暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ロテスヴァッサ王国王都アスラアムバート近郊での騒ぎを収めて1年。

クーケン島に戻ったライザは、更に逞しく、更に豪傑として成長していました。

スランプを抜けたライザは、ついにこの世界を破滅させた愚劣なる存在からアクセスを受け。

そしてこの世界の癌と向き合うことになるのです。


三度目のはじまり
プロローグ、火神健在


最近そのちいさな島は、嫌に景気が良いと聞いていた。だが、賊の間では噂になっていたのだ。

 

近付いた奴は、一人も生きて戻って来ないと。

 

そんなものは噂に過ぎないだろうと。各地の小規模集落を荒らしてきた「鉄の爪」団は、夜陰に乗じて、その島に向かった。

 

各地での畜生働きを主体にしてきた三十人規模の賊だ。

 

戦闘経験は、下手な自警を行っている戦士なんかよりも、ずっと上だった。

 

魔物に対する自衛能力だってあった。

 

平和ボケしていそうな島が見えた時点で、賊の仲間はゲラゲラと笑った。賊の長であるバルガスも、これは楽な仕事になりそうだと大笑いした。

 

焼き払って、全ての富を奪い去り。

 

若い女だけ生かして、後は皆殺しだ。

 

若い女も皆で飽きるまで強姦した後は、殺して肉を食う。それは一種のトロフィーであり、征服欲を刺激してくれるので、これ以上もない喜びをもたらしてくれるのだ。

 

そうやって、今まで数百人を殺してきた。

 

三十人しかいない集団だが、この仕事に関してはプロ中のプロだ。

 

今は魔物が人間を圧倒していて。

 

世界中で人口が減っているとか聞くが、そんな事は知るか。

 

自分達だけ良ければいい。

 

そう考えて、バルガスは手下達と。各地の孤立した集落や、ちいさな街を襲い。徹底的な殺戮と略奪を繰り返して来た。

 

ロテスヴァッサ王国とやらから賞金を賭けられているらしいが、そんなものはどうでもいい。

 

さて、今日もたっぷり奪い取って。

 

そう思った瞬間。

 

何隻かの船に分乗して、汽水湖にこぎ出した仲間が。その一隻が。

 

船ごと火だるまになっていた。

 

船は瞬時に燃え尽きて、そして炸裂する。

 

悲鳴すらも残らなかった。

 

「な、なん……」

 

武器を抜き、散ろうとする船だが。立て続けに二隻が火だるまになり、爆散する。手だれた仲間が、何もできずに木っ端みじんになる。

 

畜生。

 

喚きながら、バルガスの船は方向転換する。

 

そうこうしている内に、残りの船も全てが爆散。船から汽水湖に飛び込んだ者もいるが、それは薄暗い湖で助けを求める前に、みな魔物にまたたくまに一呑みにされてしまっていた。

 

バルガスの船は、何とか引き返して、岸に。

 

どうせ部下なんて、また集めれば良い。

 

そう思って、必死に部下に櫂を動かさせる。

 

冷や汗が流れるが、この船は見つかっていないようだ。とにかく、今は逃げ延びないといけない。

 

そうして接舷したときには。

 

囲まれている事に気付いた。

 

数人しか残っていないが、皆手慣れた部下だ。

 

すぐに剣を抜くが。

 

相手はそれ以上に手慣れていた。

 

わっと襲いかかってくる。見る間に部下が切り伏せられていく。

 

こっちに近付いてくるのは、まだ若い女だ。杖を手にしていて。見える。とんでもない魔力を身に纏っている。

 

鳥の魔物のような雄叫びを上げて、剣を振るってバルガスは其奴に襲いかかる。

 

其奴にやられたのだ。

 

そう悟ったからだ。

 

其奴さえ倒せば、血路を開ける。

 

そう判断したからだ。

 

だが、斬りかかった瞬間。

 

技量が違いすぎる事を理解する。

 

王都の騎士とやらを返り討ちにしたこともあったバルガスの剣が、虚空を抉った次の瞬間。

 

両手両足が、炭クズになっていた。

 

悲鳴を上げて、地面でのたうつバルガス。

 

その上から、声が聞こえた。

 

「無力化完了。 残りは終わりましたか、アガーテ姉さん」

 

「ああ、片付いた。 極悪非道の鉄の爪団。 綺麗に全滅だな」

 

「これが首領でしょうね。 後は任せます」

 

「そうだな。 残りは処理しておく。 ライザ、お前の作ってくれた幾つかの錬金術の装置がなければ、此奴らの接近には気付けなかっただろうな」

 

アガーテと呼ばれた女が近付いてくる。

 

喚きながら、威嚇するが。もう意識が遠のきかけている。

 

そして、容赦なく首を刎ねられたのがバルガスには分かった。

 

畜生。畜生。

 

俺がどうして殺されなければならないんだ。俺はこんなに善良なんだぞ。他の人間なんかより、何百倍も命に価値があるんだぞ。優れた人間なんだぞ。それなのに。

 

地面に首だけになって転がりながら。

 

そう、身勝手な事をバルガスは考えていたが。

 

その身勝手で汚らわしい思考も。

 

すぐに闇に溶けて消えていった。

 

 

 

クーケン島が豊かになって、それで悪しき連中に噂が流れたのだろう。賊が来るようになった。前からも時々、辺境を荒らすような賊が時々来ていたのだけれども。明確に頻度が上がった。

 

そこであたし、ライザリン=シュタウトがそれに対して、警戒用の装置を幾つか作ったのだ。それで接近を、事前に察知できるようになった。

 

今回警戒網に掛かったのは鉄の爪と呼ばれる、各地で畜生働きをしていた凶賊の一味。

 

集落丸ごと皆殺しにして、富を奪い去り。若い女は死ぬまで強姦した後、殺して肉を食べると言う、筋金入りの凶賊だった連中だ。

 

僅かにその魔の手から生き延びた人間の証言で手配書が作られたが。

 

今までに何度も騎士や賞金稼ぎが返り討ちにされていた、凶賊の中の凶賊だった。

 

そして目を見てすぐに分かった。

 

更正の余地なし。

 

自分を善人だと信じて、自分の行為は全て許されると考えているタイプだ。あの「蝕みの女王」と同じ。

 

生かしておけばそれだけ全てに対する害になる。

 

だから、全部殺した。

 

それだけだ。

 

アトリエに戻ると、手紙を書いておく。

 

王都にいるパティとクラウディアに。

 

鉄の爪団と、その首領のバルガスを討ち取った事。

 

首を塩漬けにして送ること。

 

それを手紙で書くと、後はバレンツに翌朝持ち込んで、早馬で送って貰う処置を執った。相変わらずバレンツのクーケン島支部を任されているフロディアさんは、手際よく手紙を処置してくれた。

 

フロディアさんを何度見ても思う。王都で見た、メイドの一族と生き写しだ。

 

王都から帰るとき。

 

その一族の戦士、カーティアさんから興味深い話を聞かされたが。

 

それが本当では無いのかと、時々思う。

 

王都での冒険から一年。

 

二回、リラさんとアンペルさんから呼ばれて。少し遠出して。門を封印すると同時に、全員では無いが集まった皆と一緒に、門の向こう側にいるフィルフサを撃破。王種の首を取った。

 

四年前から今日までに、合計で四体の王種を倒した事になるが。

 

最近対戦した二体は、どちらも去年倒した「伝承の古き王」程の強さの王種ではなく。皆の腕が上がっていることもあって。

 

全員が集まらなくても、充分に余裕を持って勝利することが出来た。

 

だが、やはり水害を引き起こして対抗しなければならない戦術には代わりは無く。そろそろそれ以外に、フィルフサを効率よく駆除する戦術を開発しなければならないなと、あたしは考えていた。

 

王都から戻って一年。

 

クーケン島の古老達分からず屋達とやり合って。

 

更には、もやが掛かっていた頭もすっきりして。

 

それでいながら、あたしに時々ブレーキを掛けてくれるフィーの存在もあって。それであたしは急速に変わりつつある。

 

懐から顔を出すフィー。

 

クーケン島からアトリエに戻ると、家に戻ったと判断したのだろう。今はもう、あたしの家は。

 

実家では無くこっちだ。

 

みんなで過ごせるように広く広く作ったけれども。

 

今では、自分のスペース以外はたまに掃除をするだけ。

 

ただコンテナは巨大に作ってあるので、このアトリエは拠点として極めて便利だ。

 

それに、もう近場の魔物は敵じゃない。

 

今ではこのアトリエの至近にある小妖精の森に出向くと、魔物はあたしを怖れて逃げ散る有様だった。

 

ただし、既に小妖精の森で得られる素材では、それこそ気休めにしかならない。

 

納品するものなどはそれでも良かったが。

 

より高度な錬金術をしたいと考えると。どうしても遠出しなければならなかったし。

 

場合によっては、復興が進んでいるグリムドルで、素材を分けて貰わなければならない事もあった。

 

スランプは抜けた。

 

頭も冴えている。

 

いや、なんというか、冴えすぎているというのだろうか。

 

何かに見られている事を、ずっと感じている。

 

気のせいじゃない。

 

あたしの魔力量は、結局止まった。

 

熱槍を一度に出せる数は、現時点で20000。去年と同じだ。

 

今後はこの魔力量で、より魔力を練って。熱魔術の練度を上げていくしかないのだろうと思う。

 

勿論錬金術の装備で、根本的な魔力を向上させることは出来るだろうが。

 

まだ、これ以上飛躍的に向上させる理論が出来ていない。

 

現時点では、手持ちの札で勝負するしかない。

 

ベッドで横になる。

 

ぼんやりしていると、側でフィーが此方を見つめていた。

 

「フィー?」

 

「んー。 あたしは特に問題なし。 それよりもおなかは空いていない?」

 

「フィー!」

 

大丈夫、か。

 

たまにエンシェントドラゴンの西さんの素材で調整したトラベルボトルに一緒に入るようになってから、フィーは全く弱る様子がなくなったし。

 

今ではむしろつやつやしているほどだ。

 

これ以上成長するなら、今後はオーリムで過ごす事も考えなければいけなくなるかも知れないが。

 

当面は大丈夫だろう。

 

無言で横になっていると、ふと、頭にノイズみたいなのが走る。

 

苛立って、体を起こす。

 

見ている奴の仕業だ。

 

何が見ているのかは知らないが。

 

時々、このノイズみたいなのも来るようになっていた。

 

嘆息する。

 

横になっていても休めない。

 

そう判断したあたしは、薬、発破をはじめとして。インゴット、ゼッテル、布。それに戦略用の物資。

 

建築用の接着剤をはじめとした、色々なものを調合していく。

 

素材だったら、この辺りをいつも移動しているので、幾らでもストックはしてある。

 

アトリエの近くにコンテナを作って、そこに最近は物資を詰め込んでいる程だ。

 

淡々とノルマ分を作る。

 

エーテルを絞り出して釜に満たし。

 

釜に素材を投入。

 

エーテルの中で素材を要素ごとに分解し。

 

そして組み合わせる事で、調合をしていく。

 

アンペルさんに教わった錬金術の基本は、今もしっかり守っている。そして更に向上できると自分に言い聞かせて。

 

常に向上点を探す。

 

今後もこの姿勢は変わらない。

 

あたしは自分を頂点にいる存在などとは思わない。

 

万能だとも感じない。

 

そうしなければ、今後これ以上成長しないからだ。

 

まだまだ足りない。

 

実際古式秘具の完全コピーには程遠いと、あたしは何度も思っている。まだあたしの力量は、その程度ということだ。

 

相手は……神代の頃の錬金術師が仮想敵だとすると、だが。手強いとみて良い。

 

才覚は兎も角、神代の昔は錬金術師がたくさんいて。それによって蓄積されていった知識を持っていた。

 

それが武器になり。

 

悪用された。

 

フィルフサが仮にそいつらの作り出した生物兵器だったとすると。

 

それは余技に過ぎず。

 

もっと強力な兵器を作りだしていた可能性だって高い。

 

だから、淡々と。

 

更なる向上と、知識の蓄積を目指さなければならなかった。

 

必要な物資が調合し終わったので、寝る事にする。

 

最近は睡眠導入剤も使うようになっていた。

 

別に危険な薬ではなく、頭の活動を鈍らせるだけのものである。

 

それで眠くなる。

 

一眠りして、それでもう朝だ。

 

軽く体を動かして、周囲の気配を探る。それと、各地に仕掛けてある探査装置をチェックしておく。

 

探査装置は、アトリエからも、手元のブレスレットからも、状態を確認できるように調整してある。

 

流石にオーリムの状況はわからないが。

 

少なくとも、クーケン島とその周囲の広い範囲で。

 

危険な魔物が闊歩している様子はない。

 

精霊王達は、フィルフサとの大戦以来、また眠りに入って力を蓄えているようであり。

 

あたしが近付いても起きる様子はなく。

 

今も、活動している形跡は無かった。

 

「問題はなしと」

 

「フィー!」

 

「じゃ、クーケン島にいこうか。 今日はまた、古老とやりあわなきゃいけないのかな」

 

「フィー……」

 

実は、古老もフィーには結構デレデレしている。

 

フィーが悲しそうに見ていると、あたしに対して圧を掛けられなくなる様子だ。

 

だったら、他の事でも譲歩してくれてもいいだろうに。

 

どうしてもプライドが邪魔をしてしまうというのが実情なのだろう。

 

情けない話だ。

 

荷車を引いて、バレンツに出向く。

 

其処で、淡々と要求された物資を納入しておく。

 

期限はあるのだけれど、基本的にあたしは前倒しで作業をするようにしている。この辺り、雑な性格だと言われるあたしは。意外な一面を持っているとか周囲に言われたりもする。

 

フロディアさんが納入した品の品質を確認して、リストと見比べて、精査もしてくれる。

 

この人は相変わらず優秀だな。

 

そう思う。

 

「問題ありません。 支払いは此方になります」

 

「そういえば、最近はルベルトさんはどうしているんですか?」

 

「商会長は最近はほぼ引退していますね。 業務をどんどんクラウディアお嬢様に委譲している状態です」

 

「隠居に移り始めているんですね」

 

こくりとフロディアさんは頷く。

 

幾つか世間話をした後、今度は医院に。

 

エドワードさんの所に、色々な薬を納入しておく。どうしても薬は幾らでも必要になってくる。

 

後は、頼まれて湯を沸かしたり。

 

勉強を軽く教えたりもするが。

 

今の時点で、島の子供の中に錬金術の素養がありそうな子はいない。

 

エーテルの物質化の時点で躓く子も多いのだ。

 

錬金術を学べるようなら学んでこいと親に言われている子もいるみたいだけれども。

 

残念ながら、複数の才能が必要で。それらを満たしていないと無理だという説明は親に事前にしてある。

 

ただ、それでも。

 

そもそも地道に稼いで生活出来るように、基礎的な学問は教えている。

 

タオはもう王都に骨を埋めるだろうし。

 

何人かいる先生が、交代で子供達に生きるために必要な事を教えていくしかないだろう。

 

一通り島を見て回ると。行商人から声を掛けられる。

 

他で手に入れた珍しい品だというものは無視。

 

宝石だのなんだのは、今はもう自分で作れるからだ。

 

それよりも本である。

 

活版印刷の機械は王都にあるものは直したが、他の都市にあるものはやはり壊れかけのものが多く。

 

本は年々流通量が減っている。

 

何冊かの本を見繕って、子供の勉強用、或いは資料用のものを買い付けていく。

 

本はそれなりに高値だし。

 

あたしも必要なものには金を惜しまないので。

 

行商人も、それで文句を言うことはなかった。

 

さて、こんな所か。

 

アトリエに引き上げる。

 

毎日、あたしを見ている視線が強くなって行くのが分かる。それがどういうものなのか分からない。

 

悪意は少なくとも感じないが。

 

好奇心などの人間的な感情もまた感じないのだ。

 

それがどうにも嫌な予感を喚起させる。

 

アトリエに戻ると、装備品の調整。武具などの調整をやっておく。

 

いつ、何が起きても大丈夫なように備える。

 

あたしは、今はそれが出来るようになっていた。








※本作での匪賊について

残念ながら出番はほぼありません。いつものようにグチャグチャに蹂躙するシーンを書いても良いのですが、本作ではもっと強力でライザの敵手に相応しい存在がいるので、其方が主体になります。

というわけでプロローグでグチャグチャに蹂躙してみました。

蹂躙される匪賊は可愛いですね。
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