クラウドがFate世界に迷い込む話   作:ジ-ェ-ノ-バ

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目覚め

「─────……」

 

クラウドが目を覚ましたのは、日が昇ってから少し後だった。

 

視界が開けた瞬間、太陽光特有のギラギラとした眩しさが一斉に襲いかかる。それと同時に、突き刺すような冷気が肌を撫でていた。

 

「……」

 

どうやら、クラウドは何処かの部屋のベッドに寝かされていたようだった。最低限の家具が揃っている、寝室というよりも1人部屋のような場所だ。

 

視界を巡らせると、ベッドのすぐ横にバスターソードが立て掛けられているのが見えた。

 

(気を失っていたのか……)

 

なぜ気を失ったのか。

その原因を思い返そうとする。

 

だが、思い出せない。

まるで記憶にモヤがかかっているかのようで、どうしても掴み取れない。そしてなぜか、そのモヤの先にはセフィロスの背中がある。

 

かつての、英雄の姿が。

 

「……」

 

クラウドはバスターソードを手に取ると、それを背中に納めようとした。

しかし、その手は止まる。

なぜなら、すぐ近くに紙が置かれていたからだ。

 

その紙には文章が書かれている。

クラウドはその内容を読み取ると、「面倒だな」と小さく呟いて、バスターソードを壁に立て掛けると、そのまま部屋を出ていった。

 

 

 

「…………」

 

張り詰めたような無言の空間がある。

数にして5人。それだけの人数がいれば会話が無い方が難しいものだが、それを踏まえても誰1人として声を出さない状況が生まれていた。

 

数分か、それとも数十秒か。

時間の感覚が狂ったなかで、ようやく口を開いた人物がいた。

 

「…………セイバーちゃんのお兄さん……ねぇ」

 

怪訝な目でクラウドを見る人物がいた。

茶色の紙に、虎柄の服を着ている女性だ。

 

「先輩……その、ほんとうに……?」

 

それに重ねるようにして、疑問を抱く者がいる。

ストレートの紫髪をした、若い女性だ。

そんな彼女に質問をされた衛宮は、こんな冬場に似合わない汗を流しながらオドオドと答えた。

 

「ああ、ほんとうだ。……変な格好してるけど、そういうファッションらしいから、仲良くしてくれると助かる」

 

衛宮は彼女らに対して、『クラウドとセイバーは兄妹関係にある』という説明をした。

 

当然として嘘である。

これはクラウドとセイバーをこの家に居候させる口実として出した、真っ赤な嘘だ。確かに髪色やら、瞳の色やらを見れば、どことなく似ている部分もある。

兄妹と言えば通じる相手もいるだろう。

 

だが、やはり無理もあるのも事実だ。

そして何より、当の本人であるクラウドはとんでもなく不服そうな顔をしていた。

 

「……」

 

クラウドは無関心のようにそっぽを向く。

その奇怪ですこし物騒な服装に身を包みながら座る彼は、セイバーの兄妹以前に不審者に近い。もし仮に巨大な大剣を背負ったままであったのなら、通報されていたのがオチだっただろう。

 

「えーっと……クラウド?」

 

その時、衛宮がクラウドを呼びかける。

クラウドは顔だけを向けて、一応は聞いていると言外で返答をした。

 

「……こっちが藤村大河」

 

そう言って、紹介されたのは茶髪の女性の方だ。

彼女は無愛想なクラウドをじっと見つめて、まるで人物鑑定のように前のめりになっている。その強烈な視線に対して、クラウドは特に反応をすることもなく視線すら合わせなかった。

 

「そしてこっちが間桐桜だ」

 

次に紹介されたのは紫髪の方だ。

茶髪の方が活発な性格とするなら、こっちの方は反対におとなしい性格と言うべきか。少し不安そうな顔でクラウドのことを見ている。

 

いいや、不安というよりも恐怖に近いだろうか。

明らかに一歩ほど身を引いていた。

 

「…………」

 

「…………………………あー……」

 

困り気味で声を上げたのは衛宮だった。

軽く紹介を行ったのに、紹介された本人たちは一言もコミュニケーションを取ろうとしないからだろう。

 

「……桜、朝食つくるの手伝ってくれ」

 

「……わかりました」

 

衛宮は諦めたようだった。

はぁ……、と深いため息をつきながら立つと、居間のすぐ横に設置してある台所へと向かう。声をかけられた桜は、同じように台所に立つと、

 

「…………先輩」

 

弱々しい声で、衛宮を呼んだ。

 

「ん? どうした、桜」

 

「あの……セイバーさんと、クラウドさんとは、どこで知り合ったんですか?」

 

「……突然、訪ねてきたんだ。切嗣に会いに来たんだ、って」

 

「切嗣……先輩のお父様ですよね……?」

 

「ああ」

 

「────……でも、先輩のお父様は……」

 

「……知らなかったみたいなんだ。どうやら、海外の方まではオヤジの訃報は届いてなかったらしい」

 

あはは……と衛宮はわざとらしい笑いをする。

もちろん、全て嘘話だ。

衛宮切嗣の死以外は。

 

「──────桜、今日は玉子焼きにしようか」

 

「はい、了解です」

 

軽い雑談を交わしながら料理をしていく。

衛宮たちが作る朝食は至って普通な、日本における一般的なものばかりだった。手間はそれほどかからないのだが、さすがに5人分ともなるとそれなりの時間が必要となる。

 

やるぞ、作るぞと2人は気合を入れていた。

ジュワァァァ、と卵が焼き焦げる音とともに食欲をそそる匂いが部屋を満たす。

フライパンの上で綺麗に玉子焼きを整えると、衛宮は隣で野菜を切っている桜に声をかけた。

 

「桜、皿を取ってくれ」

 

「はい、先輩」

 

玉子の仕上がりは上場だ。

衛宮はクラウドの世界がどのようなものか上手く掴めていない事もあり、自身がつくる料理が口に合うかすこし不安に思っていた。

 

セイバーに対してもそうだ。

彼女は昔の時代を生きた英雄。

そもそも出身国すら違う。

味のよい料理は例え文化が違えど口に合うという話は聞いたことがあるが、やはり難しいものは難しいだろう。

 

生ものが食べられない外国人がいるのと一緒だ。

 

(まぁ、残してくれてもいいか)

 

衛宮は内心でそう呟いた。

と、

 

 

パリン!

不意打ちで、皿が割れる音がした。

 

 

「───────桜?」

 

衛宮はすぐ横にいた桜の方をみた。

困惑したように向く彼の瞳には、紫髪の少女が苦しそうに前屈みになっている姿があった。

 

「っ…………」

 

「桜……!」

 

衛宮が慌てたように桜へと駆け寄った。

しかし、彼女はそれを静止する。

 

「大丈夫です、先輩……すこし、頭痛がしただけですから……」

 

桜はそういうが、明らかに異常だ。

桜の顔は青ざめていて、静かに汗ばんでいる。

雪が降ることもある、この冬場にだ。

 

「……片付けは俺がやっておくから、桜は休んでろ」

 

「でも……」

 

「いいから」

 

「……はい」

 

渋々といった感じで、桜はテーブルの方へと向かった。藤村が桜を心配する声をあげ、それに対して桜は常套句のように『問題ない』と言ったことを返している。

 

衛宮は指が切れないように気をつけながら、皿の破片を片付け始めた。

 

(頭痛、か)

 

桜が皿を割るのは、これで二度目だ。

数年間も一緒にいて、二度目。

 

そしてその一度目は、つい最近だ。

思い返すと、あの時も様子がおかしかった。

本人は大丈夫と言っていたが、やはり何かしらの病気でも患ったのかもしれない。

 

(──────頭痛)

 

そう言えば、と。

衛宮はふと、思い出した。

 

(クラウドも……)

 

昨日の夜。

クラウドが気を失った時も、彼は頭に手を当てて小さくうめいていた。あれは明らかに頭痛による症状のものだった。

 

最近になって、変な病気でも蔓延し始めたのか? と、衛宮はそこまで深くは考えなかった。

 

 

 

________________________________________________

 

 

 

 

「それで、クラウドはもう大丈夫なのか?」

 

桜や藤村がいなくなった居間で、衛宮がそう聞いた。その目線の先にいるクラウドは、小さく頷いてからこう答えた。

 

「ああ、問題ない」

 

「それなら良いんだけど……今までにも、そういう事はあったのか?」

 

「……いや」

 

クラウドは歯切れが悪そうだった。

思い当たる節があるのか、それともそうじゃないのか。衛宮たちには知る由もないことだった。

 

「─────俺のことはいい」

 

その時、クラウドがそう言って話を切り出した。

 

「これから、どうするつもりだ?」

 

「どうするって……」

 

クラウドの問いに、衛宮は言葉を詰まらせる。

その反応を見て、クラウドはあからさまなため息をついて呆れていた。

 

「……聖杯戦争の参加者はおまえ達だ。しっかりしてもらわないと困る」

 

「あぁ……そうだけど」

 

衛宮は目線だけでセイバーへと助けを求める。

衛宮の隣に座るセイバーは、昨日の鎧姿とは違い、着物を着ている状態だった。

 

「今夜、街に出ます。運が良ければ他のマスターと戦闘になる事があるでしょう」

 

「運が良ければ、か」

 

「ええ。現状、他陣営の情報があまりにも少ない。敵の本拠地がわからない以上、しらみつぶしで行く他ありません」

 

「少ないのか?」

 

クラウドの問いに、衛宮が答える。

 

「俺たちが聖杯戦争に参加したのも、実はちょうど昨日だったんだ」

 

「……なるほどな」

 

クラウドは納得したように言う。

先人としてセイバー達を頼ろうと思っていたが、あまり期待は出来ないのだと悟った。これは本当に、しらみつぶしでやっていくしかないのだろう。

 

「もしサーヴァントに近づくことが出来たとして、あんた達がそれに気づく手段はあるのか?」

 

「サーヴァントは互いの気配を感知できます。レーダーのようなモノだと思ってください」

 

「その範囲は?」

 

「敵の魔力量次第です。敵の魔力量が多ければ多いほど捉えやすく、逆に少ないほど捉えにくい。ただ、大なり小なり残穢が残ります。それを辿っていけば、いずれ鉢合わせる事があるかもしれません」

 

「そうか」

 

理解したように呟く。

そして、腕を組んだままクラウドは、

 

「なぜ、今夜なんだ?」

 

疑問に思ったことを口にした。

 

「聖杯戦争には幾つかのルールがあり、その中に、『戦闘は夜に限定する』といったモノがある為です。基本、聖杯戦争は秘密裏に行われる儀式ですから」

 

「……」

 

クラウドは特に答えない。

聞きたいことは聞けたと言った調子だった。

 

「わかった。なら、そうしよう」

 

クラウドは立ち上がると、居間の襖から出て行こうとする。流れで退出しかけたクラウドを、衛宮が急いだ様子で呼び止めた。

 

「どこ行くんだ、クラウド」

 

「暇つぶしだ」

 

「どこに?」

 

「……外」

 

クラウドは面倒くさそうだった。

なぜ外出するだけでこんなに追求されなければならないのだと言いたそうな雰囲気だ。

しかし、これには衛宮なりの理由があった。

 

「外に出るのは全然いいんだが、あの大剣だけは置いていってくれると助かる」

 

「……なに?」

 

「この世界じゃ、ああいう系は駄目なんだ」

 

クラウドの世界ではモンスターなどの脅威が蔓延っている事もあり、自身の身を守るための武装は基本的に許されている。

 

だが、この世界では別だ。

モンスターも、あからさまな脅威もない。

自身の身を守る武装が禁じられているからこそ、現在の平和が保たれているという状況だ。それを破るからには、それなりの罰が与えられる。

 

知らなかったでは通されない。

それが、ルールというものだ。

 

「…………面倒だ」

 

クラウドとバスターソードは、心身一体といえるほど共にある存在だ。あの剣を背負わない事の方が珍しいレベルにまである。

 

手ぶらで外を出歩くつもりは、クラウドにはない。

 

「……」

 

クラウドは居間に戻ると、夜が来るまで待つことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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