クラウドがFate世界に迷い込む話 作:ジ-ェ-ノ-バ
「…………」
衛宮が先行して、そのあとにセイバー、そしてクラウドという順番で夜の街をあるく。
時刻はどのぐらいに突入しているのだろうか。
人の数は少なく、活気に満ちてはいない。
だがその代わりのように、サイレンがよく鳴っているような気がする。
この街の治安維持組織のようなモノだろうか。
赤いランプを点けながら、走り去っていく車両がチラリと見えた。
「……」
3人は身を隠しながら進んでいた。
なんせ、その格好だけを見たら不審者にしか見えないからだ。衛宮は一般的で、セイバーは鎧の上から合羽を羽織っているが、クラウドだけは何も隠していない。
服装もそうだが、何よりも背にしている大剣が問題なのだ。元の世界では法に触れないソレも、この世界では通用しない。
そもそも、モンスターなどの生物が存在しない世界のため、セイバーや先程のバーサーカーと呼ばれる怪物なども、クラウドと同じく異端として扱われる存在のようだった。
……いいや、そもそも存在自体が信じられていないようなものなのかもしれない。
「なあ」
一番後ろを歩いていたクラウドは、前に歩くセイバーへと声をかけた。
「あんた。サーヴァント……だったか? それはいったい、どういうものなんだ?」
ガチャ、とセイバーは鎧からなる金属音を響かせながら、クラウドに振り返ると。
「使い魔と考えてもらって構いません」
「使い魔?」
「はい。……この仕組みを説明する為には、まず聖杯戦争というものを理解してもらわなければならない。クラウド、貴方は……」
「聞いている。一応はな」
「……一体どこで?」
「あの坂の上に教会がある。そこの神父からだ」
「……」
その言葉に、セイバーと衛宮は少し困ったように顔を見合わせた。
その様子に不信感を覚えるクラウドだったが、セイバーはそれ以上の掘り下げはしなかった。
「とりあえず続きを。……聖杯戦争はマスターがサーヴァントという特殊な使い魔を召喚することで行われる、一種の儀式のようなものです。マスターとは、言うなればサーヴァントと契約ができる魔術師のこと」
そして、と。
「サーヴァントとは、言うなれば過去に生きた英雄。それが死後、英霊となって現代に喚び出された存在こそがサーヴァントです」
「英雄、か……」
クラウドはその単語を意味深げに呟く。
事実、それを彼にとって嫌な記憶に結びつくものだった。
しかし、過去のことだ。
そう割り切ったクラウドは、続けて問う。
「あの怪物も、そうなのか?」
『あの』とは、バーサーカーのことだった。
クラウドから見れば、あれは英雄というよりもモンスターだ。これは世界による価値観の違いなのかもしれないが、どうにも納得がいかない。
例えるなら、泥水を天然水と言い切る。
それほどの違和感がクラウドにはあった。
「はい。間違いないでしょう」
しかし、セイバーは肯定した。
「だが、あれは……」
「バーサーカーは、狂化という特性が付与されます。理性を失うというデメリットの代わりに、身体能力の大幅な向上というメリットを得ている。ですから、あのような野生の化身になっていたのでしょう」
その答えに、新たな疑問が湧いた。
「セイバーやバーサーカーは、本名ではないのか?」
「ええ。聖杯戦争は七人の英霊が呼び出されるのですが、それぞれが異なる
「ソルジャーはないのか?」
「ん?」
「……あぁ、ええ……」
クラウドの質問に衛宮は振り返り、セイバーは少し困惑してから遅れて反応した。
「……私からも聞きたいことがあります。構いませんか?」
「ああ」
3人はかなりの時間をかけて歩いている。
景色は、自然がある街並みから住宅街へと移動していた。そろそろ、衛宮の家へとつく頃合いだ。
「クラウドはソルジャー? だと聞きましたが……その中で、貴方はどのレベルの存在なのですか?」
これは単純な疑問だ。
クラウドは、ソルジャーは神羅の私設エリート兵だと説明した。つまり、ソルジャーは何人もいるということになる。
クラウドは、サーヴァントになっても申し分ないほどの実力を有している。
もし仮に、クラウドのような存在が数多く入隊しているようであれば、それはとんでもないことだ。
そして、それほどまでにクラウドの世界は過酷なものだという証明にもなる。
セイバーは、それを危惧していたのだ。
「……ソルジャーには、階級とは別にランクがある。下からサード、セカンド、ファーストと」
「……貴方は?」
クラウドの大剣が金属音を鳴らす。
彼は少しばかり間を溜めると、
「──────ファーストだ」
そう、自身ありげに言った。
「その数を聞いても?」
「……ファーストになれるのは、ほんの一握りだけだ。俺が知っているだけでも、指で数えられる程度しかいない」
「そう……なのですか」
セイバーは安堵した。
特にこれと言った意味はない。
ただ、自身と同じレベルの実力を持つ存在が、別世界には大勢いるのかもしれないという可能性が消えたことに、少しだけ安心してしまったのだ。
「あー……じゃあ、俺からも聞いていいか?」
その時、前を歩いていた衛宮が声を出した。
好きにしろ、とクラウドは返す。
「そっちの世界にも、魔術ってあるのか?」
「……」
クラウドは驚いたような表情を浮かべる。
しかし、彼はすぐに元の無表情に戻した。
「……魔法だ」
「魔法!?」
クラウドの言葉に衛宮が大きな声を上げた。
さらに、セイバーも驚愕に満ちた顔をしている。
「魔法、ですか?」
「ああ。……別に珍しいものじゃない。誰でも使える」
「誰でも!? ……すごいな、まるでファンタジーの世界みたいだ……」
「ふっ……マテリアさえあれば、おまえでも使えるさ」
その単語に、セイバーが当然の疑問を呈した。
「マテリア……?」
「……マテリアは、魔晄が凝縮され結晶化したアイテムのことだ。それがあると、魔法が使えるようになる」
まぁ、人によって使える魔法も限られるが、とクラウドは付け足した。
「魔晄……ですか」
「……」
ああそうだ、とクラウドは思い出した。
この世界には魔晄は存在しないのだった。
元の世界では常識だったため、その違いに慣れることが出来ずにいる。
これには少々時間がかかりそうだと、クラウドは思った。
「じゃあクラウドは、そのマテリアっていうのをいま持っているのか?」
衛宮が立ち止まってそう聞いた。
その目には好奇心が宿っていた。
おそらく、魔法という存在に憧れている節があるのだろう。
この世界にそういう概念があるということは、きっと使える存在もいるという事なんだろうが、ソルジャーと同じく限られた存在だけなのかもしれない。
そう察した、クラウドはポケットに手を突っ込んだ。
「ああ」
確か、『ほのおマテリア』を持っていた筈だ。
剣のみで事足りるので使う機会がなかったが、一応という意味で所持していた記憶がある。
そんな彼の考え通り、ポケットの中には丸くて固いボールのような感触があった。
手のひらで握れるほどの、ソフトボールのようなものだ。
クラウドはそれを握ると、衛宮とセイバーの前に少し自慢げに見せつけるように取り出す。
そこには─────
「へぇ……なんかガラス玉みたいだな」
無色透明な、マテリアがあった。
「っっっっ………………!!!??」
バヂッッ!! ガッ! ジジジッッッ!!! と。
今までのものとは比較にならない、脳をナイフで突き刺すように激痛と共にノイズが走った。
『クラウド、俺は……………が欲しい』
幾層にも重なる記憶。
掘り起こされるように散らばる思い出。
再結合する断片。
指先が震える。
唾液がうまく分泌されない。
涙が流れかけていた。
「クラウド……!」
倒れかけたクラウドをセイバーが支えた。
肩を貸しながら、衛宮の方を向く。
「マスター! 急ぎましょう!」
「あ、あぁ……! こっちだセイバー!」
唐突な出来事に困惑しながらも、クラウドの体調の為に急いで帰路に向かう。
肩を貸しながら早足で歩くセイバーに支えられていたクラウドは、意識を失いかけながらも、ぎっしりとそのマテリアを離さずにいた。