クラウドがFate世界に迷い込む話   作:ジ-ェ-ノ-バ

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イリヤスフィール

「………………なんで、こんな事に」

 

衛宮が呆れたように呟く。

頭をガシガシと掻きながら、家の居間の光景をまるで知らない空間のように眺めていた。

 

「ここがリビング? ……へぇー、日本の家って本当にこんな小さいんだ」

 

警戒心を強めているクラウドとセイバー。

彼らは武装を外さないまま、静かに座っている。

 

そしてそんな中、1人無邪気に家屋を見てまわっている少女がいた。

 

「イリヤ……訊いてもいいか?」

 

「うん。なに、シロウ?」

 

「本当に手を組むんだな?」

 

その問いに、何故かイリヤはムッとした。

 

「それ何度目の質問? しつこい男はレディに嫌われるよ」

 

「いや、だって……」

 

何故こうなったのか、それは教会での会話にまで遡る。

 

 

 

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「手を組むだと?」

 

クラウドが確認を取るように訊いた。

それに対して銀髪の少女は、はっきりと頷く。

 

「そう。手を組むの。私と、貴方達で」

 

あまりにも唐突だった。

なぜ、そのような結論になったのか。

 

そもそも何が目的なのか。

どのような、企みを持っているのか。

 

「何故だ、イリヤスフィール。昨日の今日だ。その様なことを受け入れられると思っての提案か?」

 

「……はぁ」

 

イリヤスフィールはセイバーを見てため息をつくと、明らかに面倒くさそうな表情を浮かべた。

その反応にセイバーが、ムッとする。

個人的な怒りのようなものだ。

 

だが、セイバーの怒りも疑問も正しい。

 

昨日、バーサーカーとの殺しあいがあった。

クラウドは自分から参戦しただけとしても、セイバー達は間違いなく襲撃された側だ。

殺しあいを吹っ掛けたのは、イリヤスフィールという事実が確かにある。

 

そんな事を昨日起こしたマスターが、次の日になって共闘を提案して来たのだ。

それは疑っても無理はないだろう。

 

「……理由は一つよ」

 

だが、イリヤスフィールはそれでも尚、提案した。

それに足る理由があったからだ。

 

「聖杯の異変を除去したい。イレギュラーが参戦したからには、ほぼ確実に原因がこの聖杯戦争の何処かにあるわ。……そもそも─────」

 

イリヤスフィールは、クラウドを見た。

 

「貴方が原因である可能性も、捨て切れないし」

 

「…………」

 

イリヤスフィールは共闘を提案した。

だが、それは同時に監視という側面も持つ。

 

クラウドが何者であるのか、彼の動きがこの聖杯戦争にどのような影響を与えるのか。それを監視する為には、近くにいるのが最善であるからだ。

 

「……」

 

クラウドはその視線を真正面から受け止めた。

そういう立場にあるのは、クラウド自身も理解していた。

気に食わなくもあるが、仕方がないと思う気持ちも半分ほどあったのだ。

 

「シロウ……」

 

セイバーとクラウドの視線が、衛宮に向けられる。

最終的な決定権は、マスターである彼にある為だ。

 

クラウドはいわば部外者に近い助っ人であり、セイバーは衛宮の使い魔という立場だ。

それを踏まえて、こういう状況になってしまう。

 

「……これは一時的な共闘。異変が除去できたのなら、そこで手の組合は終わり。その時こそ、決着をつけましょう」

 

ダメ押しと言わんばかりに、イリヤスフィールが言葉を付け足した。

 

「………………」

 

3人の視線が衛宮の集う。

ジッと、彼の答えを待つ時間だ。

 

5秒か、10秒か。

それほどの時間が経って、ようやく衛宮は口を開いた。

 

「えっと…………どうして、そんな話に?」

 

 

 

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結果として、衛宮はイリヤの提案を呑んだ。

状況を大雑把に説明された衛宮は、訳も分からないまま受け入れてしまった。

 

それが正解かどうなのか、考える暇もなく。

 

「…………」

 

そして、何故かイリヤは家まで着いてきた。

これに関しては何の意味もないと思う。

 

ただ単純に好奇心によるものだと、衛宮は何となくで理解していた。

 

「なぁ、イリヤ」

 

「今度はなに、シロウ」

 

大方家の中を調べ尽くしたイリヤは、テーブルに上半身を預けながら座っていた。

彼女の左にはクラウドが座っている。

そして、衛宮と向かい合うような形だった。

 

「衛宮切嗣って名前に、聞き覚えはないか」

 

衛宮が名前を口にした。

確か、それは彼の父親の名だった。

 

「───────」

 

時間が止まった。

先程までムードメーカーとしてはしゃいでいたイリヤが、眠ったかのように動かなくなった。

 

それだけで、死んだような静寂が訪れた。

 

「──────知らない」

 

「イリヤ……?」

 

「知らない、そんなヤツ」

 

イリヤはそう言い切ると、音もなく立ち上がった。

 

「わたし、帰るね」

 

「えっと……」

 

「用があるなら、わたしの城まで来て。どうせ場所はリンが知ってる筈だから」

 

衛宮が止める間もなく、イリヤは一方的にそう言って部屋を出ていってしまった。

残るのは時計の針の音だけが響く静寂のみ。

それ以外には何も無かった。

 

と、

 

「……」

 

クラウドは立ち上がり、イリヤと同じように部屋を出て行こうとする。

イリヤに着いていく勢いで部屋を退出しようとする彼に対して、セイバーは、

 

「クラウド、どちらへ?」

 

「あいつに訊きたいことがある」

 

振り返らずに、そう言った。

 

 

 

「おい」

 

玄関で尻もちを着きながら靴を履いているイリヤの背中に、クラウドは声をかける。よいしょ、という小さなかけ声を上げていたイリヤは、振り返らずに答えた。

 

「なに?」

 

「俺たちに共同戦線を持ち掛けた、本当の理由はなんだ?」

 

はぁ、とイリヤはため息をつく。

面倒くさいと言わんばかりに。

 

「だから、それは──────」

 

「それはバーサーカーの力だけでは、どうにもならない程の問題なんだな?」

 

「……」

 

イリヤは黙った。

核心を突かれたように、静かに。

座ったまま止まっている。

まるで意識のスイッチを切り替えたかのように、無邪気な子供の気配を殺していた。

 

「……頭痛がする」

 

「!」

 

イリヤは立ち上がった。

銀色の長髪をなびかせていた。

彼女は、クラウドの方へと振り返ると、

 

 

「星は生きたがってる。何とかしてよ、クラウド」

 

 

バヂッ、とノイズが走る。

フラッシュバックのように、炎が燃え盛る。

それはイリヤの足元から広がり、衛宮の家を包み込んで、あらゆる木材を艶やかに焼き焦がした。

 

「…………、……」

 

熱はクラウドの記憶を刺激していた。

奥に封印されている、覚ましてはいけない記憶だ。

開けてはならない、思い出だ。

 

「──────」

 

バヂヂ、と。

再びのノイズによって、燃え盛る炎は消えた。

瞬きをした瞬間、元の景色が広がっていたのだ。

 

「──────?」

 

イリヤは首を傾げている。

先程の返事を待って、その場に立っていた。

 

「……ああ、わかった」

 

気づいた時には、そう答えていた。

クラウドは背中を向け、イリヤから去っていく。

その指先は、小さく震えていた。

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

 

日が昇った。

色々あって、睡眠はあまり取れなかった。

 

衛宮は寝ぼけた頭を冷ましながら、朝食の支度をしていた。時間的に睡眠をとる余裕はあったが、それで生活習慣を乱す訳にはいかなかった。

 

「……」

 

台所に立っている衛宮の隣には、同じように桜が立っている。彼女は慣れた手つきで、野菜を切っているところだった。

 

「桜……今朝、慎二には会ったか?」

 

言いにくそうに、衛宮は訊いた。

 

昨日の夜、ライダーと戦闘になった。

そのマスターが慎二だった。

決着はすぐに着いたのだが、あの時の慎二は諦めたようには見えなかった。

だから、衛宮はその後の慎二の様子が気になって、こうして桜に訊いている訳だが……

 

「──────はい。それが、なにか?」

 

桜はいつも通りに答えた。

特にこれと言って、問題はなさそうな声だ。

もしかしたら、慎二はあの時の怒りを周囲に八つ当たりしてるのではないかと危惧していたが、それは余計な心配だったと見える。

 

「いや、何もないなら良いんだ……」

 

安心したように言った。

 

だが、その声色はすぐに変わる。

衛宮は桜の長い横髪からチラリと見える、赤く腫れた皮膚に気づいた。

 

嫌な予感がする。

何も訊かず、桜の横髪を退けた。

 

「あの、先輩……!?」

 

唐突なその行動に、桜は驚いた様子だった。

だが、それ以上に『しまった』という顔を浮かべていた。隠すべきことを隠し通せなかった事に対する、自己嫌悪の表情だ。

 

「…………」

 

桜の頬は腫れていた。

それは間違いなく、誰かから強い力で叩かれた事により出来る痣だった。

 

そして、そんな事をする人物は1人しかいない。

 

「───────慎二か」

 

 

 

衛宮は急いで家を出ていった。

それはもう、飛び出したと表現してもいい。

クラウドは先程の一部始終を眺めながら、退屈そうな顔をしていた。

 

「……」

 

間桐桜、彼女はライダーのマスターの妹だった。

何とも酷い、因果関係だろう。

 

敵が赤の他人であるのは、紛れもなく幸運だ。

そして、敵が顔見知りなのは不幸だ。

 

もしかしたら、この一般人が参加できてしまう聖杯戦争という戦いは、思っていたよりも汚れきったモノかのかもしれない。

 

 

 

衛宮は学校内を歩く。

理由は慎二に会うためだ。

 

いつも通る廊下、自身の教室。

慎二と出会う確率が高い場所を、練り歩いた。

 

しかし、見つからない。

いつもなら必ず顔を合わせる時間帯だ。

ここまで来て会わないとなると、慎二は学校を休んだのかもしれない。

 

「っ……」

 

ギリ、と歯を噛み締めた。

怒りが思考を支配している。

慎二は妹である桜に暴力を振るった。

 

それが許せなかった。

 

「───────衛宮くん」

 

その時、階段上から声をかけられた。

聞き間違えることのない、透き通った声。

 

マスターになって、右も左も分からなかった衛宮を助けてくれた、遠坂の声だった。

 

「サーヴァントを連れずに学校に来るなんて、いい度胸ね。そう、わたしの事を甘くみて─────」

 

階段を駆け上がる。

何の雑念もないかの如く、真っ先に遠坂に近づいて彼女の肩に両手を置いた。

ただそれだけで、先程まで敵意をむき出していた遠坂は頬を赤らめて動揺していた。

 

「後生だ遠坂、相談に乗ってくれ!」

 

「え、ちょ……ええ!?」

 

あまりの事に、遠坂は困惑を隠し切れなかった。

 

 

 

「──────ライダーが敗れて、慎二がマスターだった」

 

遠坂が事態の確認をしていく。

そして、

 

「それで? 相談は終わり?」

 

「……慎二には、桜っていう妹がいるんだ」

 

「────────……」

 

いったい、どう説明すれば良いのだろうか。

説明をしてみたのはいいが、そもそもこの問題に遠坂は関係ない。他人である桜の事について言われても、困ってしまうのでは……

 

「…………その子が、どうかしたの?」

 

「……桜を巻き込んでしまうかもしれない。慎二が、もしかしたら……」

 

可能性は低いが、無いわけじゃない。

あって欲しくはないが、それで何もしないのは現実逃避というのだろう。

 

だが、衛宮には自分がどうするべきなのか分からなかった。自分がする行為は、ただ火に水を注ぐだけではないのかと、そんな気がした。

 

「──────なら、貴方の家で保護すればいいじゃない」

 

その時、遠坂がそんな事を言った。

 

「その子が、貴方にとって大切な人だって言うのならね」

 

「………………ああ」

 

 

 

学校は終わり、夕暮れになった。

上を見れば、オレンジ色の空が広がっている。

暖かい色だ。

 

「ただいまー」

 

衛宮は家の扉を開けた。

 

恐らく、桜はすでに家にいる筈だ。

そして帰っていないと思う。

夕食はいつも一緒にとっているからだ。

 

なんて切り出そうか、と内心考えながら靴を脱いでいると、奥の方から小走りで近づいてくる足音があった。

 

「シロウ、桜が!」

 

奥から顔を出したのは、セイバーだった。

彼女は慌てた様子で、桜の名を口にした。

 

その反応で、何かがあったのはすぐに分かった。

衛宮は鞄を放り捨てて、急いで家に上がる。

 

「桜に何かあったのか!」

 

「どうやら、立っていられない程の熱があるようです。帰ってきた時には既に、具合が悪そうでした」

 

「……」

 

セイバーが先行して屋敷を進んでいく。

向かう先は居間ではなく、さらに奥だ。

 

どうやら、セイバーは客間の方に桜を運んだらしい。ベッドで寝かすべきだと、考えたからだろう。

 

セイバーは早歩きで進むと、桜が寝ていると思われる客間の前で振り返った。

 

「シロウ」

 

自分が出る幕じゃないと理解しているセイバーは、後のことを衛宮に任せる事にした。

衛宮は急いで客間のドアを開ける。

 

「桜!」

 

と、開けた先にはベッドで寝ている桜と、まるで見張り役のように腕を組んで、壁際に置かれた椅子に座っているクラウドの姿があった。

 

「……」

 

クラウドは衛宮の到着を確認するや否や、立ち上がって部屋を退出していった。

何も言葉を発さず、ただやるべき事をやったと言わんばかりの雰囲気だった。

 

「…………桜」

 

寝ている桜に声をかける。

彼女は重たそうな瞼を開けると、衛宮を見た。

 

「先輩……」

 

顔が赤くなっている。

見てわかるほどの熱だ。

桜は苦しそうに、横になっていた。

 

「……桜。話があるんだが、いいか?」

 

「はい……なんですか?」

 

「ここしばらく、俺の家に泊まってくれないか」

 

その提案を持ち掛けた瞬間、桜は驚いたように目を見開いた。

 

「……どうして、ですか?」

 

「ここ最近、物騒だろ。慎二のこともある。それに、桜の体調だってそうだ。今の桜を、放ってはおけない」

 

ただ事実を述べる。

衛宮が思っている本音だ。

 

ただ、言葉足らずではあっただろうか。

 

「…………それは、つまり──────」

 

桜は嬉しそうに、毛布で口元を隠した。

先程よりも更に顔が赤くなったように見える。

 

そして彼女は、こう訊いた。

 

「─────わたしが、心配って事ですか?」

 

「…………ああ、桜のことが心配だ」

 

衛宮は否定しない。

真っ直ぐに肯定した。

 

「だから、いてくれると助かる」

 

全て本当の気持ちだ。

衛宮は心配だからここに居てほしいと言っているだけだ。言葉足らずではあるが、その気持ちだけは伝えようとしていた。

 

「……はい」

 

桜は小さく頷く。

それを聞いて、衛宮は安堵したのだった。

 

「お世話に、なります……」

 

 

 

 

 

 

 




イリヤ「星の悲鳴が聞こえねえか、クラウドさんよ!」
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