クラウドがFate世界に迷い込む話   作:ジ-ェ-ノ-バ

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新都で

完全に日が落ちた暗闇。

多くの人々が住まいに戻ったこの時間帯で、クラウドたちは屋外に出ていた。指先が冷たくなって痛みすら覚えるような、凍える夜だった。

 

「──────新都に行こう」

 

開口一番、衛宮が行き先を口にした。

 

「……」

 

防寒対策に衛宮から借りたダウンジャケットを着たクラウドは、なにも答えることはなかった。しかし、その方針には従うという意思だけは言葉にせずとも発している。

 

……行き先を伝えられても、そもそもの地形を把握していないため、何も言葉にすることがないだけではあるが。

 

「わかりました、シロウ」

 

セイバーは小さく頷いた。

彼女の服装は、昨日と違って鎧を纏っていない。戦闘にならないと踏んでいるのか、一般的な服を着用して外に出ている。

見た限り、武器のようなモノもなかった。

 

「……」

 

クラウドは不審な目で彼女を見ていた。

彼女の強さ、彼女の戦闘技能は昨日のバーサーカーとの戦闘でよく知っている。あれはよほどの修羅場を越えなければ得られない、ソルジャーから見ても特殊なものだ。

 

きっと、彼女は闘いが生活の人間だ。

 

だからこそ、疑問だ。

今からは戦いを想定した索敵を行う。

装備は必須、無ければ死ぬだろう。

では何故、セイバーは何も着ないのか。

何も武器を持たないのか。

 

口にはしないが、疑問だった。

 

 

 

「……」

 

クラウド達は新都に来ていた。

ここは衛宮の住まいがある住宅街と違い、明かりが多い場所だった。そこらに建っている高層ビルはギラギラと光り、駅構内から帰宅途中の多くの人々が闊歩している。

 

クラウド達は人目を避けるように、明かりの影となる場所を歩いていた。

それは敵を欺くためではなく、クラウドが背負うバスターソードが人の目に映らないよう注意を払っているからだ。

 

「……なぁ、クラウド」

 

薄暗い路地裏を歩きながら、衛宮がクラウドに話しかけた。

 

「なんだ?」

 

「アンタがこの世界に来たのって、大体いつ頃なんだ?」

 

「……おまえ達と会うすぐ前に、坂上の教会で目を覚ました」

 

「覚ましたってことは……誰かにそこまで運び込まれたってことか?」

 

「さあな。そもそも、俺にはどうやってこの世界に来たのかすら分からない。自然による力なのか、それとも人為的なモノなのか」

 

「思い当たる節とかは?」

 

「これっぽっちも」

 

会話が終わり、再び静寂が訪れる。

カツ、カツ、カツ、と言った足音が何度も響き渡る。おそらく、この路地裏の壁が高いせいだ。

最低限の電灯に、響き渡る静けさも相まって、まるでここはトンネルのようだった。

 

「……そう言えば、その教会に神父がいただろ?」

 

「ああ、胡散臭そうな奴がな」

 

「クラウドは、聖杯戦争についてはそいつから聞いたんだって?」

 

「まあな。と言っても、大雑把にだけだが」

 

「……なるほど」

 

「─────それが何かあるのか?」

 

「いや、特にはないんだ。ただまぁ、あの神父との関係性を知っておきたかった……みたいな?」

 

その答えに、ますますクラウドは疑問を抱く。

……いいや、そもそも。

 

「知り合いだったのか?」

 

「あぁ……昨日だ。昨日、クラウドと初めて会う前にアイツと───────」

 

そう口にして、衛宮は足を止めた。

思い出そうとする表情から、何か衝撃な事実を前にしたような顔に切り替わる。その変化に眉をひそめているクラウドに、衛宮は慌てて問いただした。

 

「クラウド! 教会で目が覚めたんだよな!? それって教会の中か? それとも外か!?」

 

「……中の椅子で目が覚めた」

 

「そう、なのか……何で今まで気が付かなかったんだ……」

 

衛宮が深刻な面持ちになる。

クラウドは訳がわからないと言った様子だ。

 

彼は困惑しながらセイバーの方をチラリと見ると、彼女も衛宮と同じように何かに気がついた様子だった。

 

「クラウドと出会ったのは、バーサーカーと敵対した直後……バーサーカーと敵対したのは、教会から離れて10分以内だった……」

 

その衛宮の言葉に、クラウドはようやく話を飲め込めたかのように目を見開いた。

そうか、と心の中で小さくつぶやくと、

 

「俺が目を覚ましたのは、その10分以内か」

 

「ああ……あの神父、やっぱり何か─────」

 

そもそも、教会で目を覚ましたのだから、そこの神父がこの事象に関わっている可能性は元から高い。

 

「聞いてみる価値はあるか……」

 

クラウドは考え込みながら答えた。

2人は言葉を交わさずとも、あの神父への不信感を同じように積もらせていく。特にクラウドは不信感というよりも、敵対心と言った方がいい。

 

時と場合によっては、容赦なく斬る勢いだ。

 

それに呼応するように、バスターソードがカラリと金属音を鳴らす。

鉄の冷たい音だ。

 

 

─────────と、

 

 

「あの神父は、前回の聖杯戦争の参加者でした」

 

 

セイバーが唐突に、そんな事実を口にした。

 

 

「………………え?」

 

衛宮が素っ頓狂な声を上げる。

それはかなり衝撃的な事実だったからだ。

 

「参加者? アイツが……? でも監督役は……」

 

衛宮は、昨日神父から直接聞いた話を思い出す。

 

何個かの事実を並べて、そして「ちがう」と小さく呟きながら首を横に振ると、

 

「そもそも、なんでセイバーはそれを知っているんだ……?」

 

そんな当たり前の疑問を口にした。

 

「──────私は、前回の聖杯戦争でもこの地に呼ばれました」

 

「なに?」

 

クラウドが困惑した声を上げる。

それはセイバーが前回の聖杯戦争に喚ばれていたという事実よりも、その聖杯戦争という戦いが2回も行われていたという事実に対してだった。

 

しかし、彼にその説明をしている暇はない。

衛宮とセイバーは話を進める。

 

「……前回の私は、アインツベルンのサーヴァントとして呼ばれ、聖杯まで後一歩という所まで戦い抜きました」

 

セイバーは淡々と告げていく。

感情を押し殺しているかのように。

 

「そして、最後に立ち塞がったサーヴァントのマスターがあの神父でした。彼は前回の私のマスターに敗れ、命を落としていたと思っていましたが……」

 

まさか生きてるとは、と口にしようとした。

しかし、セイバーはそこで黙る。

 

それ以上の言葉には意味が無いと思ったからだ。

 

「──────セイバー」

 

衛宮には、疑問があった。

 

「前回のマスターは、誰なんだ? アインツベルンって事は…………あの子の、親……とかか?」

 

衛宮の頭に思い浮かんでいたのは、昨日襲撃してきたバーサーカーのマスターだ。

長い白髪の女の子。

前回の聖杯戦争は10年前に行われたと聞く。

 

つまり、あの年から察するに彼女の親が参加者だったのではという疑問は、ひどく当たり前のものだった。

 

「……」

 

セイバーは黙った。

数秒間押し黙り、小さく頷く。

 

しかしそれは、肯定とも否定とも取れないものだった。

 

そして───────

 

 

「名は、衛宮切嗣」

 

 

その答えに、今まで路地裏の壁に背中をつけて地面を見ながら話だけを聞いていたクラウドが、初めてセイバーの方を見た。

 

その少しだけ開かれた目が、次に衛宮の方に向く。

 

「…………」

 

衛宮も同じような反応だった。

目を見開いて、ただただ驚いている。

 

言葉も出ていなかった。

 

「アインツベルンのマスターは、貴方の父でした」

 

決定的な事実を口にしたのだった。

 

「…………そっか」

 

数秒経って、ようやく衛宮が声を出した。

その声は、驚いたと言うよりも、どこか納得している節があった。

 

「……」

 

驚くべきことになる変わりない。

事実、衛宮は驚いているだろう。

しかし、それよりも納得するような理由みたいなものが彼にはあった。前回の大災害となるアレに関わっていた事実をも上書きする、彼なりの要因みたいなモノが。

 

「──────おい」

 

その時、クラウドが割って入った。

彼の声色は話を切り出すものではなく、会話を今すぐに中断しろと言った、警告の意味が込められているものだった。

 

直後、セイバーが衛宮を庇うように前に出る。

クラウドとセイバー。

 

その両者が、警戒心を持っていた。

 

「やあ、衛宮」

 

カツ、カツ、と。

革靴の足音を響かせながら、近づいてくる気配がする。その人物は薄暗い路地裏の向こうから、どこか傲慢さを覚えさせる態度で姿を現した。

 

「───────慎二……!」

 

衛宮が驚愕な表情を浮かべる。

 

それはこの深夜に突入しかけている時間帯に、こんな薄暗い路地裏で出会った事に対してではない。

 

それは慎二と呼ばれた人物のすぐ近くに、もう一つの影があった事に対してだった。

 

長く暗いピンク色の髪をした、黒い女。

 

間違いない、サーヴァントだ。

 

「なぁ、衛宮。そいつら、どっちがお前のサーヴァント?」

 

慎二はクラウドとセイバー、その両方に視線を向けると、単純な質問のように衛宮にそう訊いた。

 

「……なんで……?」

 

「いやいや、質問してるのはこっちなんだけど……」

 

相変わらず愚図だな、と慎二は小さく呟く。

そして、衛宮の問いの答えを口にした。

 

「間桐は聖杯戦争の御三家なんだ。最初の戦いから、ずっと皆勤賞。当然、今回の戦いにも参加する」

 

慎二の持つ本が、紫色に妖しく光る。

それが戦闘の合図というのはすぐにわかった。

 

「そして、僕は間桐家の長男だ。そんな僕が聖杯戦争に参加するのは、当たり前のことじゃないか」

 

セイバーが一歩前に出ようとする。

 

が、その前にクラウドがバスターソードを横に振って彼女の動きを制止した。

 

「なにを……」

 

「あんたは、主を守ってろ」

 

1人で十分。

遠回しにクラウドはそう言ったのだ。

 

「…………」

 

その台詞に、セイバーは言われた通りに退がる。

本来であれば、あってはならない事だ。

敵はサーヴァント、数の有利があるのならそれを存分に活用するべきだ。

 

しかし、セイバーはそれをしない。

勝ちに固執するセイバーが、有利を捨てて主人の守りに徹する。

 

なぜか?

 

何故なら───────

 

「どっちがサーヴァントとか、もういいや……」

 

慎二はニタリと笑うと、

 

 

「両方殺しちゃえよ、ライダー!!」

 

 

高揚した声で、高らかに叫んだ。

 

「……ッ!」

 

瞬間、ライダーが疾る。

2本の短刀を握り、長い鎖をジャラジャラと鳴らしながらクラウドへと迫る。

 

その速度はとてつもない。

乗用車など軽く越えてしまうだろう。

 

衛宮からすれば、それは恐るべきものだった。

自分では到底どうにもならないものだった。

 

だが、

 

「……」

 

クラウドは冷静だった。

彼は姿勢を低くして、バスターソードを斜めに構える。呼吸を均一して、ただ敵の動きを見切ることに徹底する。

 

静止した動き。

クラウドは『反撃の構え』を取った。

 

「──────────」

 

激突する。

衝突する。

 

まるで、それは野球だ。

高速で迫る球と、じっと構える打者。

 

豪速球が、バットをへし折らんと突き進む。

 

そう、戦いの結果は簡単に決まる。

 

これが野球なら、球がバットに当たるか当たらないかのどちらかなんだから。

 

「行け!! ライダー!!!」

 

瞬間───────

 

 

 

雷のような打撃音と共に、

ライダーの体が慎二の横を通り抜けた。

 

 

 

「─────────ぇ」

 

ガゴォォォォォォ─────……!! と。

路地裏の暗闇に消えていったライダーの体が、おそらく壁に激突したと思われる音がトンネル内のように響き渡った。

 

それは、とても豪快なものだった。

 

結果は単純だし、簡単だ。

 

つまり、ライダーはクラウドにやられたのだ。

 

野球なら、『打たれた』と言った感じだ。

綺麗でうっとりするほどの『ヒット』だった。

 

「…………」

 

クラウドはゆらりと立ち上がると、バスターソードを片手に慎二へと近づいた。

慎二は自身のサーヴァントが瞬きの間にやられた現実を、受け止めきれていない様子だった。ガチガチと固まったまま、静かに近づいてくるクラウドの方を見ている。

 

だが、一歩一歩近づくクラウドに対して、恐怖心を覚え始めていた。

 

「ひっ……」

 

慎二が後ずさる。

それは本能的なもので、意識的に行ったものじゃなかった。そのせいか、2歩目に後ずさろうとした彼は足がもつれて尻もちをついてしまった。

 

「……」

 

クラウドの大剣が上がる。

刃渡りを前にしたバスターソードが、慎二の首を斜めから斬り落とそうとして─────

 

 

「ま、待ってくれクラウド!!」

 

 

掲げられた大剣は、そこで動きを止めた。

 

「友達なんだ! 殺さないでくれ!!」

 

衛宮の声がやけに響く。

悲痛とも取れる声を上げながら、衛宮はクラウドの動きを止めるために前に出た。

 

「……こいつは敵だ」

 

「そうだ……そうだけど……」

 

衛宮が、たじろぐ。

そんな彼を見て、クラウドは一層不快そうな顔をした。

 

「おまえが、やってるのは遊びか?」

 

「……」

 

クラウドは尻もちをついて怯え切っている慎二の方をチラリと睨むと、バスターソードを背中に納めてその場から離れた。

 

「…………慎二」

 

衛宮は慎二の方を見て、こう言った。

 

「もう……聖杯戦争には関わるな……」

 

「………………は」

 

衛宮の言葉に、慎二は立ち上がった。

先程までの怯え切った様子とは違う。

 

怒りを孕んだ目で、衛宮を見ていた。

 

「なんだよ、それ。上からもの言ってんじゃねえよ」

 

ぼう、と紫色に燃える本。

しかし、それには誰も目もくれない。

 

2人は互いに視線を交差させている。

そして、慎二はグッと拳を握りしめると、その場を後にした。

 

彼の背中はライダーと同じように、路地裏の暗闇の中に消えていったのだった。

 

「…………あまいな」

 

クラウドが本当に小さく言った。

誰にも聞かせない独り言だ。

 

しかし、それを聞き取ったセイバーは小さく俯く。

ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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