「ここにもいないか・・・」
誰にいうでもなく口に出してしまった。今日もパリの裏通りで人探しだが全く手がかりすら得られない。
一体どういうことなのか?私は預言者などではなく、単に正夢を見ただけか?いや、そんなはずはない。マリー・アントワネット様もフェルゼンも姿も声も仕草もそのままだった。フェルゼンが現れる仮面舞踏会もだ。そんな偶然があってたまるか。
しかし、そうなると何故ロザリーに限ってこれほど探しても見つからないのか?その理由は見当もつかぬ。
「ん?」
ふらふらと足元のおぼつかないみすぼらしい身なりの子供がいた。避けて通ろうとしたがこちらによろけて来る。
「おい、どうしたんだ?」
スリや当たり屋だということもあり得るが、何か違うものを感じ受け止めることにした。すると・・・
「う、げぼっ、ごめん・・・な・さ」
声もかすれている。風邪でもひいたのだろうか?
「お、お許しください!!うちの子が失礼しました!!」
母親らしき女性が走ってきた。
「別にかまわんが、どうしたのだこの子は?やたらとフラフラしているな」
そう尋ねると、明らかにその表情は曇った。いまにも泣き出しそうだ。
「・・・どうやら脊椎カリエスのようなのです。背骨が曲がってしまって・・・まっすぐ歩きたくてもこうなってしまうのです」
脊椎カリエス、そうだ、どうりで見覚えがあるよろけ方だと思った。私が王妃になり損ねた原因の病だったか。
すぐに医者へ・・・と思ったが、国中の名医を集めてもどうにもならなかった病だ。そもそもこれくらいの不幸は、この裏通りにはありふれているのだろう。いちいち首を突っ込んではジャルジェの家が破産する。
「・・・これで・・・何か栄養のある物を食べさせてやってくれ・・・」
私にできるのは、少しばかりの金を分け与えるくらいしかなかった。
「き、金貨!!!!あ、ありがとうございます!!ご恩は一生忘れません!!」
たったこれだけのことで、まるで救世主に会ったかのように母親は跪いて頭を垂れる。
やはり私はここが嫌いだ。ジャルジェの屋敷なら使用人ですら金貨の一枚や二枚当たり前にポッケに入れている。こんなもの真面目に働いてさえいれば、誰でも持っていて当たり前のはずのものだ。
人として当たり前に認められるべきものが認められていない、そんな現実が嫌でも目に入ってくる。
それに耐えられなかった私は足早にその場を去った。
「もうここへ来るのはよそう」
そう自分に言い聞かせる。
何人かに金貨を渡して捜索を頼んだ。彼らが成果を上げることを期待することにした。
やらねばならないことは他にも山ほどある。
カッポカッポカッポカッポ
「よい景色ね、オスカル」
「はい妃殿下」
マリー・アントワネット様には、乗馬を私との二人乗りにしていただいた。
優雅に緑豊かなフランスの森を散策している。
横乗りしてもらって私の前に騎乗する状態なら、万が一馬が暴れ出してもすぐにかばえるだろう。
それにしてもこの芦毛(馬の毛色の一種、白っぽい)は私たちが乗ると異様に物わかりがいいな。アンドレに引かれてるときはやたらと跳ねていて不安になったが。
「このお馬さんとってもかわいいわ。お鼻はピンクだし、尻尾の赤いリボンもよく似合ってる」
・・・まあ、マリー・アントワネット様がご機嫌なのだから何でもよいか。
「そうですね。タテガミも淡い金色で華やかですし」
その数日後、私は熱を出して寝込んだ。
「ゴホッゴホッ!!不覚だった。私としたことが」
ベッドで寝ていることしかできない。王族や大貴族にうつしたら一大事だから、当然のことながら近衛の任務もできるわけがない。
「お粥持ってきたよオスカル。やっぱり裏通りなんて不衛生なところに行ったせいじゃないかな?」
ばあやとアンドレには心配され、父上には体調管理がなってないとお叱りを受けた。
「すまんアンドレ。そうかもしれん。もうあそこには行かん」