暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
天敵とも言える難敵神代鎧の出現。
今まで比較的順調に来られていたライザ達は、大きく足止めを貰う事になります。
それでも進むのは、ライザが隔世の英傑であるがゆえです。
苛烈な戦闘ではあったが、前々日の戦闘に比べれば皆消耗が小さかった、と言う事もある。
疲労も小さく。
早めに撤退する事を決めたこともあって。
翌日は早々に鉱山もとい遺跡に入り込む事が出来た。
まずは幾つかある通路の先まで入る。
タオの言っていたとおり、袋小路の先は幾つかの部屋になっていて。それは古代クリント王国の、火山や古城にあった研究施設より、ずっと進んだ文明で作られていると一目で分かるのだった。
本棚もデスクも、明らかに次元が違うテクノロジーで作られている。
タオが本を早速取りだすが、やはり劣化は一切していないようだ。紙すらもが現在の文明とは根本的に違い、しかもそれが量産されていたという事が分かる。
クリフォードさんが机を触ると、目を細める。
「前に遺跡で殆ど同じデザインのものを見た事がある。 これは量産品だ。 それも環境が良かったとは言え、まったく劣化していない」
「とんでもないですね……」
「ああ」
フェデリーカも職人だ。
硝子と魔石以外にもサルドニカにはギルドがあり、職人もいる。家具職人だっているだろう。
だからこそ、それが如何に凄まじい事か分かるのだ。
一度、本だけは回収する。
遺跡のコントロールをこっちで握った方が良い。他の部屋も調べる。壁にプレートが掛かっていて、文字が書かれていたが。
その文字も、明らかに手書きではない。
「ライザさん、この文字も……」
「うん。 手書きじゃない。 活版印刷よりももっと進んだ技術で、この文字が書かれたプレートそのものを生産したんだと思う。 錬金術によるものかまでは分からないけれどね」
「そんな技術があったのに……」
パティも悔しそうだ。
王都のテクノロジーがロストテクノロジーと化していて。
去年あたしが王都に出向いたとき、機械をあらかた直した。だがそれは、技術が死んでいるから、ただ王都の状況を延命措置しただけ。その現実を。パティは文字通り当事者として知っている。
だからこそに、技術が現役で動いていたのに、外道に墜ち果てた神代の事は悲しくてならないのだろう。
あたしも気持ちは良く分かる。
正直な話。
幼稚な覇権論を口にしている事からも。あまりにも手に余る技術を、神代は手にしてしまった。
そうなのだとしか思えない。
ただ、こんな凄まじい技術が、もっと残っていないと言うことは。
神代の錬金術師のような、ごく一部の輩しか、その恩恵を得ていなかったのかも知れなかった。
タオが文字を解読し、あっちを先にと指さす。
制御室だそうだ。
ならば、先に行っておくべきだろう。
通路の先にあったのは、見慣れない機械が多数並んでいる部屋だ。タオは分かるらしく、操作を始める。
光学魔術による立体式操作盤。
クーケン島の地下にあったのと同じだ。
文字は流石にタオも難しいものが並んでいるらしく、四苦八苦しながら解読しているようだが。
解読出来るだけで、今やタオはクーケン島の頭脳では無く。
人類の頭脳だと言えた。
「クリフォードさん、彼方の装置を……」
「おう、任せておけ」
「私も手伝うか」
「お願いしますアンペルさん。 彼方の装置を……」
うちの学者三人衆が動く。
それぞれ機械を操作していたが、ふっと遺跡が明るくなった。音も何もしなかった。天井に埋め込まれている機械が光っている。
あれはそもそも、どうやって動いている。
「よし、灯り回復。 次は換気を回復させるよ」
「よろしくタオ」
「任された。 これで最悪、何かに襲われてもライザの得意な熱魔術で対応できると思う」
それは有り難いな。
ほどなくして、ぶわっと風が吹く。
カラさんは即応して、皆を風のシールドで守ったようだが。あしもとの埃なども、何処かへ飛んで消えていく。
口を押さえていたクラウディアが、視線を向けた。
天井の一角に穴があり、そこから埃を吸い出しているようだった。
「エラーが出てるな」
「これだけの長期間動いていなかった遺跡だ。 それは壊れもするだろう」
「いや、違いますアンペルさん。 このエラーは、恐らく僕達が破壊した神代鎧のものです。 ……生産システムがまだ生きてる。 これから停止を試みます」
「やれやれ、私に出来る事はもうないな」
クリフォードさんとタオがてきぱきと進めていく。
その間に風は止み、積もっていた埃もなくなった。パティが荷車から飲み物を持って来て、頭脳活動中の三人に配る。
あたし達は周囲を警戒。
この遺跡はついさっきまで死んでいたとしても。
後から神代の手先共が入り込んで来てもおかしくは無いからだ。
「よし、生産ライン停止。 よっぽどここのセキュリティに自信があったんだろうね。 権限アカウントにパスも設定していなかったよ」
「どんだけ凄いセキュリティでも、使う人間次第って事だな。 此処の連中は、間違いなくオーリムに攻め寄せたクズどもと同レベルだったと見て良さそうだ」
「地図が出たよ。 全表示するね」
立体映像で、地図が出る。
おおと、声が上がる。
あたしも見る。
心臓部はかなり大きく取られていて、何かしらの巨大装置が存在しているようだ。それの周囲に幾つかの装置があるが、それらは今は動いていないようでもある。
更にタオが言うには、他の部屋も全て用途が分かったという。
心臓部の奧にはとくに何もなく。
他は研究施設と、宿泊施設、それに娯楽室などだという。
一応、全員で全ての場所を見て回る。
明らかに古代クリント王国時代のものとはテクノロジーがレベル違いだ。心臓部にある機械は、解析しないとどうなっているかさえ分からない。カラさんが唸る。
「これは……魔力をどこから供給されている。 燃料などを使っているようには見えぬが……」
「竜脈から吸い上げている気配はないですね。 どこかから転送されているようにさえ見えます」
「おいおい、動力の転送だって?」
ボオスが嘆く。
冬の燃料集めに苦労しているクーケン島の長だからこそ出る嘆きだ。あたしも、超技術だと思う。
遊戯室には、まだ遊べそうな遊戯盤が幾つもあった
ルールはよく分からないが、触る理由も無い。
休憩室は、ベッドが何段にも積まれていて。トイレも風呂もしっかり完備されているようである。
北の里よりも技術がだいぶ上だな。
あたしは口に出さずに、そう思う。
ともかく此処も凄まじい技術によって作られている場所だ。一通りみて回った後、タオに頼んでまた遺跡のシステムをとめて貰う。
あの動力。
どこから来ているか分からない。
それが、とても嫌な予感を想起させた。
タオは光学操作盤からログを確認し、凄まじい勢いで要点だけメモを取ったようである。
それで一度引き上げる。
大量の本。
そして心臓部でまとめられていた鉱石。
回収出来たのはこれらだが、これらだけでも充分過ぎる程である。すぐにアトリエに戻る。
やはり戦闘がないと早い。
まだ午前中だ。
フェデリーカはボオスと一緒にサルドニカに。タオとクリフォードさん、アンペルさんは本の解読に入った。
セリさんは植物の改良に。
あたしは鉱石の解析に入る。
他の皆は、レントが誘って、辺りの魔物を駆逐しに行く。特に高地の魔物はこの辺りでは頭一つ抜けて強い。
出来るだけ駆除しておいた方が良いだろう。
クラウディアは料理を始めたが。人員は充分過ぎる程だ。
黙々と調査をしていると、フィーが何かに気付いたようである。
「フィー!」
「うん? フィー、どうしたの?」
回収してきた荷車の上を飛び始めるフィー。
頷いて、探してみる。
ほう、これは。
かなり興味深い。
鉱石の中に、ちょっと違うのが混じっていた。
どの鉱石も、見た事がないものばかりだ。ただ、フィーが見つけたと言うか気付いた奴は。触ってみるとじんわり温かい。
これはセプトリエンや魔石とは別方向で、魔力を蓄えている鉱石らしい。
面白いので、研究を進める。
しばらく無心に研究していると、昼の時間になった。
これから残りの時間は、本の解読待ちだ。あたしの方も、しばらくは鉱石の研究で手をとられる。
昼を食べながら、軽く話をする。
タオが、分かった事実をまとめてくれた。
「あの施設は、どうもこの世界で作れる最高の合金を研究していたみたいだね。 他にも似たような施設は幾つもあったらしいのだけれども、どれも説明を見る限り、神代から古代クリント王国に掛けて、人が入れなくなった土地にあるみたいだ」
「ああ、汚染だの魔物が大量発生して、人が追い出された土地だよな」
「うん。 あの施設だって、ある意味そうだよ。 入り込んだ人は、本当に入口だけで引き返したんだろうね」
タオは続ける。
合金の素材になる鉱石は、地下の深くの深くでしか取れないらしく、中心部の巨大装置で掘り出していたらしい。
専門用語が多くわかりにくかったそうだが。
今の時代では、採掘は難しそうだ、という話だ。
「そんなものを、神代の奴らは潤沢に掘り出せたってことか」
「そうなるね。 ちょっと気になったのは、あの施設で働いていた研究者達は、たくさん不平を零しているんだ」
「なんでだ。 最先端の技術なんだろ」
タオはそうではなかったらしいと言う。
クリフォードさんが、代わりに続けた。
「どうも神代の錬金術師も一枚岩じゃなかったらしくてな。 今で言う王族貴族みたいな連中や、ひらの錬金術師がいたらしい。 それも別に実力で選抜されていたわけでもなく、血統で選抜されていたみたいなんだよ」
「ああ、納得いきますね。 サタンやらサタナエルやらが、劣等血統って言っていたでしょう。 あれらは脳みそを弄られていましたし、つまり作った奴らがそういう事を日常的に口にしていた、ってことですよ」
「反吐が出る」
レントが吐き捨てる。
リラさんも、同感だとぴしゃりと言った。
オーリムで幾つかの氏族を見たが、オーレン族に身分制度はないようだった。まとめ役はいるが、それだけ。気に入らないなら新しい氏族を立ち上げて、別の土地に行けば良い。そういう考えの種族だったからだ。
社会が小さいからなり立つ考えなのかも知れないが。
それにしても、神代の頃には馬鹿馬鹿しい血統による身分制度があり。今でも王都で井戸の中のカエル達が王族だ貴族だと喚いているような現状は。
確かにオーレン族からすれば、馬鹿馬鹿しいの一言なのだろう。
タオが続ける。
それによると、どうも最強の金属を開発するのに、魔石を圧縮してそれを媒介にする派閥と。
金属を合金にして。それを極めていく派閥が存在していたらしい。
二つの派閥では、前者が圧倒的な勢力を持ち。
後者は殆ど命令されるように、働かされていたようだった。
そうなると、あの高い性能を持つ神代鎧はみそっかすの産物、ということなのか。にわかには信じがたい話だ。
しかし、考えて見るとなるほどとも思う。
そもそも合理的に考えられる連中だったら。
神に近い存在だなんて名乗らない。
技術と権力だけ持ったバカの集まり。
それが、オーリムに侵攻した連中の実態。
勿論その技術を開発した存在はバカとは程遠かったはずだが。しかし、どうしてそうまで社会は劣化したのか。
ディアンも、素直に疑問を口にする。
「なあタオさん。 俺がバカだからかも知れないけど、わかんねえから教えてくれ。 なんでそんな俺でも分かるくらいのバカが、もの凄い文明を作れたんだ? 嫌な奴らで悪い奴らだけれど、技術は本物だったんだろ?」
「神代の歴史は分からない事だらけなんだ。 錬金術師はむしろ後発の存在だった、ということは分かっているんだけれど……」
「後発なの?」
「長い神代の歴史の中では、かなり後に出て来た存在だよ」
そっか。
いずれにしても、まだ分からない事だらけなんだな。
一度解散する。
なお、アンペルさんが技術書を見つけてくれたので、助かった。軽く説明して貰って、鉱石の配分などを確認しておく。
なるほど。
完成品に関しては、既に神代鎧の残骸から得られている。
だけれども。この合金をセプトリエンと……正確にはグランツオルゲンと組み合わせる事で。
更に強力な金属を作れるかも知れない。
食事の後、解散する。
今度はフェデリーカも、レントについて高地に行く。あたしは黙ってひたすら薬と爆弾の調合、それに研究を続行。
そうして分かってきたが、どうも神代鎧の構成金属と、グランツオルゲンの相性は最悪のようだ。
神代鎧に使われている金属は、「ハイチタニウム」と神代で呼ばれていたらしいが。
これを混ぜ合わせると、グランツオルゲンはむしろ弱体化してしまう。
何事もとんとん拍子に上手くは行かないな。
苦笑しながら、調整をする。
どうもハイチタニウムは、鍵との相性はかなり良いらしいが……ちょっと柔軟性が足りないか。
鍵はまだ強化が見込めると思う。
こうなったら、ディアンが心当たりがあると言う金属も調べてから結論を出すとして……である。
いずれにしても、鍵のコーティングそのものは、次の段階にいける。
まず、グランツオルゲンを中心とした合金で、鍵をコーティング。その外側を、ハイチタニウムを中心とした合金でコーティングする。
これで、鍵の強度を飛躍的に上げられる。
グランツオルゲンは魔力との相性が最高で、鍵を直接守るのはこれ以外には存在していない。
ただし合金にしなければ硬度が非常に低いので、そこは今まで錬金術で色々な鉱石と混ぜて、実用的な段階に強化していたのだが。
今回の件で、鍵のコーティングにも、グランツオルゲンそのものにも限界を感じていた。
一方ハイチタニウムは単純な硬度で言うと、今まで見た金属で最強だ。
欠点としては「粘り」に欠けるため、切れ味は最強のものを作れる反面。しかしながら刃をしならせるような実践剣技ではどうしても不向きなところがある。
神代鎧についても解析してみたが、やはりというか。
鎧部分はハイチタニウムを中心として、合金で粘度と柔軟性を強化し。
剣に関しては、もはや敵を斬る「刃」の部分だけにしかハイチタニウムを用いていないようだ。
これらの仕組みも、何世代にも掛けて作り出したのだろうけれど。
仕組みというのは、分かってしまえば再現は難しく無いのだ。
淡々と再現を続ける。
ハイチタニウムに関しても、中核になる鉱石が極めて稀少なことも分かったから。多分それもあって、これを研究する派閥の権力が低かったのだと、今なら分かる。
得意分野をそれぞれ担当して、切磋琢磨するべきだろうに。
どうして権力を一方的に得たかったのか。
それが分からない。
ため息をつくと、研究を続ける。鍵については、一段階アップしたと言って良いだろう。そして、今ならば。
出来る筈だ。
夕方、皆が戻ってくるのを待つ。
レントはかなり大きな鼬を狩って戻って来た。フェデリーカはまた口から魂が出ている。
パティによると、まだ不慣れな奥義の練習に皆がつきあったらしく。
三回も奥義をぶっ放したようで。
それで疲弊しきっているようだ。
まあ、話にも聞いているが。
神楽舞の奥義を三度も放ったとなれば。フェデリーカがそれだけ実戦で力をつけてきたということだし。
その練習を全力でしているというのは。
とても戦士としての成長が、楽しみでもあると言えるだろう。
ともかく、魂を口の中に押し込んでおく。
そうすると、はっと正気に戻るので、なんか楽しい。
「ライザさん、悪い顔しています……」
「あ、そっか……」
パティに指摘されて、へへと笑って誤魔化す。
やっぱり嗜虐心がフェデリーカに対しては刺激されてしまう。良くない事だとは分かっているので、控えないといけないが。
ともかくだ。
皆が集まったので、手を叩く。
ついに、鍵の強化、第一段階達成。
その成果を見せる時が来たのだ。
座標を集めている星図に鍵を刺し、座標をあたしの、クーケン島の近く妖精の森にあるアトリエに変更。
そして、鍵を石碑のコピーに突き刺す。
凄まじい負担が、鍵に掛かっているのが分かる。
おおと、皆が声を上げる中。
鍵が砕けて。
同時に、壁の一角が、うぉんと音を立てて歪み。其処に、空間の穴が。門と同じものが出来ていた。
「私は今、奇蹟を目にした……」
「同意見だ。 最初に神代の錬金術師と遭遇した仲間が、敵意をもてなかったのがよく分かる」
アンペルさんが瞠目し。
リラさんが頷く。
鍵は壊れてしまったが、なんぼでも作り直せばいい。いずれにしても、門の向こうに、前衛組と一緒に踏み込む。
門を抜ける。
あまりにも懐かしい光景。
間違いない。
あたしが何度も使った、あたしのアトリエだ。
「よし、成功!」
「すっげえ! ライザ姉、俺ライザ姉の側にいられて誇らしいよ! フォウレの里の辺りに住んでたら、一生こんな経験出来なかった!」
「ありがとうディアン。 何度か往復して、門の安定を確認しておこう」
これで、船旅をしなくても、サルドニカとクーケン島は簡単に行き来できるようになった。
これだけでどれほど状況が変わるか。
門を抜けたフェデリーカが、文字通り理解不能なものをみた猫みたいな顔をしている。カラさんは、門に触れて、解析をしているようだ。
「面白いなこれは。 惜しいのはこの技術を悪用されたということじゃろうな」
「あたしは絶対に悪用も、悪用させもしません」
「そうだな。 そなたの言葉は信用できる」
「……これで一つ問題はクリア出来ました。 だけれども、まだ多分、群島の奧の宮殿の先に行くには幾つもハードルがあります」
まず、鍵が一発で壊れるようではダメだ。
今の強度だと、同じ世界どうしてつながる事は出来ても、別の世界に行くことは不可能だと見て良い。
つまり、神代の本拠地には乗り込めない可能性が高い、ということだ。
更には、神代の本拠地の座標の獲得が必要だ。
タオがいうように、座標の数字の意味を完全に解読する必要があるし、なんなら神代の遺跡なんかでそのものをきっちり見つけないといけない。
門を開けた先が深海とかだったら、その場にいる全員が押し流されかねないのだ。
場合によっては、星図に更なる改良を加えなければならないだろう。
「タオ、クリフォードさん、アンペルさん。 本の解読を続けてください。 どんな記述に、どんなヒントがあるかわかりませんので」
「分かった。 任せておいて」
「レント、このアトリエに物資を集約するよ。 コンテナを荷造りして、集めて。 サルドニカのアトリエと、後群島のアトリエも」
「そうだな、任せてくれ」
特に群島の方は、いつ沈んでもおかしくないのだ。そもそももっとも慣れているこのアトリエで、調合をしたいというのもある。
あたしはこのまま研究続行だ。
門はしっかり安定していて、今後も閉じるつもりはない。
ただ、アトリエのセキュリティは強化する必要がある。
与太者の類が此処を制圧でもしたら、とんでもない災厄につながりかねない。事実神代の連中も、技術はともかく精神性は与太者そのものなのだから。
それぞれが動く。
フェデリーカはまたくらくらしていたようだが。
笑顔のクラウディアにつれられて、料理に入ったようだった。パティも門に手を突っ込んだりしていたが。
やがて考えたら負けだと思ったのだろう。
諦めて、料理に加わったようだった。
これで。
あたしは、神代の強みである門の再現に成功した。
それは大きな一歩だ。
奴らの根拠地に乗り込むには。
だがまだ更なる一歩が必要なのも、確かだった。
翌日までには。物資の収束は終わり。
クラウディアは、サルドニカとクーケン島のバレンツの支部に顔を出してきたようで、それらで手紙を幾つか早馬で飛ばしたようだった。
研究についてはある程度目処がたったし。
此処からは、サルドニカのための行動だ。
皆に集まってもらい、次の行動に出ることを宣言する。
当然、ドゥエット溶液の改善と。
サルドニカの百年祭の成功のための支援だ。
それには、高地にある、巨大な「溜まり」の解析と。其処に巣くっている強力な魔物……神代の存在の可能性も高いが。それの排除が必須になる。
まだまだ厳しい戦いが続く事になるだろう。
パティ用に、ハイチタニウムを利用した大太刀を新たに作る。
刃の切れ味を上げるためだ。
ただ、ハイチタニウムで全部を構成するわけではない。
またレントの大剣などの、受ける事も前提としている大型武器には手を入れるつもりはない。
程なくして仕上がるパティの新しい大太刀。
とはいっても、これは一体敵を斬ったら、色々手入れしなければならないような、必殺の一振りだ。
パティに渡す。
調整がいるからだ。
しばらくパティは振ったりして確認していたが、やはりちょっと重心を調整して欲しいと言われる。
勿論そうする。
しばらく調整を続けた後、パティは外に出ると。滅茶苦茶頑丈に作っておいた魔物の像に向けて。
刃を奔らせていた。
文字通り一刀両断である。
風がなるような音とともに、真っ二つになった魔物の像。これ、かなり頑丈に作ったんだけどな。
そうあたしは苦笑いしてしまう。
パティは刃を見て、目を細めていた。
「これは切り札の一刀にしか使えないですね。 普段は今の大太刀で行きます」
「手入れは任せて。 完全に復元しておくよ」
「ありがとうございます。 それにしても今の感触……多分下手な使い手がもつと、人斬りになりますね。 じわりと温かくて、斬る時の感触が強烈な快楽につながっています」
「……」
パティはもう剣豪といっていいレベルの使い手だが。だからこそに、今の言葉には重みがある。
凄い武器を持つと嬉しくなるのは、戦士に共通した習性らしいのだが。
確かに人を人斬りに誘うような剣は存在していて。
「妖剣」とか「魔剣」とか言われているそうだ。
最悪の場合、持ち手を獣にしかねない。
それを理解したから。あたしは、ハイチタニウムの扱いを気を付けようと、心に誓うのだった。
ただ、これでパティは、切り札の一撃の威力に関しては、ついに前衛組の中で最強になったと思う。
その一太刀は一度の戦いで一度しかふるえないだろうが。
今のパティが振るえば、神代の兵器だろうが、文字通り真っ二つに出来る筈である。
更にハイチタニウムには改善の余地もある。
特に柔軟性を手に入れた場合。
今後は、皆の力を更に引き上げる要因にもなるだろう。
準備を進める。
ドゥエット溶液の原液は、あまり体にいいものでもなかった。その溜まりとなると、毒ガスが溜まっている可能性だって低くない。
毒ガスの中には、一呼吸で死ぬようなものだってある。
それを考えると、下手に足を踏み入れるのは自殺行為だ。入念に準備をして、進まないと危ないだろう。
更には神代の魔物もいる可能性が高い。
エアドロップを陸上走行式にしても、あれで戦闘は出来ない。選択肢には入れられないだろう。
他の皆も、準備を進める。
レントはコンテナを集約完了。今後機会を見て、他のアトリエのコンテナと、別のアトリエのコンテナを、門でつなげてしまいたい所だ。
幾つも構想が湧くが。
それの全てを同時に実行は出来ない。
タオ達だって解析を進めてくれているが、一日で全部の本を読み終えるのはとても難しいだろう。
皆、出来る事を一つずつやっていくしかない。
それは地道な努力ではあるのだが。
それでも、その先に。
巨大な邪悪を打ち倒せると、あたしは信じていた。