クラウドがFate世界に迷い込む話 作:ジ-ェ-ノ-バ
クラウドは街中を出歩いていた。
冷える外気から身を守るために、ダウンジャケットを着ている。
ただし、それは寒さを凌ぐことだけではなく、この下に着ている装備品を隠す目的もあった。
「……」
彼の背中にバスターソードは無い。
これは、とても珍しいことだ。
クラウドが手ぶらで向かった先は、柳洞寺と呼ばれる地だった。
昨日の事だ。
ここを根城にしているサーヴァントを倒すために、クラウドたちは柳洞寺に訪れた。結果だけを見れば、成果は何も得ることは出来ず、ただ何かがあったという情報だけが残る形になった。
だが、それはセイバーたちに限った話だ。
クラウドは違う。
「あれは──────」
クラウドは昨日、感じ取っていた。
……いいや、今でも感じる。
この地に潜む彼の存在を、事細かに。
「リユニオン」
石段の前には、侵入を防ぐために2つのカラーコーンとそれを結ぶテープが引かれている。
しかし、クラウドは目の前につづく長い石段に足をかけると、躊躇うことなく導かれるように登り始めた。
昨日のような、疲労感はまったくと言っていいほど無かった。まるで地面を歩くのと同じ感覚で登り続けることが出来た。
本来であれば、これが普通だ。
クラウドの身体能力は並のソレとは違う。
「……」
山門を通ろうとしたが、そこには先程と同じようにカラーコーンにテープが引かれていた。
無意識に邪魔だと思ったクラウドは、片手でいとも容易くソレを引きちぎった。神羅を思い出すやり口に、どこか憤りを覚えているのかもしれない。
だが、そんな考えもすぐに消えた。
この空間に存在する彼の気配を前にしては、紙屑同然のような軽さだった。
「どこだ?」
クラウドは境内に入った。
薄暗い空間に、気味悪い肌寒さが広がっているが、クラウドには関係ない。
無我夢中で後を追い続ける。
気配のする方向、導かれる先に向かって。
「どこにいる?」
ゆっくりだった歩みが、早足に変わっていった。
奥に、奥に、どんどんと突き進んでいく。
昨日では到達しなかった柳洞寺の奥、何かがあると思われる森の方まで迷う事なく歩き続ける。
クラウドの直感は正しかった。
この地には何かが眠っている。
それはあってはならないものだ。
精神を乱すドロリとした感覚は、クラウドの意識を研ぎ澄ますばかりだった。きっとどのような感覚がクラウドに襲いかかろうとも、彼はその足を止める事はないだろう。
「…………」
クラウドの足が止まった。
停止した彼の目の前には、深い池が広がっていた。
それは森の中に存在している。
濃い霧のようなものが充満し、異様な雰囲気が漂っていた。
導かれる先はここだった。
細胞がここだと叫んでいる。
それが真か否か、現状ではわからない。
クラウドは池をぐるりと見回した。
生い茂る木々、薄汚れた池、視界を遮る霧。
それ以外には何も無い。
違和感となる要素は、なにも。
「──────」
クラウドは池に意識を集中させる。
その中を覗こうと、視線を落とす。
瞬間、
「まだだ」
クラウドの背後に、誰かがいた。
「まだ、違う」
誰の声か。
その答えは、詮索せずともわかった。
舞い降りる一枚の黒い羽が、教えてくれていた。
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クラウドが衛宮邸の前に着いたのは、夕方の事だった。
どこか呆然としている彼の顔には、生気がない。
空を漂う風船のように見えるが、その実態は今にも消え散りそうな雲のようだった。
「……!」
クラウドが衛宮邸に近づくと、その入り口から青紫の髪色をした人物が出ていくのが見えた。
少し遠目だったため、一瞬それが誰であるのか思い出すことは出来なかったが、記憶を辿ると意外な人物が思い浮かんだ。
「ライダーのマスター……」
そう。
ライダーの、マスター。
名前は確か……間桐慎二。
間桐桜の兄にあたる人物だ。
(……なにをしにきた?)
クラウドはその存在に訝しむ。
先日、彼のサーヴァントであるライダーはクラウド自身が撃破した。事実上、彼は聖杯戦争のマスターという立場では無くなり、すでにこの戦いから弾き出された状況にある。
だが、それであっても敵は敵だ。
簡単に許容できる問題ではない。
正直に言って、クラウドは間桐慎二という存在が何かを為せるとは思っていなかった。
言葉は悪いが、かなりの小物だ。
あまり警戒する必要はないように思える。
「……」
小さな警戒心を抱きながら、衛宮邸の門を通った。
そのまま直線に歩いて、玄関を開ける。
変わっているものは無い。
何かの破壊行為があったようにも見えない。
元の世界であれば、爆弾であったり監視カメラを仕掛けられるなどの可能性も大いにあるが、この世界ではどうなのだろうか。
バスターソードなどの大剣を所持しているだけで法に触れる世界だ。
恐らく、そこらの規定に関してはミッドガルよりも厳しく取り締まっているのだろう。
つまり、それだけ治安が良いということになる。
一般人からすれば、ありがたい話だ。
「……!」
廊下を曲がろうとした直後、その角で衛宮とぶつかりかけた。
持ち前の反射神経でクラウドは回避した。
「っと……おかえり、クラウド」
「ああ。……さっき、門からライダーのマスターが出ていくのが見えた。なにか話していたのか?」
クラウドは確認の目的で、衛宮にそう訊いた。
衛宮がその事に気がついていないのであれば、何かが設置された可能性が高くなる。訪問の目的以外だったのなら、彼はいまだに敵だ。
そう考えていたが、予想に反して衛宮の顔が曇っている事に気づいた。
「ああ、話してた。特にこれと言ったことも無かったから、クラウドは気にしなくて良い」
「……そうか」
本人がそう言うのであれば、そうしよう。
他人の人間関係に関わるつもりはない。
それがこの戦いの勝敗に関与するのなら話は別だが、そういう訳でもないように見える。
とりあえず、今日の巡回まで待つとしよう。
時刻は22時。
外は静寂に包まれている。
いつもよりも早い時間に巡回に出ることには理由があった。
「──────」
玄関から出て、すぐ目の前にある門には1人の人物が立っていた。
「遠坂」
衛宮が本当にいた……、と言った顔をする。
そんな彼を見て、遠坂は小さく笑った。
「こんばんは、衛宮くん。それじゃあ、行きましょうか」
「……その前に、何処に行くのか教えてくれ」
この時間帯に集まる約束はしていた。
だが、なぜ集まるかは聞いていない。
ずっと理由は不明なままだ。
公平を保つ為にも、ここで伝える義務が遠坂にはある。
「そうね。わかったわ」
それを遠坂自身、理解していた。
彼女は体をほぐすために腕を大きく伸ばしながら、
「これから、間桐臓硯を叩きに行く」
そんなことを口にした。
「間桐臓硯?」
クラウドが遠坂に聞き返した。
本来であれば敵の名前に関して詳しく問い正そうと思う事はないが、『間桐』という名前に引かれたからだった。
「間桐家の、妖怪の名よ」
遠坂は詳しくは説明しなかった。
会えばわかる、と目でクラウドに伝える。
クラウドも、それ以上は詮索しなかった。
ぽつ、ぽつ、と雨が降り始めた。
最初は静かだったそれは、ゆるやかにその頻度を増していく。事前に天気予報を見ていた衛宮たちは、合羽を着ることで雨を防いでいる。
だが、足りない。
この雨はその勢いの底を知らない。
噴水のように美しかった雨は、降り注ぐ激流のように荒々しい姿に変貌してしまっている。空を覆い隠す積乱雲は、天気予報の域を超えて急速な変化を遂げ始めている。
ゴッ……、と雷鳴が轟いた。
辺りが紫色に妖しく光る。
それは不吉だ。
この先にある存在に対しての警告に等しい。
「……強いな、雨」
衛宮が合羽のフードが押さえながら言った。
同じように遠坂もフードを押さえている。
「風も……台風でも近づいてきたの?」
「わからない。そんな予報はなかった筈だけど」
暴風が雨の強さをさらに上げている。
歩けないほどではないが、それでも気にする事は出来ない。少なくとも視界の妨げにはなっていた。
「本当に今日なのか、遠坂」
「叩けるうちに叩いておきたいのよ。今回に関しては向こうから出向いてくれてる訳だしね」
「向こうから?」
「あっちにも訳があるって事よ」
遠坂のよくわからない説明に衛宮は困惑する。
自分たちが知らない間にも、遠坂は間桐臓硯のことを追っていたらしい。正確には、臓硯の方から顔を出した為に無視できなくなったようだ。
「……」
遠坂は静かに背後に目を向ける。
その視線はクラウドに向けられている。
きっと、間桐臓硯が顔を出したのには理由がある。
あれは古い魔術師だ。
数百年の時を生きる妖怪が、幾つも見過ごした聖杯戦争。しかし、あれは何故か今回になって干渉する事にした。
見過ごせない。
あの妖怪を見過ごす事はできない。
「───────」
場所は新都にある中央公園。
かなりひらけた空間で、辺りには誰もいない。
この雨のおかげか、それとも元から漂う異様な空気のおかげか。どちらにしても、これは好都合と言う他ないだろう。
「出てきなさい、間桐臓硯」
この公園の中央付近に近づいた途端、遠坂が虚空に向かって声をかけた。
それは夜の闇に、溶ける。
今の言葉に返事を返すものはいない。
そう思ったが、結果は違っていた。
パキパキ、と気味の悪い音がする。
それは木が割れるような音ではなく、もっと根底から否定したくなるような音、つまり蟲だ。
それが数百、数千と言った数の軍隊となり、這いずり回ったり、羽音を響かせたりして曲を奏でている。生理的に嫌悪するソレらは、前方の空間に一点に集まっていくと、ひとつのカタチになって姿を現した。
「カカッ……小娘が」
カツン、と杖をつきながら現れる。
そいつは老人だった。
歳はかなり行っているように見える。
あと数年もすれば勝手に死んでしまいそうだ。
だが、奴はその状態で死なない。
死なずにまだ生き続けている。
「……成る程のう」
臓硯が前に踏み出す。
その人ならざる目は、クラウドを凝視していた。
「お主、名はなんと?」
「……クラウドだ」
「クラウドか。ふむ、英霊では無いようじゃの」
クラウドは冷静だった。
例え奇怪な存在を前にしても、その呼吸が乱れる事はない。いつでも戦闘に移行できるように、バスターソードを抜いてはいるが、彼はそもそも臓硯に対して警戒をしていなかった。
それは慢心というよりも、ただの判断だ。
いつでも殺すことが可能だと、目で告げている。
「1つ、訊くわ」
その時、遠坂が割って入る。
「街の人間から魔力を奪っているのは、アンタの仕業って事でいいの?」
ひどく冷徹な声。
まるで機械のようだ。
その声には、慈悲も情けもないように感じる。
場合によっては殺すのもやむ無しと。
「さてな。どうだろうか」
老人は首を傾げながら答える。
その問いが可笑しいと言わんばかりに。
「そう。アンタに訊きたい事は山程あるけど」
遠坂は決心したように息を吐く。
そして、
「───────アーチャー!」
自身のサーヴァントの名を呼んだ。
瞬間、何もない空間から赤い騎士が現れる。
外套をなびかせ、両手に短剣を握っていた。
「真っ当な聖杯戦争をするとするかのう」
間桐臓硯がニタリと笑う。
かつん! と杖を鳴らす。
先程のように蟲を動かすのかと警戒するが、間桐臓硯の目的はまた別のものだ。
空間が渦を巻いた。
大気に溢れる魔力が流れ、一点に凝縮される。
間桐臓硯の魔術とは格が違う、神代のものだ。
現在、この世界に存在する魔術師では到底実現できないような神秘。過去の時代、過去に生きた英雄だからこそ為せる魔術。
それが目前で起きる。
渦が破裂した。
その中からは、黒いローブを着たサーヴァントが立っている。まるで影のように佇み、腹部には紫色に光る短剣が刺さっていた。
「─────シロウ、出ます!」
敵がサーヴァントだと理解したセイバーは、装備を纏いマスターの前に出た。
(恐らく、敵はキャスター。……柳洞寺にて既に敗れたと思っていたが─────)
セイバーは、脳内で疑問を持つ。
今は戦闘に集中するべきだと理解しているが、どうにも拭いきれない違和感があった。
なぜ、すでに敗退した筈のキャスターがいるのか。
敗れたサーヴァントは、『座』に帰る。
現世に留まることはない。
もしかしたら、キャスターは敗れていなかった。
そう考えたが、目の前のキャスターを観察してすぐにそのカラクリに気がついた。
「……」
ミシ、と剣が軋む。
それは怒りによるものだ。
セイバーは強く奥歯を噛んだ。
「貴様……英霊の死体を弄ぶか……!」
「カカ……小娘には刺激が強すぎたかのう?」
ボト、とキャスターの口から何かが溢れる。
それは、小さく蠢いていた。
「蟲か……」
クラウドが構える。
その横で、セイバーは彼に話しかける。
「クラウド、貴方は私の後ろに。私には魔術に対する耐性があります。壁にしても構いません」
「……考えておこう」
向こうはキャスターのみ。
それに対して、こちらにはクラウド、セイバー、アーチャーと3つの戦力が揃っている。
さらにはセイバーは魔術に対して強い耐性を保有し、そのセイバーには及ばずともアーチャーは対魔力を獲得している。
結果は目に見えている。
誰の目にも明らかだ。
「──────ッ!」
真っ先にセイバーが駆け出した。
キャスターは自分には何も出来ないと踏んでの判断だった。
キャスターはセイバーを迎撃するため、複数の魔術を発動する。キャスターの周りに紫色の魔法陣が数十個も展開され、それら全てから巨大な蛇のような紫の熱線が放たれた。
何十もの熱線がセイバーに襲いかかる。
だが、高ランクの対魔力を保有しているセイバーの前では文字通りの無力だ。
はっきり言って、相性の問題でキャスターはセイバーに勝つことが出来ない。キャスターを虫にするなら、セイバーは虫を捕食する鳥だ。天敵とも言える相性であり、これは覆すことの出来ない事実である。
正直、この戦いは彼女1人で終わるだろう。
クラウドとアーチャーは彼女のサポートとしての立場であり、キャスターへのダメ押しだ。
「……!」
キャスターの胴体目掛けて、透明な剣が迫る。
それは間違いなく息の根を止めるものだ。
しかし、キャスターは直前で背後に飛んだ。
魔術を駆使して、空を飛ぶように回避する。
パシャ、とキャスターの胴体から血が飛び出した。
「……くっ」
セイバーの一撃は当たっていた。
事実、セイバーの剣先には赤い血と肉がこびりついている。キャスターは攻撃の前に回避に移ったのだが、セイバーの速度はキャスターの回避に間に合うほど速かったのだ。
致命傷だ。
だが、即死ではない。
あれは屍だ。
止めを刺すには、まだ足りない。
「……流石は最優のサーヴァント。マスターが未熟であっても、それ程とはな」
カラン、とキャスターの腹部に突き刺さっていた紫色の短剣が地面に落ちた。恐らく、何かしらの宝具であるのは見受けられる。
それがどのような性能かは分からない。
しかし、もう警戒する必要はないだろう。
何故なら、キャスターはそれを拾うつもりがなさそうだったからだ。
「では、手早く済ませるとしよう」
臓硯が嘲笑うように告げる。
それに反応するように、キャスターが右腕を空に掲げた。
瞬間、巨大な炎の塊が生成された。
「……!?」
それはまるで太陽のようだった。
あまりの高熱に、降り注ぐ雨粒が蒸発した。
クラウドやセイバー、アーチャーもそれがどのような魔術なのかは分からない。神代を生きた魔術師でないと理解する事は出来ないだろう。
だが、わかる事はある。
あれは、食らってはならないモノだ。
「これでセイバーを殺す事は出来なかろう。……だが、貴様のマスターとなると話は別になる」
マスターは、サーヴァントの前では無力だ。
対魔力を持っていなければ、あれを回避するほどの身体能力もない。
真っ当な聖杯戦争とはよく言ったものだ。
聖杯戦争はサーヴァントの殺し合いよりも、マスターを狙った殺し合いと言った側面の方がずっと強いのだ。
「くっ……!」
セイバーが歯を噛み締める。
何か打つ手がないか模索する。
蒸発する水気。
チリチリと肌を焼く熱。
それが更に焦りを加速させる。
瞬間だ。
この空間から、一切の光が失われた。
「─────────」
新都から光が消えた。
原因は不明、解明される事はない。
人工の光もなく、月光もない夜。
分厚い雲が空を覆っている空間は、文字通りの暗闇に変化した。それはまるで、太陽光が一切届かない深海のようだった。
だが、ここには一つの光源がある。
キャスターの炎の塊だ。
それが見た目通りの太陽のように、この深海を唯一照らしている。これのおかげで、この場の全員は周囲の光景を見ることが出来た。
「……なに?」
セイバーが小さく呟く。
困惑したように、周囲を見回す。
「─────……」
アーチャーも同様に困惑している。
その2本の短剣を、握り締めている。
「……、……」
衛宮は震えていた。
カタカタと、無意識のうちに恐怖した。
「なに……、なんなの?」
遠坂は困惑しながらも、衛宮同様、恐怖した。
この場に近づきつつある、その存在に対して。
「あり得ぬ……あり得ぬわ─────!」
敵である臓硯はたじろぐと、蟲となって消えた。
バラバラと、バラバラと、分解されるように。
「────────」
衛宮は視線を公園の入り口に向けた。
何故、そちらに向けたのか。
それは、クラウドがそこを凝視していたからだ。
「……クラ──────」
声をかけようとしたが、恐怖で止まった。
彼がいま、どんな顔をしているのか分からない。
ものすごく別人みたいだ。
そして、ソレは来た。
スー、と。
入り口から滑るように。
ソレは、のっぺりとしたリボンを、頭から被せているのかと思った。女子高生が黒いリボンを頭からつま先まで被って、姿を隠しているのかと錯覚してしまった。
だが、アレには人の気配がない。
アレは影だ。
人の行動を投影するだけの影だ。
だから無いのだ、気配が。
ヒトでは無かったんだ。
「───────」
影は直立したまま、近づいてきている。
何を目的にしているのか、そもそも意思があるのか。
立体を持たないソレに、考えはあるのか。
衛宮は思う。
懐かしい存在だと、ふと思う。
「────────!!!」
20メートルまで近づいてきた影。
そこが境界線だったのか、太陽を掲げていたキャスターがその影に向かってそれを投げ付けた。
キャスターが動けたのは、意思が無かったからだ。
死体であるからこそ、反射行動のように攻撃を行った。防衛本能が刺激された故に、その高温に熱せられた太陽は投げられたのだ。
太陽は地面を抉りながら影に迫る。
衝突までは2秒も無い。
キャスターの大魔術が牙を向ける。
そして、爆発した。
ゴッ─────!! と太陽が破裂した。
それは炎の渦となって周囲一体を焼き尽くさんと猛威を振るった。数千度にもなる炎は、降り注ぐ雨粒も地面に張っている水溜りも、恐怖で硬直している衛宮たちも関係なく、選別も贔屓も接待もしない自然現象のように膨張し、この公園にある全ての物体を包み込もうとした。
ジュワ! と水蒸気が上がった。
膨張した爆炎がすぐに迫り始めた。
「全員私の後ろに!!」
セイバーが叫ぶ。
それで我に帰った全員は、セイバーの背後に立った。
対魔力がバリアのように彼女らを防ぐ。
吹き荒れる暴風。
灼熱が嵐のように襲いかかる。
その壁を突破しようと、その熱を唸らせていた。
「ッッ!」
周囲が見えない。
全てが炎によって遮られている。
状況確認が不能、あの影も、キャスターも。
結果がどうなったのか、誰にも分からなかった。
「いや──────」
分かっている。
全員、分かっている。
確定していないだけで、結果がどうなったかなど。
「はぁ……はぁ……!」
破壊の渦は終わった。
残るのはその余韻のみ。
灼熱の嵐は大地を破壊し、炎を地面に残す。
荒々しく燃え盛る炎は、木のように立ち並ぶ。
そこらに、躊躇なく、公園を燃やすように。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
大気がうねる。
悪雲がわらう。
雷鳴がさけぶ。
雨は極致になり、地上を一掃せんと─────
「あり得ない。……あり得ない!」
影が立つ。
炎の中で、影が立つ。
先程までキャスターがいた場所。
肉塊となったキャスターを飲み込み、笑う。
糧にして、姿を見せている。
「新たな星の命が生まれる」
「っ……!?」
炎から、それは歩み寄ってきた。
長い銀髪がゆらりと揺れる。
赤い世界を背中に、黒い彼はクラウドを笑った。
「ふっ。馴染んでいるのか、クラウド」
「なに……?」
「この哀れな世界には、おまえが似合う」
カラン! とバスターソードが唸った。
その凶器を振りおろす準備が整う。
「何故だ……なぜおまえが、ここにいる!?」
「───────運命」
セフィロスは腕を広げた。
何も持たない両手が、そこにはある。
「運命だと……」
「ああ。……世界には一つの方向性がある。かつての番人が定めたように、星には生まれてから消えるまでの流れ。星が失くなるまでの道が、すでに決まっているのだ」
「その運命が、おまえを……?」
「いいや」
セフィロスは否定した。
それは間違っていると。
「我々の運命の枷はすでに外された。クラウド、おまえの偉業が自由を手に入れたのだ」
「おれ、が?」
「故に、世界は交わる。運命の壁を乗り越え、新たな世界への船出を始める」
運命は人を世界に留める枷だ。
動けないよう、誤差が無いよう、押し止める。
しかし、枷は外されたと、セフィロスは言った。
外された獣は自由となり、世界に放たれる。
新たな旅を求めて。
「かつてジェノバが、そうしたように」
宇宙から飛来する災厄。
星に落ち、星を侵食する者。
それに近いかたちで。
「しかしだ、クラウド」
その法則は、元の世界の場合だ。
いまは違う。
「この世界には、我々の世界の法則が適用されない。これは驚くべきことだ。世界のあり方が根底から違うことを指している」
「それがどうした……世界が違う。なら全てもまた違っているのは当たり前だ!」
「いいや、それでは駄目だ」
セフィロスはそう、手を差し出した。
来いと言わんばかりに、笑って。
「これより俺は、この星の生命を一掃する」
バチッ!! と頭痛が走った。
耐えきれない痛みが、駆け巡る。
「手を貸せ、クラウド。おまえが必要だ」
痛みが連続して発生する。
クラウドは背中を丸めて、激痛に耐える。
「っ……!! な、なにを……!」
「……」
セフィロスは待っている。
クラウドの返答、その回答を待っている。
哀れな人形を見るような目で、ずっと─────
「ふざ、けるな……」
クラウドは歯を噛み締めながら、大剣を握った。
到底受け入れられないと、睨みながら。
「おまえの計画には……絶対に乗らない!!」
駆け出す。
全力でセフィロスの元へ突っ切る。
バスターソードを持ち上げ、セフィロスの頭上から容赦なく振り下ろした。
その刃がセフィロスの頭を叩き割ろうとして、
瞬間、セフィロスが唐突に消えた。
「クラウド、俺は黒マテリアが欲しい」
虚空から声がひびく。
反響して、木霊して、脳に語りかけてくる。
クラウドはそれを振り払いながら、周囲を見回すが、すでにセフィロスの姿はどこにも無かった。
おしゃべりなセフィロスです…