暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
ライザは既に熟練の錬金術師であり、入念な下準備と調整の重要性を知っています。
何があっても対応できるようにしていくからこそ、勝ち残ってきているのです。
序、掃討を終えて
群島の最深部。宮殿らしいものがある島。そこで、数度の戦闘をこなす。襲ってくるのは、幽霊鎧が殆ど。
そもそも沈んでいた島なのだ。
流石に海を渡って魔物が来ている事もない。
少数エレメンタルを見かけたが、どれもそれほど強い個体では無い。ぷにぷにも同様である。
組織的な戦闘は数度で終わり。
それから、順番に探索に移る。
水が出ている。
それも真水だ。
一応魔力などを探知して、危険なものではないことは確認するが。革袋に入れて、持ち帰って調査する。
何カ所かで水が湧いていたが。
これはどれも、同じ質であるらしかった。
幾つか構造体も存在している。
クリフォードさんが見つけ出す秘密の地下室。扉は偽装されていたが、近付くだけで自動で開いた。
レントが扉の側について、その間に皆で調べる。
宝箱みたいなのがある場合もあったが。
中に入っているのは、殆どはインゴットだったり品質が高いゼッテルだったり。
錬金術師が喜びそうなものであっても。
「宝」ではなかった。
「せめて本はないのかなあ」
「タオはこういう所でも相変わらずだな……」
「まあね」
「……」
レントの言葉に嬉しそうなタオを見て。レントは呆れているようだった。
まあいい。
ともかく、調査を進める。
これは噴水だろうか。
水が出ているが、随分と独創的な形状だ。なんというか。いいデザインというのは、ぱっと見て心が動かされる。
優れた絵画、芸術なんかもそうだ。
それは芸術をするときに、心を表現するからだ、と聞いている。
善悪ではなく、己の剥き出しの心の自己表現。
それが響くのだと言う話だ。
だが、これからはそれを感じ取れない。
複雑な形状をしているのだが、なんというか。
自分の技量を自慢しているかのような、そういう空虚さを感じる。小首を捻る。
「なんだかコンクール用の彫像みたいね」
「コンクール用?」
「芸術って色々あるの」
クラウディアが説明してくれる。
クラウディアによると、芸術というのはある程度年月が経つと。「楽しく皆で想像力を輝かせる」ものから、「金持ちが喜ぶもの」に変わるらしい。
なんでも昔から、そういうのを「志が高い」と揶揄する事があるそうだ。
「つまり、お金持ちが喜ぶようなものだってことかな」
「だいたいそう。 或いは、芸術を極めたと自称しているような人達が喜ぶようなもの、かな」
「ふうん……」
「そういう芸術って、一握りの人に向けてしかわからないようなものになっているの。 これはそういうものと同じに思えて悲しいね」
そうか。
技術力はあっても、それを自慢のために用いているのと同じか。
或いはだが。
神代の頃が、どういう社会だったのか知らないが。
あたしに近い使い手がわんさかいたのだったら、錬金術師はそれこそ社会の中核になっていただろう。
錬金術師は王なんかより偉かった可能性が高い。
古代クリント王国もそうだったか。
だとすると、錬金術師は特権階級で。
自分らの間だけで自慢するためだけに、芸術品を作っていて。身内だけで品評していた可能性もあるわけだ。
なんだか、虚しい話だな。
そう思って、あたしは首を横に振った。
他にも調査をする。
宮殿は見えているが。残敵の掃討を兼ねて、周囲に危険なトラップがないかを徹底的に調べておく。
一応、迎撃用の戦力はあったが。
陰湿なトラップは存在していなかった。
それにしてもだ。
各地に戦闘の痕跡が残っている。
タオによると、一番古いもので四百年くらい前のものだそうだ。
幽霊鎧についても、どうも毎回補充されていた形跡があるそうである。補充したのは、後から来た錬金術師。
恐らくは、護衛戦力としてつれていた幽霊鎧を。
そのままのこしていったのではないか、ということだ。
一番最近、此処が浮上したのが恐らく百年前。
だとすると、百年前にここに来た輩が、敵を駆逐するのに幽霊鎧を連れて使用していて。用が済んだなりなんなりで、それを残していったのか。
理由は、なんだ。
後続を防ぐためか。
可能性はある。
ここに来た奴は、恐らくエゴが強い、あたしやアンペルさんとは違うタイプの錬金術師だった筈。
今までの歴史で、あたしやアンペルさんはどうも錬金術師として例外らしい。
去年王都に出向いたとき。残留思念の中で別の錬金術師である「不死の魔女」を見たのだが。
その人も、はっきりいってエゴが強い人物だった。たまたま門を封印しただけで。多分立ち位置が変わっていたら、古代クリント王国と同じ事をしていたのではあるまいか。
だとすると、あの強力な防御戦力は、独り占めのためか。
後から来る連中を閉め出して、自分だけで此処にあるものを独占しようとしたというわけか。
反吐が出る。
まあ、まだ確定はしていない。だから、ボルテージを上げるのは此処まで。
そう思って、まずは集合。
そろそろ良い時間だ。そろそろ引き上げて、一旦情報を整理する必要がある。それを告げると、全員で同意する。
かなりの戦闘をこなしたのだ。
しかも此処は地形が良くない。
また幽霊鎧がどこかしらから補充されている可能性もある。
それに何より、あの翼と槍持つ何か良く分からない奴が、姿を見せていない事も気になる。
セリさんが、頷くと。
接舷した辺りに、植物を使って、足場を作ってくれた。
「潮に強い品種だから、しばらくはもつわ。 これで一気に上がり降り出来る筈よ」
「ありがとう、助かる。 とにかく足場が悪くて戦い辛かったんだ」
「それと、不衛生なのは困るね……」
クラウディアが、周囲を悲しそうに見る。
死んだ海洋生物の死体が腐り始めている。大半は鳥がエサにしたようだけれども、食べきれなかったものはもう。
あたしは少し考え込むと、噴水を明日調べようと提案。
もしも真水を出せるのなら、それで島全域を一度洗い流してしまうのも手である。
腐敗した死体が汚いというのではなくて。
そもそも、病気になりかねないのだ。
戦闘ではどうしても手傷を受ける。今くらい熟練していてもそうだ。
あたし達は破傷風対策の薬は飲んでいるが。
そもそも、汚物が傷に入ると、どんな病気になってもおかしくないのである。今の状態だけで、防げるか分からない。
アガーテ姉さんから、最初に教わったっけ。
傷を受けたときは、即座に保護しろ。
絶対に裸足かそれに近い状態では戦うな。
汚物が傷に入るのは致命的だ。
最悪、それだけで手足を失う事になるぞ。
そう言われて、あたしは震え上がったのを覚えている。アガーテ姉さんが、冗談をほぼ言わない事を知っていたからである。
クラウディアの懸念もそれだ。
あたしとしても、頷かざるを得ないのである。
ともかく、幾らかの戦利品を手に戻る。
あの宮殿の嫌な気配。
多分強めのガーディアンがいる。
今日は宮殿の周囲は調査できた。
後は、宮殿の安全を確保したら、本格的な調査を始められると思う。
アトリエに戻ると、ボオスが来る。
かなり渋い顔をしていた。
フィーが頭に乗ると、面倒くさそうにはするが、文句は言わない。
つまり、何かあったということだ。
アトリエで一度ミーティングをして解散した後だったから。あたしとセリさんしか此処にはいない。
ボオスは咳払いすると、あたしにどうにかしろと言った。
「何かあったの」
「サルドニカの商人を率いている代表が、お前に会わせろとかなり噴き上がっていてな」
「はあ、あたしに?」
「諸島の調査をしているのがお前だという話をしたらな。 なんでも王都の機械類を全部直したことは、サルドニカにも伝わっているらしいんだよ」
去年、あたしは王都に出向いたとき。
壊れていたインフラと。
機械類を全て直した。
もともと王都に限らず、人類のテクノロジーは劣化する一方で。特に古代クリント王国以前から存在していたような機械は、壊れてしまったらもはや為す術がなく。どれだけ傷んでいても、だましだまし使うしか無い状況が続いていた。
それを直せば、確かに話題にもなるか。
この間見た、浅黒い肌の、髪を綺麗に切りそろえた子かな。
随分険しい表情をしていたように思うが。
あの調子で責められたら、王都で色んな人間と関わってきたボオスもそれは苦労するかもしれない。
「状況はどうせ明日ミーティングの時に共有しようと思っていたんだけれども。 とりあえず結論から言うと、多分簡単に調査ができる場所じゃないよ此処」
「やっかいだな……」
「多分心臓部になってる奧の宮殿までは辿りついたんだけれども、大量の幽霊鎧に襲われてね。 あれは多分、後続を防ぐための……前に来た錬金術師が嫌がらせに残したものだよ。 だとすると、前任者はあの群島に何らかの理由では来たけれど……何も得られなかった可能性が高いだろうね」
あたしやアンペルさんは例外。
錬金術師は基本的に強欲なものだ。
それも、世界と自分のエゴが対立した場合、自分のエゴを優先しがちなくらいに。
少なくとも、この世界の錬金術師はそうだ。
或いはエゴと錬金術師が上手くやれている世界が存在しているのかも知れないが。
この世界では、残念ながらそうではないのである。
「とりあえず、俺が食い止められるのもあまり長くは無いぞ。 相手はサルドニカの代表みたいな形でここに来ているようだからな」
「そんなに群島での影響が出ているの?」
「というか、サルドニカとしては幾つもの目的があってクーケン島に来ているらしくてな。 航路もそうだが。 さっきも言った通り、そもそもお前が目的の一つだそうだ。 クラウディアの話によると、バレンツから幾つかの物資を取引しているらしく、生産ラインにお前の物資が噛んでいるそうでな……」
「バレンツの方でやってよそんなの……」
別にインゴットやら布やらの生産を増やすのは問題ない。
今の時点で、あたしは負担を感じていない。
単純作業で往復しながらこなすだけだから、特に苦労はしないし。更に言うと、作れば作る程技術的な熟練も増す。
原価はあたしの苦労だけだから、ほぼ無から金を作り出せる文字通りの錬金術になるわけだが。
ただし、あたしも自然を滅茶苦茶にしてまで、納品している品の数を増やすつもりはない。
魔物を殺すのは別にかまわないが。
そもそも自然を無為に破壊するのでは、古代クリント王国と同じになるからである。
「とりあえず、明日宮殿のほうを調査して、制圧出来るかを確認するよ。 だから、最低でも明後日になるかな」
「最低でも明後日だな」
「うん。 これは短くはならないよ」
「はあ。 サルドニカの連中も、使節団単位で来ているからな。 いつまでも滞在できるわけではない。 それもあって、殺気立つのも分かるんだよな」
ボオスがぼやく。
あたしもその辺りは分かるけれども。
それに対して、どうこうは出来ない。
無為に急いで誰かを死なせたりしたら、それはあたしの責任になる。
とにかく危険な場所だと言う事を、追加で伝えておく。
ボオスも、分かっていると頷くと、戻っていった。
セリさんは奧で本を読んでいて、こっちに関わるつもりはないようである。
人間の馬鹿馬鹿しいパワーゲームには興味が無いのだろう。
まあ、気持ちはわかる。
「随分大変ね、貴方も」
「恐らくボオスが正式にクーケン島に戻ってきたら、政治的なアレコレは任せてしまえると思います」
「それは無理ね。 貴方自体が戦略的な価値を持っている。 貴方が権力を要求しなくても、周囲の人間は、貴方自体がクーケン島での権力者と見なす。 である以上。ボオスが良くても、その次の世代からは貴方は楽は出来なくなるわよ」
ずばりとした指摘だ。
セリさんはこういう人間世界のパワーゲームには興味が無いと思ったのだが。
案外図星を突いてくる。
まあ、あたしも父さんと母さんがいなくなったら、拠点を別の所に移すつもりだ。
クラウディアの次の代のバレンツがどうなるかも分からない。
もしもクラウディアの次の代が戦略を変えて、あたしに対して高圧的に出るとか、他のお得意先を見つけてそっちで商売をするというなら、それもかまわない。
勝手にすればいい。
あたしも、クラウディアとは今後一生仲良く出来るつもりはあるが。
そもそも寿命を捨てた今。
クラウディアが人間として果てた後の時代の事は考えなければならない。
クラウディアの子孫とまで、仲良く出来ると思う程、あたしは頭が花畑じゃない。こういうのは、クーケン島で古老達とやりあっていると、どうしても考えるようになる。
「最悪の場合はオーリムにきなさい。 貴方だったら歓迎するわよ」
「はは、そうですね。 ただ、今のままだと人類はあまり長くはもたないと思います。 あたしはその未来は避けたいので」
「こんな生物に守る価値なんてないと思うけれどね」
セリさんは、或いはだけれども。
あたしが人間をある意味止めてしまっていることに、気付いているのかも知れない。
それはそれで、色々と困った話ではあるなとも思うが。
まあいい。
調合を続ける。
また、島の水についても調整をする。
水の成分を少しずつ調整して、五つくらい作った。それを桶に入れて。クーケン島に戻る。
父さんに見てもらう。
かなり以前のものに近い状態になって来たそうだ。
ただ。そもそも、あくまで微細な違いに過ぎない。
味が落ちると言っても。
野菜と一生関わる人間が、ほんの少しの違和感を覚える程度の事だが。
古老を黙らせるには、そんな僅かなことで色々と調整をしなければならない、と。
馬鹿な話ではある。
「これが一番良いだろうね」
「ありがとう、父さん。 これで水の状態を調整してくるよ」
「ライザ、うちには泊まっていかないのかい?」
「やめておく。 あたしの家は、もう対岸のアトリエだから」
そうかと、寂しそうに父さんは言う。
セリさんが言っていたこと。
あたしが望まなくても、周囲はあたしをクーケン島の権力者だと思う。それについては、確かにその通りだ。
だから、あたしはクーケン島から、距離は半端であってもとっておいた方が良いのである。
何かしらの理由で、肩入れするとそれだけで大きな問題になる。
あたしだって、こういうのは嫌なんだが。
それでも、やっておかなければならないことだ。
大人として。
まあ、本当の意味での大人なんて、あたしはほぼ見た事がないし。あたしだって違うと思うが。
それでも、そうあろうとはしなければならない。
さっさとクーケン島の中枢に潜って、淡水化装置のパラメータを調整する。
これ以上細かい調整が必要になった場合は、更にシステムを組み直さなければならなくなるが。
今の技量なら、別に難しくは無い。
単に塩水を濾過すれば良い、というものではないが。
それでも、どんどん微細な世界を覗いているあたしにとっては。今までの精度は、ザルも同然なのだ。
技術も、ここ四年間でぐっと向上してきている。
知識に追いついてきた技術は。
古式秘具を地力で調合するところまで、もう一歩の所まで来ている程だ。
だが、慢心してはならないとも常に戒めている。
今のこの淡水化装置の件で苦労していることからも分かるように。
あたしは万能ではないし、ましてや全能などではないのだから。
ぱっぱと作業を済ませて、アトリエに戻る。途中でクラウディアが声を掛けて来て、バスケットを渡してくれた。
セリさんと一緒に食べて欲しいというのだ。有り難く受け取る。
中身は、美味しそうなチキンのローストだった。
「ありがとう。 これで元気をつけておくね」
「明日、結構危険なガーディアンが出るかも知れないんでしょ。 ベストコンディションを保っておいてね」
「分かってる」
クラウディアは満足げに頷く。
クラウディアが、たまにあたしに対する独占欲じみたものを見せる事に、気付いてはいるけれども。
別に問題になるような事ではないし。
あたしは気にしない。
戻って、食事にする。セリさんも別に菜食主義者という事もないので。黙々と夕食をして。
そして、早めに眠って、明日に備えた。