クラウドがFate世界に迷い込む話 作:ジ-ェ-ノ-バ
「……シロウ、桜の容態は」
「大丈夫だ。熱も下がったし、あれならすぐ治る」
夜の下、屋敷の庭に立つ。
衛宮は軽いストレッチで体をほぐしていた。
その意味は当然、巡回をする為にある。
「……」
衛宮とセイバーの他に、クラウドもその場にいた。
彼は2人から少し離れた場所で待機している。
屋敷の柱に背中を預けて、今夜の方針がどうなるかを伺っている様子だった。
「今日、遠坂と話したんだ」
「アーチャーのマスターですか」
「ああ。……遠坂が言うには、柳洞寺にはサーヴァントがいるらしい。厄介な相手だから、手を出すなら気をつけろってさ」
「……そうですね。あの地を襲撃するのは、危険が伴う。覚悟はしておくべきだと思います」
「セイバーにも分かるのか?」
「はい。霊脈による問題もありますが、原因はそれ以外にも」
それはサーヴァントとしての問題だ。
柳洞寺は彼らにとっても、無視できない存在にある。特別気にかける必要はないが、進むというのなら警戒心は自ずと湧いてしまう。
「じゃあ、やめた方がいいのか?」
「いえ、その必要はありません。数としてもこちらが有利です。正面から打ち破るのが、この際での得策でしょう」
「そっか。じゃあ柳洞寺に行こう」
方針は決まった。
やるべき事は分かっている。
今夜、柳洞寺に行き、マスターを倒す。
おそらく、決着はつくだろう。
「……」
そう考えた途端、緊張で手汗がにじんできた。
戦うのは自分じゃない。
全てセイバーとクラウドに任せる事になる。
それは分かっている。
分かっている筈なのに、どうにも心は乱れてしまう。
それは自信が臆病者だからだろうか。
それとも、敵のマスターを殺してしまうかもしれないという不安からだろうか。
思い出すのは、昨日の慎二だ。
あの時、クラウドは慎二を殺そうとした。
ギリギリのところでそれは止めたが、それはクラウドの優しさによる所が大きかった。
きっと、慎二が恐怖していたからだろう。
腰を抜かし、クラウドを恐れていたからこそ、殺害という行為を止めてくれるに至った。
だが、もしもあの時、慎二が抵抗をしていたら……
深く考えずとも、結果はわかる。
「───────」
目を瞑って、深呼吸をした。
緊張をほぐす為じゃない。
覚悟を決める為だ。
「行こう」
「ええ」
セイバーが頷く。
そして、
「クラウド」
「……」
セイバーが彼の名を呼んだ。
クラウドは話がついたことを確認したのか、柱から背中を離した。カラン、とバスターソードを鳴らして最後尾に着く。
こうして、今夜の行動が始まった。
「───────」
目の前には長い石段がある。
山門までは一直線に続く。
これを登るだけで、柳洞寺にたどり着く。
「セイバー、結界は?」
ここへ来る道中、セイバーは『柳洞寺には結界が張ってある』と言っていた。何でも、サーヴァントを拒む結界だそうだ。
しかし、
「…………感じられない」
結果は違うものだった。
「それは、つまり……」
「私の思い違い……元から張られていなかったか……それとも──────」
二つ目の可能性。
ジワリと、緊張が場を静かに支配する。
「すでに倒されたか」
クラウドが石段を見上げながら言った。
その発言にセイバーは頷く。
冷たい風が吹いた。
凍えるほど冷たい風だ。
「───────」
石段を登り始めた。
カツ、カツ、カツ、カツ、と。
全員が無言で登り続ける。
常に警戒体制だ。
周囲は木々に囲まれている。
襲撃されるには不利な地形と言える。
戦力だけを見れば現状、この陣営がもっとも強いだろう。しかし、それは強いだけであって無敵という訳ではない。
戦いは数で決まるものではない。
不意打ち、奇襲。
卑怯ではあるが、そのようなもので戦いは簡単に決着がつくことがある。そもそも、敵の本拠地に踏み込むこと自体、大きなリスクと言えよう。
どのような罠があるか分かったものじゃない。
そう、クラウド達は今から攻め入るのだ。
いつでも対応できるよう、準備をしておく。
特に、衛宮を守らなければならない。
彼は戦力にはならない。
口には出さないが、それは誰もが知っている。
だからこそ、いっそう警戒しなければならなかった。
(…………いつ来る)
衛宮の手は小さく震えている。
唇が緊張で乾いている。
呼吸が静かに荒かった。
(……どのタイミングで)
柳洞寺にはマスターがいる。
遠坂だけではなく、セイバーも言うのだ。
それは間違いない。
なら、きっと敵は気づいている筈だ。
自分たちが攻め入られていること、自分たちが襲撃されていることに。
(一成は、いるのか?)
気になるのは友人の事だった。
柳洞寺には50を超えるほどの人がいる。
その中には、知り合いが何人も。
ここが戦場になれば、恐らく巻き込んでしまう。
もしかしたら、死傷者が出てしまうかもしれない。
(クソ……)
内心で悪態をついた。
山門までは、あと少し。
1分や2分ほど掛けて、頂上だ。
あと5段。
4、3、2、1、──────
「…………」
山門に着いた。
かなり大きい、木材の門。
それは常に開かれており、来訪者を招いているように見える。
しかし、待ち人はいない。
静寂だけが門の向こうには広がっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
荒げた息遣いが聞こえる。
長い階段だ、仕方がない。
柳洞寺に続く石段は、苦行とも例えられる事もあり、筋トレ目的で登る人も少なくない。慣れていない人が登るには、少しキツイところもあるだろう。
「セイバー、クラウド。俺には敵の気配とかは分からない。疲れてるところ悪いけど、慎重に進んでくれると──────」
待て。
疲れてる?
誰がだ?
俺は疲れていない。
慣れているからだ、それはいい。
じゃあ、他の2人か?
まさか……そんな訳がないだろう。
2人は俺よりもずっと強い。
何十倍も、何百倍もだ。
体力なんて、比べるまでもないだろう。
じゃあ、なぜ、息を荒げている?
俺よりも強いのに、どうして疲れている?
「────────」
衛宮は急いで振り返った。
その反応を見て、セイバーも異変に気づいたかのように振り返る。あり得ないと、疑問に思いながら同じように最後尾を見る。
そう、彼だ。
セイバーじゃなかった。
彼が、息を荒げていた。
「クラウド……?」
クラウドは、額に大量の汗をかいていた。
立つのがやっとなのか、背中を丸めて片手を膝についている。ふらふらとした足取りで、熱でも出たかのように彷徨っていた。
「クラウド、大丈夫ですか? ……クラウド!」
セイバーがクラウドの肩を掴む。
明らかな異常に警戒心を高めている。
「クッ……敵の攻撃は始まっていた……」
見えない剣を構えて、周囲を見渡す。
何も無い、だだっ広い空間に目を通す。
クラウドを守るように、セイバーは──────
「リ…………」
その時、クラウドが何かを呟いた。
「……」
2人の意識がそっちに移った。
クラウドが何かを伝えようとしたからだ。
それが『大丈夫だ』などの心配をかけさせない為の言葉なのか、それとも異常を知らせる為の情報なのか。
どちらにしても、聞くしかなかった。
セイバーは周囲に目を凝らしながら、耳だけをクラウドの言葉に傾けた。
「リ……ユニ……オン」
「────────え?」
『世界は、リユニオンする』
頭痛がする。
頭痛がする。
頭痛がする。
『我々の世界に、リユニオンするのだ』
「────────…………ッ!!!!」
クラウドが大剣を抜いた。
意識の拒絶。
目の前の厄災を切り離すために。
「消えろ……ッッ!!!」
バスターソードが、ガムシャラに振り回される。
それは衛宮の服を掠めて、セイバーの髪先を僅かに切り裂いた。
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!!」
呼吸が激しい。
頭痛が苦しい。
視界が眩しい!
いる、近くに──────やつが!
「…………………………クラウド」
声が耳に入る。
そちらを向いた。
「………………」
ボヤける視界の先には、衛宮を守るように剣を構える、セイバーの姿があった。
「…………」
彼女の目には敵意がある。
心労の他に、敵に対する意思が混じっている。
それに奇怪なものを見る目も。
「………………すまない」
バスターソードを納める。
こちらには敵対意思が無いと、証明する為だった。
「……クラウド、貴方は…………」
「…………俺は──────」
俺は、クラウド・ストライフだ。
_______________________________________________
「………………」
境内を進んでいく。
寺の中に入り、奥に向かう。
中は真っ暗だった。
まるで闇の中を突き進んでいるみたいだ。
ここは静かすぎる。
物音一つもしない。
これでは、昨日の路地裏の方がまだマシだ。
「……」
クラウドは目を泳がせていた。
まるで怯えているみたいだ。
この暗闇……いや。
その中に潜む、なにかに。
「クラウド……」
セイバーが振り向く。
彼女の目には心配の色が強い。
こうして何度も、同じ質問を繰り返すほどに。
「大丈夫ですか」
「……ああ」
三度目のやり取りだ。
セイバーは常に気をかけている。
だが、それも仕方がないだろう。
今のクラウドは恐怖に負けている。
一度、恐怖に飲まれた者は、なかなか抜け出せない。
それが例え戦士であっても同じことだ。
「……」
だが、セイバーにも何か分かった。
クラウドまでとは行かないが、確かに感じる。
(何かが、いる……)
殺気か、敵意か、視線か。
どれかは分からないが、確実にいる。
この寺に入ってから、常に。
(クラウドはこれに……? だが、あの怯えようは普通じゃない。我を忘れるほどの恐怖なんて──────)
もしかしたら、
(まさか、知っている……?)
この気配の、正体を。
──────寺の人間は、眠っていた。
漏れなく、全員がだ。
衛宮は自身の友人である柳洞一成を起こそうとするが、一向に目を覚ます気配はなかった。
まるで死んでいるように眠っているのだ。
その状態の人が、50をも超えている。
明らかな異常だ。
魔術的要素が関わっているのは間違いない。
「──────2人とも、こちらに」
寺の奥を散策していたセイバーが、何処か落ち着かない様子で顔を出した。
衛宮とクラウドは互いに顔を合わせる。
そして小さく頷くと、セイバーの後をついて行った。
「…………!?」
セイバーに案内された先には、血まみれの光景が広がっていた。
そこはお堂で、その中心に誰かが倒れている。
この血は、全てその人のものだった。
確認しなくても、すぐに分かった。
これで生きている事はない、と。
「……っ」
衛宮が小さな嗚咽を漏らした。
この惨状に対する耐性が無いからなのか。
内臓が飛び出ている死体を前にして、本能で目を逸らしている。
実際、それほどまでに酷い有り様だった。
「あいつが、マスターか」
クラウドは死体を見て言った。
セイバーは頷く。
「はい、恐らく」
「そうか」
クラウドは静かに目を伏せると、お堂の中を見て回った。
何か痕跡が残されていないか、探る為だった。
暗闇の中、床を観察していると、一つの奇妙なものに気がつく。
(血の跡……)
それは、何かが引きずられたと思われる血の跡だった。
しかも、その跡はお堂の外まで繋がっている。
とても長い距離だ。
「……」
クラウドは血の跡を辿っていった。
いつでも抜けるように、バスターソードの柄を握っている。ギシ、ギシ、と木製の床を鳴らして血の跡を進んでいくと、寺の庭園にまで出た。
血の跡はそこまで繋がっていたのだ。
だが、
「……」
そこまでだった。
庭園まで出た途端、血の跡は無かった。
しかも、パタリと止まっていたのだ。
まるで境界線のようだった。
寺の中と庭園で、隔絶された空間。
そんなことを彷彿とさせた。
「…………クラウド」
後を追って、セイバーと衛宮も来た。
彼らも血の跡に気がついている様子だった。
「セイバー。何か分からないか?」
「……すみません。何も……」
「……わかった」
クラウドはバスターソードの柄から手を離すと、衛宮とセイバー、2人の方へと向き直る。
「どうする」
「私の見解では、ここに脅威はもうありません。これ以上滞在しても、無意味かと」
2人の視線が衛宮に集まる。
マスターの意見を聞くために。
「まず、言峰に報告だ。眠っている人達を、何とかしてもらわないと」
「賢明です、マスター」
方針は決まる。
今夜はここでお終いだ。
奇妙なことは幾つかあったが、マスターが1人脱落したという事は知れた。それだけでも、十分だったと言えるだろう。
原作のままで変化のない場面は、だいたいカットします。
許してください