暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
激戦を乗り越えてライザが奥義まで出した先に到達する鉱山。
そもそもそこが普通の場所であったら、あれほどの守りは敷かれません。
その正体は、やはり……。
ゆっくり一晩休む。
フェデリーカなんかは死んだみたいに眠っていて。朝起こしても、しばらくはあーともうーとも言わなかった。
長い船旅の直後に、あんな強烈な戦闘をこなして、底力を振り絞ったのである。まあ、仕方が無い。
朝の体操に、一緒に引っ張り出す。
あたしとパティだけが最初は体操をしていたが。最近はカラさんも加わるようになっていた。
カラさんは年寄りの朝は早いのだと笑っていたが。
或いは、体術について興味を持ったのかも知れなかった。
そこに、今日はフェデリーカも加える。
フェデリーカはふらふらで動きもぎこちなかったが、パティが側について丁寧に動きを教えている。
こくこくと頼りなく頷きながら、死んだ目でフェデリーカが体操をしていると、やはり思うのだ。
嗜虐心をそそられるなあと。
まあ、嗜虐はしてはいけないが。
さて、朝の内にやる事がある。起きだしてきた皆で、まずは今日やるべき事を決めておく。
フィーは、一昨日船の中で調整したトラベルボトルに入ってドラゴンの魔力を吸収したからか、すこぶる調子が良さそうだ。
しばらくは大丈夫だろう。
或いは昨日、バシリスクの魔力を吸収したこともあるかも知れない。
「昨日が激しい戦いだったから、今日は少し楽な作業にしようと思う。 あたしは午前中、タオとこの辺りの座標を集めて回るよ。 レント、リラさん、カラさんは、あたしと連携して動いてくれる?」
「おう」
「任せておけ」
「面白そうじゃのう」
カラさんは興味津々で、子供みたいである。
老獪さと無邪気さが混じっていて。
まあ、そこも老人らしいと言えば老人らしい。
老人は時に子供みたいに無邪気になるものだからである。
それはあたしもエドワード先生の病院で面倒を見られている老人や、他にも呆けてしまった人の世話を子供の頃から見ているから、良く知っていた。
「フェデリーカは、サルドニカで情報収集をお願い。 これからいよいよ、サタナエルが路を塞いでいた鉱山に出向くからね。 あれが神代のものらしい事は以前にも聞いたけれど、できるだけ情報を集めてくれるかな」
「分かりました……」
フェデリーカの目に光がないなあ。
まあ、疲れているだろうし仕方が無いか。あたしもあんまり無理強いをしようとは思っていない。
他にも、硝子ギルドと魔石ギルドと手分けして情報を集めて貰い、問題が起きているようなら聞き取って貰う。
それと、現在動いている巨大な歯車も、今回の遠征で直してしまうつもりだ。
街の外にも、幾つか巨大な歯車が動いていて。
溶鉱炉などで活躍しているようだ。
それについても、あたしが直すので。
修理の日取りなどを調整して欲しいと、告げておく。
今回の滞在は、二週間を予定している。
あまり長期間サルドニカに留まるつもりは無いが。
逆に、問題を放置したまま次に行くつもりもない。
故に、できる限りやれることはやってしまうつもりだ。
「フェデリーカの支援として、クラウディアとボオス。 アンペルさんもそっちに回ってくれますか」
「分かったわ」
「任せておけ。 またネゴか……」
「ネゴは誰にでも出来る仕事では無い。 ライザの信頼が伺えるな」
ぼやくボオスに、アンペルさんがフォローを入れてくれる。
まあ、アンペルさんの言う通りだ。
ネゴをしていて怖いと思う事はあまりあたしはないのだが。
ただ、あたしは逆に怖がられる事が最近増えてきている。
だったら親しみが湧くボオスにネゴをして貰う方が良いだろう。
「セリさんは浄化の薬草の研究をお願いします」
「ええ、時間をわざわざ取ってくれて助かるわ」
「当然の事です」
オーリムには、こっちの世界の人間と言うだけで大きな借りがある。だから、こうやって最大限の協力はする。
どんな土地にも根付いて。フィルフサの母胎を解体できる薬草。
更に改良出来るなら、どんどん改良すべきだ。
セリさんは一人で大丈夫だろう。
「クリフォードさん、以前足を運んだ高原地帯の偵察をお願いします。 例の泉の辺りから、何処かに濃度が高い「溜まり」がないか確認してきてください」
「お、スカウトか。 いいねえ。 何か遺跡があったら調べても良いか」
「いいですよー。 パティもそっちに回ってくれる?」
「分かりました」
パティは今回、タオと毛色が違う遺跡探索者のクリフォードさんと組んでもらう。
勝手が違うかも知れないが。逆にそれで遺跡に対して興味を持つことだって出来るだろう。
何よりも、タオの興味がある分野に対して、少しでも知識を持つのは良いことだし。
今後人類が同じ間違いを繰り返さないためにも、知っておかないといけないのだ。過去に何が起きていたかを。
それを客観的に分析出来る。
それに、パティはクリフォードさんと同じ軽装の戦士だ。
戦い方は違うが。
重装の戦士にはできない事を、一緒にいる事で学び。
更に腕を上げることも出来るだろう。
それでいいのである。
それでは朝ご飯を食べて、おもむろに解散する。
クリフォードさんとパティが最初に飛び出して行く。二人とも速さ自慢だ。スカウトの仕事は、しっかりやってくれるだろう。
セリさんには、大量の肥料を渡しておく。
クズ肉の多くは肥料にしてしまうのだ。それらを使って、どんどん浄化の薬草を育てて貰う。
それ以外にも、セリさんがストックしている薬草を、品種改良して貰うのもいいだろう。
セリさんとの交友は、今後の人類のためにも、極めて有益だと言える。
そして、クラウディアが先導して、サルドニカに皆が向かう。
ボオスはまだぶちぶち文句を言っていたが、それは別に良い。
あれはそういう性分だ。
今更気にしても仕方が無いだろう。
続けて、あたし達も出る。
アトリエでまずは座標を計測。その後は、タオに任せて順番に各地を回っていく。大きな川が流れていて、魚がたくさん泳いでいる。
この辺りは水温が高い。
まあ溶岩が流れているような火山もあるし、当然と言えば当然か。
安全な場所に温泉はないらしいが。
だが、いずれ温泉を第二の名物に出来るかもしれない。
まあ、水温が高く、魚が豊富だと言う事は、捕食者も多いと言う事で。我が物顔にサメが泳いでいる。
まあ、こっちにこないなら放置で良い。
順番にタオと一緒に座標を集めて回る。
時々鍵に魔力を補充する。
小さめの集落が、点々と存在していて。それらは鉱夫達のための中継地点であるらしい。
いかにも夜職の女性もいるし。
大量の食糧が運び込まれてもいる。
あらあらしい男性も見かけるが、あたしの事は知っているのだろう。一目で表情を引きつらせて、道を空ける。
別にこの人らに何かしたわけでもないんだが。
まあ、今のうちに畏怖はされておいた方が良いだろう。
また、鉱夫が荒々しいのは。それはそれで別に良い。露天掘りだから、鉱夫の体に掛かるダメージも小さいのだろう。
これが坑道掘りだった場合、鉱山病で人がばたばた倒れているはずだ。
ちゃんと仕事としてなり立ち。
人間を使い潰していないだけでも、可とするべきなのである。
座標を集めていると、医療関係者らしい人が来る。年季が入った女性医師だ。見た所、回復魔術のスペシャリストだろう。
どこからか聞きつけたのか。あたしが回復薬を大量にストックしていると聞いていたらしい。
少し譲ってくれないかと聞いてくるので、一応は確認しておく。
「バレンツに卸している筈ですが、足りませんか」
「高いんだよ。 治療をしてやれない患者がかなりいる」
「……分かりました。 様子を見せて貰えますか」
「ああ」
病院に出向く。
年季の入った女医さんは、幾つかの話をしてくれる。
露天掘りといっても、魔物が出るし、土砂が崩れるような事件はしょっちゅうおきる。それで死ぬ鉱夫もいるし、手足を失うものも。
王都から流れてきた騎士なんかも常駐しているが、よっぽど傭兵の方が役に立つ有様だ。
もう少し、何もかもましにならないのだろうか、と。
気持ちはわかるが。
いや、其処で突き放しても意味がないか。
病院に出向くと、カラさんが目を細める。
「ふむ、衛生面に問題があるのう」
「医薬品だけでなく、リネンや人員も足りないんだよ。 もう少しサルドニカが支援金を出してくれれば多少はマシになるんだがね。 百年祭なんてどうでもいいから、ちょっとはこっちに目を向けて欲しいもんだよ」
「分かりました。 ギルド長にあたしから伝えておきます」
確かに平屋の病院は、不衛生なベッドに、苦しみの声。何よりも死の臭いに満ちていた。
魔物が鉱山を襲撃するのはあたしも見ている。
屈強な男性程度では、魔物には手が出ない。そもそも小細工なしで人を殺せる存在を魔物と呼んでいるのだから。
すぐに皆動く。
カラさんが、水流の魔術を用いて、汚れているリネンを煮沸して一気に洗浄、ついでに乾かしてくれる。あたしも石鹸を渡して、それを加速する。
あたしはアトリエまでひとっ走りして、蓄えておいた薬をいくらかもってくる。手足を失っている鉱夫に、すぐに女医さんが処置を始める。
治る傷は、即座に治して貰う。
確かこういう所の許容量は医療リソースとかいうのだったか。
それを出来るだけ拡大しておいた方が良いだろう。
「汚れものをどんどん回せ。 わしが綺麗にしてやるわ」
「すまないねえ。 助かるよ」
「何、これくらいは安い安い。 代わりにうまい焼き菓子の店でも教えてくれ」
「そうさね。 ここらで良い場所だと……」
リラさんとレントは、力仕事で怪我人や手当てが必要な人間に処置をどんどんしていく。二人とも怪我の処置には慣れている。
こういう病院では専門知識が必要だが。
少人数での旅で、いざという時は自分で自分を治療しなければならない二人は、色々な意味でスペシャリストだ。
病院全体も衛生的にしておく。
タオが帳簿を確認して、無駄がありそうな所をピックアップしていく。こういう支援も大事だ。
「僕から予算についての提案書は書いておくよ」
「ありがとねタオ。 薬はこれくらいで良いですか」
「ああ、助かった。 あんたは噂では恐ろしい破壊の権化だって話だったけれど、声を掛けて正解だったね」
「ふふ、人類の敵に対しては破壊の権化ですよ。 これからは、バレンツにもうちょっと薬を多めに卸すのと、サルドニカから予算が出るように声は掛けるので、それで対応してください」
礼を言われると、まあ気分は悪くない。
病院の手伝いが終わると、もう昼だ。
アトリエに戻りながら、座標を集めておく。
タオは座標を集める星図みたいな装置を使いこなしていて、座標の拡大なども出来るようだった。
「作ったあたしより詳しそうだね」
「まあ、この装置はとても分かりやすいからね。 サルドニカの方は、午後に回ろう」
「そうだな。 少し腹が減った」
「皆、口をゆすいで手を洗うのだぞ。 かなり厄介な病原菌の臭いもあった。 わしが消毒はしておいたが、あれらは体内で繁殖するでな」
カラさんの言うとおりだ。
エドワード先生にも、そんなことを言われたっけな。
アトリエに戻ると、クラウディア達が戻って来ていた。フェデリーカはなんか燃え尽きているようである。
昨日の戦闘で奥義を放ったみたいだし、まあ仕方が無いかなと思っていたら。
ボオスが話してくれる。
「幾つかのギルドが揉めてやがってな。 介入が遅れたら、血を見かねない状況だったんだよ」
「おいおい……」
「大物の魔物がごっそり消えて、安心したからだろうな。 ずっとサルドニカでブルブルふるえてただけの警備の連中も粋がりやがって、あのくらいは自分らでも倒せたとか抜かしてやがってな」
倒せないから。
あたし達が対処したのだが。
まあ、それはどうでもいい。
子犬に吠えられているようなものだ。いざとなれば一瞬で踏みつぶせるので、なんとも思わない。
ただ、フェデリーカは災難だっただろう。
それは良く分かった。
口から魂が出ていたので、手で口の中に押し戻しておく。
目が覚めたフェデリーカは、あわてて周囲を見回したが。ぐったりしていることは変わらない。
とりあえず、昼飯にする。
パティとクリフォードさんは、少し遅れて戻って来た。
「どうでした?」
「川の様子が妙だったから確認してきたが、やっぱりたまりがあったぜ。 ただ、ちょっと尋常で無い魔物が住み着いているようだったがな」
「……ふむ」
「アレは神代の奴だろうな。 とりあえず刺激は避けて離れた。 遺跡も幾つかあったが、興味が出るようなものは少なくともいける範囲にはなかったな」
そうか。
クリフォードさんのスカウトの技術は非常に高いので、内容について疑っていることはない。
いずれにしても、ちょっと面倒そうだ。
昼飯を食べたら、即座にまた皆で動く。セリさんは、アトリエの側で、薬草をわさわさ植物魔術で育て、収穫し、品種改良を一心不乱にしていた。それで良いだろうと思うので、何も言わない。
また、それぞれに繰り出す。
午後からあたし達は、サルドニカで、更にはサルドニカの北での座標集めだ。
フェデリーカとクラウディアには、病院での話はもう伝えてある。
まあお薬はどんどん新しいのを開発しているし、作ったぶんはどんどんバレンツに卸しているので、問題は無いだろう。
ただバレンツも輸送なんかの経費があるし、慈善作業をしている訳ではない。
あたしがそれだけたくさん作って、バレンツで売ればいい。
今の段階では、それで回る。
いずれテクノロジーが回復すれば、お薬もテクノロジーで作れるようになるはずなので。あたしはそれまでは、自力でやっていくしかない。
いずれにしても、一度ロストテクノロジーになり果てたのだ。
それは、人間の手で。
どうにかしないといけないし。
同時にまた神代を到来させてもいけない。
それについては、やはりあたしが魔王になって。人間が万物の霊長だとかほざかないように。抑止力になるしかないだろう。
座標を集めていると。
タオがえっと声を上げた。
サルドニカを出て。少し北上した辺りだ。
熱心に星図を触って、情報を調べている。リラさんが、周囲を警戒しながら、タオに言う。
「何かトラブルか」
「ええ。 いきなり座標の一部の数字が変わったんです。 今までは連続性が見られたのに……」
「とりあえず、情報を集め続けよう」
「うん、分かってる。 僕は知っての通り集中していると周りが見えないから、護衛は頼んだよ」
勿論任された。
周囲の警戒を続けながら、座標を集めていく。この辺りの座標は百ほど集めたか。
夕方になったし、サルドニカから少し離れたので、戻る事にする。
この辺りの入植地は、フェンリルが出たと言う事であわてて一度人が離れたようだが。今は順番に帰還しているようだ。
ただ、鉱山までしっかり調べておかないと、何があるか分からない。
前回は調べられなかったから、今回でしっかり調べるしかないだろう。
サルドニカで、クラウディアと合流。
タオが書いた書類はぐうの音も出ない出来で。
フェデリーカも、あっさり通す事が出来たそうだ。
実際問題、露天掘りしている鉱山での採掘における人的被害の損耗については、サルドニカでも思うところがあったらしい。
傭兵を増やして魔物に対策しても、それでも落石などで出る被害者はどうしてもあるのが実情だ。
それを考えると、医療のリソースを増やすのは、ある意味当然で、絶対に必須なのであるのだから。
アトリエに戻ると、セリさんが仕事を切り上げて、横になっていた。リラさんと同じようにたまにソファで猫になるんだな。そう思う。
ちょっと遅れて、クリフォードさんも戻ってくる。
高地の方を調べてきたが、やはり遺跡は安全圏内には存在していないようだという。
そうなると、鉱山の方を重点的に調べるしかないだろうな。
あたしは、そう判断していた。
「フェデリーカ、ドゥエット溶液の性能向上は、まだ先で大丈夫かな」
「たしかサルドニカの滞在予定期間は二週間でしたよね。 その期間内での納品だったら、大丈夫だと思います」
「……よし。 神代のものと思われる魔物がいるのなら、それを倒せばそっちは一段落する筈。 神代の鉱山を、ちょっと先に漁るか」
「それについてなんだがな」
ボオスが挙手。
幾つかの資料を集めてくれたそうである。
見せてくれたのは、冒険家の手記だ。
百年の時もあれば、無理をする人物も出てくる。サルドニカにも命知らずがいて、神代のものらしい鉱山に出向いて、生還していたそうだ。
「とりあえず買ってきた。 内容の吟味は頼む」
「どれ……」
タオが手に取り、クリフォードさんも覗く。
二人がにっこにこのわっくわくの様子で本を読み始め、ああだこうだ議論し始めるので。パティすら呆れる。
まあ、それはいい。
先に夕食だ。
夕食を仕上げている間に、風呂が沸いたので、先にそっちに入っておく。なお、病院で動いた勢には、先に病気に対する耐性が上がる薬は配ってある。それに加えて手洗いうがいも済ませた。
病気になることは、まずないだろう。
夕食が出来た頃には、タオとクリフォードさんはこっちの世界に戻ってきていたので。皆で夕食を囲みながら話を聞く。
それによると、鉱山に潜入して、色々なものを見たらしい話が、だいぶ誇張されて記載されていたそうだ。
まあそうだろうな。
命がけで、神代の魔物も出るような鉱山に潜ったのだ。
生きて帰っただけで儲けもんだし。
何より、尾ひれも話につくだろう。
それでだ。タオとクリフォードさんの話を聞く限り、信用できそうな記述は三つ。
鉱山は、今それらしいものと喧伝されているものではなく、更に奥にあるらしいということ。
つまり、どうも神代のものらしいとされている鉱山は、やはり前に調べたものとは別物。前に調べたのはフェイクかそれとも、古代クリント王国から神代に掛けて掘られただろうもの。
鉱山には強力なシールドが張られているらしい事。
だがそのシールドは経年劣化もあって、だいぶ隙間があり。鉱山に潜り込んだ命知らずは、それを通ったらしいこと。
深部には見た事も無いものがわんさかあったが、そもそも魔物が多数警戒していて、持ち帰るどころではなかったこと。
以上である。
神代の魔物に対する大立ち回りなんかは、話半分に聞き流すべきだろうとタオが言っていて。クリフォードさんも同意していた。
意外に時々クリフォードさんもロマンがないなと思ったが。
多分クリフォードさんの求めるロマンとは違うのだろう。
冒険者に人生を捧げているレベルの人である。
それは色々な言葉が一般的な定義と違っていても不思議では無い。今更驚くような事でもない。
「問題は場所だね」
「それもあるけれど、あの居座っていた前のフェンリル。 ひょっとすると、その冒険家のせいで出て来たのかも」
「!」
「サタナエルっていうあの魔物が連れ出してきた巨大なサメなんかもそうだよ。 神代の錬金術師が番犬代わりに配置した魔物の一部だったとすると。 恐らくフェンリル級のはもういないとしても……多数の弱いとはとても言えない魔物との乱戦になる可能性は否定出来ないよ」
タオの言葉に、みな黙り込む。
サタナエルの様子からして、恐らく最強の手駒を揃えてきただろう事は想像がつく。
だが、戦闘が長引けば、もっと魔物を繰り出して来た可能性だって否定は出来ないだろう。
だとすると。
準備は必要だ。
「よし、スケジュールを決めるよ」
あたしが言うと、皆緊張する。
まず第一に、鉱山までの道を確保する。
これは恐らくだけれども、フェイクの鉱山ではなく、もっと奥にある。今までは、サルドニカの人間では生きてたどり着けなかったほど危険な場所と見ていい。
薬に加え、装備類は出来るだけ調整する。
生きて帰るのに、必要な事だからだ。
この準備に一日掛ける。
それから出撃して、鉱山に。鉱山の攻略そのものには、四日を見込む。今回は遺跡の調査が入る可能性が高い。
そしてアンペルさんが全面的に協力してくれることもあるし、前の王都での探索よりも、だいぶ調査の速度を上げられるはずだ。
タオもクリフォードさんも、更に技量を上げているだろう。
二日で魔物を全部駆逐して、その後二日で調査を終える。
予備日を一日とっておく。
これで六日。
その後、高地に出向いて、ドゥエット溶液の原材料になりそうな水を、たんまりと集めておく。
これに関しては、技術が更に上がっているから、大量に水を用いれば出来そうではあるのだけれども。
ただそれをやると労力と時間が見合わないだろう。
更には、こっちにも強力な魔物が……神代の連中が番犬代わりに作っただろうのがいるのは確定だ。
だとしたら、此方にも遺跡がある可能性は高い。
此方も調査含めて三日を見込む。
予備日もあわせて四日だ。
更に、色々問題が起きる可能性もある。それらの予備日も作っておく。
今の時点で、十三日あるので、三日ほど余ることになるが。時間が余ることに問題はない。
これで良いだろう。
それにこれはあくまで予定だ。
最悪の場合は、滞在を延ばせば良いだけである。
ただ、神代の連中が、いつ群島を引っ込めるかわからない。それを考えると、遊んでいる時間はない。
「これで問題は無いと思うけれど、何か意見はあるかな」
「ライザ。 余技になると思うけれど、いい?」
クラウディアが挙手。
それによると、一人のおばあさんに声を掛けられたそうである。
魔法のような技を使う人がいるんだってね、と。
まあ、あたしのことか。
「そのお婆さんのもういなくなった旦那さんが、遺品を残しているの。 魔石と硝子を用いて、庶民でも使える価格の自動的に光る街灯を作ったんだって」
「なんだって!」
「それはすごいな……」
ボオスとアンペルさんがそれぞれ反応。
それはそうだ。
火というのは、有限だ。
油を用いたランタンやカンテラはどこにでもあるが、油というのは結構コストが掛かるのである。
あたしも仕留めた魔物の脂は、小遣い稼ぎに売ってしまうことがある。それくらい貴重で、お金になるのだ。
木だってそう。
燃やせばなくなる。クーケン島では、薪を冬に向けて蓄えるのだが。だいたいは対岸に行って、幾つかの決められた地域に生えている木を、順番にきり。冬に向けて乾燥させていた。
この作業が結構重労働だった。
漁師も木の運搬は小遣い稼ぎにしていて、船を何往復もさせる。
ただ、これらの作業は、特に貧しい人の生活を圧迫していて。ちいさな集落の人間には死活問題なのだ。
それを全部クリア出来る可能性がある。
魔石は基本的に何処にでもあるし、なんならちょっとやそっとではなくならないのである。
フィーみたいに食べたりでもしない限りは。
いずれにしても、それは凄い発明である。
完成して、量産が出来れば。
つまり、それが普及していないと言う事は。
要は完成しなかったのだ。
「で、完成しなかったの?」
「色々問題があって、結局実用まで行かなかったんだって。 でも、一つだけ偶然が重なって出来た品があって、それをライザになおしてほしいって」
「……見せて」
頷いたクラウディアが、潰されたランタンを出してくる。
ふむ、デザインは凡庸か。
外側は硝子で、内部は魔石なんだな。
「どうしてこんな壊されてるんだろう」
「恐らくはギルド同士の対立が原因です」
フェデリーカがまつげを伏せる。
そういえば。今でこそある程度仲は戻っているが。そもそも前回サルドニカに来た時、硝子ギルドと魔石ギルドは、それこそ血を見るレベルで対立していたのだ。
このランタンを研究していた人は、その対立をどうにかしたいと思っていたのではあるまいか。
だが硝子も魔石も使うと言う技術は。
裏切りに見えた。
そういう事だ。
はっきりいって反吐が出る話だが。そういうものである人間は。今更驚くに値はしないだろう。
「分かった。 解析して、どうにかしてみるよ」
「お願いねライザ。 私も商売の事は基本的に優先して考えてしまうけれど、色々とひどいことばかりしている神代の所業をみて思ったの。 ああいう人達は、多分自分は絶対に正しいと思っていたし、自分は現実主義者で、エゴを満たすためにはなんでもしていいと考えていたんだ。 だからどんな残虐な事でも平気でしたし、どれだけ酷いことだって笑いながら出来た。 私は、商売人だから、どうしても現実をもとにものを考えなければならない立場にいるけれど。 その先にあるのが神代というのに気付いたから。 絶対に、こういう悲劇は見過ごさないと決めたの」
「立派だよクラウディア。 それでこそあたしの親友だね」
これは心からの言葉だ。
さて、今日は寝る前にやる事が出来た。
この潰れたカンテラの技術を完成させる。
硝子と魔石の技術を融合させるなら、素晴らしい彫像だのよりも、こういうテクノロジーの方が良いはずだ。
先に、フェデリーカに渡しておく。
専門家に先に見せておいた方が良いだろう。だが、フェデリーカは一目で問題点を見抜いたようだった。
「これはたまたま魔石の魔力伝導が上手く行って輝いただけで、技術的に完成しているとはとても言えません。 残念ですが、灯りの寿命も破壊されなくても長くは無かったでしょう」
「ん。 それでどうすれば良いと思う?」
「魔石の力を引き出す構造が必要になると思います。 それと、魔石を交換できるために、ランタンの形状を……」
「形状については設計図を起こしてくれる? 出来るだけもとのデザイン……潰される前のを忠実に再現した上で」
フェデリーカは頷くと、やっと得意分野に触れるからか。
ささっと図面を作り始めた。
さて、あたしは錬金術でこのランタンを蘇らせる。
明日からはまずは鉱山調査からだが。それと並行して、このランタンもどうにかまた命を吹き込んであげたかった。