暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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鍵の強化に成功したことで、ついに門を開ける事ができるようになりました。

実の所この時点で既にライザは古代クリント王国のテクノロジーを越えています。

あっちは巨大な「聖堂」を使わないとコントロールさえできなかったのですから。


襲来する現実
序、高地へ


空間の穴を開けられるようになったことで、飛躍的に出来る事が増えた。レントは時間が開いたタイミングで、クーケン島に向かった。

 

なんでもザムエルさんがようやく重い腰を上げたようだった。

 

レントのお母さんは生きている。

 

医療関係者として活躍していて、界隈の人間では知らない人がいないくらいの傑物だそうだ。

 

丁度良いのであたしも実家に顔を出して、その時に聞いたのだが。

 

父さん母さんが現役で戦士をしていた頃。

 

ザムエルさんと一緒に遠征した先で、ザムエルさんが知り合ったらしい。

 

ザムエルさんは昔から不器用で寡黙で、巨人のような背丈もあって、とにかく周りから誤解されがちだったが。

 

ある村を巡る魔物との攻防戦で、それこそ数百に達する魔物を父さんと母さんと一緒に食い止め、その全てを斬り捨てたそうだ。

 

ザムエルさんはいわゆるタンクとして働いた結果重症を負い。

 

それを手当てしたのがレントのお母さんだったらしい。

 

それで恋愛関係に発展したのか、ともかくとして。

 

子供が出来た。

 

レントの事だ。

 

しばらくは、不器用ながらも優れた武人であるザムエルさんは傭兵として。レントのお母さんは医療のスペシャリストとして。

 

各地で魔物に脅かされる村を救って回ったそうだが。

 

どれだけ苦心しても、ザムエルさんが認められる事はなかった。

 

子供は泣く老人は腰を抜かす。

 

髪を振り乱し、血みどろになって戦うザムエルさんは、魔物より恐ろしく「見える」。あたしの父さん母さん、それにレントのお母さん。三人の理解者がいても、それでも元々精神を病んでいたザムエルさんは、やがて酒に溺れるようになった。

 

暴力をレントのお母さんや、父さん母さんに振るう事はなかったが。

 

それが決定打になって、とうとう刺客まで差し向けられたらしい。

 

酷い話だ。

 

刺客を斬って、それでついにザムエルさんは心が折れた。

 

クーケン島に隠遁。

 

後は酒に溺れる毎日が始まった。

 

レントのお母さんは現役で働き続けたから、溝が出来た。それに、ザムエルさんも、奥さんが稼いだ金で酒を飲むことは拒んだらしい。

 

あらゆる全てが悲劇につながった。

 

レントにザムエルさんが暴力を振るっていたのは。

 

行き所のない怒りもあるし。

 

何よりも、レントを強く育てたいと考えた末に、行動が暴走した結果なのかも知れないと。

 

父さんは悲しそうに言っていた。

 

ともかくだ。

 

ザムエルさんは重い腰を上げて、レントのお母さんに会いに行った。その時にレントは知ったらしいのだが。

 

ザムエルさんの生活費は、レントのお母さんから送金され続けていたそうだ。ずっと、である。

 

ただ、ザムエルさんはそれで生活をすることはあっても、酒代にすることは絶対になかったらしい。

 

レントの養育費も、それから出していたらしかった。

 

また、あたしの家でレントを預かっていたときも。

 

父さん母さんに、食費や世話代を渡していた、という話だから。

 

ザムエルさんは、本当に誤解され易いだけで。

 

酒に狂わなければ、真面目で立派な人だったのだろう。

 

そんな人でも酒には狂う。

 

悲しい話だった。

 

ザムエルさんは、レントが知っている今のレントのお母さんの居場所にいって。無事にあってきたらしい。

 

今も離婚はしていないそうだが。

 

それでも、今更寄りを戻すのも難しいだろう。

 

今のレントのお母さんは、ロテスヴァッサの第四都市で、医師として医院をもっているらしい。

 

クラウディアに話は聞いているが、酷い状態になっている都市らしいから、医院は必要だろう。

 

治安は最悪らしいが。

 

何しろ誰でも治してくれるという事もあって、現地のゴロツキや与太者も、絶対に医院には手を出さないらしい。

 

そういう連中でも、恩は感じるんだなと。

 

ちょっとだけ、驚きはした。

 

ザムエルさんは戻って来てから、少しずつ禁酒をしているそうだ。

 

今後どうするかは分からないそうだが。

 

それでも、レントは受け取ったそうである。

 

現役時代に使っていたという大剣を。

 

後で直して欲しいと言われた。

 

快く、受けるつもりだ。

 

これでレントは、過去と決別できたと思う。

 

完全に酒を抜く事が出来たら、ザムエルさんはクーケン島を離れるかも知れない。もうレントは一人でやっていける。

 

それも有りかも知れなかった。

 

パティはというと、クーケン島のバレンツ支部から、王都に早馬を飛ばしたらしい。現状をヴォルカーさんに知らせたそうだ。

 

ヴォルカーさんは今が一番大変な時期だ。

 

迷惑を掛ける訳にはいかない、という意味もあるのだろう。

 

みんな、色々やるべき事はやっている。

 

あたしも負けてはいられない。

 

とりあえず、やれることは一通りまとめた。予備日も作ってあったので、予定通りに進められそうだ。

 

これより、高地に出向く。

 

まずは現地の状況を見て。

 

危険そうなら、対策を練らなければならなかった。

 

皆で集まって、サルドニカのアトリエを出る。荷車二つを引いて、何と戦っても対応できる状態を作る。

 

それからまずは、高地に向かう。

 

基本的に立ち入り禁止になっているが、今のあたし達はフェデリーカがいる事もあって侵入は自由だ。

 

露天掘りしている鉱山を抜ける。

 

その途中でも、魔物は見かけ次第狩っておいた。

 

高地から出てくる奴もいる。

 

弱い内に倒しておかないと、鉱夫が襲われる。

 

どうしてかサルドニカの主力を見かけない事もある。主力というのは、アンナさんみたいな例のメイドの一族の事だが。

 

あの人らがいないと、サルドニカの警備なんて紙も同然。

 

魔物が出た場合、誰も助けられないだろう。

 

何体か駆除してから、それから高地に。

 

やはり魔物の気配が濃くなる。

 

多いな。

 

あたしは目を細めて、周囲に警戒のハンドサインを出す。前に来たときもかなり多かったが。

 

今回もとてもではないが、手を抜ける状況では無さそうだ。

 

まずは、一番高いところまで行く。

 

途中でかなりの数の魔物に遭遇するが、どれも蹴散らしながら行く。手は抜いてやらない。

 

人間に仕掛けたのが運の尽き、くらいに思わせないといけない。

 

そうしないとなんぼでも人間を襲う。

 

手負いも逃がさない。

 

手負いほど危険な魔物はいないからだ。

 

熱槍を叩き込んで、鼬の群れをまとめて吹き飛ばす。吹き飛ばしたといっても、どの鼬も人間より五割増しは大きかった。

 

普通の人間には充分な致命的相手である。

 

殺せたのは良かった、と考えるべきだろう。

 

やがて高地を登り切る。

 

ドゥエット溶液の原材料になる源泉に到達。

 

此処までは、前回も来ている。この周辺も調査しているし、溜まりの辺りも一応は調べてある。

 

まずは、源泉の水を確保。

 

今回は大きめの硝子瓶に、内部加工を施したものをもってきてある。

 

ドゥエット溶液は硝子を溶かす事もあって、酸でも平気な硝子瓶でもかなり危ないのである。

 

故に、前回回収したぶんを解析して、溶けない硝子瓶を作っておいたのだ。

 

これにまず原液を汲んで確保。

 

前回も調査しているが。今回はこれをベースに、更に調査を進めることが可能だと言えるだろう。

 

あたしも腕を上げているし。

 

何よりも、色々と手数が増えているからだ。

 

一旦アトリエに戻り、此処から手を分ける。

 

レントらの遊撃班は、高地での魔物駆除。まだまだたくさんいるので、相応に数を減らしておく。

 

生態系がこれで荒れるようなら問題だが。

 

明らかに大型生物が多すぎる。

 

間引きは必要だ。

 

事実高地の生態系が荒れているのは、足を運べば一発で分かる。神代がまき散らした魔物の子孫は。

 

人間を見境なく襲うだけではない。

 

自然にも、大きなダメージを与えているのである。

 

勿論適切な数であれば、生態系の維持に良いのだろう。そういう場合は、襲ってきた場合以外は、手を出さないが。

 

また、セリさんは。

 

源泉周囲に生えていた草の研究を頼む。

 

セリさんとしても、毒性があるドゥエット溶液の源泉周囲で繁殖している植物の耐性には興味があるのだろう。

 

タオはまだ残っている鉱山遺跡から回収した本の解読。

 

今回は、フェデリーカも高地に行って貰う。

 

少しでも戦闘経験を積むべきだからだ。

 

フェデリーカが精神的に戦闘向けではないことはあたしも知っている。だからこそ、今後のために経験を積むべきだ。

 

あたしもフェデリーカに嗜虐心は刺激されるけれども。

 

それはそれとして、仲間としても大事だとは思っている。

 

だから死んで欲しく無いのである。

 

研究を進める。

 

やはりこのドゥエット溶液の原液。調べて見ると、これだけではダメらしい。圧縮しても、品質が変わらないのだ。

 

更に滑らかな接合が出来るようにという注文が来ている。

 

それを考えると、このままではダメだな。そういう結論しか出ないのも、事実だった。

 

だとすると、他のものと混ぜて見たり。

 

溜まりで成分が変化しているのを期待する他無いか。

 

エーテルで分解して、毒素の性質については理解した。多分吸っても即死はしないが、肺を痛めるかも知れない。

 

余っている鼬の皮を取りだすと、加工を始める。

 

毒素の性質は理解したので、それを防ぐようにすればいい。

 

皆が戻ってくる前に、人数分を作る。

 

やがて出来上がったそれは。

 

クリフォードさんがつけているようなマスクに仕上がっていた。

 

鼻と口を覆うことで、ドゥエット溶液の原液が出す毒素から、肺を守る。ただ、まだ改良がいる。

 

あんまり毒素が強い場所には長居は出来ないだろう。

 

とりあえず使って見て、それで問題点を解消するしかない。

 

「そういえばフィーは空気吸ってるよね」

 

「フィッ!」

 

「じゃあ、フィーのぶんも作ろうね」

 

「フィー!」

 

言葉はちゃんと通じている。フィーの分もマスクを作る。つけて見て、動きを阻害しないか、などを確認。

 

作業中のセリさんにもつけて貰う。タオにも。

 

二人とも、問題ないという。

 

ただこれは、ドゥエット溶液の原液が出す毒素にしか対応していない。もっと危険な毒ガスが充満しているような場所だと。

 

顔の露出部分だけではなく、体の露出部分も守るものを作らないといけないだろう。

 

「ちょっと声が聞こえづらくなるけれど、毒から身を守るためには仕方が無いね」

 

「詠唱はいけるか確認した方が良いわ」

 

「それもそうですね」

 

アトリエの外で、熱魔術の詠唱を行ってみる。

 

ちょっと、いつもより負担が大きいか。

 

でも、出来ない程では無い。

 

しばし悩んだ後、少し構造を弄る。口と鼻は大気に露出させられないが、邪魔にならない程度の構造の変化は出来る筈。

 

四苦八苦している間に、皆が戻ってくる。

 

鼬だけでは無くエレメンタル、それに喰人植物もかなりの数を狩ってきたそうだ。まあ、充分な成果だろう。それらが育ったら、人間を襲っていたのだから。

 

皆にもマスクを配って、調整をする。

 

顔の形に添って形を変えたり。

 

或いは意見を聞いて、動きやすくしたりする。呼吸が苦しいかも知れないと言ったのはディアンだ。

 

頷くと、すぐに調整を入れる。

 

呼吸しやすくすると、今度はマスクがかさばるようになってしまうが。

 

それでも死ぬよりはマシだ。

 

戦闘時にちょっとでも傷つくと、それだけで死につながる可能性もある。

 

皆の意見を聞いて動きやすく仕上げた後は。

 

防御魔術を仕込んで、マスクがちょっとやそっとでは破損しないように調整もしておいた。

 

マスクがある程度仕上がるまでほぼ一日かかった。

 

夕方になってから、タオをつれて座標の採取に行く。ある程度安全圏は確保したので、そこを急ぎで回る。

 

パティとクリフォードさん、リラさんだけに来て貰ったのは、快足での移動を必要とするからだ。

 

戦闘力と快足を兼ね備えた人と連携して、座標を大急ぎで集める。

 

フィーが懐で不安そうにする。

 

「フィー?」

 

「大丈夫。 最悪の場合も、無理はしないから」

 

「フィー!」

 

その辺り、フィーはしっかりしている。

 

時々うっかりを噛ますあたしの補助をすることが役目。そうだとはっきり認識していると言う事だ。

 

クリフォードさんもいるから、まあ奇襲を受けることはないだろう。

 

また、夜目が利くように装飾品に改良も加えた。これは洞窟などの探索を視野に入れて、先に組み込んだのだ。

 

今までも何度かそういう場所の探索はあったのだが。

 

いつもランタンを持ち込んでそれを守りながら戦闘したり、灯りの魔術で魔力を取られたりだったので。

 

いっそ装飾品に機能を持たせる。

 

そう考えての事だ。

 

夜になると、あれだけ駆逐した魔物が、また闇から這いずりだしてくる。普段だったら屁でもない相手でも、危険になる可能性はある。

 

梟は昼間は普通の猛禽だが。

 

夜になると夜闇に紛れて音もなく飛び。獲物が気づきもしないうちに命を刈り取っていく暗殺者となる。

 

それと同じで。

 

日中に遭遇しても何でもない魔物が。

 

夜には極めて危険なハンターになるケースは、いくらでもあるのだ。

 

ましてやこんな殆ど人が入っていない場所。

 

更には性質がよく分かっていない魔物。

 

油断は今のあたし達でも、死に直結する。

 

闇の中を走りながら、座標を集めて回る。

 

煌々とした明かりが見えたが、サルドニカじゃない。北部、あたし達が漁った鉱山よりも更に北にある火山が燃えているのだ。

 

噴火はしているが、爆発的なものではない。ただし溶岩が常に溢れていて、それは夜でも輝いている。

 

その輝きは恐らく地形的にも高い位置にあるサルドニカには達しないだろう。火山から出る有毒ガスも、だ。

 

だがそれでも、怪しい輝きには思わず魅せられる。

 

あの輝きに比べると。

 

人工的なサルドニカの輝きは、なんと貧弱なことか。

 

或いは神代の街はもっと怪しく輝いていたのだろうか。

 

そんな事を考えつつも、座標を集めていく。高地のうち、溜まり以外の場所は、徹底的に、くまなく集める。

 

「タオ、どう傾向は」

 

「……鉱山の辺りと同じで、不意に数字が変化する位置があるね。 高度はあまり関係無くて。やっぱり水平座標が問題になっているんだと思う。 後データから分かってきたけれど、何列か続いている数字の内、明らかに一つの列は解析できたと思う。 それは高度が影響しているね」

 

「おお、流石だな。 大戦果だ」

 

「ありがとうございますクリフォードさん。 さあ、もっとデータを集めていきますよ。 この辺りだけでも、あと百は欲しいかな」

 

タオは、やっぱりクーケン島付近のデータももっと欲しいという。

 

ようござんしょ。時間が出来次第、データを集めに戻るのは、今はとても容易な事なのだ。

 

そのままデータを集めていく。

 

そして、夕飯少し前くらいかな、という所で引き上げた。

 

パティがそろそろ引き上げるべきだろうと提案。

 

リラさんが、それに賛成したのだ。

 

リラさん曰く、魔物の行動が攻撃的になってきている。このままだと事故が起きかねないというのだ。

 

あたしもそれは危惧していた。

 

夜半にまで掛かると、恐らく夜行性の魔物がもっと活発に動き出すはず。そうなると、万が一の奇襲で、あっと言う間に首を狩られかねなかった。

 

「よし。 残念だけれど戻ろう。 タオ、後どれくらい欲しい?」

 

「溜まりの辺りは避けるとして、あの辺りは取っておきたいかな」

 

「……」

 

頷くと、一度後退する。

 

アトリエについたころに、丁度夕食が出来ていた。鉱山ではまだ働いている鉱夫がいたが、適当な所で切り上げてくださいと声を掛けておく。

 

ただ、鉱山で働くような人は、若さと体力に自信があって身の程を知らないか。借金がたくさんあるような人が多い。

 

それもあって、あまり話は聞いてくれないが。

 

まあ、最悪の場合はあたし達で守る。

 

今回も、時間は多めに取ってある。

 

トラブルが起きたとしても、その時はトラブルの対策を、優先するだけの事だった。

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