もう何年前になるだろう?
はじめてジャルジェのお屋敷に着いたとき、俺は悲痛な悲鳴を上げた。
「騙したな、ばあちゃん‼️」
オスカルに襟を掴まれ引き摺られながら、小さい頃の俺は叫んだ。
「伯爵家のお嬢様の遊び相手になれるって言ってたじゃないか‼️なんだこれ‼️」
住み慣れた村から出た時は、寂しくもあったが胸が躍った。華やかな都会で可愛らしいお嬢様の遊び相手兼守り役ができるなんて、子供ながらに光栄に思った。けど実際に会った相手は想像とまるで違ったのだ。
「おや、この孫はどこに目をつけてるのかね?オスカルお嬢様なら目の前にいらっしゃるじゃないか?」
ばあちゃんは素知らぬ顔で言っている。どこがお嬢様だ、遊び相手より剣の相手が欲しいと、剣を投げつけるお嬢様がいるもんか。このとき俺は本気でそう思った。
「オスカル?やっぱり男じゃないか‼️いやだ、こんな乱暴な奴と遊びたくない‼️」
そして男と呼ばれてもオスカル本人が否定しないものだから、俺は自分の誤解に気づけなかった。
「聞こえなかったのか?遊びじゃなくて、剣の稽古をするんだ」
「俺は剣術なんてやったことないよ」
平民がそんなもの習うわけもない、だが貴族に生まれたオスカルがそれを知るはずもなかった。
「そうか、なら僕が教えてやろう。その女々しい根性を叩き直してやる」
ワッハッハッと笑いながら俺を引きずっていく様子は、横暴な悪ガキそのものだった。
「いやだー、はなせー、乱暴者ー、人さらいー」
もうずいぶん昔のことだ。今となってはオスカルとの剣の修業はとても大切なかけがえのない時間だ。
ガラガラガラガラ・・・・
馬車に揺られながら、今日もヴェルサイユへ向かうオスカルのお供をする。俺はジャルジェ家には過分な待遇をもらっている。使用人だというのに個室まで与えられて、暮らしに困ることのない日々を送れたのは幸運だ。
「今日はアントワネット様のサロンによるので、帰りは遅くなる。夕方まではお前は自由行動で良いぞ」
サロンだろうといつもの軍服姿なのは、彼女にとっては当然なんだろう。アントワネット様もサロンに同席する他の貴婦人たちも、それが当たり前とうけいれているそうだ。
「呼ばれたらすぐ駆けつける、遠くには行かないようにするよ」
「やれやれ、私をどこのお嬢様と思ってるんだ?」
オスカルとのたわいない戯れも、俺にとっては宝石のように輝く夢のような瞬間だ。
もちろん「いや、ジャルジェ家のお嬢様だろ」なんて野暮なツッコミはしない。
「いつも一緒なのが当たり前だったから、そうしないと俺の調子が狂うんだよ」
「・・・そうだな、私の行くところにはいつも影のようにお前がいた。私もあまり長く離れると調子が狂う」
そういって笑ってもらえることが何より嬉しい。手が届くはずもない相手ではあるが、幸せを祈るくらい許されるはずだ。
幸せか・・・女としての幸せ・・・
もし、オスカルが婿を取るなら・・・俺は従者を続けられるだろうか?
他の男といちゃつくオスカルなんて想像したくもないし、そのすぐそばで素知らぬ顔で仕事なんてできる気もしない。気が狂う。
その日が来たら俺は田舎に帰って馬の世話でもしながら暮らそう。でも、それまでは俺が一番オスカルのそばにいられる男だ。
オスカル、お前は自分の魅力に気づいていないようだけどな、お前は男も女も魅了してやまない。誰もが目を離せない、この世に2つとない輝きを放っているんだよ。
心配させないでくれ。
頼むから‼️女の園にまでついていくのは無理だとしても、叶う限り俺をそばにいさせてくれ。他の男と関わらないでくれ‼️
旦那様、恩知らずな願いを持つことをお許しください。
神様、どうか俺の青春を少しでも長く続けさせてください・・・この願いが叶うなら、俺は長生きなんてできなくて構いませんから・・・
その日の夜、ジャルジェ邸にて。
「今帰った、そして、支度が済んだらすぐに出るぞ。ばあや、ドレスを用意してくれ。仮面舞踏会に行く」
かわいそうなアンドレ・・・