暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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神代を追う戦いの中でも、ライザの仲間にはそれぞれの生活があり、人生の目的は様々です。

フェデリーカも隔世の豪傑であるライザの前では霞んでしまいますが、お飾りで祭り上げられたとは言えサルドニカの首長。そしてサルドニカを心から愛しているからこそ、いつも苦悩しているのです。


激戦高地
序、誘引作戦


タオが地図を拡げた。短時間で仕上げた高地のものだ。高低差もしっかり書き込まれていて、分かりやすい。

 

今は夜。寝る前。

 

疲れきっているフェデリーカにも、もうちょっと頑張って貰う。それにしてもこんな疲労のしかただと。あたし達と別れてサルドニカの統治に戻った後、潰れてしまうのではないのかとちょっと心配だ。

 

今のサルドニカは合議制だが、それでも状況次第によっては頭であるフェデリーカに大きな負担が掛かる。

 

それを思うと。

 

やっぱり政治制度には問題が多く。

 

きっと正解なんてないし。もしあったとしてもまだ人間はたどり着けていないのだろう。

 

「ライザは対毒ガス用のマスクを作ってくれたけれど、毒ガスが溜まっている場所で、あの超ド級の魔物と、更には神代鎧とやりあうのは現実的じゃない。 更に言えば、あの超ド級の魔物と神代鎧を同時に相手にするのも避けるべきだよ」

 

「確かにタオさんが言うとおりだよな。 でも、神代鎧ってあの格好いい姿の奴らだろ。 彼奴ら強い上に頭も良いぞ。 彼奴らを引き離すとして、一体どうすればいいんだ?」

 

ディアンがずばり言ってくれるので、分かりやすい。

 

アンペルさんが、順番に提案してくる。

 

「一番良いのは、恐らくは時間差各個撃破だ。 相手の足の速さの差を利用する」

 

「具体的にお願いします」

 

「誰かが敵を釣る。 それで、敵が追いついて来られそうな速度で、逃げ回る。 あの巨大な奴が、どう考えても神代鎧と同じ動きが出来るとは思えない。 其処で出来た隙を突く」

 

なるほど、誘引して引き離すわけだ。

 

問題は、敵がのってこない場合である。

 

彼処に遺跡があるのは。ほぼ確定とみて良いだろう。

 

だが、だということは。

 

かなり戦い慣れているというか、達人と同じ動き同じ判断があの鎧達は出来る場合、途中で足を止めてしまう可能性がある。

 

番犬代わりのあの超ド級魔物だってそうだ。

 

のうのうと釣られてはくれないだろう。

 

「執拗に攻撃して、どうにか釣るのはどうだ」

 

「誰が誘引する。 快足自慢のタオとパティでも、殺到する神代鎧と、空間操作くらい使って来かねない超ド級の魔物をさばきながら逃げるのは難しいぞ」

 

ボオスに、リラさんが現実的に返す。

 

その通りだ。

 

釣り役が、釣りの過程で疲弊しきっては意味がないのである。あの陣容の敵を、戦いながら引きつけるのは、この全員で掛かってもかなり厳しいとみるべきだ。

 

いっそ、覚悟を決めて、溜まりから引き離した直後に総力戦を挑むか。

 

そう提案してきたのはレントだが。

 

これは、カラさんが止めておけと一蹴。

 

あたしも同意見である。

 

はっきりいって、半分生き残れば良い方だろう。そんな消耗は、たかが遺跡の探索だけで、許されない。

 

これからもっとヤバイ大敵が控えているのだ。

 

此処に集った世界でもトップクラスの戦士達を、塵芥のように消耗するなんて、あってはならないことなのだ。

 

しかし、溜まりから敵をどかさないと、ドゥエット溶液の研究もできまい。また、そもそも神代のまだ稼働中の遺跡だ。

 

解析しておかないと。

 

後の時代に、どんな災厄をもたらすか、知れたものではなかった。

 

「ライザ、まずは誘引策を試してみる? ダメだったら、他の策を考えるのでもいいと思うけれど」

 

「いや、それは確かに手なんだけれども、有効そうな他の策が思い当たらないんだよね……」

 

「それなら、私とライザで狙撃支援をくわえて見たらどうかな」

 

クラウディアの提案。

 

誘引役を何人か出して、神代鎧と超ド級魔物を釣る。奴らが引き替えしそうになったら、クラウディアとあたしが、狙撃と遠距離の高威力魔術で挑発し、追撃を続行させる。それで、どちらかと誘引できれば。

 

うむ、それは次善の策だな。

 

他には。

 

皆に意見を求めるが、パティが提案をしてきた。

 

「いっそ、遠距離から倒しきるのを目的にして見ては」

 

「……あたしも強力な爆弾は開発しているけれど、毒ガスに引火したり、それが研究所に波及したりしたら、どうなってもおかしくない。 神代鉱山遺跡の戦闘で、神代鎧は氷漬けにしても短時間で復帰してきた。 例えば冷気の爆弾を更に強化するとしても、それにクラウディアとカラさん、後はセリさんやクリフォードさん。 遠距離で攻撃出来る面子の火力を全部乗せられたとしても、倒せるかどうかは……」

 

「ただ、次善の策として準備してもいいんじゃねえか」

 

ボオスが言う。

 

確かに、それもそうか。

 

ちょっと考える。

 

そうなると、三つ今策が出来た。

 

だが、もう少し考えたい。

 

それから色々案が出たが、次善の策となりそうなものはついぞ見つからない。いずれにしても、冷気爆弾としても、すくなくともメルトレヘルン以上の火力を出せないといけないし。

 

冷気が強力すぎると、下手すると辺りの生態系がそれだけで全滅しかねない。

 

何かしらの対応が必須だった。

 

「ライザよ」

 

「どうしました、カラさん」

 

「今の策をとりあえず順番にためしてはどうか。 敵の連携、行動などはまだまだ判断できる状態にはない。 敵の動きなどを見て、駄目なようなら二次攻撃作戦を立案すれば良かろう」

 

「……分かりました。 それが賢そうですね」

 

年の功という奴か。

 

いずれにしても、これ以上は良案も出そうになかった。

 

まずは解散。

 

いずれにしても、明日も高地での魔物狩りを続行する必要がある。サルドニカでは必死に傭兵を募っているようだが、殆どごろつきや与太者しか集まらないようで、苦心している。

 

サルドニカは世界でも数少ない、現在発展を続けている街だが。

 

だからこそ、蛆虫の同類も集まるのだ。

 

先に皆に休んで貰い。

 

あたしはちょっと残業する。

 

現在、炎、冷気、雷、風のそれぞれの大火力爆弾を開発済だが、その先を考えようとしていたのだ。

 

四つの破壊を同時に叩き込む切り札ツヴァイレゾナンスも良いのだが。

 

それとは別に、それぞれの更に上の火力を追求しても良いかも知れない。事実神代鎧の登場にて、それらの爆弾でも倒し切れない装甲が出現したからである。

 

魔物だってそうだ。

 

エンシェント級のドラゴンや、精霊王との交戦経験はない。

 

戦って負けるとはいわないが。

 

空間を通って此方に来るようなエンシェントドラゴンは、多分今まで目撃した竜族とは次元違いの筈だ。

 

王都近くの遺跡、北の里で見た残留思念のエンシェントドラゴン、通称西さんだって。人間の言葉を流暢に使いこなした。それどころか、北の里を発展させ、導いた優れた為政者でもあった。

 

それを考えると、あたしは頂点に辿りついたとはとても言えないのだ。

 

さて、爆弾の火力を更に上げるにはどうするか。

 

冷気の発生源については、幾つかの素材を吟味した結果、恐らくはオーリムで採取した永久氷晶と現地で呼ばれている、何があっても溶けない氷が良いだろう。これは高い魔力と結びついた結果、氷が絶対に溶けない状態になっている。

 

その内在している冷気は凄まじく。

 

もしも解き放てば、それこそアトリエが丸ごとどころか。

 

鉱山が丸ごと凍り付きかねない。

 

勿論これを無理に解放する手もあるのだが。

 

それははっきりいって悪手だ。

 

凍り付かせることは出来るだろうが、神代鎧クラスの相手になると、とても倒し切れないだろう。

 

ならば。

 

その冷気を一点収束して見る。

 

冷気というのは、エーテルで分解していて分かってきたのだが。世界が擬似的に凍結している状態であると言える。

 

世界が完全に停止した場合。

 

恐らく、それに巻き込まれた生物なんて、ひとたまりもない。それはからくりだって同じだろう。

 

ただ範囲を絞るには、高度な魔術による制御がいる。

 

少し考えながら、あたしは小妖精の森にあるアトリエにあるコンテナから。

 

制御媒体として使えそうな。

 

以前作りあげた。魔力制御のための道具をもちだしていた。

 

エーテルに材料を溶かしながら、色々と考える。

 

これは、もの凄く計算が大変だ。

 

だが、散々様々な調合をこなした今のあたしなら出来る筈。そう言い聞かせながら、少しずつ調べて行く。

 

だが、時間だ。

 

クラウディアに肩を叩かれたので、苦笑。

 

材料をエーテルの中で再構築して、後は寝ることにした。

 

同じように火焔爆弾、雷撃爆弾、風爆弾も、それぞれ改良を考えないといけないだろうなとあたしは思う。

 

明日、高地の掃討作戦は皆に頼む。

 

そして、この切り札になる爆弾を、開発しなければならない。

 

一日でいけるか。

 

布団に潜り込みながら考える。

 

いや、一日でやるんだ。

 

それくらい出来ないと、神代のカス共を灰燼に帰すのは厳しい。カラさんだって、奴らはてんでたいしたことはなかったが、使ってくる装備だけでオーレン族の強者とやりあったと証言していた。

 

つまり、それくらい凄いものが出てくる可能性がある。

 

それを超えるくらいの装備を作れるようにならないと。

 

世界の癌は、切除できないのだ。

 

 

 

ライザさんがもう摂理を完全に超越した爆弾を作り始めたのを横目に、パティは大太刀を二振り背負うと、高地に赴く。

 

昨日の時点で死体の山を築き上げたが、それでもまだまだ足りない。

 

高地で戦って見て分かった。

 

人の手が入らない場所では、魔物は際限なく増殖し、隙あらば人を狙いに行く。そこには生態系もなにもないのだ。

 

大太刀を振るって血肉を落とすと、パティは返り血を拭いながら聞く。

 

「タオさん、もう座標は集めなくて大丈夫ですか?」

 

「今の所は平気かな。 とにかく、今日は魔物を減らす事に集中しよう。 ライザはあの様子だと、今日中には冷気爆弾の更に凄い奴を完成させかねない。 そうなると、明日の本番で、魔物に横やりを入れられるのは避けたい」

 

「はい」

 

その通りではある。

 

ただでさえとんでもない相手が来るのだ。

 

一番標高が高い位置に到達。此処を野戦陣地にして、クラウディアさんの狙撃を主体に魔物を削る。

 

昨日かなり削ったが、それでも相当数がいる。

 

片っ端から始末していく。

 

接近して来るものいるが、切り札にしているハイチタニウムという凄い金属で刃を補強しているものは使わない。

 

通常ので充分だ。

 

立ち位置を変えながら、五体の鼬を瞬く間に撃ち取る。やはりパティを優先的に狙って来るものが多いので。それらは磨き抜いたカウンターで討ち取る。すれすれを擦らせ、攻撃後の最大の隙を斬る。狙われることが多いと気付いてからは、この技を磨いた。今では強力な魔物はパティを優先して狙う事も少なくなったが、雑魚相手にはまだまだ有効な技術だ。

 

この程度の雑魚が相手なら、髪の毛一本散らせない。だが、返り血まで防ぐ事は無理である。

 

帰ったら、風呂で血の臭いは落とそう。

 

魔物によっては、血の臭いが酷く臭かったりするし。魔物を斬ったときに浴びるのは血ばかりではないのだ。

 

他の皆も、鋭い戦いで、迫る魔物は片っ端から仕留める。クラウディアさんの狙撃も冴え渡っていて。全く不安は感じない。

 

大きめのがいる。

 

凄い大蛇だが、こっちにはこない。猛烈な戦いの気配を察してから、そそくさと逃げていく。

 

蛇は種類によっては非常に好戦的だが、そうでない種類もいる。むしろ毒蛇の方が憶病だとも聞く。

 

あの蛇は、戦いたくないという意思が見えるし。

 

何よりも、大きさからして在来種だろう。

 

魔物として後にばらまかれたのならともかく。

 

今、此処で殺す理由もあるまい。

 

とにかく、まだまだ斬る。

 

血しぶきを浴びる。

 

昼過ぎに、一度高地を降りる。

 

レントさんと合流して、ピストン輸送していた魔物の死骸のうち、良い肉を貰ったので、持ち帰る。

 

アトリエでライザさんたちと一緒に食べるのだ。

 

案の場、サルドニカに向かっていたフェデリーカさんら三人は戻って来ない。忙しいのだから仕方がない。

 

ライザさんは、ものすごく難しい調合をしているようだが。

 

それはそれとして。

 

アトリエの中が、やたらひんやりしているのは、気のせいでは無いだろう。

 

手を洗って、うがいをする。

 

沸かし済の水が常に用意されているのは凄い。湯沸かしの魔術が出来ると、貴族の家でも下働きできる。それくらい、湯沸かしを済ませた水はありがたいものだ。このアトリエでは、ライザさんは自動でそれが出来るようにしているようだ。この技術が、民に行き渡ったら。そうとすら思う。

 

顔を拭いて、返り血に汚れた布を洗濯に。選択もある程度自動で行われる仕組みになっている。

 

ライザさんは王都の機械だけじゃない。

 

神代の古式秘具まで解析して、どんどん仕組みを理解して、自分のものにしている。その結果が、アトリエにある神秘の道具類だ。まだ完全解析できていないものもあるらしいのだが。

 

洗濯が自動で出来る道具なんて、ロテスヴァッサ王室にもない。

 

昔は、或いは当たり前のものだったのだろうか。

 

身繕いを済ませた後、頭巾を被ってクラウディアさんの横で料理を始める。大人数が食べるが、今は高地で戦っていないメンバーの分がどうなるか分からない。だから、余っても無駄になりにくいものにする。

 

パイを焼いて、それを皆に配る。

 

やっぱり戦った後はおなかがすくから、みんな気持ちよく食べてくれる。パティも作っていて嬉しい。

 

王都に帰還してタオさんと結婚したら、たまにはこの経験を生かして料理をしたいものである。

 

だけれども、タオさんはどうせ研究研究なんだろうなと言う事も、普通に分かってしまう。

 

もどかしいが。

 

タオさんが世界最高の学者である事は、間近で見て知っている。

 

その偉業を邪魔するような妻にはなりたくないし。

 

何よりも、それを含めて好きになったのだから、今更不満を口にするつもりもなかった。

 

食事が終わった後、ライザさんが幾つかの爆弾の試作品を並べていた。もう爆弾の形状すらしていない。

 

多分だけれど、今までの爆弾は、汎用性を考えてあった。誰が見ても爆弾と分かるようなものとしてあったのだ。

 

だけれど、これにはそれがない。

 

「ライザさん、良いですか」

 

「どうしたの?」

 

「その爆弾、なんだか形状が今までと違いますね」

 

「うん、これは危険すぎるから、バレンツに卸すつもりは無いんだ。 冷気のこれが最初に仕上がったけれど、他にも火焔、雷撃、爆風と、それぞれ作るつもり。 それらの性能をフィードバックした、究極の爆弾も作ろうと思ってる」

 

そうか。

 

確かにそれは、人間が。特に今の人間が触っていいものではないだろう。

 

今よりずっと進んだ文明を持っていたはずの神代の錬金術師達が、お粗末極まりない倫理観念しか持たず、その文明をドブに捨てていたも同然であった事は、パティも実例を幾つも見て知った。

 

だから、ライザさんがこれは世に出せないと思うのも分かる。

 

ただ、ライザさんが誰かしらに、これを引き渡して。

 

それで身内だけで技術を独占してしまったら、結局また神代が再現されることにならないだろうか。

 

ライザさんなら大丈夫だろう。

 

だけれども。

 

それで、ライザさんは、永遠の時間と、子供を作らない人生を選んだのかも知れない。そう思うと悲しい。

 

ライザさんは、パティ達がいなくなったら、孤独になるのではあるまいか。

 

そうなったら、本当に魔王になってしまうのではありまいか。

 

神のあり方を悉く憎んだ存在は、魔王になるだろう。

 

人間にとっての最大の抑止存在でもあるだろうそれは。パティは。とても幸せな存在だとは、思えなかった。

 

「あたしは何があっても神代と同じにはならない」

 

ライザさんが呟く。

 

その言葉が、神代という愚かしい破壊者の時代に対する宣戦布告であると同時に。

 

自分も世界も焼き尽くす終焉の劫火のようにも、パティには思えるのだった。

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