暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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それではお礼参り開始です。

というか人間の味を覚えた獣は絶対に逃がしてはいけない。この世界でもそれは同じです。

相手が魔物というだけで。


3、追撃殲滅

昼少し前に、薬の作成があらかた終わる。これで、今回の襲撃で消耗した薬のストックは回復し。

 

更には被害を受けた鉱夫や護衛の戦士も充分に回復までいけるはずだ。

 

後は義手と義足だが。

 

順番に女医さんが要求図をもってくるのを待って、それを順番に作っていけばいい。

 

アンペルさんの義手を作る過程で、義手については徹底的に古式秘具を解析した。前は元からある古式秘具を修復する事しか出来なかったが、今は違う。

 

淡々と作業を終えて、でる準備をしていると。

 

フェデリーカとボオスを除く皆が、アトリエに戻ってくる。

 

クラウディアが料理を始めたので。

 

あたしは順番に、状況と進捗を確認する。

 

まずはレントだ。

 

途中から配置換えし、鉱山と高地の間の関門になっている覇王樹と食虫植物でガチガチに固められた門を守っていたレントだが。

 

今の時点で、魔物は手を出してくる様子がないという。

 

あれは恐らくだが、あたし達が前にサルドニカに来たとき。

 

大量の大型魔物を駆逐して、サルドニカの安全度を上げたのも、問題だったのだろう。

 

それによって、ただでさえ練度が低い護衛の戦士達が油断した。

 

だからこそ、魔物は隙をうかがっていた。

 

更には、サルドニカ北で多数の大型の魔物。

 

それもサタナエルが率いていた……をあたし達は屠った。

 

それもあって、更に警備の戦士達は油断した。

 

連日あたし達が、高地で魔物を仕留めていた、というのも理由の一つだったのだろう。これなら仕事なんてしなくていいと油断し。

 

それを魔物は見ていたのだ。

 

考えて見れば、あたし達にも時々仕掛けて来るくらい、魔物達は戦意が旺盛だった。もうこれは、魔物が人間に対して敵意を抱くだけではなく、その研究もしていると考えるべきなのかも知れない。

 

いずれにしても、これはやられっぱなしではまずい。

 

サルドニカ北に出向いていたアンペルさんも、話をしてくれる。

 

そっちはそっちで、戦士達が怯えきっているという。

 

二度、フェンリルが出た。

 

三度目もあるかも知れない。

 

そうなったら、手に負えるはずがない。

 

巡回の度に、死を覚悟して出ている。

 

頼むから、サルドニカに常駐してくれないか、というのである。

 

アンペルさんは呆れながらも、気持ちはわかるという。

 

確かにクーケン島でも、ドラゴンがでた時は大騒ぎになった。あたし達が倒した古城のドラゴンは、あれはあくまで操作されている状態だったし、大物のワイバーンと大差ない程度の力しか、今思うとなかったのだ。

 

だとすれば、フェンリルを怖れる気持ちは良く分かる。

 

サタナエルが言っていた。

 

神話とは逆だが、神に仇なす者を滅ぼせと。

 

そう考えると、フェンリルはやはり神代の産物で。神話から名を受けた存在であり。そして神話では、神を食い殺すのだろう。

 

ともかく、呆れるばかりではダメだ。

 

現実的に対策を練らないと。

 

フェデリーカとボオスが戻ってくる。

 

その頃には、みんな食事を始めていた。

 

遅れてすまんと、ボオスも食事に加わる。フェデリーカには、クラウディアが声を掛けて、食べないと倒れると言い聞かせていた。

 

ボオスが説明をする。

 

今、アンナさんがアンペルさんの支援で、サルドニカの北に出張っている。

 

アンナさんは有能だ。だからボオスが代わりに今後の経験だと割切って、フェデリーカの支援をしているようなのだが。

 

文字通り会議が踊っているらしく。

 

フェデリーカ以上に、サヴェリオさんがキレているのが分かったそうだ。

 

「サルドニカでは職人以外の人間の命はどうもでいい。 そう考えている奴が、本当に多い事が分かった。 この間の襲撃では、警備の戦士長が戦死したが、三十年も務めたベテランだったらしいのに、むしろ煙たがっている輩の方が多かったようだ。 警備で口を出してきて鬱陶しかったとか抜かしたアホまでいやがった」

 

「やっぱ消してこようか?」

 

「止めろ。 フェデリーカが何度も丁寧に説得しているのが無駄になる。 いずれにしても、サルドニカの体制はまだまだ腐ってやがる。 側で見て百年祭を急いでいた理由がわかったぜ。 今は良いけれど、問題が起きればサルドニカの体制は空中分解しかねないんだ。 だから結束と街の象徴として、百年祭をやろうって思っていたんだ。 ここまで酷い状態だったとは……」

 

ボオスが自分の事のようにため息をつく。

 

もうすっかり上に立つ人間の風格だ。

 

パティもそれを聞いて、頷いていた。

 

「これからロテスヴァッサを変える過程で、政治制度の変更について私も勉強していたのですが……皆で決める合議制は、どうしてもそういった問題が生じてきてしまうようですね。 しかし王政などの寡頭制は、どうしても上に立つ人間の性能が全てを決めるようにもなってしまう……」

 

「パティの言う通りだよ。 幾つかあった合議制の国も、寡頭制と同じで、いちど腐り出すとどうしようもなくなったんだ。 凡人が国を治めるための仕組みと言われた立憲制も、その定めからは逃れられなかった。 幾つかの資料を見る限り、古代クリント王国が勝ったのは。 古代クリント王国が強かったというよりも、敵対国だった国の自滅が理由でもあったらしくてね。 自滅した国には、民から代表を決める制度の国も幾つもあったらしいんだ」

 

タオが言うと、まあそうだろうなと思う。

 

どんなに制度が優れていても。

 

人間は穴を突くことしか考えないのだ。

 

制度の穴を突いて、自分だけ楽をしたい。儲けたい。そう考える生物だから、どれだけの賢王が国を建てようが。どんなに立派な仕組みで国を動かそうが、いずれ破綻してしまう。

 

あまり考えたくないが。

 

神代の錬金術師どもも、最初はカスではなくて。高尚な理想のもと動いていたのかも知れない。

 

これについては、皆の戦意を削ぎかねないから、言うつもりは無いが。

 

「で、どうするよ。 このままだと、サルドニカから動けなくなるぞ」

 

「……まず、百年祭を成功させたいです」

 

クリフォードさんが根本的な問題を指摘すると、フェデリーカが初めて喋った。

 

まあ、そうだろうな。

 

これは手詰まりだ。

 

それを打開するには、どうにか前に進めるしかない。

 

問題は、この状態だと、動かせる戦力が少ないという事である。

 

「サルドニカ北はアンペルさん。 鉱山はレントさん。 あと、サルドニカの支援としてボオスさん、それに私。 四人が抜けた状態で、高地の魔物の殲滅と、更にはドゥエット溶液の溜まりの調査。 座標集めと、溜まりにいる超ド級の魔物の討伐。 ライザさん、出来ますか」

 

「レントがいないのが厳しいけど……」

 

でも、レントに匹敵する戦士に成長したパティがいるし。

 

ぐんぐんディアンも成長している。

 

ディアンには、もう少ししたら、精神のリミッターの適切な外し方を教えられるかも知れないとリラさんが言っていた。

 

そうなれば、短時間、超火力をたたき出せるかも知れない。それもコントロール下でだ。それができれば、欠点ではなくなる。

 

いずれにしても、なんとかなると、あたしは判断した。

 

「分かった。 ただし、サルドニカという街に対する貸しにするよ」

 

「報奨金はなんとか予算から出します」

 

「報奨金は考えている金額の半分で良いよ。 ただし……」

 

あたしが言葉を切ると。

 

パティが黙り込む。

 

多分、あの時の事を思い出したのだろう。

 

フェデリーカは息を呑む。

 

目の前にいるのがあたしで。

 

魔物を容赦なく蹴り砕いてきた存在だと、今更ながらに思いだしたのかも知れない。

 

「今後、サルドニカのギルド長が驕り高ぶり、自分達が偉いとか妄想して、職人以外を虐げる治世を続けるというのなら。 サルドニカは、あたしが灼き滅ぼす」

 

「……肝に銘じます」

 

「アホな中小のギルド長にも、これは周知しておいて。 連中も、フェンリルをはじめとした魔物をあたしが滅ぼした事は知っているよね。 だから、あたしがそう言ったというだけで充分だと思う」

 

「そうですね。 これ以上もない抑止力になると思います」

 

明確な怯えの震えがフェデリーカの声に混じっている。

 

まあ、どうでもいい。

 

今日は、そのまま状況の安定に努めて貰う。サルドニカから、正式に依頼が来てからあたしは動く。

 

その前に、先に確認しておくことがある。

 

「彼方此方にあるまだあたしが直していない巨大構造物、リストアップしておいてくれるフェデリーカ」

 

「は、はい。 それだったら、午後の会議ですぐにでも」

 

「溜まりの調査が終わったら、それ直すわ。 それ直してから、サルドニカを発つよ。 東の地でアトリエを構えたら、鍵で座標をつないで門を作る。 そうすれば、フェデリーカもサルドニカを長期間留守にしなくて良くなるからね」

 

後は、出来れば王都にも行っておきたいんだが。

 

今回は時間がないか。

 

解散とあたしが口にすると、みんな動き出す。

 

あたしは四人欠けた状態で超ド級の魔物とやり合うために、爆弾や薬を更に増やす。素材も確認して、義手や義足の作成についても準備をしておく。

 

午後一に女医さんが来て、義手と義足の追加注文がされた。

 

内容について確認するが、肘から先を食い千切られた人のや、両足の踵の先を失った人のもある。

 

作れるかと聞かれたので。

 

問題ないと応じておいた。

 

女医さんは、そうか、とだけ呟くと。

 

頭を下げた。

 

「助かるよ。 あんたには、感謝してもしきれないね」

 

「夜には仕上げておきます。 取りに来てください」

 

「分かった。 それと、この足のはなくして十年も経った患者のものなんだが、それでも大丈夫かねえ」

 

「問題ありません。 あたしが研究していたのは、そういう人の義手だったので」

 

そうかと嘆息して、女医さんは戻っていった。

 

さて、準備だ準備。

 

サルドニカの方でも、今フェデリーカとボオスが、アホどもを脅かしてしっかり統制を取ろうとしているはずだ。

 

フェンリルを二度も倒した武力がこっちに向いたらどうなるか。

 

アホ共でも、それくらいは計算できるだろう。

 

調合をしていると、フィーが袖を引く。

 

メシの時間か。

 

ちょっと休んで、クラウディアが焼いておいてくれた蜂蜜入りの焼き菓子を食べる。それだけで随分楽になる。

 

フィーにも大きめの魔石を上げる。

 

大喜びで魔石の周りを飛び回ったあと、フィーは魔石の力を吸収して、それで食事にした。

 

あたしは一休みを終えると、頼まれていた義手義足を仕上げていく。

 

指なんかも、頼まれるかも知れないが、別に難しくは無い。

 

いずれは内臓なども作れるようになっておきたい。

 

人間の構造は、色々エーテルに溶かして知っている。もう、内臓単体で作る事も難しくは無い。

 

皆が戻る前に、義手義足は仕上げる。

 

そして、女医さんが予定通りに来たので。引き渡す。

 

リスト通りに揃っている。

 

そう女医さんは随分と喜んでくれた。

 

「これで重症患者はだいたい助かる。 既に義足をつけた患者は歩く訓練をさせているよ」

 

「それは良かった。 先生は休んでいますか?」

 

「ああ、有り難い事に何度か仮眠を取ったよ。 もう二~三日は徹夜も覚悟していたんだがね」

 

「これを。 美味しくはありませんが、栄養剤です」

 

ボオスが疲弊しきっているのを見て、改良した栄養剤。今では、味はともかくとして、無茶苦茶効くように仕上がっている。

 

女医さんがありがとうといって戻っていく。

 

戦士達には、これで大きな恩を売る事が出来た。鉱夫達にもだ。

 

それは勿論副産物としてのものだが。

 

それでも、今後は生かして行きたいものである。

 

汗を拭いながら、調合を続ける。

 

東の地は極めて厳しい場所だと聞く。

 

座標集めもやっておくべきだし。そこくらいどうにかならなければ、神代の連中には勝てないだろう。

 

だから、準備はしておく。

 

まだまだ強くならなければならない。

 

そうしなければ。

 

二つの世界に害を及ぼし続けた世界の癌を。

 

切除できないのだから。

 

 

 

翌朝。

 

予定通り、七人で出る。

 

フェデリーカは、決議を通してくれた。案の場、中小のギルド長は代わりを適当に雇えば良いとかほざいてにやついていたようだが。

 

あたしが舐めたこと抜かしてると殺すと言っているのを聞いて震え上がり、それで黙ったようだった。

 

効果覿面だ。

 

カスだからこそ、こういう方法で簡単に黙る。

 

人間は年を取ろうと成長しない。

 

それはあたしの島の古老を見て良く理解出来ている。だから、年長者だろうと、時にはこう言う対応が必要になる。

 

職人だけいればサルドニカは安泰などと考えているような阿呆には。

 

一度恐怖というものを、徹底的に叩き込んでおくべきなのだ。

 

勿論恨みを買うことの危険を、あたしは理解している。

 

だから、追い詰めすぎるつもりもまたないが。

 

いずれにしても、いつ命が消えてもおかしくない世界だ今は。

 

だからこそに、半分ならず者に足を突っ込んでいるような輩は、そうして掣肘するべきなのである。

 

レントがいないのは若干不安だが、まずは高地に向かう。今回は。見かけ次第、魔物は全て駆逐する。

 

高地の生態系だって、大型の魔物がこんなにいる状態では、正常を保つことは厳しいだろう。

 

良い機会だ。

 

徹底的に駆除しておくべきだろう。

 

移動中、何人かの戦士達が、笑顔で手を振っている。

 

鉱夫達も、かなり混じっているようだった。

 

病院の辺りだ。

 

「錬金術師先生! 足、本物と変わらないよ! 歩けるよ! ありがとう!」

 

「俺も手、普通に動く!」

 

「ありがとう、助かった! もう働けなくて、物乞いになるかと思った!」

 

「一生アンタの事はわすれねえ! ありがとう! ありがとう!」

 

泣いている人もいる。

 

手を振り返して、それで行く。

 

色々ろくでもないものもみたが、それでもこういうので救われもする。パティが、良かったと言った。

 

「ライザさんは荒々しくて怖れられる事もありますが。 確かにその力が、たくさんの人を救うのも事実だと分かって、私も嬉しいです」

 

「そもそも神代のバカ共を潰すのも、人助けみたいなものだからな」

 

「違いないのう」

 

クリフォードさんとカラさんもそんなことを言う。

 

レントとは、鉱山と高地の入口で別れる。此処には決死隊の戦士が何人か詰めていて、敬礼された。

 

戦闘時に千切られた手をつないで貰ったと、一人に感謝される。

 

そうか、乱戦で忙しくて、覚えていなかったが。

 

それでも、助かったのなら良い事だ。

 

例のメイドの一族の戦士も、一人だけ来ている。

 

やっぱり何かあったんだな、と思う。

 

その人は当世具足を着ているから、エース級の戦士だと言う事は分かるのだが。前はもっとたくさんいたからだ。

 

「セリさん」

 

「ええ、問題ないわ」

 

セリさんが、覇王樹と食虫植物をどかす。

 

さて、此処からは。

 

大掃除の時間だ。

 

戦闘が始まる。

 

あたしは熱槍を叩き込んで、手当たり次第に魔物を駆逐する。あたりに煙が派手に上がっていく。

 

クラウディアは早めに高所を確保すると、其処から連続して狙撃を開始。

 

勿論狙うのは魔物だけだが。

 

鼬やラプトルなどの群れを作る魔物。ワームや大蛇などの徘徊性の大型の魔物。アードラなどの機動力がある魔物は、容赦せず片っ端から刈り取る。

 

勿論魔物も決死の反撃にも出てくる。

 

この世界は、魔物が増えすぎているのだ。

 

だが、その反撃ごと打ち砕く。焼き滅ぼす。

 

植物の魔物。

 

マンドレイクほどではないが、凄まじい勢いで蔓を動かし、迫ってくる。花弁の部分をぐっと閉じたのは。

 

恐らく音波砲を発射する準備だ。

 

だが、ディアンが突貫。

 

脳天からたたき割るように、手斧での一撃を叩き込んでいた。

 

唐竹になった植物の魔物が大暴れするが。メインウェポンを潰された状態だ。カラさんが熱魔術で、即座に焼き払ってしまう。

 

タオとパティは走り回って、無言のまま、近付いてくる魔物を、片っ端から斬り倒す。

 

「あっちから来るぞ!」

 

「了解っ!」

 

クリフォードさんの勘は冴え渡り、奇襲の方向を確実に予知してくれる。

 

地下から迫ってきた巨大な百足を、あたしは地面にフルパワーの蹴り技を叩き込んで迎撃する。

 

文字通り、地盤ごと粉砕。

 

圧搾された百足は、悲鳴すら上げられず死んだ。流石に百足だけあって、それでもビタンビタンと暴れていたが。

 

凄まじい生命力だが、放置。

 

一応カラさんが、首から上を焼き払ってくれる。

 

毒とか浴びたら笑い事では済まないからだ。

 

二刻ほど暴れ回って、小者ばかりとはいえ、高地にいた魔物をだいぶ間引く。彼方此方派手に炎上しているが。元々高地の生物である者は傷つけていない。

 

リラさんが戻ってくる。

 

遊撃で好きに暴れてくれと言っておいたのだが。

 

巨大な熊を担いで戻って来た。首が綺麗にすっ飛んでいる。

 

地面に放り捨てられた巨大な熊が、地響きを立てる。

 

「うまそうだ。 後で捌いて食べよう」

 

「熊、美味しいのか」

 

「なかなかうまいぞ」

 

不思議そうにするディアンに、リラさんがうっすら笑って返す。

 

笑みを浮かべているというよりも。

 

肉食獣のそれだ。

 

まだまだ、この程度ではダメだろう。すぐに個体数が回復する。魔物は駆除しても駆除しても湧くものだが。

 

そもそもとして、連中は大きすぎる。

 

生態系の回復のためにも、あんな巨大な生物が我が物顔で歩き回る状態は、好ましくないのである。

 

潰す。

 

徹底的に。

 

少し休憩を入れてから、駆除を再開。クラウディアの狙撃が、一度に数匹ずつ、魔物を射貫いていく。

 

今日は一日、此処で徹底的に駆除を行う。

 

予定よりも遅れが出始めているが。

 

これは仕方がない遅れだ。

 

仕留めた魔物のうち、使えそうなものはどんどん後方に移送する。捌くのはレントや控えている戦士達に任せる。

 

大型の魔物は、だいたい体内にそれなりに使える部分があるし、場合によっては魔力を高密度で圧縮させている。それを使って、他の生物同様に魔術を使うのだ。時にはセプトリエンも取れる。

 

昼になった頃には、大量の血を浴びていたが。

 

気にせず一旦昼食にする。

 

二交代で昼食を取るが、今更むせかえるような血の臭い程度で臆する仲間はいない。フェデリーカだって、最近は結構平気な顔をしている。

 

これは必要な駆除作業だ。

 

鉱山の襲撃に対する報復ではない。

 

あたしはそう言い聞かせながら戦うが。それでもどうしても戦い方が更に激しくなるのはとめられないか。

 

少し休憩してから、また戦いを開始。

 

戦闘する位置を変えて、徹底的に辺りの魔物を仕留めていく。

 

高地でも、もっとも見晴らしが良い場所は、残念ながら溜まりが見えないのである。

 

また、血の臭いに引かれる魔物も、目に見えて減り始めている。

 

だったら、戦地を変えるしかない。

 

それに、どれだけ駆除しても、鼬やラプトル、走鳥辺りは。それこそ何処にでもいる。これらは或いはだが。

 

まっとうな繁殖を行っておらず。

 

何かしらの未知の手段で増えているのかも知れなかった。

 

 

 

レントの所に、ピストン輸送されてくる膨大な魔物の死体。戦士達の中で、当世具足を着ている例の一族の戦士だけが淡々と解体作業をしているが。残りの決死隊の者達は、明らかに腰が引けていた。

 

「ここまで戦闘音が聞こえてくるぜ」

 

「聞いたか。 中小のギルド長どもがアホばっかり抜かしているのを聞いて、錬金術師どのも流石に頭に来たらしい。 舐めた真似してると消すぞって話が出たらしくてよ」

 

「鉱山での襲撃でも、とんでもない暴れぶりだった。 あの人が本気でキレたら、サルドニカなんて一日で更地だな……」

 

感謝以上に怖れられている。

 

レントも、ちょっとこれは良くないかと思ったが。

 

だが、レントとしても、サルドニカのギルド長達。硝子ギルドと魔石ギルドの長はそれなりに出来るようだが、それ以外。フェデリーカに負担ばかり掛けて、エゴばかり振りかざす凡俗達。

 

それには、思うところも多い。

 

ライザのやり方は厳しすぎる。

 

以前、ボオスとそれを話した事がある。

 

ボオスはクーケン島で対立していたこともあるが、それは多分互いをライバルだと認めていたからだと思う。

 

今は腹を割って話が出来るようになっていて。

 

時々ボオスは言うのだ。

 

ライザは非常にエネルギッシュに世界を変えるが、その本質は燃えさかる炎だと。熱魔術の奥義で魔物を焼き払っている時が、ライザの剥き出しの姿なのだと。

 

世界を焼き滅ぼす最果ての巨人。

 

タオが、そんな伝承があるという話をしてくれたことがある。

 

ライザが帰った後、王都に滞在している時にしてくれた。昔、神代の頃にたくさんあった神話らしい。

 

ライザはまさにそれなのではないのか。

 

レントはそう思ってしまうのだ。

 

ディアンが大急ぎで荷物を引いてきた。巨大な熊が何分割かされて乗せられている。ひっと戦士が声を上げたが。

 

当世具足の戦士が咳払いした。

 

「いい加減にしなさい。 錬金術師どのが倒してくれなければ、あれを相手にするのは貴方たちだったんですよ」

 

「その通りだ」

 

「……すまない、そうだな」

 

「忘れてくれ。 と、とにかく解体しよう。 こっちに来てる奴は、サルドニカで好きにしていい物資なんだよな。 分かってる」

 

レントは無言で熊を捌く。

 

腹の中に人間の亡骸は入っていなかった。皮を剥いで、肉を取り。熾こしてある火で煙を燻して、燻製にしていく。

 

大型の熊の爪は巨大で、見るだけでまともにくらったら命がないと分かる。だが、今の世界では熊より危険な魔物がなんぼでもいる。熊ですら普通に補食される事が珍しくもないのだ。

 

解体を終えると、どんどん後方班に回す。

 

当世具足の例の一族の戦士が、レントを褒めてくれる。

 

「良い手際だ」

 

「ああ、ありがとう。 俺も一人旅で彼方此方回っているからな。 魔物の捌き方くらいは、お手のものだ」

 

「この時代に一人旅か。 腕が磨かれるのも納得だ」

 

「そうだな……」

 

去年はスランプになっていた事はいわない。

 

それについては、親しい相手にだけ言えば良い事だ。

 

まだまだ後送されてくる魔物の残骸。

 

次々捌く。しばらく、肉代が安くなりそうだなと、レントは思った。ただ魔物が相手だ。高地の生態系を戻すためにも、必要な事だ。

 

生態系が戻るのは、恐らく一時的だ。魔物の数が今の世界では多すぎる。一度全部駆逐しても、またすぐに余所から来る。そしてうんざりするほど増える。

 

だが、ライザ達の行動は決して無駄にはならない。

 

そう、レントは思った。

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