暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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鍵に関する大きな進展があった結果、今後どうすれば良いのかの大きな指針が示されました。

データを統計として集める事、そして具体的な座標を割り出すこと、鍵を強化する事。

それら全てに関して、まずは一つずつライザは各地を周り行って行く事になります。


再びサルドニカへ
序、悪い意味での喧噪


途中から追い風があった事。

 

その追い風はそろそろ船旅に飽きて来たカラさんが、大魔術で起こした事は秘密だが。ともかく好条件が揃った事もあって。

 

船は順調に進み、サルドニカ近辺の港町に到着していた。

 

まずは手分けして動く事にする。

 

レントはパティとセリさんと一緒にアトリエに先行して、今回持ち込んでいる物資をコンテナに入れ、ついでに内部が荒らされていないかの確認を行う。

 

あたし達はまずはサルドニカに向かい、ギルド本部へ出向く。

 

フェデリーカだってやる事があるし、何よりサルドニカの状況を確認しておきたいからである。

 

周辺の魔物はあらかた片付けたが、問題が起きていても不思議では無い。

 

船の荷下ろしも手伝っておく。

 

別に大した労力は掛からない。

 

あたしが大きな荷物を苦労もせず持ち上げているのを見ると、屈強な海の男も驚いていたようだが。

 

ともかく荷下ろしをしていると。

 

サルドニカの関係者らしい人が来る。あたしに近寄ってきたのを見ると、だいたい事情はわかった。

 

荒事関係の問題が起きたのだ。

 

「ライザ様!」

 

「ちょっと待ってね。 荷物下ろし手伝ってるから」

 

「は、はあ……」

 

瞠目する線が細そうな職人。

 

此処には安全に来られるように魔物は駆除してあるから、まあ来られたのだろうが。あたしの話は半分に聞いていたなさてはこいつは。

 

まあそれはいい。

 

荷物を降ろすと、フェデリーカも気付いて此方に来る。

 

敬礼すると、あたしとフェデリーカに話をする使者。

 

「急いでサルドニカにお越しください。 問題が発生しました」

 

「船が出る前は得に問題が起きていないという事でしたが」

 

「二日前の事です。 ともかく、ギルド本部へ来てください」

 

「分かった。 どうも緊急事態みたいだね」

 

皆を集める。

 

それで、港での物資補給を切り上げると、全員に声を掛けて港を出た。そのまま走る。もうフェデリーカも含めて、遅れるようなことはない。街道を風のように駆け抜ける。以前直した水車が、問題なく回っているのが見えて、ちょっと安心した。

 

魔物は殆どいないので、そのまま街道を抜けられる。

 

本来街道に魔物が出るのがおかしいのである。それだけ人間が弱体化しているということなのだが。

 

今はそれは良い。

 

全速力でサルドニカに走る。

 

フェデリーカも、以前は死にそうになりながらついてきていたが。

 

最近はある程度余裕を持って追いついてくる。

 

良いことだと思う。

 

「フェデリーカ、健脚になって来たね!」

 

「き、鍛えられましたから!」

 

「じゃ、速度上げようかな」

 

「ええっ!?」

 

まあ、からかうのはここまでだ。サルドニカについた時状況が一刻の猶予もない状態だったりしたら、フェデリーカが舞えない状況は好ましくない。速度を保ちながら、サルドニカに走る。

 

すぐにレント達も、こっちに戻ってくるだろう。

 

サルドニカが見えたが、燃えてもいないしいつも通りのように見える。これなら、魔物に襲われている事もないだろう。

 

正門の警備はあたし達を見て一瞬警戒したが、フェデリーカを見てすぐに道を空けていた。

 

サルドニカに入ると、街の中がこぎれいになっている。

 

彼方此方に色々な飾り付けがされているが、どれも魔石と硝子の融合したものだ。例のドゥエット溶液はきちんと機能しているとみて良いだろう。

 

走ってきたのを、速度を落とす。ギルド本部が見えてきたので、小走りで中に入ると、アンナさんが頷いて、客間に通してくれた。

 

フェデリーカは肩で息をついているが、アンナさんが出した水を飲んで、すぐに平静を取り戻す。

 

だいぶタフになって来たと思う。

 

「状況を知らせてください」

 

「はい。 フェンリルです。 以前と同等程度の大きさで、以前掃討した個体の縄張りよりも少し東に姿を見せています。 現在入植者を退避させて、様子を見ている状況です」

 

「あの狼か……」

 

クリフォードさんが帽子を掴む。

 

以前この辺りで交戦したフェンリルは強かった。空間を自在に切り裂いて、好き勝手に機動して攻めこんできた。守りにも攻めにも空間操作の力を使ってきた。非常に手強い魔物だった。

 

同じ能力を持っている可能性は低くないだろう。

 

今回も、確実に誰も死なせず勝てるかは、分からないとしかいえない。

 

「とにかくあたしの仲間が揃ったら、様子を見に行きます」

 

「分かりました。 警備の戦士が先走らないように掣肘はしておきます」

 

「お願いします」

 

とりあえず、紅茶が来たので、一旦はリラックス。

 

待っている間に、レント達が来る。

 

軽く情報交換をしてから、ギルド本部を出る。そういえば、東の地の鎧を着込んでいる人をあまりみない。

 

幾つか作って渡してあるのだが。

 

早足でフェデリーカと話しながら移動。

 

此処の事を聞くのは、フェデリーカが一番である。

 

「東の地の鎧を着てる人達、見かけないね」

 

「ああ、それは精鋭に支給されているからだと思います。 今は彼方此方に出払っているのでしょう」

 

「いや、それにしても見ないような……」

 

「そうですね。 確かに警備の主要メンバーの顔を見ません」

 

フェンリルが出ているというなら、それこそ大騒ぎになりそうなものなのだが。

 

彼奴の実力は、はっきり言って以前のサルドニカであったら、街に入られたらおしまいというレベルだった。

 

王都でも血の海になっただろう。

 

そういう相手だった。

 

またフェンリルが来たと言うのなら、大騒ぎになる筈で。

 

そうなると、上手いことパニックを抑え込んでいるのか。

 

だとすると、体制がだいぶ変わったのかも知れない。

 

街の北門から出る。

 

丁度良い。この先に例の鉱山があるのだ。一度足を運んでおくべきだろう。前回は足を運び徹底的に調査する時間的余裕が無かった。

 

鍵を強化する金属についての心当たりが、ディアンにはあるようだったが。

 

それはそれとして、いけるとこにある情報は全て集めておくべきである。情報には新しい物資や素材も含む。

 

大橋を渡る。

 

すっかり人の行き来が多くなったようだ。ただ、今は街に向かう人が、急ぎ足であったが。

 

街の外。

 

しかも此方の方では、まだフェンリルの恐怖は新しいのだろう。怖れるのも当然だと言える。

 

橋を渡って、更に先に。

 

以前フェンリルと交戦した辺りの渓谷まで来るが、強い気配は感じ取れない。まだ先だろうか。

 

クラウディアが、少し前から強烈な音魔術を展開している。

 

それで居場所を先に掴めれば良いのだが。

 

「ディアン、気を付けろよ。 防御不能の攻撃を、前に戦った奴はやってきた。 文字通り空間ごと切り裂いてきたんだ」

 

「すっげえ。 それに勝ったのかよ」

 

「ああ。 だが危なかったぜ」

 

「分かった。 とにかくネメドでも見かけたあの狼が強い事は知ってた。 気を付ける」

 

警戒しながら進む。

 

滝に出た。水たまりの辺りに来ても、フェンリルの姿はない。この辺りから険しい地形を越えないと、鉱山には向かえない。

 

とりあえずエアドロップを出して、水を渡る。更に先に。

 

クラウディアはずっと最大限の警戒を続けてくれていた。

 

「クラウディアの警戒に引っ掛からないというのは厄介だね」

 

「わしの魔力探査にも引っ掛からぬ。 しかし今更間違いでした、という事もなかろうな、恐らくは」

 

「ええ、いてもおかしくありませんので」

 

「……神代か」

 

その通りだ。

 

フェンリルの実力はよく分かっている。神代の連中がフィルフサと同じように作ったのだとしたら。

 

多分面制圧では無くて、点の突破のために作ったのだろう。

 

いずれにしてもろくでもない話だが。

 

今はそれに憤るよりも、周辺の調査が先である。

 

湖を越えて平地に出る。しばらくは下り坂と川が混ざっているのだが。この先と言う訳か。

 

一応前回のサルドニカの逗留でもこの辺りは調べたが。多分問題になっている鉱山はそれとは別だと判断して良い。そうでなければ、今更フェンリルが出て来たのは不可解だ。

 

足を止める。

 

大きな足跡が、これ見よがしに残っていた。

 

思い切り巨大な狼のもの。

 

フェンリルで間違いないだろう。

 

警戒。音を立てるな。

 

ハンドサインを出すと、最大限に警戒しながら周囲を探る。足跡については、もうそのままクラウディアに音魔術で解析して貰う。

 

獣には、足跡を辿ってさがり、横道に跳ぶ奴がいる

 

それをやられると、奇襲を許すことになる。前のフェンリルと同じ能力を今度の奴が持っていた場合、文字通り致命的だ。

 

無言でクラウディアが頷き、地図に線を引く。フェンリルの足跡は、案の場ある一点で途絶えていた。

 

間違いなく、罠だろう。

 

問題は、音魔術の探査にも、カラさんがあらゆる秘術を駆使していても、どうしても見つからない事だ。

 

さて、どうやって身を隠している。

 

フェンリルの大きさからして、迷彩どころでは話にならないはず。

 

何かしらの魔術を使っていれば、絶対にカラさんが気付く。

 

厄介だな、これは。

 

少し円陣を拡げつつ、ハンドサインを出そうとした瞬間。

 

あたしとカラさんが、ほぼ同時に反応。

 

とっさに熱槍を叩き込んでいた。

 

空間の穴から飛び出してきた鼻面を、熱槍と雷撃が強か叩き付ける。だが、それで即座に相手が引き下がる。

 

今度の奴も空間操作か。

 

だが、今のはまさか。

 

「空間の穴にでも潜伏できるのかなあいつ……」

 

「ちょっと待った。 そんなのどうしようもないぞ」

 

「……そんな事が長時間出来る訳がないよ。 何かしらの制限があるはず。 それとも、魔術に何かしら工夫があるのか……」

 

もし其所までの事が出来たら、作った錬金術師どもも制御なんか利かなかっただろう。カラさん達が神代の錬金術師共を殺せたのだ。

 

それ以上の力があったとは考えにくい。

 

警戒する。

 

今度はクラウディアが反応。フェデリーカを一呑みにしようと顔だけだした瞬間、恐らく重低音を収束させて、叩き付けていた。

 

ギャッと鋭い音を立てると、フェンリルが引っ込む。

 

レントが冷や汗を流す。

 

「ヤベエ相手だ。 どこから出てくるかすらわからん」

 

「……いや、分かってきたかもしれん」

 

「アンペルさん?」

 

「もう一度奴の襲撃をどうにか凌いでくれ。 それでパターンを割り出す!」

 

アンペルさんが詠唱開始。

 

アンペルさんの魔術も空間切断だ。非常に限定された使い方しか出来ないが、完璧に決まれば一撃必殺だろう。

 

だが相手はフェンリルである。

 

アンペルさんは魔力がそれほど大きい方ではない。今のあたしに比べると、の話ではあるが。

 

だが年齢もある。

 

四年前から、装飾品での倍率を見ても、それでも伸びていない。

 

もう伸びようがないのである。

 

警戒している中、次がきた。

 

ボオスを右前足でいきなり叩き潰しに来る。即応したボオスが剣で必死に防いだ瞬間、パティも抜き打ちでインターセプトを入れて、フェンリルの右前足を空間の穴に追い込んでいた。

 

ダメだ、これでも気配がわからない。

 

何処かに本体があって、体を出して攻撃して来ている可能性も考慮したが、それも無さそうだ。

 

アンペルさんは。

 

ふっと笑った。

 

そして、詠唱を続けている。なるほど、どうやらパターンを見破ったらしい。よし、後は最後の奇襲を見破れば良い。

 

長い時間が過ぎる。

 

名前を呼ばれた。

 

振り返る。あたしの後方から、太くて大きな後ろ足が、蹴りを繰り出すのが見えた。勿論フェンリルのものだ。

 

そうか、あたしを狙って来るか。

 

ガードしながら飛びさがる。

 

しかし振り子のように振られた足の勢いは凄まじく、あたしに文字通り飛んで襲いかかってくる。

 

直撃は避けられないか。

 

だが、アンペルさんが即応。

 

空間切断の黒い糸が、フェンリルの足を貫いていた。

 

ギャッと悲鳴を上げるフェンリルだが、あたしも威力が落ちたとは言え、後ろ足の蹴りを叩き込まれる。

 

吹っ飛ばされて、地面で受け身を取るが、激しい痛みだ。

 

薬を震える手で取りだして、一気に飲み下す。

 

見えた。

 

全身が現れたフェンリル。毛の色は、黒い。

 

それが飛び退いて、こっちに向けて身を伏せて威嚇している。

 

狼のような姿をしたそれは、以前この辺りで戦った個体より一回り小さく。そして剣を咥えていた。

 

同じサイズに見えたのは、動揺していたからだろう。フェンリルは前回の時も、サルドニカの戦力を全て挙げても勝てる相手ではなかったのだし、それは責めるべきではない。

 

「どういう仕組みだったんだ!?」

 

「こいつは空間操作をするが、それは空間潜伏ともいうべきもので、最初から狙った地点からしか攻撃できず、潜伏時間も攻撃をしていると減っていくんだ。 此奴は明らかに此方の動きを見切りながら、追い詰めるように仕掛けて来ていた。 だとすれば、最終的に狙うのは頭であるライザというわけだ」

 

「舐めてくれたものですね……」

 

あたしはアンペルさんの言葉に応えながら立ち上がる。

 

痛打だったが、振り抜かれた訳でもなく、継戦能力は残している。それに対して、あのでかいだけの狼……前回戦った奴よりも格段に弱い……は明確な手傷を失い、四足獣らしい機動力を失っている。

 

今度はこっちから仕掛ける。

 

セリさんの展開した魔術。植物魔術が、一斉にフェンリルを囲んで壁を作る。まずいと判断したらしいフェンリルが、上空に飛ぼうとするが、其処には既にレントとディアンが待っていた。

 

文字通り、地面に叩き落とされる。

 

そこに、パティとリラさんが踊り込む。抜き打ち一閃、フェンリルの分厚い毛皮に鋭い傷が穿たれ。

 

回転しながら突貫したリラさんが、体重と回転を乗せ。

 

更には魔術で最大強化した蹴り技を六発、嵐のようにフェンリルに叩き込む。

 

悲鳴を上げてさがろうとした後ろには、もうボオスとタオが回り込み。

 

カラさんが大魔術を。

 

クリフォードさんとクラウディアがそれぞれ投擲武器を、ぶっ放す準備を終えていた。

 

だが、次の瞬間。

 

空から飛来した、あのサタンだとかの同類。

 

悪魔によく似た姿の奴が、さっとフェンリルを掴むと。自身よりずっと大きい魔狼を抱え。

 

余裕を持って飛び去っていった。

 

勿論即応してクラウディアが追撃を仕掛けるが、残念ながら彼奴は魔術に強い耐性を持っている。

 

矢が効果を示さなかったのは、此方からも見えた。

 

「まずい状況だな……」

 

クリフォードさんが、逃げていくフェンリルと悪魔野郎を見てぼやく。

 

サタンだとかいう奴はあまり賢くなかった。身も蓋も無いが、事実なのだから仕方がない。

 

別個体は、違う思考回路で動くのか。

 

しかもかなり戦略的に動いている。

 

あのフェンリルは奇襲特化型の空間操作を得意としている。前にこの辺りで戦ったフェンリルと違って、真正面から戦うタイプでは無い。

 

何がまずいかというと、逃がした事だ。

 

傷を癒やして、何度でも仕掛けて来るだろうし。

 

何より、此方を誘い出すために無差別攻撃か何かを仕掛けて来て、多くの民が犠牲になるかも知れない。

 

人間は今後変えなければならない。

 

そう考えているあたしだが、毎日を必死に生きている人々を軽んじるつもりは無い。

 

そんな事をしたら、神代のカス共と同じになるからだ。

 

手当をして、一旦集まる。

 

これは、作戦を事前に練る必要があるだろう。

 

嘆息すると、まずは話し合う。

 

この先にある鉱山をあの悪魔もどきが守っているのは確定だとみて良い。

 

だとすると。

 

被害を出させないために、まずは鉱山に出向いて。危険承知で奴らを叩くしかない。

 

幸いあのフェンリル、アンペルさんの空間切断を足にもろにくらい、パティの渾身の抜き打ちも受けている。

 

回復まで、少し時間があるだろう。

 

手を叩いて、皆に告げる。

 

「一旦サルドニカに戻って状況を報告。 アルベルタさんとサヴェリオさんに説明をするのと同時に、アトリエで物資を補給、出来れば装備の強化もしておこう」

 

「仕留めきれなかった以上それしかないな。 とにかく時間との勝負になる。 もたついていると、サルドニカのど真ん中にあの悪魔野郎がフェンリルを投下してきかねないぞ」「そんな……」

 

「あたしがあいつでも同じ事を考える。 だから、速攻を仕掛けるしかないね」

 

フェデリーカが青ざめるが。

 

すぐに立ち直って、頷いていた。

 

強くなってきたな、この子も。

 

頷くと、一度戻る。この辺りの地形についてもう少し調べたいが、サルドニカと連携しないと、恐らく今のコンビは攻略が難しかった。

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