暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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4、王狼ふたたび

サルドニカの本部にいたアンナは、急報を受け取っていた。無表情のまま対応すると使者に返す。

 

そして執務室に戻ると、内心で舌打ちしていた。

 

フェンリルだ。

 

フェデリーカが戻ってくる事は、既に硝子ギルドと魔石ギルドに告げてある。それについてはいい。

 

技術的な問題は発生しているが、それはあくまで技術的なレベルであって、ライザがどうにでもするのだろうから。

 

問題はそれよりも、二匹目のフェンリル。サルドニカでは……だが。

 

街の北にいた個体は強かった。

 

あれは神代の鉱山を守るようにプログラムされていた個体だったのだろう。神代の連中は魔物を作り出すとき、特別に強力なものをしばし作った。それは例えば東の地で暴れているベヒィモスなどだが。

 

フェンリルは奴らのお気に入りだったらしく。

 

もとの神話ではそもそも個人名だったのを種族名に変えた挙げ句、コストを掛けて多数を周囲に配備していた。

 

フェンリルについては調査資料をアンナも見た。

 

大きな被害を出しながら倒した個体は今までにも存在していたのだ。

 

それによると、フェンリルの元になったのは狼ではなく犬であり。特によく調教された戦闘用の犬であったらしい。

 

つまり神代の連中は、自分達を信頼するように犬を飼い慣らした挙げ句。

 

その犬を材料にして、生物兵器に仕立てた訳だが。

 

連中の所業はいつものことだし、邪悪さの底はそんな程度ではないので、今更そこで新たに怒るような事でもなかった。もう怒る気にもなれないと言うべきだろう。

 

さて、どうするか。

 

フェンリルが出たのは、またしても街の北。

 

何らかの手段で、前にライザと交戦した個体が倒されたと知り。

 

鉱山を守るために姿を見せた、と判断して良いだろう。

 

すぐに緊急事態として警報を出す。

 

街の北への出立は禁止。

 

以前ライザが構築した防衛線より出ないように。

 

街の自警組織の戦力では、フェンリルなんぞとぶつかったら蹂躙されるだけである。同胞の戦力は現在ベヒィモス対策で出払っているし、手を出すのは論外だ。

 

ライザがサルドニカ周辺の大物はあらかた始末してくれたので、だいぶ楽にはなったのだが。

 

これで全て振り出しに戻ったかのようである。

 

だが、それもまたいい。

 

ライザがまた来るのだから。

 

色々と雑事を片付ける。

 

アルベルタとサヴェリオは、どちらもギルド員に注意勧告を出してくれたようだ。ちいさなギルドの面々も、概ね同意した。

 

跳ねっ返りの自警団の若手は、ライザがいなくなったあと手柄が取れないと不平をこねていたが。

 

フェンリルと戦ったら死ぬだけなので、今のうちにバカが先走らないように警戒しないといけない。

 

幾つかの雑事をこなして、面倒だなと思っていたら。

 

客人がきた。

 

まだライザが来るには早いと判断したのだが、なんとコマンダーである。

 

すぐに客間に通し。

 

人払いもした。

 

サルドニカのプリンを出す。まあ、最低限の味は確保できているはずだ。嬉しそうにプリンを食べているコマンダーに、アンナは話を切り出す。

 

「ライザに先回りして来たのですね。 それとも何か問題でしょうか」

 

「鋭いわ-。 実はね、ライザが監視者を倒してしまったの」

 

「!」

 

監視者。

 

神代の作り出した、最上位監視システム。

 

錬金術師達を監視し、その成長を促すために、様々な妨害を敢えて仕掛ける魔物だ。

 

殆ど遭遇例は無いが、フィルフサと同じように魔術が通じないこと、多数の魔物を手足のように操ること。それらが判明している。

 

母がハッキングを済ませたシステム領域内にデータは存在していなかったが。

 

それでも神代の最高機密であることは技術などから確実。

 

非常に危険な存在であり、最高レベルの監視対象である。

 

とにかく危険な相手だ。

 

それをライザが倒したとは。

 

「確か確認されている監視者は四体。 しかもゲートの位置を熟知しており、各地に自在に移動すると聞いています」

 

「そうよー。 例のものはライザを現在「収穫」しようと動いているみたいだけれども、何しろ古いシステムですものね。 それに今まで「収穫」した者達も無抵抗だったわけじゃない……」

 

「監視者と齟齬が生じていると」

 

「動きを見る限りあり得るわー。 とにかく、今各地に警戒を飛ばしているのよ」

 

そうか、それは難儀だ。

 

プリンを食べ終えると、ふらっとコマンダーは消える。

 

アンナはしばし考え込むと、サルドニカに残っている同胞四人を集めていた。

 

そして、監視者が倒された話。

 

フェンリルにはライザを対処に向かわせる話をそれぞれして。

 

更にその上で、母にも最悪の場合増援を頼む話もして、解散とした。

 

さて。

 

執務デスクを見る。

 

フェデリーカはかなり頑張っている方だが、それでもはっきりいってまだ成長が足りないか。

 

だとしたら、ライザが二匹目のフェンリルを仕留めた後……少し百年祭の実施を早めて。それで、サルドニカの団結を見届けさせる必要があるかも知れない。

 

こんな追い詰められた世界でも、人間は愚かなものだ。

 

このような連中に、同胞の未来が。更には恐らくはアインの未来も掛かっているのだと思うと苛立ちが隠せないが。

 

そもそもお優しい母の意図だ。

 

母に対する敬意はアンナだって抱いている。

 

その意思は無碍には出来なかった。

 

港に使者を出す。

 

ライザが到着次第、いの一番にフェンリルを仕留めに向かって貰う。

 

今、マンパワーを裂くわけには行かないのだ。

 

例のものが本格的に動いている今。

 

全ての過去の負債を清算する、絶好の機会なのだから。

 

 

 

(続)







お察しの通り、本作における「悪魔」の正式名は「監視者」です。

つまりそういうことです。

これにてこの話は半分です。いよいよ次回からは後半戦となります。



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