暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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サルドニカの争いは、まだも水面下で続いてはいます。

両ギルドは技術的な興味を持ったことで和解しましたが、何を作るかで決定打を出せていないのです。

ここはライザが面倒を見る必要があります。


希望と未来
序、硝子と魔石と争いと


フェデリーカが作ってくれたレシピ。それを見ると、この街灯はとても美しい光を放つ仕組みになっていたのだと思う。

 

クラウディアが街灯をたくされたお婆さんにはあたしも会って、話を聞いて来た。

 

なくなった夫が、若い頃から研究を進めていたもので。周囲から後ろ指を指されながらも研究を続け。

 

失敗を重ねながら、完成した一つで。

 

もうあの人はいないけれど。

 

それでも夫婦の大事な思い出なのだと言われた。

 

それを踏みにじった無法者共はもうどうでもいい。

 

硝子と魔石の二大ギルドが融和に向かっている今、じきに淘汰されるだけ。今更旗を変えようとも遅いだろう。

 

兎に角今は。

 

これを完成させるだけである。

 

ギルド長達は、いずれにしてもリアリストだ。

 

今のギルド長……アルベルタさんとサヴェリオさんが、どっちもリアリストで、故に融和路線を選べたのはとても有り難い話だった。

 

あたしも二人の仕事場を見て、短時間で技術を吸収できたのも、現実的に仕事を体系化していてくれた、という点もあるだろう。まあ魔石ギルドはそれでも保守的な空気があったが。それでもあたしが一目で理解出来る範囲だったから、可とすべきだ。

 

ともかくあたしは忙しく彼方此方を見て周り。

 

時に困っている人を助けもし。

 

そして調合を進めてもいた。

 

ほどなくガワは出来る。

 

問題は魔石を光らせる仕組みだが、幾つか試作品を作って見る。実はこれは、あたしにとっても有意義だ。

 

グランツオルゲンの強化が限界近い今。

 

セプトリエン……魔石の究極を解析する意味もある。

 

そうすれば、鍵を守る強力な金属だって作り上げられる筈だ。勿論、今回で全て上手く行くかは分からないが。

 

ともかく、やれるだけはやらなければならない。

 

「なるほど、魔石の魔力を自動で熱変換しても、光らせるための媒体が燃え尽きてしまうんだね」

 

「はい。 試作品ではたまたま媒体が長持ちしたようですが、それも現実的な時間もたせられるかというと。 更には高度すぎる魔術を組み込むと、量産出来る品ではなくなります」

 

「……だとすると、単純に灯りの魔術を魔石媒体で発動する仕組みにしてもいいかな」

 

「灯りの魔術ですか……」

 

灯りの魔術。

 

汎用性が極めて高い代物で、だいたいの系統の魔術でも、応用で発動できる。

 

ただ魔術なので使うと魔力を消耗する事もあって、誰かしらがずっと発動していると、それだけで人手が取られてしまう。

 

貧しい家では灯りを取るときに使ったりもするのだが。

 

使っている間は、その人は基本的に何もできなくなってしまうと言うどうしようもない現実もある。

 

だが、魔石を利用すれば。

 

その問題を解決できるだろう。

 

「問題は光の色ですね。 目に優しい色を作り出せるかどうか」

 

「うーん、試作品は本当に奇跡的な産物だったんだね」

 

「とにかく、方向性は悪くないと思います。 試作品をお願いします」

 

普段と立場が逆だ。

 

あたしはエーテルに溶かした魔石を。

 

しかもこの辺りで取れる魔石を使って、幾つも試作品を作る。

 

難しすぎるものだと量産は出来ない。

 

というか錬金術でしか作れないものでいいなら、即座に完成品を仕上げられるのだが。今求められているのはそうではないのだ。

 

幾つか案を出し。

 

その度に駄目出しされる。

 

時間が容赦なく過ぎるが。

 

それでも、この作業には意味が大いにある。

 

他にも、薬や爆弾を補充する。

 

なお、皆の殆どは、あたしが動けないうちに鉱山と高地の偵察に向かって貰っていた。無理だけはするな。

 

そういうだけで、今の皆なら大丈夫だろう。

 

セリさんだけは、アトリエ側の畑で薬草の調整をしているが。

 

これもまた、当然の権利なので、あたしは何も言わない。

 

昼になって、クラウディア達が戻って来た。

 

前に調べた鉱山を無視して更に奧まで行ったらしいのだが、例の手記の記述と矛盾しすぎていて、迷いそうになって一度戻ったのだとか。

 

カラさんが、けらけら笑って言う。

 

「例の本を書いた者、適当を書いたのであろうな。 本人も道なんか覚えていなかったに違いあるまい」

 

「幻惑の仕組みの可能性はない? 王都近くの深森みたいな」

 

「多分違うと思う。 音魔術でもカラさんの探知魔術でも、全然そういうのは感知できなかったから」

 

「だとすると、あたしも出るしか無いか」

 

皆に休憩して貰い。あたしも軽く昼ご飯にする。

 

フェデリーカはずっと図面とにらめっこ。

 

あたしが作った試作品と比べて、集中して考え込んでいるようだった。

 

「集中してるし、放っておいた方が良いか?」

 

「いや、食べないと倒れるから」

 

レントにあたしは応じて、フェデリーカに「戻って来て」貰う。凄い集中力で、タオと同じ人種だ。まああたしも調合中は似たような状態になっているそうだから、似た者が揃っていると言うことだ。

 

皆で食事をしている内に、高原を見にいっていたクリフォードさんが戻ってくる。パティもしっかりついて行けているようだ。

 

食事をしながら、情報を交換する。

 

「遠目で確認したんだが、やべえのがいる。 いるのは分かっていたんだが、黙視できた」

 

「どんな相手でした」

 

「ネメドでみたような小山みたいな魔物だ。 例のたまりの辺りを調べるには、あれを倒さないとダメだろうな」

 

「厄介ですね……」

 

いずれにしても激戦は避けられないか。

 

とりあえず食事に集中。

 

食べたあとは、解散して、それぞれの作業に戻る。

 

フェデリーカがサルドニカに行ったが、別にそれはいい。一人でサルドニカに行っても、今のフェデリーカなら充分自衛出来るだろう。

 

しばし調合しながら、魔術を自動発動できるカンテラを仕上げる。

 

幾つか案を作ったが、魔石細工の技術を利用して、魔石の内側に光源を作る仕組みを考えて見た。

 

魔石をくりぬいた内側に魔法陣を描き込み、それで発動させるのだが。

 

サルドニカの魔石加工技術だったら難しいものでもないし。

 

何よりも、魔法陣によって発生させる灯りの色を変えられるので、商品のバリエーションも増やせる。色を好みで変えられれば、それだけでかなり商品の競争力を作る事が出来るだろう。

 

また、サルドニカでないと交換部品は作れないし。

 

それに寿命も相当にもつ。

 

魔石に魔力を注げば、寿命を延長させることも可能だ。

 

よし、こんなものだろう。

 

フェデリーカが戻って来たので、さっそく見せる。フェデリーカは幾つか資料を持ってきていたが。

 

あたしが作ったものをみて、呆然としていた。

 

「これは拡張性汎用性、更には持続性、文句のつけようがないですね……」

 

「そっか。 じゃあ、ガワと組み合わせてみるかな。 灯りの色は……」

 

「ルジャーダの魔石とあわせるならこの色でお願いします。 硝子の色はこうで」

 

「よし、任せておいて」

 

見せられたのは、色の図鑑だ。

 

その程度の再現は別に難しくも無い。ただ、筋道が立ってから、完成させるというのはそれはそれで大変なのだ。

 

おやつの時間くらいに、試作品が完成。

 

部屋を暗くして、灯りをつけてみる。

 

街灯に使うのだ。

 

ある程度明るくないと、話にならないが。それでも光が強すぎると、優しい灯りにはならない。

 

それも考慮した上で、フェデリーカと何度も調整をして。

 

それで夕方少し前に、ついに完成品が仕上がっていた。

 

さっそくサルドニカに行き、お婆さんに見せに行く。丁度暗くなりはじめていた頃である。

 

完成品を見せると、お婆さんはさめざめと泣いた。

 

「良かった。 あの人が帰ってきてくれたかのよう」

 

「これは差し上げます。 壊れてしまった街灯も、修復しておきました」

 

「ありがとう、ありがとう素敵な魔法使いさん」

 

「錬金術師です」

 

苦笑いしながら訂正。

 

アトリエに戻ると、フェデリーカが一心不乱に設計図を書き始める。硝子ギルド向けと魔石ギルド向けで違うようだ。

 

タオが戻ってくると、計算につきあわされる。

 

クラウディアもだ。

 

ボオスがそれを見ていて呆れた。

 

「ライザ、お前の破壊力は本当にとんでもねえな。 サルドニカに来る度に、街が根本的に変わっていくじゃねえか」

 

「錬金術を正しく使えばこうなるだけだよ」

 

「そうだな。 奴らはそれを間違った……」

 

「うん」

 

ボオスも其処は異論がないらしい。

 

とりあえず、準備は終わった。グランツオルゲンも何度か手を入れて、インゴットは増やしている。

 

そして、錬金釜に放り込んで。

 

大太刀の量産に入っていた。

 

夕食が出来る前に、三振りくらいは作っておきたい。

 

フィーが袖を引く。

 

三振りで丁度夕食か。

 

「ありがとフィー」

 

「フィー!」

 

東の地に出向くまでに、大太刀を揃えておかなければいけない。だからこうして、こつこつと作るのだ。

 

それも、あくまで合間の作業。

 

夕食をとる。

 

温かいスープを中心としているが、焼きたてのパンもある。肉料理に関しても、満足出来るだけの量があった。

 

しっかり食べて、消耗した分は補給しておく。

 

アンペルさんが、不意に話を振ってきた。

 

「時にライザ。 座標集めの件だが……」

 

「高地の方も、出向いたときに集めます」

 

「ああ、それは頼む。 昨日異常が生じたのを覚えているか」

 

「はい。 ある一線を越えたら、急に座標がおかしくなったんですよね」

 

頷くと、アンペルさんはいう。

 

座標がおかしくなった辺りを念入りに調べたが、特に異常は無いそうである。だとすると、何が起きたのか。

 

可能性としてあげられるのは、神代の人間が世界を自分達の基準で区分けしていた、ということだ。

 

「座標を集める装置は、奴らの技術によるものだ。 だとすれば、奴らの区分に沿って座標が回収されてもおかしくない」

 

「確かにそれが一番有力そうですね」

 

「もう少し検証が必要だがな」

 

「……まあ、もっと座標を集めて調べましょう。 いずれにしても、表層に座標が出ていると言う事は、この世界からずれてはいないでしょうし」

 

統計は数を武器にする学問だ。

 

だから、そうやって調べて行けば良いだけの話である。

 

今日はここまでだ。

 

おいおい休む事にする。

 

パティは外で軽く素振りするというので、遅くならないようにと声だけ掛けて。ライザは風呂に。

 

汗を流す効果よりも、体を温める事の方が今はありがたい。

 

無心で風呂に入っていると。

 

色々と考えてしまう。

 

まあ長風呂も無益だから、さっさと風呂を出る。

 

寝床に転がると、伸びをした。フィーはよこでもう眠り始めている。すっかり支援が板についていて。

 

あたしとしては助かるばかりだ。

 

パティも戻って、みんな寝る。

 

あたしは暗闇の中でぼんやり考える。このままサルドニカを更に復興させた場合、次の世代になるとどうせまた利権やら何やらで面倒な事になるだろう。

 

フェデリーカにも、釘を刺しておくか。

 

もうフェデリーカはあたしを充分怖れているとは思うが、それでもサルドニカにも、神代の轍を踏んだら潰すというおどしを掛けるべきだろうとは思う。それは絶対に必要な事だ。

 

今の世代が良くても。

 

次の世代も優れているなんてことは、ないのだから。

 

特に今は二大ギルドの長がどっちもまともという、非常に希有な状態だとみて良い。こういう場所はすぐに油断するとダメになる。

 

利権を保持することだけ考えたり、如何に金を稼ぐかだけを考えたり。職人を最悪奴隷化することまで考えるかも知れない。

 

そういう輩がでた時には。

 

あたしが首を狩りに行くと、先に釘を刺さないといけない。

 

そして金に目が眩むと人は変わる事もある。

 

人が良い方向に変わる事は滅多にないのだが、悪い方向へは簡単に変わるものなのである。

 

だからフェデリーカには。

 

後で余計に釘を刺さないといけないだろう。

 

そんな事を考えている間に、夢を見る。

 

感応夢だ。

 

くたびれ果てた雰囲気の中年男性が、ずっと酒を飲んでいた。フェデリーカが眠っている寝台を見て、大きなため息をついている。フェデリーカは三歳か四歳だろうか。

 

「腐りきったギルドを、この子に託すことになるのか。 血統制ではないギルド長の座だ。 できる事なら、硝子か魔石のどちらかに託したかったが、あれらはダメだ……」

 

男性は嘆く。

 

ドゥエット溶液や、それを用いたランプカバーを考案した人だ。

 

職人としても優れていて。

 

研究者としてはイマイチだったが。それでも、この街を憂い、粉骨砕身を尽くした偉人だと言える。

 

感応夢で見ているということは。

 

フェデリーカに、この人の無念が引き寄せられたのかも知れない。

 

「今でこそ真面目で素直なこの子だが、先代のギルド長も若い頃はとても真面目で責任感があった。 それなのに三十路になる前には彼処まで腐れ果てていたと聞く。 俺は一体どうすればいいのだろうな。 フェデリーカがあんな奸物になり果てるのだけは勘弁ならん。 それに……フェデリーカを支えてくれるかも知れなかったあの子も、死んでしまった……」

 

恐らくフェデリーカのなくなった婚約者の話だな。

 

そう思うと、気の毒になる。

 

あのサルドニカの外の病院を見る限り、あまり良い医者もいないし、そもそも医者の社会的地位が低いのかも知れない。

 

それにあたしが始末するまで、サルドニカの周辺は強力な魔物のエサ場に等しかったのだ。

 

どっちにしても長生きは出来なかったかも知れない。

 

ぐにゃりと光景が歪んで。

 

ギルド長が老ける。

 

フェデリーカは十歳くらいで、もう仕事の一部を代行しているようだ。良い娘だったのだと思う。

 

普通反抗期だの何だので、父親には徹底的に反発するものだ。

 

恥ずかしながらも、あたしにも覚えがある。

 

あんないい父さんなのに。

 

フェデリーカが真面目に仕事をこなしているのを見て、もう老人のように老けてしまったギルド長は、出かけて来ると言って、あたしも知っているギルド本部を出る。アンナさんとは別の、だが同じ一族らしい女性が、その背中を見守ったようだ。やはりあの一族、ずっとギルドに出入りしているらしい。

 

必要とあれば、腐敗した奴を消していたのだろう。

 

それは容易に分かる。

 

王都でもそうだったのだから。

 

咳き込むフェデリーカの父。

 

咳には血が混じっていた。

 

「俺はもうどの道長くない。 硝子と魔石の毒気を吸いすぎたからだ。 権力闘争を続ける毒虫どもの悪しき気に晒され続けもした。 だが、フェデリーカのためにも、魔石と硝子の和解の道は残さないといかん。 それには……俺のようなボンクラでも、時間を掛けて出来る事はしないといかんのだ。 あれだけは、あれだけは……完成させないと」

 

ドゥエット溶液のことだな。

 

この様子だと、フェデリーカの父である先代ギルド長は、結局長くは生きられなかったのだろう。

 

命を燃やし尽くしたのだ。

 

才能はなかったかも知れない。

 

だけれども、その志と意思は、フェデリーカに受け継がれた。

 

血統が大事だったのでは無い。

 

命を賭けてこの人は、志と意思をフェデリーカに引き継いだのだ。

 

それを残念ながら、あたしが出向くまでアルベルタさんもサヴェリオさんも気付いていなかったようだが。

 

やはり血統なんてどうでもいいものなんだな。

 

あたしはそう思って、ため息をつくのだった。

 

目が覚める。

 

起きだすと、声が聞こえたような気がした。

 

ありがとう。

 

あたしは頷く。

 

感応夢の内容は覚えている。或いはフェデリーカの父が、来ていたのかも知れない。そして、サルドニカが今第二の発展の時を迎え。長く続いた硝子と魔石の争いも終わりつつある事を悟って。

 

安心して、あの世に行ったのかも知れなかった。

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