな」
公園に設置されている電灯に照らされていたのは、大剣を手にした3メートルはあるような人型のモンスターと、それと相対している騎士の格好をした少女。
そして、それを見守るように眺めている3人の観客だった。
クラウドが危ないと評したのは、その観客の方のことだった。
あまりにも距離が近すぎる。
モンスターと騎士との戦いは熾烈だ。
剣がぶつかるだけで衝撃波が飛び、その一撃は辺りの地面を砕いて瓦礫を飛ばす。その瓦礫が掠りでもすれば、最悪死に至るかもしれない。
……そんなこと、一般人でも見れば分かる筈だが、あの野次馬たちは何故か離れようとはしていなかった。
もしかしたら、戦っている少女の知り合いか何かなのかもしれない。
「──────」
クラウドは意識を研ぎ澄ませると、目に止まらないスピードでその戦場の領域に侵入した。
背中にある愛剣を抜き、モンスターと対峙するようにして向かい合っている騎士の隣に立ち並ぶ。
「手を貸そう」
「え……?」
唐突な出来事に、騎士は困惑した様子だった。
見えない何かを掴んで構えながら、横に並ぶクラウドへと眉をひそめている。
「貴方は……?」
「自己紹介は後だ。まずはこいつを片付ける!」
しかし、そんな彼女を気にする事はなく、戦闘はクラウドを含めて再開された。