暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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人間に対する魔物の襲撃が起きればこういうことになります。

魔物がいる世界では、本来はこれが当たり前なのです。


2、惨状の後に

夜になって、やっと食事を取ることが出来た。

 

風呂に皆入ってもらう。

 

血の臭いが凄まじい。

 

消毒はきっちりするのと、風呂の湯は神経質なくらい替えた。血は病気を誘発しかねないのだ。

 

皆にも対病気用の薬は配っておく。

 

先に予防しないと、後で地獄絵図になりかねないからである。

 

風呂が終わってから、夕食に。

 

皆疲れきっていた。

 

なお、フェデリーカは戻っていない。これは、仕方がないだろう。

 

「図体ばっかりごつかったり、格好いい鎧とか剣とかもってる奴が、なんの役にも立ってなかった」

 

ディアンがぼやく。

 

ディアンは魔物の中で大暴れして、レントがとめるまで我を失っていたらしい。

 

神代鉱山でもそうだったのだが、どうもディアンは戦闘が苛烈になってくると精神のリミッターが外れて、戦闘にのみ全てのリソースを回すらしい。これは良くない傾向だ。一時的に戦力はあがるが。戦闘が終わった後、体に取り返しがつかないダメージが出る可能性が高い。

 

それについては説明はしておく。

 

ディアンも、ライザ姉がいうならと、納得はしてくれる。

 

根は素直なのだこの子は。

 

暴れん坊になってしまったのは、環境が原因なのである。

 

「問題がある。 あの魔物達、明らかに組織的な行動をしていた、ということだ」

 

「そうですね。 奴らが高地から侵入してきたのは分かっています。 事実分が悪いと判断すると、奴らは高地に戻っていこうとして、あたしが守っていた退路に殺到してきました」

 

アンペルさんに、あたしはそう応じる。

 

事実だ。

 

戦闘で散々酷い目にあったらしいボオスが。嘆息する。

 

「でも前に来た一回目で、高地にいた魔物の親玉みたいなのは仕留めたよな。 またサタンだかサタナエルだかの仲間じゃないのか」

 

「何とも言えない。 ただ、途中からは血の臭いに誘われた魔物も、かなり加わっていたみたいだね」

 

「サルドニカの街の方は、なんの襲撃もなかったそうです。 サルドニカの北の入植地も、です」

 

パティがこう言う話を聞いて来てくれているのは助かる。

 

いずれにしても、これはちょっと溜まりを調べるどころではないだろうな。そうあたしは判断した。

 

フェデリーカが、そんな事を話していると戻って来た。また口から魂が出てる。

 

ソファに前のめりに突っ伏すと、そのまま動かなくなる。口に魂を手で戻すと、それでもあんまり動かない。

 

「大丈夫かフェデリーカ」

 

「大丈夫じゃないですよぉ……」

 

レントが心配して声を掛けるが。

 

文字通り我慢の限界だったのか、フェデリーカがさめざめと泣き始める。

 

色々ありすぎて、感情を整理できない感じだ。

 

順番に状況を聞く。

 

まず、今回の一件。出た被害は、死者61、負傷者133。これを聞くだけで、戦慄するほどの被害だ。小さめの集落が全滅したに等しい。古代クリント王国以前ならともかく。現在では戦慄するほどの惨劇である。

 

鉱山付近では800人ほどの鉱夫が働いており、警備も50人ほどいたらしいのだが。警備のうち24人が死および負傷しており、早急に人員の補充が必要だという。いずれにしても、数日は鉱山は立ち入り禁止にするそうだ。

 

「鉱山は魔石も硝子の材料も取れるんです。 危険な場所ですが、封鎖されたらサルドニカが干上がってしまいます……」

 

「いつになく泣き言を言ってるな」

 

容赦ないディアンの突っ込み。

 

あたしがやめてやれという。

 

流石に嗜虐心を刺激されるとは言え、この状態のフェデリーカに追撃を入れるのはこのましくない。

 

とにかく夕食にする。

 

肉を中心に、いつもより多めに食べる。かなり良い肉をあたしのアトリエのコンテナから出してきて、それを贅沢に使う。

 

今日ばっかりはバランスも何もない。兎に角食べる。動いた分。食べる。

 

こう言う修羅場は、フィルフサ戦などの経験もあったので、クラウディアもパティも慣れている。

 

パティはかなり疲れている様子だったので、途中からは音魔術を利用した狙撃戦を展開していたクラウディアがほぼ料理をした。

 

食べて、腹を温めて。

 

それでやっと一息つける。

 

しばらくして、フェデリーカが手を上げる。

 

おずおずと、だが。

 

「ギルドも大混乱しています。 それで……本当に申し訳ないのですが」

 

「周辺の魔物の大掃除?」

 

「はい。 今回の件、生存者の話をまとめると、夜明け近くに発生したそうです。 警備の人間は、ライザさんたちが連日高地で多数の魔物を倒している事を知って完全に油断しきっていて。 それで、一気に高地への門を突破されたらしく。 しかも、それで高地の魔物が好機と判断して、なだれ込んできた、というのが真相のようで」

 

「思った以上にいるんだねあの辺り……」

 

勿論いるのは魔物だ。それに、雑多な種の群れでも組織的に動ける事が今回分かった。正直舐めて掛かっていたかも知れない。だが、二度と同じミスはしない。今回の件は、あたしが安全だと思わせたことも一因がある。勿論警備がさぼっていたのが最大の問題だが。それでも警告するくらいはすべきだった。

 

魔物は人間を実力で殺傷できる動物全般の事だ。だから皆殺しにするのは、生態系の保全という観点から好ましくない。

 

それは事実ではあるのだが。

 

かといって、今の時代に大発生している魔物は、生態系を守っているとはとうてい言い難い。

 

神代の連中がばらまいたのもいる。

 

一度腰を据えて、駆除をしなければならないのかも知れなかった。

 

「それに、鉱山の警備の指揮をしていた戦士が戦死してしまって、体勢の立て直しにしばらく掛かります。 その間、鉱山を再開することは非現実的です。 何人かのギルド長は鉱夫の命なんてどうでもいいとかいうし……」

 

「あたしがそいつら消してこようか?」

 

「止めてください……。 どうにか言い聞かせますので……」

 

思わず腰を上げかけるあたしに、フェデリーカが半泣きで懇願する。

 

いや、本当に。

 

おいしそうなくらい嗜虐心をそそられるなこの子。確かこれ、キュートアグレッションとかいうんだっけ。

 

ま、フェデリーカのOKが出たら、証拠も痕跡も残さず消してくるのは本気だったが。

 

あたしとしても、好きかってほざいている役立たずの中小のギルド長には、何度か関わってイライラしていたし。

 

そんな思想だったら、神代の連中と大差もない。

 

消す事に罪悪感なんぞない。

 

咳払いすると、ボオスが話を進める。

 

「魔石と硝子以外のギルド長が無能なのは前から分かっていたが、それはそれとして、だ。 実際問題どうする。 魔物の掃討作戦を大々的に行うと言うことでいいのか」

 

「いえ、鉱山の方も守りが欲しいです当面は。 命を落とした戦士の代わりを募集したり訓練する時間もいりますし、みなさんの誰かがいてくださればそれだけで百人力ですので……」

 

「だとすると、攻める側と守る側でチーム分けしないとダメだね」

 

「そうなると、大物には仕掛けられないんじゃないのか」

 

ディアンが面倒そうに言うが、それは仕方が無い事だ。

 

ディアンもディアンで、助けて貰ったのに礼一つ言わない輩が多いらしくて、そういう連中にはあまり良い気分はしていないらしい。

 

とりあえず、時間稼ぎが必要か。

 

「分かった。 明日の午前中までは薬の生産にあたしは注力するよ。 その間、みんなは鉱山の守りをしっかり固めておいて」

 

「了解です」

 

「高地への入口は覇王樹でガチガチに固めて、ついでに食虫植物も守りに入れておくわ」

 

「お願いします。 守りを固めたら、薬草の調査に戻ってください」

 

セリさんが頼もしい。

 

勿論食虫植物というのは、魔物も食べるようなごっつい奴である。

 

セリさんが時々用いる、護身用の植物の一つで、魔物を文字通りバリバリと食べてしまう。

 

ネメドで遭遇したマンドレイクほど凶悪ではないが、あれに近いかも知れない。

 

あと、問題がある。

 

こう言う状況になると、火事場泥棒の類がどうしても出る。鉱山が無茶苦茶になって、彼方此方出払っている状況だ。

 

治安の確保も急務と言えるだろう。

 

それについて説明すると。

 

フェデリーカが、悲しそうに言う。

 

「そちらも手が足りていません。 その、手伝いをお願い出来ますか」

 

「やれやれ、百年祭どころではなくなってきたな」

 

「今の時点で、延期も話に出ています。 正直な話、こんな危険な状態で、百年祭どころではありませんから」

 

「妥当な判断だ」

 

ボオスが腰を上げる。

 

ボオスは街の方に回ってくれるそうだ。

 

今のボオスは生半可な傭兵程度だったら十人くらい余裕で畳むし、頼りになる。同じくレントもそっちに回ってくれるとか。クリフォードさんは、鉱山街の辺りを固めてくれるそうである。

 

ほかのみんなは鉱山を固めるとして。

 

個人的に気になるのはサルドニカ北の入植地だ。

 

あっちも魔物は片付けてはいるが。フェンリルが出ただけでみんな大慌てで逃げ帰る程である。

 

要するに、大物には対応できない事が分かっているのだ。

 

少なからず動揺が出ている、ということである。

 

「俺が見に行こうか?」

 

「ダメだよディアン。 ディアンは街の人と一人でやっていける自信、あんまりないでしょ」

 

「まあ、ライザ姉の言う通りだけれどよ」

 

「ならば私が行こう」

 

アンペルさんが挙手。

 

アンペルさんは見るからに学者な雰囲気ではあるが。ちょっと心配になる。この人、見た目よりずっとけんかっ早いし、はっきりいってネゴはそれほど得意な方ではないのだ。

 

フェデリーカもそれに気付いたか、考えた末にアンナさんを出してくれると言った。

 

あの人も例のメイドの一族だし、戦力に関しては全く心配はいらないだろう。前衛を任せてしまって大丈夫の筈だ。

 

「ではこんな感じの配置で、各地を守りましょう」

 

「わしは鉱山で、多少鉱石を貰っても良いかのう」

 

「えっと……取りすぎなければ多めに見ます」

 

「ははは、そなたはサルドニカの事になるとしぶいのう。 魔石から魔力を抽出するのはわしにも出来るでな。 いざという時のために、予備の容器が欲しいと常日頃から思っていたのよ」

 

カラさんは相変わらずだ。

 

まあ、それで解散とする。

 

もう夜中だ。今日はこれで睡眠。みんな一日中戦ったのだ。寝る権利くらいはある。

 

そして翌朝。

 

みんな、即座に動く。後は状況を見て、それぞれが配置転換を柔軟にすればいい。あたしも薬をドンドン作る。

 

あたしの薬で多数の怪我人が回復していて、野戦病院の負担は小さくなっているようだ。だが、何しろ乱戦だったのだ。

 

その場で手足をくっつけられた人もいたが、魔物に食い千切られたりしたような手足はどうにもならない。

 

それでも、命を拾っただけでめっけものだと言う人もいるが。

 

現実問題として、手足を失うというのは致命的な事だ。それ以降、力仕事は殆ど出来なくなる。

 

義手や義足も作るか。

 

アンペルさんの件で、義手や義足については研究を進めている。薬についても増やしながら、薬を取りに来た例のメイドの一族の子に、手足を失った職人の手足の状態について聞き取ってきて欲しいと説明。

 

義手義足を作るというと、渋い顔をされた。

 

「大変結構な話ではありますが、負傷者の大半は貧困層で、負債を返せませんよ。 サルドニカの街からも、救済のための予算が出るとは考えにくいかと」

 

「んー、結構現実的だね。 でも、あたしが善意で手足を補填するというのだったらどうかな。 あたしだったら大した手間がいらないでそれくらいは出来るから、そうするだけなんだけれども」

 

「……分かりました。 本人の意思を確認し次第、傷口の状態と手足の欠損部分、欠損した足などの形状について確認しておきます」

 

例のメイドの一族なだけある。

 

はっきりいって、下手な大人よりずっとしっかりしている。こうしてみると、フロディアさんもカーティアさんも幼い頃こんな感じだったんだろうなと思う。

 

薬を調合していると、この間病院で手伝った女医さんが来る。

 

野戦病院は大丈夫かと確認するが。修羅場は抜けたらしく、今は主に対処療法を行っているそうだ。

 

いわゆる幻視痛を出す患者も多く、ただそれは看護師任せでいいらしい。

 

「薬についてはありがとう。 一時は心配したが、サルドニカから補助予算が出るそうで、助かるよ」

 

「ん、薬はというと、何かあるんですか?」

 

「……あの薬の凄まじい効果、使っている魔術の凄まじさ。 それを見て、あんたが錬金術師っていう名の魔法使いみたいなもんだと言う事は良く分かったよ。 それはそれで、何か企んでないだろうね」

 

「いえ別に」

 

少なくとも、サルドニカに何かするつもりは無い。

 

今のサルドニカには、だ。

 

クソ無能なギルド長何人かは、実際に消そうかと考えもしたが、フェデリーカが対応するというので別にかまわない。

 

あたしは、出来る事をするだけだ。

 

人を助けられるなら助ける。

 

神代のクズ共を潰せるなら潰す。

 

それだけだ。

 

あたしはそんな大した事を考えていない。欲に関しては殆どないといえる。それは美味しいものは食べたいと思うし、気持ちよく眠れたら嬉しい。だけれどそれだけだ。他の人の食べ物まで奪いたいとは思わないし、最近では性欲もすっかりなくなった。子供が欲しいとも思わないし、男に抱かれたいとも思わない。

 

あたしはそういう点では人間離れしているかも知れないが。

 

それはそれとして、出来る事はやっていく。

 

それだけである。

 

説明すると、女医さんは嘆息していた。

 

「なるほどな。 違和感はそれか」

 

「まあ、あたしも自分が変人なのは理解しています。 ですけれども、あたしが誰かを助けたいと考えるのは事実ですよ」

 

「……ああ、それはそうなんだろうね。 あんたは凄まじいエネルギッシュな人間だと思ったが、同時に欲ってものが本当に欠如している。 欲がない分、それが活力に行っているのは、見ていて面白いよ」

 

面白いか。

 

それはありがたいが。

 

ただ、この人はわざわざそれを言いに、クソ忙しい所を出て来たのか。

 

ちょっと腑に落ちないが。

 

先生は大丈夫そうだと言うと、早速欠損が酷い人の手足の図と大きさのリストを渡して、戻って行った。

 

鉱夫にも女性は普通にいる。

 

強化魔術が得意な人は、屈強な男性以上の力を出せる。確かクーケン島でも、記録に残っているもっとも力持ちだった人は、そういう身体強化魔術のスペシャリストだった女性で、小柄で体も細かったのに、凄まじい倍率の魔術で体を強化して。なんと大きめの岩を邪魔だといって持ち上げて、放り投げることを平気でやっていたらしい。それも戦士ではないのにだ。

 

今身内だとレントが凄い力を発揮できるが、はっきりいってそれ以上に凄いと思う。

 

そういう女性も戦士や鉱夫として働く。問題は、だいたい鉱山なんかで働いている人は、あまり身持ちが良くない事で。

 

さっき言われたように、金なんて返せない、ということだが。

 

ただ、まだ若い女性戦士の足が股から食い千切られているのを確認すると、流石に義足くらいは作ってあげたくなる。

 

アンペルさんの義手とほぼ同性能のものを今なら作れる。

 

黙々と薬と一緒に作り、仕上がった所で積んでおく。

 

足に装着し、神経と連動することで、もとの足のように動く。見た目も普通の足と見分けがつかないし。痛覚も再現出来るようになっている。

 

あたしも色々エーテルに溶かして分解し、仕組みを調べているのだ。

 

今だったら、これくらいは出来る。

 

神代の古式秘具は、もう手が届かないものではない。

 

全てとまではいわないが。

 

再現は難しく無いのである。

 

黙々と作っていると、もう昼少し前だ。また薬や物資を取りに来たので。レシピ通りに作った義手義足を渡しておく。

 

取りに来た例の一族の子は。現物を見て驚いていた。

 

「これは……」

 

「足につけてみて問題があるようなら、問題点を書いてこっちに戻して。 場合によってはあたしが出向いて、調整するから」

 

「分かりました。 その時はお願いします」

 

一瞬だけ、彼女の視線が殺意を帯びたように思えたが。

 

まあいい。

 

どういう意思があるとしても、今は利害が一致している。それに、あの一族の人達は、世界に深く噛んでいる。

 

ならばこのまま行けば。

 

いずれその目的を、聞かされる事になるだろうことは、容易に想像が出来ていた。

 

 

 

フェザリナという名前を貰った同胞のその娘は、試験作として若い体のまま実戦投入された。

 

これから数年間、他の同胞が培養槽の中で知らぬ間に……或いは人間との間に生まれた同胞だけが過ごすような……そんなときを過ごす。

 

一応、人間から生まれた同胞からも話は聞いているが。幼いからと言って人間のように精神が少しずつ変わるようなこともなく。

 

少なくとも父親からは気味悪がられるそうだ。

 

元々同胞の原典はホムンクルスと言われる人造奴隷だ。神代の錬金術師達は、人間と同じように動き、しかし自分に逆らえない奴隷を欲した。意思を持っていながら従順である奴隷。彼等の精神性を象徴するような考えだが、実は神代の錬金術師以前にも、そういう思想を持つ人間は珍しく無かったそうだ。豊かな富と多くの人、安全な社会だった時代も経ているらしいのに。人間とはどうしようもないのだなと感じさせられる。

 

いずれにしても、その都合が良い奴隷の製作は上手く行かなかった。

 

母に技術的に再生されたとき、同胞の始祖であるガイアなどの数名は聞かされたという。

 

この技術は、そもそも不完全だったのだと。

 

神代の錬金術師達は、「都合がいい使い勝手のいい人間=奴隷」として同胞をデザインし、その根本設計を極めて高レベルにした。

 

だがそれは生物としての完成形に近かったため、繁殖はどうにか出来るもののほとんど同一の個体が生まれるだけ。たまに生まれる男性ホムンクルスは生殖能力を有していない。

 

これではダメだ。

 

生物である以上、完璧なんかない。

 

事実、ホムンクルスには現時点ですら幾つかの天敵としての病気が確認されているという。これらはかかると基本的に死ぬ。

 

対策は無い。

 

勿論これ以外に致命的な弱点がある可能性は高い。発見された場合、ほとんど同一個体なのだから、それが致命傷になって同胞がまとめて全滅しかねない。

 

こういったものに対応するためにも多様性は必要で。

 

多様性がある生物、変化に応じて多様性を確保できる生物が。戦闘能力とは関係無く、次代に未来をつなぐ。

 

もしも生物を超越するのなら、多様性はいらないが。

 

その場合、その時点で子孫を作る意味がなくなる。

 

つまり同胞は最初から矛盾を抱えてしまっているのだ。

 

それを解消するために同胞も母も努力をしてきた。好きでもない人間の男と子を成すのもその一つ。

 

今、こうして。

 

フェザリナが不完全な状態で、同胞に加わっているのもその一つだ。

 

荷物を病院に運ぶと、すぐに手当てを始める。

 

ライザリンが作った義手義足を見ると、複雑な気持ちだ。同胞はライザリンに手を出すなと指示をされているが、それでも。ライザリンが錬金術師と言うだけで許しがたいという憤りがある。

 

錬金術師どもが希望たるアインに何をしたか。

 

それを知らない同胞などいないからだ。

 

だがライザリンは、本当に優れた道具を作る上に、少なくとも神代の非道な錬金術師どもに強い怒りを覚えていて。その殲滅を誓っているようだ。

 

だったら、わかり合えるかも知れない。

 

ただ、どうしても警戒してしまうのは、仕方が無い事だった。

 

「ありがとう、助かった、助かった……!」

 

「例ならあの魔法使いもとい錬金術師様にいいな。 あたしの腕じゃあ、こんな怪我はどうにもならなかったよ」

 

此処の女医が患者の礼にそうぼやいている。

 

昨日は殺人的な忙しさだったが、今はもう致命的な状態の患者はいない。手足を失った人間は多いし、それ以上に体を抉られたり手指を失った者も。同胞でも、このレベルのダメージを体に受けると、一度母の所に行って修復を受ける。生きていさえすれば、ある程度はどうにかなるが。

 

それでもどうにもならない場合もある。事実手足を戦闘で失った同胞は何人もいるのだ。現在は後方支援に回ったりしているが。

 

同胞は何百年も平気で生きるが。

 

ただ、神代の錬金術師はそうではなかったようだ。

 

これについては理由がよく分かっていない。

 

もうライザリンは加齢をとめてしまっているようだし。

 

ひょっとするとだが。

 

神代の錬金術師は、加齢の停止にたどり着けなかったのかも知れなかった。しかしそれだと同胞の技術の説明がつかないのだ。まだ発見できていない重要な神代の連中に関する情報があるのかも知れないが。

 

まあいい。

 

とにかく手当てを続ける。

 

ライザリンの薬のおかげで手間は省けたが、疲弊しきって眠っている患者が大丈夫かは見て回る必要があるし。

 

開いたベットには、野戦病院状態になっている患者をどんどん入れ替えていく。

 

ベッドメイキングもあるが。

 

とにかくリネン類は清潔にしないといけないし。

 

患者は全て平等に扱わないといけない。

 

それについては、女医はしっかりやっている。

 

人間に対して、必ずしも好意を抱いていない同胞は多いのだが。

 

フェザリナは、此処の女医は嫌いでは無かった。

 

言葉遣いはぶっきらぼうだが。

 

腕は悪くないし、しっかり患者に向き合う。

 

それだけで、医師としては充分だと思う。

 

金にならない患者は助けない、なんて医師もいる。そんな連中よりも、ずっとまともではあるし。

 

神代のカスどもと比べたら雲泥だ。

 

患者に肩を貸して移動させる。

 

手術だ。

 

とはいっても、ライザリンの提供してくれた義足をつける。逞しい女戦士だが、焦燥しきっているのが分かった。

 

足を失えば、それはそうもなるだろう

 

ベッドで下着だけになってもらう。

 

食い千切られた足は、非常に最初は無惨な有様だったが。ライザリンの薬で、傷口は瞬く間に回復した。

 

それを見て一番瞠目したのは女医だった。

 

フェザリナも驚いた。

 

同胞の修復の様子は研修を受けている時に見て知っているが、此処まで都合良くは出来ないからである。

 

「傷口を再度開く必要はなし。 此処に義足をつけて、此処を操作して……」

 

「医者先生、だ、大丈夫なのか!? その足、本物にしか見えないが、不気味なんだよ!」

 

「あんたを救った薬を作った錬金術師先生の作品だ。 良いから黙ってな」

 

「……」

 

女戦士も、ずっとうわごとを言っていて、生死の境をさまよっていた状態から、ライザリンの薬で助かった口だ。

 

文句なんか言う気にはなれないのだろう。

 

ただ、怯えているのは分かったので。側で押さえつける準備に入る。いざという時は、錯乱した屈強な戦士が暴れる可能性がある。

 

全身麻酔も、この世界の技術力ではまだ到達していない。

 

強制睡眠の魔術を使える人間が病院にいるケースもあって、手術の際には引っ張りだこになるのだが。

 

それだって効きが浅い場合は、患者をどうにか抑えないといけない。

 

ひやひやしている様子の女戦士の足に、義足をつける。

 

義足はすっとパーツを伸ばすと、足にフィットした。金具とかが肌に食い込む様子もない。むしろ包み込むようにして、だ。

 

「固定までこのボタンを押し、終わったらこっちを二十拍押すと……」

 

「あ、足が、無くなった筈の足が痛い!」

 

「幻視痛だよ! 少し堪えな!」

 

「あ、足が動く!」

 

義足が動く。

 

しばらく混乱していた女戦士だが。

 

やがて、本当に義足が動き始めたので、ちょっとフェザリナも驚いた。

 

まんま本物の足にしか見えない。

 

女医もしばし確認していたが、体温も脈拍もある。それどころか、女戦士が痛覚もあると言う。

 

なんてこった。

 

この様子だと、自己修復の機能まであるかも知れない。

 

流石に母も、完全になくなった手足は、状況次第ではどうにも出来ない場合がある。初期メンバーのガイアなんて、ずっと眼帯をつけているが、それはフィルフサとの戦いで失ったからだと聞く。

 

だが、これは。

 

「足が動く! 足があるよ!」

 

「しばらくは様子見だよ。 なんでも錬金術師先生に頼るわけには行かないからね」

 

「わ、分かった! ま、また歩けるのか! こ、この足だったら、本物にしかみえないし、嫁にも行けるのか!」

 

「聞かれてもまだ何ともいえないよ。 状態が落ち着いたらまずはリハビリだ。 その後、様子を見て今後について話す」

 

次と、女医は移行。

 

次は義手だ。

 

左手を丸ごと食い千切られた男性の戦士のために、ライザリンが作った義手を装着する。

 

こっちも本物にしか見えないから、患者は怯えたが。

 

手が見事に接着し。

 

動かせるようになると、男性戦士は感謝の涙を流した。

 

「分かってると思うが、まだ無理に動かすんじゃないよ。 戦士が振るっても大丈夫なように作ったと錬金術師先生は言っていたが、それでもあくまでモノだ。 乱暴に扱ったら、どうなっても責任は取れないからね」

 

「わ、分かってる! おお、神よ!」

 

「……」

 

神、か。

 

今ではフワフワとした信仰しか残っていないが。

 

神代の頃には、しっかり体系づけられた神話が残っていた。

 

一部の魔物はそれから名前が付けられているし。

 

なんなら、それらの信仰のデータは、母が暴いたデータベースにも残されていたので、同胞で閲覧することも出来る。

 

どの信仰もいずれもが非常に身勝手なものばかりで。

 

自分の正義を担保し。他の存在を否定する理屈ばかりだ。

 

そんな理屈で暴力を肯定してそれに酔っていたから、あんな化け物共が世界を支配したのだ。

 

そうフェザリナも思う。

 

だが、こういう素朴な信仰に、文句を言うつもりはなかった。

 

「フェザリナ、一度眠りな。 この様子だと、もう明日に回しても大丈夫だろう」

 

「分かりました。 先に休ませていただきます」

 

「あんたはよくやってる。 その年で、生半可な戦士よりも力も体力もある。 だが、それでも無限じゃない。 休む事は覚えな」

 

女医は、自分も短時間の仮眠しか取っていないのに、そういう。

 

フェザリナもつきあわされるのでは無く、休んで良いと言うならそうさせて貰う。良い女医だ。

 

その評価は変わらない。

 

同胞も眠る事で、脳を休める。

 

神代の連中の設計で、どうしても脳も弄られているが。それでもその悪意の設計から、母がある程度解放してくれた。

 

それだけでも、感謝しなければならない。

 

ほぼ夢は見ない。

 

ただ、今日の仕事は有意義だったし。

 

命を救う事は誇らしいなと、ちょっとだけフェザリナは思ったのだった。

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