水面に揺蕩う薔薇〜うら舟に帆を上げて〜   作:杉田雅俊

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うたかたのゲーム

 

 

 

「君によく似た女性を探している。心当たりはないか?」

 

そうかそうか私に似た女性か?まあ姉上たちは似てると思うが。

 

「わが一族は繁栄している。似た親類など多すぎて絞り込めん」

 

突き放すように言うと、フェルゼンは必死の形相で詰め寄ってくる。

 

「その薔薇の香水は彼女と同じ薫りだ。それではわからないか?」

 

その言葉を聞いて、私はあからさまに顔をしかめて距離をとってみる。

 

「あまり近づくな。これでも嫁入り、いや、婿取り前だ」

 

すると面白いように期待した反応がかえってきた。

 

「女?」

 

いまフェルゼンは、東洋のことわざであらわすなら『鳩が豆鉄砲をくらった』ようなありさまだ。

 

「女が軍服を着て悪いか?」

 

「いや、悪くはないが・・・なぜそんなことに?」

 

「我がジャルジェ家は代々王家をお守りしてきた誉れ高き武門だ。『男が生まれませんでした』などという理由でその責務を放棄できるはずもない。それだけだ、わかっていると思うが他人が口出しすることではないぞ」

 

私はそれだけ言ってスタスタと去った。否、去るポースをとった。

 

「君を失望させたならすまない‼️どうか償わせて欲しい‼️」

 

追いかけながらフェルゼンは食い下がってきた。まずまずの滑り出しだろう。

 

振り返らずに言ってやる。なるべく素っ気ない声で。

 

「償いとはなんのことだ?」

 

「白薔薇の君、貴女を見間違えてしまった事をお詫びしたい」

 

私の進行方向に回り込みながら、キザったらしい言い回しとオーバーリアクションが実にスムーズにこなされる。膝をついて頭を垂れる姿勢もじつに堂に入ってる。惚れ惚れするほど男前だ。

 

「なぜ?普通の令嬢に飽きて私のような変わり者が欲しくなったか?」

 

「そんな戯れでは断じてありません。貴女ほど私の心を震わせて下さった女性は他にいませんでした。どうか私に貴女のそばにいることを許していただきたいのです」

 

そこまで言い寄られれば、女として嬉しくないと言えば嘘になる。

 

「アントワネット様のサロンの後でよければ時間を作ろう・・・貴殿は剣に自信はあるか?」

 

「もちろん、貴族の男子として当然の嗜みだ」

 

「ならば稽古に付き合ってくれ。ただでとは言わん」

 

 

 

 

 

 

 

とんだ失態を重ねたが、ようやく巻き返しのチャンスが到来した。白薔薇の君はフェンシングの試合着に着替えている。もちろん私もだ。

 

 

「きゃーきゃー、オスカル様ぁ」

 

「君はずいぶん女性に人気のようだな」

 

「そちらも負けてはおらんようだ」

 

「きゃーーーフェルゼン様ぁ」

 

ただでさえ私たちは目立つ。二人揃えば耳目を集めないほうがおかしいだろう。ベルサイユの中庭はお祭り騒ぎだ。

 

「わかってると思うが、フェンシングで勝ったくらいで純潔はやれないぞ。遠乗りや観劇くらいなら付き合うが」

 

「十分だ。そちらが勝った時は何をすれば良い?」

 

「そうだな・・・すぐには思いつかん。貸し一つとしてくれ。おいおい考える」

 

それでは怖いか?と問いかけるような挑発的な表情も美しい。いいだろう受けて立つ。

 

「私は一向にかまわない。審判はメルシー伯にお願いいたします」

 

モノクルをかけた初老の紳士、メルシー伯は快く引き受けて下さった。

 

「お任せあれ」

 

そして私たちは開始位置につく。

 

「三本勝負でよいか」

 

「もちろんかまわないとも」

 

どう作戦を立てるべきか?たとえ勝てても大人げない戦いぶりでは好意を持ってもらえないだろう、ここはどっしり構えて相手の攻撃を受けきってみせれば認めてもらえるのではないだろうか?

 

そんなことを考えたのが間違いだった。甘かった。

 

「はじめ‼️」

 

ヒュン‼️

 

「なに!?」

 

メルシー伯の号令が響いた刹那。気がついた時は間合いに入られていた。

 

「くっ・・・うっ・・・」

 

完全に立ち遅れた。不覚だ。

 

冷静に考えてみれば、命のやりとりでない三本勝負なのだから、ここはさっさと一本取らせて残りの二本にスタミナを残すべきだった。

 

しかし、私はムキになって劣勢から巻き返そうと反撃した。けれど、カスリもしない。まるでオスカルは何十年も剣を振るってきたような熟練した技量の持ち主だった。

 

おそらくはさっさと一本取ろうと思えば取れたのだろ?わざと防げる程度の攻撃を繰り出し、当たりもしない反撃を誘う。それ繰り返すことにより私を疲れさせる。

 

疲労により動きが落ちたところで・・・

 

「一本、オスカル嬢の先取」

 

「ぬうっ」

 

そこで私は頭に血が上ってしまった。

 

「体調が悪いようなら日を改めてもよいぞ」

 

笑みを浮かべて嘲るように言われては、聞き流せなかった。

 

「まさか‼️まだはじまったばかりだ‼️」

 

その上、息を整えることもなく再開してしまった。そんな状態で勝てるような彼女ではなかった。

 

「そこまで‼️」

 

結果は当然のようにストレート負け。まるで見せ場を作れなかった。

 

オスカルは面を外して涼し気な顔で去っていく。

 

「貸し一つだ。忘れるなよ」

 

と一言だけ残して。

 

 

 

 

自室に帰って、私は荒れていた。

 

「くそっ‼️完全に術中にはまった‼️」

 

貸し一つ、思えばそれがオスカルの狙いだったのだろう。そして私はそれを大勢の前で約束してしまった。

 

「この屈辱は忘れないぞ、かならず私をのものにして見せる・・・も、もちろんご婦人に手荒な真似はしないが・・・」

 

そこまで考えてふと思った。ああいう手合いでも、恋仲になってしまえば可愛い一面も見せてくれるのだろうか?しなだれかかって甘えてきたりするのだろうか?

 

「ああ・・・だめだ、もうオスカルのことしか考えられない」

 

そうだ、いま私は『初恋』をしているのだ。

いままで恋だと思っていたものは、この胸を焦がす情動に比べたらただの予行演習のようなものだ。ようやく本当の恋がはじまった。

 

まだチャンスはあるはずた。明らかにオスカルは私を利用するために近づいてきた。必ず再び接触してくる。それはいいところを見せるチャンスでもある。

 

「きっと振り向かせて見せるぞ、待っていろ魔性の女め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころオスカルは自室で頭を抱えていた。

 

「自分が悪女になってしまった気がする・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

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