クラウドがFate世界に迷い込む話 作:ジ-ェ-ノ-バ
「────────クラウド」
炎は鎮まる。
雨によるものか、それとも別の要因か。
理由は知らずとも、いつかは消える。
消える炎の中で、クラウドは佇んでいた。
そんな彼にセイバーは話しかける。
「誰か……そこに?」
「──────リユニオン」
クラウドは振り返る。
大剣を背中に納めながら、いつも通りに。
「いや……誰もいない」
「……」
その口調は普通なものだ。
表情も態度も、声色も、すべていつも通り。
一瞬ではあったが、セイバーには彼が別人のように見えた。
否、クラウドの事をよく知っている衛宮も。
だが、それは気のせいだった。
あの影と相対した時による緊張が、そう錯覚させたのかもしれない。
「……あの影は、なんだ?」
その時、クラウドが訊いた。
至って普通の、当たり前な質問だ。
誰だってアレを見れば、そのような疑問が飛び出すとは思う。
しかし、クラウドが口にした場合は別だ。
「……」
誰1人、返す言葉は無い。
『分からない』だとか、『知らない』だとか、そんな言葉すら出ない。全員は気まずそうに、お互いに目を合わせるだけだった。
そんな中で、1人が逆に訊いた。
「貴様は何だ?」
そのように、赤い騎士はクラウドに問い掛けたのだ。
「……なに?」
クラウドは分からない。
それがどのような問い掛けなのか、理解ができなかった。
恐らく、彼の疑問はクラウドの名前や、その生い立ちに関するものではなかった。そのニュアンスはもっと別の、根本的な意味が入っているように感じられる。
事実として、赤い騎士は遠坂から事前にクラウドについて説明をされていた。
知ってはいたのだ。
だが……
「誰なんだ──────おまえは?」
クラウドの困惑……だけじゃない。
赤い騎士、アーチャーもまた同様に、解消し切れない疑問を抱いていた。
ここでハッキリさせなければ、後になって大変なことになる。彼の直感が、そう告げていたのだ。
「……」
一触即発の雰囲気だった。
疑問は敵意へと変わる。
困惑は恐れを誘発する。
知らない、知り得ない。
それが戦いへと─────
「待ちなさい」
その時、セイバーが2人の間に割って入った。
「アーチャー。貴方のマスターと私のマスターは共同戦線を張っている。そしてクラウドは我々(こちら)の味方だ。彼の命を狙うというのは、裏切りに他ならない」
それはセイバー達に対する裏切りだけじゃない。
そのマスターである衛宮と共闘した、遠坂に対する裏切りにもなる。サーヴァントが自身のマスターを裏切るのは、外道と呼ばれる行為だ。
それを、セイバーは見過ごさない。
「─────クラウドも抑えてください」
「……わかっている」
ここで争っても、何にもならない。
言われなくても分かっていた。
「っ……」
頭痛がする。
脳を破るような頭痛がする。
クラウドが頭を抑えながら、明後日の方を向く。
隠すように、背を向ける。
「……」
衛宮とセイバーが顔を見合わせた。
クラウドの不調について、どこか思うところがある様子だ。遠坂もそんな二人を見てから、クラウドに対して不審な目を向ける。
明らかに異常な雰囲気だ。
遠坂は、表情に出さないでそう思った。
「解散ね、衛宮くん」
「そう、だな……ああ、そうしよう」
話したい事は色々ある。
間桐臓硯のことや、街の昏睡事件のこと。
そして何より、あの影について。
だが、ドッと疲れが押し寄せていた。
まるで津波のようにだ。
いまは何か話し合いたい気分ではなかったのだ。
「……」
衛宮は何も告げずに背を向ける。
言葉を出そうとは思えなかった。
が、
「衛宮くん」
遠坂に呼びかけられて、振り返った。
「またね」
彼女とは共闘関係になった。
故に、話すべきことはたくさんある。
そう考えたからこそ、遠坂は再び会う言葉を衛宮に対して告げたのだった。
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夜。
深夜と呼ばれる時間帯。
この辺りの住民が寝静まれば、あるのは耳を痛めるほど静寂だった。
夜の睡眠は深い。
よほどのことがない限り、起きる事はないだろう。
しかし、衛宮は目が覚めた。
理由はわからない。
そもそも、今日はかなり疲れていた筈だった。
肉体的にも、精神的にもだ。
だが、疲れていた筈の肉体は起き上がった。
「……」
喉が渇いた。
焼けたような暑さだ。
まるで地獄を歩いた後みたいな……
「ああ──────」
そうか、と衛宮は理解した。
(俺は、地獄を見ていたのか)
10年前の大災害。
忘れられない記憶。
どうして、今日になって思い出したのか。
それは、あの影のせいだろう。
あの影は、どこか似ていた。
地獄と影、それはどうやっても似つかない。
……そう思っていたのだが、それでも思い出す。
くっきりと、昨日のように、鮮明に。
暗闇の廊下を歩く。
慣れた足取りで進み、居間の襖を開けた。
……と、
「……」
衛宮と同じだったのか、クラウドも居間の台所で水を飲んでいるところだった。
「すごい奇遇」
感心したように衛宮が呟く。
クラウドも同じことを思っていたのか、小さく鼻で笑った。
「……眠れないのか?」
「どうだろう……その気になれば立ったままでも寝れそうなぐらい疲れてると思う」
「芸達者だな」
「比喩表現だよ、クラウド」
新しいコップを出して、水道水でそれを満たした。
ゴク、ゴク、ゴク、と一気に飲み干していく。
正直言って味気ないが、水道水は味を求めるものじゃない。単純に、渇きを満たす為のものだ。
「……はぁ」
飲み干すと、生理現象のようにため息が出た。
ここ最近で溜まっている疲れを取る為のような、必然的なものを感じさせる。
どうやら、自分にはかなりストレスが掛かっているらしい。
確かに俯瞰して思い返すと、最近は疲れが溜まりやすい事が多かった気がする。
特に、この2日間は酷い。
精神的な部分で、ゴリゴリ削られた。
「疲れたな、本当に……」
独り言のようにいう。
実際にそれは誰かに向けた言葉じゃなかった。
不意に出た言葉だった。
「……なぁ、クラウド」
明後日の方を、衛宮は見据えている。
聞いて良いのか、悪いのか。その判断にかなり迷いが生じているのか、オドオドと口ごもっている風だった。
数秒経って、衛宮は視線をクラウドに移した。
「あの時、誰と話してたんだ?」
「──────……」
クラウドはその疑問が投げかけられるや否や、急かされたように衛宮の横を通り過ぎて、居間を後にしようとした。
「クラウド!」
そんな彼の背中に向かって、衛宮は声を張り上げる。
バチッ!! と。
クラウドに頭痛が生じた。
「っ……」
「─────教えてくれ。誰がいたんだ?」
クラウドには、衛宮の声が遠い山奥から聞こえてきたのかと思った。きーん、と耳鳴りが残響として脳に語り続けている。
クラウドは頭に当てた手をおろして、少し苛立ちを込めた声色で反応した。
「おまえたちには関係ない」
「……!」
「おまえの仕事はセイバーと共に、この戦いに勝つことだ。もちろん、俺も今まで通り協力する」
だが、と。
「俺がおまえたちに協力するのは、あくまでも俺のためだ。これは契約であって、慈善活動なんかじゃない」
つまり、なんの得にもならない事に首を突っ込むなとクラウドは言いたいのだ。
衛宮たちにとって、聖杯戦争は自分たちが勝つべき戦いだ。しかし、クラウド側の事情に関しては何ら関係のない。
クラウドが衛宮たちに手を貸すのであって、衛宮たちがクラウドに手を貸すことはないのだ。
「セイバーにも伝えてくれ。あいつは─────」
お人好しだから、と言葉にしようとして、クラウドはぐっと堪えた。
それは失言になる。
よくないものだと、自分でも驚いたように察した。
「……とにかく、おまえたちは関わるな」
クラウド絞り出すように声を出した。
衛宮にはそれが、頼み込むように見えた。
「どうしてだ、クラウド」
分からなかった。
衛宮には、どうしてクラウドがそうまで遠ざけようとしているのか分からなかった。
あの黒い影は、確かに不吉なモノだった。
触れた訳でもなく、戦った訳でもない。
けれど、直感的なヤバいものだと理解できた。
それは衛宮だけではない。
あの場にいた全員が、同じ感想を抱いた。
全員がだ。
現代を生きる衛宮や遠坂だけでなく、過去の英雄であるセイバーやアーチャーも危機感を抱いた。
それほどまでの存在を、クラウドはひとりで対処すると言葉にしている。
関係がないから、関わるなと口にしている。
それが、どうにも納得できなかった。
「どうして、そこまで遠ざけようとするんだ、アンタは……俺たちが信用できないのか?」
そうだったら悲しいと、衛宮は思った。
けれど、クラウドの性格上そうなのだろうと同時に思っていた。
いや、確信めいたものがあった。
唯我独尊とは行かないが、クラウドは孤高の存在のような雰囲気がある。セイバーとはまた違った、一匹狼を体現したような存在だったのだ。
だが、クラウドの回答は衛宮の予想を大きく上回っていた。
「あいつは、黒マテリアが欲しいんだ」
「───────く……黒マテリア……?」
唐突な言葉に、反応が遅れた。
微塵も知らない単語……ではない。
黒マテリアは知らないが、マテリアという言葉は知っている。それは確か、クラウドの世界で魔法を使うための道具のようなものだった筈だ。
丸い水晶玉のようなもの。
確か、あの時のボールは透明だった。
黒とは程遠いものだ。
「……それって、何なんだ?」
「──────……」
クラウドは居間を後にする。
今度こそ、話すことはないと告げるように。
「黒マテリアですか……」
道場でセイバーが静かに呟いた。
竹刀を近くに置いていないのは、単に話しあうだけのつもりだったからだ。
ここなら、2人きりで会話ができる。
クラウドに聞かれる心配もないだろう。
「ああ。セイバーはどう思う?」
「どう、と言われましても……」
わかるはずもない。
マテリアと呼ばれる代物は、クラウドの世界独自のものだ。聞く限りでは、その在り方はこの世界とは大きく違っているように思える。
「こればかりは、クラウド自身に聞く他はないでしょう。ですが、彼が話したがらないのであれば、どうする事も─────」
「……だよなぁ」
うーん、と衛宮はうなだれる。
彼はどうにも黒マテリアと呼ばれる代物が気になって仕方がなかった。
それが何なのか、その欠片すら掴めていないのが現状だ。魔法を行使するのに必要なもの、ただこれだけしかヒントはない。
だが肝心なのは、その魔法が何なのかだ。
正直に言って、ろくなものではないと確信していた。
「─────クラウドの言う『あいつ』って、一体誰のことなんだろうな」
シン、とただでさえ静かだった道場がいっそう静まり返ったような気がした。
セイバーは昨日の出来事を思い返しながら、キッパリとその問いに答えた。
「会話の相手は、あの影でした」
「……」
「私達には、クラウドがひとりでに話しているようにしか見えなかった。しかし確かにあの時、クラウドは誰かと話していた」
「あの影は────」
炎の中にたたずむ影。
異様な光景だった。
だが、それ以上に──────
恐ろしい何かを感じさせられた。
「……もしかすると、ですが」
セイバーが確信を持てない声で言った。
「アレはクラウドの相対した事があるだけで、その存在はこちら側のモノなのかもしれません」
「こちら側……?」
「あの影は私達の世界のモノという事です」
この世界に来る前のクラウドが敵対したことがあるというのは、つまり向こう側の世界の存在という証明になる。
だが、セイバーはそれを真っ向から否定したのだ。
「……どういう理由で?」
衛宮が単純な疑問をぶつけた。
「アレには、明確な魔力がありました。シロウ、覚えていますか? クラウドと初めてあった夜のことを」
「あ、ああ……それが?」
「あの夜、貴方はクラウドがサーヴァントではないのかと尋ねました。その時、私はこう答えた筈です。『クラウドには魔力が無い』、と」
「……確かに、言った」
セイバーはやはり、自身なさげな声だった。
「これは仮説ですが……クラウドの世界には魔力という概念が無い、もしくは私達は彼らの魔力を感じ取れないのかもしれません」
「そう、なのか?」
恐らく、とセイバーはうなずく。
「マテリアの話になりますが、アレはクラウドが話した通り魔法を行使するのに必要な媒体です。どの魔法を行使するか、どれほどの威力にするか、それを設定する機械のようなものと思われます」
「……」
「しかし、それを動かすには必ず
その在り方は、この世界と似ている。
魔術─────それは魔術回路から生成される魔力を消費することによって行われる神秘。等価交換の原則の上に再現される、奇跡の総称。
「エンジン─────つまり、魔力?」
「ええ。きっと」
魔術師の体内には魔術回路がある。
大なり小なり、必ずだ。
無いものには魔術は使えないし、もうそれは魔術師とは呼べない。もしもこの世界と同じ魔法と呼ばれる概念に近いものが向こうの世界にあるのなら、その存在基盤、原初のあり方からも似通っている可能性は大いにありえる話だ。
セイバーはその事実を突きつけたのだろう。
しかし、衛宮には当然の疑問があった。
「でも、無い可能性だってある筈だ。世界の基盤が違う可能性は、たぶん俺たちが思っているよりもずっと高いと思うんだ、セイバー」
『魔晄』と呼ばれる概念を聞いてから、衛宮の頭には異世界という言葉が完全に定着していた。
文字通りの、この世界とは『異なる』世界だ。
「魔力を消費しないで、魔法を使えるのかもしれない。例えば、魔力とはまったく別の力を消費しているとか」
セイバーの意見を頭ごなしに否定する訳じゃない。
だが、すべてを肯定するのもまた違う。
それでは思考放棄に他ならなかった。
「……はい、その可能性もある」
セイバーは真顔で言った。
敵を視察する騎士のような顔だった。
「ですが、あの影には魔力があった」
話は、そこに帰結した。
あの影へと集うのだ。
「クラウドの言う『あいつ』が、『あの影』であるならば、クラウドと同様に魔力が無いのが自然のはず。しかし、あの影には私たちと同質の魔力があった。クラウドにも無く、マテリアにも宿っていない、我々の魔力があった。この違和感こそが問題なのです」
「─────」
正直、衛宮はこんがらがっていた。
この話の終着点が見えなくなり始めていた。
難しい話、とくに魔術方面に関しては疎いというのが本当のところだ。魔術師の端くれであるが、端くれでは駄目なのだ。
魔力を探知できない自分では、話に入るのは少し難しいと思った。
「……」
その心境を、衛宮の表情で感じ取ったセイバーはようやく本題に入ることにしたのだった。
「シロウ、貴方がよければですが」
衛宮は最後まで言われずとも理解した。
セイバーの言いたいこと、これからの提案の内容を理解していた。
「──────あの影を追いましょう」
あの影はマスターでもサーヴァントでもなかった。
つまり、聖杯戦争とは関係のない可能性は高い。
しかし、セイバーはそれでもなお追跡を提案したのだ。それが意味のない行為だとしても、放っておけない何かがあった。
「……ああ」
マスターとサーヴァントの意見が合致した。
「クラウドがいたら、なんて言うかな」
衛宮は半笑いで言った。
その発言にセイバーは、
「怒るでしょうね、しつこいと」
「それで済むかな……」
あの苛立ちを込めた表情が蘇る。
クラウドは衛宮たちに関わって欲しくないと本気で思っている。衛宮は、心のどこかでその意思を汲みとってあげるべきではと迷っていた。
「───────なぁ、セイバー」
そんな迷いを持ちながらも、衛宮はクラウドのことを思い返していた。
昨日の夜、そしてさらに昨日の夜。
一昨日の柳洞寺の時。
あの時も、そうだ。
変なことがあった。
特にクラウドの様子が変だった─────
「リユニオンって、なんだ?」
クラウドが呟いた意味不明な単語。
それが掘り起こされた。
「─────再結合。再結成」
セイバーは同じようにクラウドを思い出しながら、最後の一言を付け足した。
「そして────再会」
セフィロスをモチベに頑張ります