クラウドがFate世界に迷い込む話 作:ジ-ェ-ノ-バ
「──────────」
「……………………」
無言の空間が流れている。
クラウドはそっぽを向きながら、腕を組んで黙って立っている。まるで時が流れるのを、ただ待ち続けているような状態だ。
そんな彼の扱いに困ったように見つめる3人がいた。
まずは、先程までクラウドと共に戦った騎士の少女。
2人目は赤髪の少年。
もう1人は黒髪の少女だ。
おそらく、全員はおなじぐらいの歳だろう。
20にも満たない少年少女と言った感じだ。
「…………あの……」
その時、赤髪の少年がクラウドへと声をかけた。
とてもないほど近寄りがたい雰囲気を出しているクラウドは、その少年に視線だけを返した。
「なんだ?」
「その……俺は衛宮士郎。アンタは……」
「クラウド・ストライフ」
「……アンタはいったい、何者なんだ?」
クラウドの表情が変わる。
視線だけで衛宮を見ていた彼は、向き直ってその質問の応えを返した。
「元ソルジャーだ」
「…………ソルジャー?」
「ああ」
クラウドは伝えるべきことを伝えられたと確信して、再び彼らから視線を外してしまった。
……だが、どうにも様子がおかしい事に気がついて、再びその行き先を戻す。
赤髪の少年は、困惑しているようだった。
クラウドがソルジャーであることに驚いた様子ではない。その存在を、ソルジャーという概念そのものを知らないと言っている風だ。
しかも、それは彼だけではなかった。
共にいた黒髪の少女も、あの騎士の少女ですら同じような雰囲気をまとっている。彼らはお互いに目配せをして、その存在を知っているか確認していたが、誰もピンと来ている様子はなかった。
「……知らないのか?」
「えっと……まぁ……」
「……」
クラウドには、それこそ驚きだった。
ソルジャーという存在を知らない者がいるなど、考えたことがなかった。一般常識とまでは行かないが、それでもそれに近いかたちで浸透しているとクラウドは思っていた。
いや、事実そうであるはずだ。
よほどの辺境の地でもない限りあり得ないのだろうが、ここらの文明化を見る限り情報が隔絶されているとも思えない。
ただ、彼らが知らないだけ。
クラウドは不審に思いながらも、そう結論づけた。
「……ソルジャーは神羅カンパニーが保有する、私設エリート兵の名称だ。主にモンスター討伐などの武闘路線を担当している。俺は─────」
と、クラウドは説明口調で話している途中で、その言葉を区切った。
それは紛れもなく、困惑によってだった。
そう。
先程と同じように、目の前の少年少女たちは、何もかもが分からないと言った顔で、クラウドのことを見ていたのだ。
『なにもかも』、わからないと言った様子で。
「……神羅カンパニーって、どこの会社? 貴方の実力を鑑みると……普通のとこじゃないわよね? もしかして、魔術結社ってやつ?」
初めて、黒髪の少女がクラウドに声をかけた。
だが、そんなことを気にしている余裕もない。
クラウドは眉をひそめながら一歩前にでた。
「俺を馬鹿にしているのか?」
「ば、バカになんかしてないわよ! じゃあなに? 貴方のそれは素の身体能力ってわけ!?」
「……」
「…………」
会話が途切れる。
いいや、それどころじゃない。
「……神羅を、知らないのか?」
「……えぇ」
「────────」
クラウドが絶句する。
ソルジャーを知らないのは、百歩譲っていい。
そんなこともあるかもしれない。
だが、神羅を知らないのはおかしい。
神羅は魔晄エネルギーを最初に発掘し、それを電力へと変えることに成功した超がつくほどの巨大企業だ。その規模はもう一国家と言っても問題はなく、ミッドガルという巨大都市を建設して世界の中心に立っている。
これはもう一般常識が云々という話ではない。
魔晄という電力を使用する現代人であれば、必ず耳にしたことがある常識だ。
……なら、
(どういう、ことだ……?)
背筋に冷たいものが走る。
クラウドは冷や汗が流れていくのを実感しながら、少し焦ったように夜の街並みを指差した。
「あの灯りの電力がどこから流れついているのか、知らない訳はないはずだ……」
クラウドは近くに設置してある自販機を指し、
「あれも」
坂に建てられている電灯を指して、
「あれもだ……」
全てが全て、1つのエネルギー源から来ている。
「魔晄だ。魔晄炉を建設したのがどこなのか、本当に知らないのか?」
クラウドは希望的な意味合いも込めて、『魔晄』という言葉を使った。これさえ出せば、必ず話は通じると思ったからだった。
しかし、だ。
「…………魔晄って?」
何というのだろうか。
予想通りの、予想外の答えが。
クラウドに、帰ってきたのだった。
_______________________________________________
クラウドは状況を飲み込んだ。
信じられない事実を、理解した。
つまり、異界へと移動したのだ。
これは何の比喩でもない。
文字通り、別世界への移動だ。
魔法という超常現象が広く伝わっている世界だ、どのような摩訶不思議なことが起こるか覚悟はしていたつもりだったが……こんなことになるとは流石に予想できなかった。
「……並行世界、か」
黒髪の少女がつぶやいた。
深刻そうというか、興味深そうな面持ちでいる。
少し離れた位置で佇んでいるクラウドを眺めながら、指を口にあてて考え込んでいた。
そんな時、衛宮が彼女へと小声で訊いた。
「なぁ、遠坂? あの人、実はサーヴァントだった、みたいな話はないのか?」
そんな彼の質問に、騎士の少女が横から答えた。
「それはあり得ません。彼からは、サーヴァントの気配がしない」
「そう。セイバーの言う通り、アイツからは魔力が少しも感じられない。仮にアサシンの気配遮断スキルの応用であったり、他クラスの宝具の効果だったとしても、あの戦闘能力は三騎士のものじゃなければ説明がつかないものよ」
すでに三騎士の存在は割れている。
故に、真っ先に否定された。
「じゃあ魔術師って線は……?」
「だーかーらー! 魔力が無いのよ! 貴方も魔術師の端くれなら、アレがサーヴァントかそうじゃないかぐらい分かるでしょ!?」
遠坂と呼ばれた少女は呆れたように言った。
そんな彼女の会話に割って入るように、セイバーと呼ばれた騎士は話を切り出した。
「マスター、提案があります」
「ん? なんだ、セイバー」
「……彼を、こちら側に引き入れてみてはどうでしょう?」
セイバーの提案に、遠坂は驚いたように口を開いた。
だが、そんな彼女を無視して話は進む。
「引き入れるって……どうやって?」
「……マスター。貴方には、いまだ定まった願いは無いと聞きました」
「ああ……」
「ならば、彼の願いを叶えるという条件を提示するのはどうでしょう? おそらく、彼の願いは元の世界に帰ること。……いえ、もしかしたら他の願いがあるかもしれない。しかし、仮にそうだったとしても、彼の願いを聖杯で叶えるという条件を提示してみせる。きっと、彼にとっても悪くない話のはずです」
「あぁ……そうだな……」
「彼の実力を本物です。手を組めれば、間違いなくバーサーカーを下すことすら出来るでしょう」
セイバーがぐいっと衛宮に近寄る。
衛宮は一歩後ろに下がってたじろきながら、
「わ、わかった! 聞いてみよう。でも無理にとまでは行かないぞ。向こうが戦いを拒否したら、すぐ諦めるからな」
こくん、とセイバーは頷いた。
多分、ものすごく仲間に入れたいのだろう。
確かにそうだ。
サーヴァントではないのだから、無理に敵対する必要もない。しかし、その実力はサーヴァントに匹敵するほどのもの。
もし仲間に引き入れられたら、大きなアドバンテージになる。実質、サーヴァントが2人もいると考えてもいい。
「ちょっと! ずるいわよ、それ!」
その時、遠坂が怒り気味に叫んだ。
自分もそれ考えていたのに! と言うが、そんな彼女にセイバーは反論する。
「貴方には貴方の願いがあり、アーチャーにも願いがある筈だ。叶えられる望みは、1人につき1つ。アーチャーのマスター、貴方はどちらかを捨てる覚悟があるのですか?」
「ぐっ……」
セイバーの言葉に、遠坂は押し黙った。
ぐぐぐ、と歯を噛み締めると、吹っ切れたように胸を張りながらこう叫んだ。
「いいわ! 絶対、必ず貴方たちを倒す! もう完膚なきまでに叩きのめしてやるんだから!」
遠坂は負け惜しみのようにそう言うと、憤慨めいた足取りでその場を後にしていった。一歩一歩の歩幅が大きく、すぐにその姿は暗闇に溶けんでしまう。
そんな彼女の姿を見送った2人は、今度はクラウドの方へと近づいた。
「なぁ……話があるんだけど──────」
「いいだろう」
「……え?」
衛宮が何かを言い終える前に、クラウドが答えた。
「俺は元の世界に帰る。その為に、俺はおまえたちを利用する。構わないな?」
「あ…………」
衛宮が肯定する前に、セイバーが前に出た。
「ええ、構いません。……共同戦線です。共に戦い抜きましょう」
「ああ」
クラウドは頷く。
しかし、言葉を付け加えた。
「だが、これだけは言っておく。不利だと感じたら、俺はおまえたちを切るぞ」
「……失望はさせません」
その返答に、クラウドは鼻で笑った。
こうして、聖杯戦争に新たな戦力が投下される。
細かい設定は忘れてしまってるかもしれないので、
目を瞑ってもらえると助かります。