夢、いや啓示を見た。
断片的だった未来の知識が繋がってゆく。
金髪を三つ編みにした可愛らしい、そして健気な娘。
どうか一晩買ってくれと震えながら私を呼び止めてきた。聞けば病身の母親のためだと言う。アンドレに借りて金貨を渡した。
後日、母の仇と勘違いして母上に刃を向けた時はどうしてくれようかと思ったが、すぐに心優しい娘とわかった。
貴族の馬車で轢き殺された母の仇討ちがしたいと言うから、剣の稽古もつけながら面倒を見た。
想いを寄せてくれるのは嬉しかった。私が本当に男なら応えることもできたのだが。
なけなしのスープを分けてくれる思い遣りの心ははいくら褒めても褒めたりぬ。
私が斃れたときはそれはそれは悲しんでくれた。はたして彼女はあの後どうなってしまったのだろうか。
ムクリ
「不幸にさせるわけにはいかない」
私は起床してすぐに行動を開始した。
どこへ行った、私の春風。
「もし?このあたりにロザリーという娘がいないか?金髪で母と暮らしているはずだ」
私はパリの裏通りで人探しに勤しんだ。しかし成果は芳しくない。
「はて?どうたったかしらねえ。そんな名前の娘は珍しくもないし、他人の家のことは詮索しないのでねえ」
老婆はそう答えた。それもそうかもしれない。もう少し詳しく知っていれば探しやすかったのだが。
「ジャンヌという黒髪の姉もいたはずだ。バロア朝の末裔などと自称していた」
思わず顔が引くつく。あの無礼者、よくも私をレズビアン呼ばわりしてくれたものだ。
「い、いや、わからないね」
顔が怖くなって怯えさせてしまったようだ。
「すまなかった。これは手間賃だ。もしロザリーを見つけてくれたら、もう一枚進呈しよう」
そういって金貨を一枚渡す。貧しい彼女は馬車代も用意できず行動範囲は狭いはず。はやく見つけ出してやりたい。
「えっ・・・こ、こんな・・・」
そういえばロザリーに金貨を与えた時もこんな反応だったな。
「頼んだぞ、大事なことなんだ」
そうしていると、手分けしていたアンドレが合流してきた。
「こっちは収穫なしだ。そっちは?」
「こちらもだ。しかし付近に住んでいることは間違いないはず。捜索を続けよう」
私達の話を聞いた老婆は大慌てでその場を離れていった。報酬があればやはり人は懸命に働くものなのだな。
貧しくとも優しい母さんがいて、頭の良い姉がいて、あたしは幸せだったと思う。そう、『幸せだった』
あたしの日常は少しずつ壊れていった、ジャンヌが家を出てしまったり、母さんが病気になったり、仕事先もクビになってしまって、踏んだり蹴ったりだ。
でも一番の大きなきっかけはこの日に起きた。
「ロザリー!!大変だよ!!近衛があんたをさがしてる!!」
近所のおばさんが血相を変えてあたしの家に飛び込んできた。
「ええっ?まさかジャンヌの嘘がバレたんじゃ」
近衛に探される心当たりなんてそれくらいしかない。姉が血統を偽って貴族の養女になったときから、こうなる予感はしていた。
「きっとそうだよ。金貨まであたしに掴ませてあんたの情報を集めるなんてダダごとじゃないよ」
その手にはキラキラ光る1リーブル金貨があった。あたしたちには縁のないそれは、おばさんが言ってるのは冗談ではないという雄弁な証拠だった。
「そんな・・・いったいどうしたら・・・」
「とにかく逃げるんだよ。捕まったら何をされるかわからない。これはあんたにあげるから、当面の資金にするんだよ」
そういっておばさんは金貨をあたしに手渡してくれた。
「かあさん・・・」
あたしはなんとかなるかもしれない。けど病気になってしまった母さんは・・・
ガタッ
「!!・・・かあさん!!」
ヨロヨロとベッドから起き上がっていた。
「あ・・・歩くくらいできる・・・から・・・」
逃げるしかない。どこか遠くに・・・
あたしはすぐに荷物をまとめた。
「もうパリの貧民街は全部回ったぞ?その娘は本当にこのあたりに住んでるのか?」
アンドレにも協力してもらったにも関わらず、どうして見つからないのか?私は困惑した。
「住んでるはずなんだ。そのはずなのだが・・・」
預言は預言者が、つまり私がそれを変える行動を取らない限り絶対に外れない、そのはずなのだが・・・