啓示を見ているのか?いや、何かが違う不思議な感覚だ。
「ここは・・・酒場か?」
周囲を見渡すと場末というか治安の悪そうな大衆酒場という趣だ。ガヤガヤと騒がしい。私は悪目立ちしているようだ。
「他の何に見えるってんだ。注文は?」
店主らしき強面の男がぶっきらぼうに催促してきた。確かに何も注文しないのは商売の邪魔だろう。しかし・・・
「これは使えるか?」
私の持つ通貨が使えるか確認せねばならない。
「おいおい、リーブル金貨なんて骨董品かよ?久しぶりに見たぜ。まあ、金の値打ちがあるからな・・・予算内で適当に見繕ってやろう」
骨董品・・・という言い方が気になるが、客として扱ってもらえるらしい。カウンターに座り、酒と料理を待つことにした。
どうやらここはフランスではないようだな。ん?誰か近づいてきたな?
「なんや?お前べっぴんさんやないか、どや?俺の女にならへんか?」
なんだこの海賊のような眼帯の髭面は?女を口説くにしてももう少し上品にできないものか?
黒を基調とした装いで、大きく胸元をはだけさせ東洋風の入れ墨を見せつけるように強調している。いかにも柄の悪そうなアジア系の大男だ。
「いや、間に合ってる」
「つれないのー、けど正直者は好きやで。俺がそうやからな」
グラスにキザったらしく口をつけて、勝手に上機嫌になる海賊男・・・いや、待て?
グラスに映った私の姿は・・・
「・・・私はいくつくらいに見える?」
「何や?お決まりのクイズかいな。そやな・・・スマンおもろいボケが思いつかんわ。27くらいかのぉ」
「そ、そうか」
「なんや、もっと若かったか?そりゃ悪いことしてもうたわ」
やはり、成長した姿だ。となるとこれは啓示か?しかし、いままでのそれはまるで傍観者の視点であった。こんなふうに会話などなかった。
「妙なことを訊いてすまなかった。疲れてるのかもしれない」
私は眉間をつまんで目を瞑る。私のぶんのグラスが出てきたので早速呑んでみる。なかなか良いブランデーだ。接客態度はともかく、商品はしっかりしているな。
「なんや、悩みか?話聞こか?」
こんなアウトローに聞かせたところで妙案など出てくるわけがない。しかし、ものは試しと言うこともあるな。グラスを置いて吐き出すように語りだしてみた。
「そうだな。色々あるがまずは税金のことだ」
「なんや、そんなにぎょうさん分捕られとるんか?」
「逆だ。我が家は免税特権がある」
我がフランスには多くの不平等がある。その一つが税制だ。
「ほう、べっぴんの実家は坊さんやっとんか?」
「聖職者ではない。私の家は貴族だ。だから免税されてる」
「いまどきそんな国があるんか?」
どうやらここは本当に辺境のようだな。まるで貴族や貴族に対する免税がないのが当たり前のような返事だ。
「そうだ。そのせいで我々貴族は、ありあまる財産がありながら税を納めていない。市民にばかり納税させていたら不満がたまる一方だ。いつかその不満が爆発して血を見るのではないかと案じている。しかし他の多くの貴族は特権を手放す気などないのだ」
「なるほどのー、そりゃ頭も痛くなるというモンや。ん?税金のこと・・・そういやむかし太陽ちゃんっちゅう官僚に税金制度のこと相談されたあるわ」
官僚から相談されていたとは意外だな、しかし詮索してよいのだろうか?ひょっとして海賊に身を窶(やつ)す以前はこの髭面は名士だったのだろうか?
「どんな話だった?」
「税金が足らん言うとったから、空気税作ったらどうや?ってアドバイスしたわ。けど、むかしフランスでやってアカンかったって教えられたわ」
「ゴホッゴホッゴホッ‼️」
なんということだ、シルエット大臣の失策はこんな辺境まで轟いているのか、フランスの恥だ。
「大丈夫かいな?しっかりしいや」
「あ、ありがとう。他にはどんな話があった?」
「結局、消費税を上げるって結論になったわ」
「消費税?」
初耳だ、一体どんな税金だ?
「俺の国では、買い物するたび10%税金が上乗せされた代金を払わんといかんのや、店は客から集めた税金をあとでお国に納めるっちゅうシムテムや」
「買い物するたびに十分の一の税!!そんなことをしたら
革命が起きるぞ!!」
もしならないとしたらどんな国だ?どれほど従順な国民性をしていたとしてもそんな重税を受け入れるはずはない。
「最初から一割やったらそうだったかもな。けどまずは3%だったんや。それが5%になり8%になり、いまや10%や」
「そんなに上がっていったのか!!それでは国民の怒りも比例して激しくなってしまうだろう?」
「いや、そんなことはなかった。人の慣れちゅうもんは恐ろしいものや、国民は不満に慣れてしもうた。もうみんな消費税は上がるのが当たり前と受け入れてしまったんや」
私の心に雷鎚が落ちた!!そうか!!確かに少しずつ習慣にしていけば何事も慣れていく。
「なるほど、そしてその消費税というシステムなら徴税請負人が集めて回るのでなく、店が客から集めた税を届けるのだから貴族や聖職者からでも徴税できる。消費税を上乗せした代金を払わねば商品が買えないのだから払うしかない」
「そういうことや、おかげでぎょうさん税金分捕れるらしいで」
人は見かけによらないな。素晴らしいアイデアだ。彼に会えたことを主に感謝しなければ。
ジャラジャラジャラジャラ
「ありがとう!!今日は私の奢りだ!!」
金貨をテーブルにぶちまけるのが気持ち良い。ここはケチケチせず楽しもう。
「おお、気前がええの。ほんならお言葉に甘えさせてもらうで。俺は真島吾朗や」
「私は、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。よろしく」
「なんでこの客は年代物の金貨ばかり持ってんだよ。古銭コレクターか?格好も古めかしいし」
「なんや?古めかしいのはここじゃ珍しくもないやろが。ホレ、早う次の酒とツマミださんかい」
そうして夜は更けていった・・・・・
「・・・やはり夢か」
ジャルジェの屋敷の自室で目を覚ますと、私は自分が10代の少女であることを確認した。
確認したのだが・・・
「なぜ夢の中で呑んで二日酔いになるのだ・・・」
本当に奇妙な夢だった。