暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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4、宮殿の島

既に地図は作ってある。

 

だから、其処に行くのは難しくは無い。

 

群島に出現した本丸。

 

宮殿らしいものがある、一番の大きな島。

 

背後の。

 

この群島を囲むようにしてそびえ立つ、岩礁を兼ねた岩山。それを背負うようにしている、一番群島の西にある島。

 

昨日の時点で周囲を探ってはいるのだが。

 

しかし、上陸できそうな地点は二つだけ。

 

一つは切り立っていて危険極まりない。

 

もう一つは狭く、奧に多数の気配がある。間違いなく、敵対存在だろう。

 

ともかく、エアドロップからそれぞれ順番に降りる。荷車も降ろして。そして、レントを先頭に、島の奧に。

 

「これ、木とか草とか、全部作り物?」

 

「そうね。 全く生命力が感じられないわ」

 

「……」

 

島には、木々や草が生えているが。

 

近くで見ると分かる。

 

全部偽物だ。

 

そして傷んでいる様子も無いし、フジツボとか汚れとか、ついている様子もない。

 

何もかもが、偽物なんだ。

 

そう思って、あたしは呻いていた。

 

コレを作った奴は、何を考えている。

 

自然とともに生きてきた。それはどんな生物でも同じ事だ。仮に人間が生物を超越したとしても、自然への敬意を失わないのは当然だ。

 

これを作ったのは神代の連中なのだろうが。

 

フィルフサを作ったのも、コレを作った奴なのだろうか。まあフィルフサが生物兵器というのはまだ仮説だが。もしも同じだったりしたら、それはなんというか。もの凄く歪んだものを感じてしまう。

 

「いる。 かなりの数だ」

 

「急いで上がってくれ。 俺たちが壁を作るが、あまり長くはもたないぞ!」

 

「分かった!」

 

あたしが先に跳躍して、レントとクリフォードさんの間に飛び降りる。何しろ少し前まで海底だったのだ。

 

海草やらの残骸とかで、どうしても足下は滑る。

 

背後はしかも足場が安定していない。

 

滑り落ちたら、ただじゃ済まない。

 

あたしは見る。

 

大量の幽霊鎧だ。ただ、これはどういうことか。

 

見覚えのある形状のもの。これは古代クリント王国のものか。それに、去年、王都近くの霊墓で見たものもいる。

 

幽霊鎧は、こっちに気付いたようだ。

 

どれもこれもが、剣を手に槍を手に、此方に来る。人間よりずっと大きい奴もいる。数も多い。

 

クラウディアが上がって来た。

 

「総員、敵を蹴散らすよ!」

 

「詠唱する! 時間稼いで!」

 

タオが飛び出して、前衛に加わる。セリさんが、植物の魔術で、敵を地面から吹っ飛ばしたらしい。

 

地面に落ちたとき、生物が落下して潰れるとき特有のバンと爆ぜる音がしない。

 

やっぱりこいつら、がらんどうなんだ。

 

フルパワーでの詠唱だと、周囲に被害が出すぎるか。

 

だから、ある程度抑えるが。

 

それでも、レント達が苦戦している。相当な数。それだけじゃない。海に沈んでいた筈なのに。

 

どれも動きが鈍っていない。

 

剣術も相当に優れている。

 

これ一体が放たれただけで、王都の軟弱な警備なんて、十人くらい殺されるのではないのか。

 

詠唱終わり。

 

空に無数に浮かんだ熱槍。

 

それらを、ある程度範囲を絞って、敵に叩き込む。

 

目の前に、灼熱地獄が現出し。

 

そこに、クラウディアが容赦なく追撃を連射する。

 

多数の人型が溶け崩れる。

 

どうやら、合金としての強度そのものは落ちているらしい。或いは下手をするとだけれども。

 

万全状態だったら、あたしの熱槍でも打ち砕けないかもしれない。

 

「柔らかくなった! おらあっ!」

 

レントが大剣を振るうと、右に左にヒトの形をした溶けかけの鎧が吹っ飛ばされ、そして二度と立ち上がらない。

 

轟々と燃える中。

 

激しい戦いが続く。

 

奧から、次々に鎧が来る。だが戦力の逐次投入だ。順番に蹴散らしていけばいい。戦線を少しずつ押し上げていく。

 

「フィー!」

 

あたしが詠唱しようとした所で、フィーがなく。

 

空に舞っているのはドラゴンか。血の臭いに釣られた……というわけでも無さそうだ。

 

一旦戦闘を中止して、少し後退する。散開して、ブレスに備える。

 

あれに空から襲われている状態で。

 

幽霊鎧の群れに襲われるのは、正直勘弁して欲しいところだ。

 

しばしすると、ドラゴンは興味を無くしたのか、飛んで去って行く。

 

そういえば、あのドラゴンはどれくらいの年齢なのだろう。

 

エンシェントドラゴンの西さんは、意識が生じるまでかなりの年月をようしたというような話をしていた。

 

あのドラゴンは、或いは。

 

この土地のことを知っていて。

 

様子を見に来たのではあるまいか。

 

「……敵は」

 

「止まったようだな」

 

ブーメランをキャッチしながら、クリフォードさんが言う。

 

あたしは頷くと、短時間だけ詠唱して、今度は冷気で辺りを薙ぎ払う。

 

炎をそれである程度消す。

 

地面は。

 

溶けていない。

 

普通の土だったら、溶解して溶岩状態になるくらいの熱は叩き込んだのだが。或いは此処の地面は、ゴルドテリオン以上の熱耐性があるのか。

 

無言になる。

 

そして、周囲を警戒するように、皆に言った。

 

まずは、島の状態を探り。

 

背後の心配がなくなってから、宮殿に乗り込むべきだろうと判断したからだ。

 

 

 

ライザさんと一緒に戦ったのが、随分昔にパティには思えていた。

 

少し前に十六になって。

 

騎士に正式に就任。

 

そうしてみて分かったのは、騎士には大した使い手がいないという事だった。

 

お父様が。アーベルハイム伯ヴォルカーが例外だったのだ。

 

騎士を連れての討伐任務で、何度ため息をつかされただろう。

 

パティが他の十人分の活躍をして。

 

その間に、騎士達は口ばっかり達者で。魔物にろくに抵抗も出来ず、殺されそうになる者も多かった。

 

弱い事は、別に悪い事じゃない。

 

事実ライザさんは、自分達より戦力で劣るパティを冷遇したりせず。経験を積むように仕向けてくれた。

 

おかげで随分強くなれた。

 

それでもライザさんの背中は遠くに見えるが。

 

いつの間にか、王都の軟弱な戦士達とも、差が大きくなっていた。

 

パティも、やる気のある戦士だったらどんどん抜擢するようにお父様に口利きしているし。

 

なんならアドバイスが出来るならしている。

 

だが、貴族の子弟だったり。

 

或いは何らかの形でコネを使って騎士になった連中は。

 

どいつもこいつも座敷剣法しかしらず。

 

プライドの塊で。

 

政争をすることしか考えず。

 

魔物を目の前にすると、糞尿を垂れ流しながら逃げ惑うだけ。そんな輩ばかりだった。

 

中には身の程知らずにもパティを口説こうとする輩もいたが。

 

あらゆる点でタオさんに劣る唐変木を、どうして好きになれようか。

 

ともかく、今日も街道を警邏して。

 

弛んでいる戦士や騎士を、まとめて鍛えていた。

 

走鳥に食われそうになる騎士を見て、何度も助けた。

 

仕留めた魔物を捌いている時に、何度も吐き戻している騎士をみた。

 

情けなくて溜息しか出ない。

 

魔物を捌くのだって、ライザさんが王都から去った後。またフィルフサ戦に同行したりしている内に。

 

ずいぶんと上手になっていた。

 

今ではてきぱきと一人でやれる。

 

ライザさんがくれた装飾品での強化もあるのだろうが。

 

それ以上に、手慣れてきているのだ。

 

力のかけ方や使い方が身に染みついてきている。

 

まだ伸びる。

 

そう思うと、全能感に酔わないか、自分を戒めなければとさえ思う事もあった。

 

惰弱な連中だけを連れているわけでは無い。

 

彼方此方で姿を見かける、メイドの一族。

 

アーベルハイムのメイド長もそれに含まれるのだが。

 

同じ顔をしていて。

 

皆が凄い使い手である一族も、今回は警邏に加わっている。

 

今回は二人だけだが。

 

その二人ともが、今のパティと互角かそれ以上の使い手だ。戦闘では、とても頼りになる。

 

パティとこの二人だけで、魔物の九割以上は片付けている状態だった。

 

バトルアックスを手にしているのがエイレン。

 

ハルバードを手にしているのがフレイレンだそうだが。

 

正直、装備を取り替えられたら。見分けがつく自信がない。

 

着込んでいるのもメイド服だが。

 

返り血一つ浴びていなかった。

 

返り血も浴びないくらい、技量が高いと言う事である。

 

「パトリツィア卿」

 

「まだ貴族ではありません」

 

「は。 それではパトリツィア様。 もう少しで目的の村落ですが、先に我等のどちらかが偵察に出向きましょうか」

 

「そうですね。 それではフレイレン。 先に見て来て、問題があるようなら対応の準備をお願いします」

 

頷くと、ハルバードを手にしているフレイレンがさっとその場からいなくなる。残像を作って消える様子を見て、惰弱な連中がおののく。

 

残像くらい、パティでも作れるのに。

 

情けない話だ。

 

「そ、その。 パトリツィア隊長」

 

「どうしました」

 

「これほど王都から離れてしまって、大丈夫なのでしょうか」

 

「商人達は商隊を組んで、もっと遠くから食糧などを仕入れています。 我々がその道程を守らずになんとしますか」

 

それほど怒りは感じない。

 

諭す。

 

完全に腰が引けている連中だが。

 

それでも、一念発起して強くなれるかも知れないからだ。

 

パティだってそうだった。

 

しばしして、フレイレンが戻ってくる。

 

「あまり状況は良くないですね。 魔物による定期的な襲撃があるようで、食糧も足りていないようです」

 

「輜重班」

 

「は。 食糧はまだ余裕があります。 そうなると、討伐任務も追加でしょうか」

 

「組織的に人間の集落を襲うと言う事は、恐らく大物がいます。 それを片付けてから戻りましょう」

 

輜重班を任せているのは、最近雇い入れた商人だ。はっきり言って此処にいる惰弱な戦士どもよりずっと肝が据わっている。それはそうだろう。バレンツ商会の仕事を何度か視察したが。

 

あのクラウディアさんが鍛えているのもあるが。

 

それ以上に、各地の安全とは程遠い街道を傭兵達と一緒に通って。

 

それで商品を輸送しているのだ。

 

襲ってくるのは魔物だけでは無い。匪賊の類との戦闘もあると聞いている。

 

王都にずっといて、すっかり惰弱になりさがった戦士達なんて。この商人達の足下にも及ばないかも知れない。

 

パティが今回の任務は買って出たのだ。

 

今、王都から動けないから。

 

少しでも、王都の状態を改善しようと。

 

ライザさんが、また危険な異変らしいものに対応していることは分かっている。アーベルハイムで頼りにしていたクリフォードさんもレントさんもクーケン島に向かったし。セリさんも。

 

タオさんも戻ったと言うことは、遺跡関連もあるのだろう。

 

パティだっていきたい。

 

だが今は、余計な悶着を起こさないためにも、王都にいなければならないのだ。

 

歯がゆい話だ。

 

タオさんは一度王都に戻って、論文の手続きをするらしいが。

 

それも一度戻るだけ。

 

すぐにライザさんと冒険に出るだろう。

 

タオさんの側にいたいと思うこともあるが。それ以上にライザさんと一緒に冒険をしているのが羨ましい。

 

嫌な事怖い事もたくさんあったけれど。

 

あの冒険の日々は、本当に宝石のような思い出なのだ。

 

惰弱な連中を急かして、集落に到着。

 

本当に酷い有様だ。

 

輜重班に資材を出させ、メイド一族の二人と一緒に必要な箇所の応急処置を開始する。まごついている連中には指示を飛ばし、警戒に当たらせる。

 

この集落を守ったら、それでまた少しは王都の周辺の人々が安全になるだろうか。

 

そんな事を思いながら。

 

すっかり慣れた土木作業を、パティはこなし続けた。

 

 

 

(続)







 ついに原作で問題のあの島の調査開始です。

 本当に何度も何度もこの島を調査する事になるんですよねえ。まあそれだけ手強い遺跡ではあるのですが。

 本作でも苦労が重なるのは同じです。

 それだけ「上から」用意されている扉は強力なセキュリティが施されているわけですね……
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