暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
どちらかというと魔術と体術が武器で、道具は自分へのバフ用が主体の本作のライザですが、爆弾は爆弾でしっかり使います。
特に巨大な敵や複数の敵を相手にする場合の、魔術が通りにくい場合は特に爆弾が選択肢になる事も多いです。
近年のアトリエシリーズはガチンコで戦える錬金術師も増えてきています。次回作のユミアさんもかなり凄そうですね。
それはそれとして、本作のライザも、錬金術師としての戦いはきちんとするのです。
今回の相手は、厄介な神代鎧を随伴歩兵にしている超ド級魔物です。
この厄介なタッグを相手にすると、そういった戦術を使わなければライザでも勝てないのです。
準備は整った。
あたしはまずは、全員に集まって貰う。朝一番だ。ミーティングはこの段階で行うしかない。
ドゥエット溶液の原液が流れ着く溜まりには、何度かの偵察の結果、ローテーションで神代鎧が見張りについており。
超ド級の小山のような魔物が常時貼り付いている事が分かった。
あのサイズの魔物は、空間操作などの厄介な魔術を使う事が多く、距離がある事は安全に結びつかない。
優れた戦士を多数有していたフォウレの里が、同レベルの魔物をずっと倒せなかったように、だ。
それに神代鎧は対人戦に特化していると思われる神代兵器であり、これを魔物と同時に相手にするのは好ましくない。数もどれくらいいるのか、分からないからだ。
そこで、まずは高所から攻撃を仕掛ける。
仕掛けるのはクラウディアにやってもらう。
敢えて見える位置から仕掛けるのは、むしろ此方の安全のためだ。超ド級の魔物が相手の場合、此方の想像を超える攻撃手段を有している可能性が高く、予備動作を見て反撃を回避するくらいの事は事前に考えておきたいのである。
フェンリルとの戦いで、空間操作能力持ちが如何に厄介か、あたし達は知っている。
下手をすると、空間を渡って至近にいきなりくる可能性だって否定出来ないのだから。
そして、まずは仕掛けて動きを見る。
相手の動きにも寄るが、ともかく分断できると判断したら第二段階に作戦を移行させる。残念ながらこの辺りは、戦闘を実際に行いながら調整するしかない。
要は行き当たりばったりだ。
それをダメにしない為には、事前にこうなった場合はこうする、という打ち合わせをするしかないが。
そもそもあんなヤバい魔物との交戦経験がそれほどないのである。
こればかりは、その場その場で判断するしかないのも現実だった。
ボオスが確認してくる。
「敵が分散したら、動きを止めるべくその氷結究極爆弾を使うんだな」
「ラヴィネージュね」
もはやレヘルンですらない。レヘルンはあたしとしては量産型の氷爆弾の通称である。
冷気を極限まで圧縮し、広範囲を爆発的に凍結させるこの爆弾は、量産していいものではない。摂理を完全に無視していて、直撃したらどんな生物だろうがからくりだろうが耐える事は出来ない。もし耐えるとしたら空間そのものを壁にするとか、その場所の時を止めるとかだが。
超ド級の魔物でも、そんな魔術はそうポンポンは撃てない。多分エンシェントドラゴン級でも無理だ。
つまり例え倒せなくても、敵に大きな消耗を強いることが可能である。信仰にあるような神でもなければ。
一応予備は作っておいたが、ラヴィネージュは意図的に範囲をこれでも絞ってある。無差別に範囲を拡げた場合、下手をすると鉱山の先の高地がまるごと氷漬けになりかねないくらいの冷気が出る。
炎爆弾などの究極型も、完成した場合は同じ事になる。
無差別に炸裂させたら、それこそ街くらいは一発で消し飛ぶ。
恐らく、神代の連中はそういう爆弾を躊躇なく人間にも使っていたのだろうなと、簡単に想像できるし。
だからこそ、フィルフサに行ったみたいな邪悪な改造を、他の生物にも出来たのだろう。
そして、念の為のツヴァイレゾナンスだ。
これらの上位爆弾が完成したら、その特性を組み直して、全部一度に叩き込む爆弾も作り込む。
ただそんなものは、神代が切り札レベルで使ってくるような兵器くらいしか対応できないはずで。
間違いなく過剰火力である。
出来れば使わないで済ませたいが。
ともかく、連中の頭のネジが壊れているのは分かりきっている。
だから、どんな無茶も「起きる可能性が高い」と判断し、常に備えなければならないのも事実だった。
説明はしておく。
青ざめている皆も多かった。
ディアンですら、大丈夫なのかそれと顔に書いている。
勿論大丈夫では無い。
使うとしても、神代の凶悪兵器相手くらいである。それ以外は、完全に過剰火力なのだから。
「現時点では一世代前のツヴァイレゾナンスももってはいるけれど、これだと今までの戦歴を考える限り、超ド級の魔物相手には有効打にはならないと思うね。 少なくとも一発で倒すのは無理かな」
「分かった。 それで神代鎧をまとめて動きを止めて、一気にあの超ド級の魔物を倒しきると。 超ド級の魔物は、間違いなく替えがいないからね」
「そうなる。 ラヴィネージュであの鎧を破壊できれば話は早いんだけれどね……」
「全部破壊するのは不可能と考えている訳だな」
アンペルさんの言葉通りだ。
カラさんがしばし考え込んでいたが。
一つ提案する。
「最悪の場合もある。 神代鎧どもがその冷気爆弾をものともしなかった場合は如何にするのじゃ。 あれらはからくりぞ。 万が一もあろう」
「全部が無力化出来るとはあたしも考えていません。 一部は凍結を免れて、こっちに来ることは想定しています」
「ふむ、なるほどな」
「その場合は、何人かが足止めをする必要があるかと思います」
カラさんは頷く。
セリさんにも声を掛けて、二人で対応してくれるという。オーレン族の手練れ二人による足止めか。
実に心強い。
「神代鉱山での戦闘でも、あの神代鎧達の動きは相当に速かった。 二人とも、距離が離れていても油断せず足止めをお願いします」
「分かった。 あれらは達人のオーレン族なみの相手として認識するわ」
「しかし妙だな。 千三百年前に、あれらが繰り出されてきた記憶がない。 あれらも出て来たら、勝てなかった可能性もあったのじゃがな」
「恐らくは、浅ましい権力闘争の結果でしょうね」
タオが指摘。
神代鉱山には、ハイチタニウムを作るグループの地位が低く、扱いが軽かった事実が記載されていた。
神代の連中が何処に本拠を構えたかはいまだに分からないが。
いずれにしても、はっきりしているのは。
神に近いと驕り高ぶっている連中が。
「劣っている」存在が作った兵器を、主力として採用した可能性は低い、ということである。
だから大した身体能力もないのに、カラさん言う所の「炎の牙」やら「光の剣」やらを手に。
負ける訳がないと自信満々に出て来たのだろう。
そして、それが要因となって負けたと。
今は、そういった神代の愚かな部分をどんどん突いていき。
その間隙から崩す事も、考えて行かなければならなかった。
「作戦を整理するよ。 クラウディアの攻撃をまず仕掛ける。 巨獣と神代鎧をどうにかして引きはがす。 引きはがしたら、神代鎧をラヴィネージュで動きを止めて、両者を分断する。 巨獣に集中攻撃を仕掛けて仕留める。 その間カラさんとセリさんで神代鎧の動きを止める。 巨獣を仕留め次第、皆で神代鎧の残党を仕留める」
「地図での予定戦闘図を示すよ」
タオが、細かい作戦について地図を拡げて説明してくれる。
総力戦になるのは確定だが。
問題はそれだけではない。
巨獣を倒した後、余力がどれだけあるか分からない、ということだ。
あの神代鎧は、それぞれ揃って達人並みの強さだった。
とにかく、余力を絞り上げて、徹底的に速攻を重ねて倒しきるしかない。
荷車には薬をわんさか積んでいく。
薬は惜しまず使い。
何が何でもあれらを仕留めきる。
それが、今回の作戦の主旨だ。
フェデリーカが手を上げる。サルドニカの代表者としても、この場にいて貰わないと困る。
「昨日、なんとかして時間は捻出しましたが、今日の午前中が限界です。 昼までに倒せないようだったら、一度引くことを考えないと……」
「分かった。 とにかく、迅速に全部片付けようね」
「はい……」
フェデリーカは顔が真っ青だ。
これから神域の戦いに巻き込まれてしまうんだ。きっと助からないんだ。そんな怯えが明らかに顔にある。
ちょっと精神的に弱ってるな。
今までフェデリーカは、あたし達と一緒に、凶悪な魔物と戦って来た。この間なんか、神楽舞の奥義まで発動に成功している。
そして全員の能力を常時引き上げる神楽舞は。
戦闘の軸になる。
なんとかこの根本では気弱な子を、力づける手はないのか。自信を持たせるというのだろうか。
だが、あたしもレントもそれは最初からあったし。
タオは戦いの中で、自然に自信をつけていった。
やはり数をこなすしかないか。
あたしは手を叩く。
「じゃあ行くよ! 出陣!」
「おおっ!」
皆が声を張り上げる。
恐らくサタナエルとの戦いと並ぶ、サルドニカ周辺での決戦と言える戦いに、これはなる筈だった。
高地に陣取る。
移動中に、もう一度地形はおさらいした。
クラウディアが、手を振って来る。
いつでもいける、という合図だ。
あたし達は、それぞれ配置につく。空間系の能力の場合、喰らうとひとたまりもない可能性が高い。
アンペルさんの、空間切断の線みたいな奴でも、重要臓器を貫かれたら文字通り即死なのである。
それが超ド級の魔物やフェンリルなどの、積極的に使ってくる相手の空間魔術の場合。
纏まっていたら、それこそ一瞬で全滅の可能性もあるのだから。
全員、配置についた。
それぞれをカバーできる、ちょっとずつ距離を取った状況だ。
あたしが右手を挙げて、そして振り下ろす。
同時にクラウディアが、音魔術を大規模展開。
放たれた無数の魔術矢が、うなりを上げて。バリスタのようなサイズが多数。溜まりにいる超ド級の魔物に襲いかかっていた。
神代鎧が反応。
わっと集まって、密集隊形を作る。それだけじゃない。盾を構える。
今の時代。魔物との戦闘で盾なんか使い物にならない事が多く、使わない戦士の方が多い。
ただ小型の魔物を相手にする場合は使える事もあるので、大きな盾を敢えて威圧的にもつ戦士もいるし。
なんなら盾をいっそ打撃武器として活用している戦士もいる。
だが、あの神代鎧のは違う。
ハイチタニウムを複層構造にし、対魔術の加工もばっちりしている強力な武装である。あれは、クラウディアの矢でも、一撃貫通は厳しい。
だが、あの動き。
チャンスとも言えた。
わっと、溜まりの奧から、多数の神代鎧が出てくる。矢が多数炸裂しても、致命傷には遠そうな巨獣が五月蠅そうに立ち上がった。
其処に第二射が入る。
さて、どう動く。
巨獣はしばらくこっちを見ていた。小山のようなサイズで、巨大な熊の全身に多数の目をつけ、背中は苔むして無数の突起が森のように生えており、触手も多数全身から伸びている。足も六本あり、長い尻尾もあるようだ。
それはこっちをじっと見ていたが。
クラウディアの第二射を見て、敵対行動と判断したのだろう。
うぉんと、凄まじい重低音で鳴いた。
同時に、クラウディアの矢が全部かき消える。
これは、魔術の強制解除か。
文字通り魔術を無理矢理解除して、魔力の状態に戻してしまう。ただ、装飾品の様子を見る限り、一種の魔術しか一度に解体できていない。
いいなそれ。
充分に勝機はある。
まだ溜まりから、奴らは動いていない。このまま狙撃戦になる場合も想定していたが、別にそれでもかまわない。
クラウディアにもう一発、斉射を放って貰う。
既に四十体はいる神代鎧の群れは、盾を整然と構えていて、その練度の高さがよく分かる。
正確には違うのかも知れないが。
ともかく、矢がまた飛んでくるのを見て、五月蠅いとばかりに巨獣が鳴き。矢がかき消されるが。
次の瞬間、巨獣の背中が爆発し、立て続けに猛火を上げていた。
痛打を受けて、五月蠅そうにする巨獣。
そう、今のは。
あたしがクラウディアの狙撃とタイミングを合わせて、アネモフラムを投擲したのである。
それも三つ。
炸裂した殺戮のアネモネの赤い花に焼かれて、巨獣は流石に苛立ったようである。また、大きく鳴く。
同時に、全身の触手を振るわせているのが分かった。
なるほど、魔術をかき消しつつ、何かしらの大魔術を放ってくるつもりか。神代鎧は今の時点で動く様子はない。
巨獣が頭に来てこっちに来てくれれば言う事はないんだが。
あれも神代が作った生物兵器の可能性が高いから、戦術を理解して動いている可能性もある。
ただ、ネメド付近でみた、一切こっちに手を出してこなかった巨獣やフェンリルの事もある。
もしも引いてくれるようだったら、こっちも相手にしないという選択肢もあるのだが。
「避けろ!」
クリフォードさんが叫ぶ。
同時に、あたしとクラウディアを結ぶ直線上が、いきなりバカンと音を立てて吹っ飛んでいた。
あたしは即座に横っ飛び。クラウディアも、それに準じて回避したようである。
文字通り地面がえぐれてしまっている。
これはまずい。
間違いなく、これは空間操作魔術。
それも以前サルドニカで交戦したフェンリル以上の精度で、しかも距離という観点では更に上だ。
やっぱり神代が作った番犬だ。
簡単にいくわけがないか。
あたしはうっすら笑うと。こっちにのしのしと歩き始める巨獣と神代鎧を見やる。神代鎧も、此方を排除対象と見なしたようだ。
そのまま、全員にハンドサインを出して、位置を変える。
それを見て、巨獣はなんのためらいもなく直進してくる。
ただ、そうすると。
地形に引っ掛かる形で、どうしても巨獣と神代鎧が同時に動けないタイミングが出てくる。
道が狭すぎるのだ。
「さて、どう出る?」
「ライザ!」
「!」
横っ飛びに逃れる。
一瞬前まであたしがいた地点に突き刺さったのは、多数の槍だ。投擲用のものだとみて良いだろう。
溜まりの辺りに、残留した神代鎧が六体いる。
それらが、第二射を番えている。
両者の距離は四百歩は軽くある。
大弓だったらともかく、投擲槍をあの距離からこの精度で飛ばしてくるのか。ちょっとまずいか。
隘路にさしかかった巨獣は、悠然と前に出て、神代鎧は先に行くのを律儀に待っているようである。
なるほど、戦力を完全に行かせる動きを知っている、ということだ。
しかし、その教本通りの動きが命取りだ。
クラウディアに手を上げて合図。
矢を放つクラウディア。
無力化に掛かる巨獣。更に今度はシールドまで展開し、あたしからの長距離投擲にも備えている。
だが、今度の狙いは、奴の後ろだ。
おっそろしく分厚いシールドをガン無視して、あたしの投擲したラヴィネージュが、纏まっている神代鎧のど真ん中に落ちる。また、猛烈な突風の魔術をカラさんが展開し、神代鎧の槍投擲の邪魔をした結果、ばっと散った槍が、彼方此方に無作為に刺さる。
次の瞬間、ラヴィネージュが炸裂。
どんと、猛烈な破砕音がして。
世界が一気に白くなった。
それくらいの冷気が吹き付けてきた、ということだ。
神代鎧四十体は、即時で凍結。それどころではない。巨獣もシールドを喰い破られ、背中から尻尾に掛けては一瞬で凍り付いたようだった。悲鳴を上げた巨獣が、体勢を低くすると、全力で突っ込んでくる。
「よし、予定通り! 全員散って!」
「分かった!」
カラさんとセリさんが、同時に遠距離攻撃部隊の神代鎧に、魔術戦を挑む。巨獣をどうにか神代鎧と分断できたが、まだまだこれからだ。
走りながら、空間ごと削り取る攻撃を乱射してくる巨獣。
皆が立っている位置が、次々抉られる。
直撃を喰らったら、ひとたまりもない。
最前衛のレントが、雄叫びを上げながら。坂をものともせず駆け上がってきた巨獣と、真正面からぶつかり合った。
地響きと衝撃波が発生し、辺りの地面に罅が入る。
「まずはあの触手を全部無力化! 巨体から繰り出される攻撃にも要注意!」
「了!」
総員戦闘開始。
どの道、サルドニカ近辺の人間にとって、あの遺跡はまだ触るのは早いのだ。
今此処で。
対処は終わらせてしまわないといけない。
重点的に狙われているあたしは、とにかく走りながら、熱槍を次々巨獣に叩き込む。それぞれ石造家屋数軒を吹っ飛ばす火力だが、巨獣は痒いわと言わんばかりに、それを体だけで弾き、レントに前足の猛烈な一撃を叩き込むが。レントもレントで、それを大剣でパリィして弾いてみせる。
ただ流石にレントも押されて、衝撃波が出る。
タオとパティが、その隙に相手の側面に。
ディアンとボオスが、正面から仕掛ける。
熊の頭部の上辺りについている目が、ディアンを見る。
「ディアン! 避けろ!」
「!」
ディアンが横っ飛びに逃れるのと、クリフォードさんのブーメランが目を直撃するのは同時。
ディアンがいた位置を、空間攻撃が抉る。
目を多少傷つけたが、巨獣は平気だ。
雄叫びを上げると、辺り全域が吹っ飛ぶ。魔力で周囲全域を押し返すようなものだが、威力が段違いだ。
こいつ、ネメドにいた巨獣より更に強いかも知れない。
だが、この面子だったら勝てる。
豪腕をかいくぐって、パティが至近に。触手を一本、気合とともに切断した。もう一本飛んでくるが。それをタオが剣を振るって弾き返す。
踏み込む巨獣。
多分、一斉に触手と足踏みでの衝撃を叩き込んで、タオとパティを屠るつもりだが、させるか。
熱槍を連射して、巨獣に叩き込む、鬱陶しそうにあたしに空間切断を叩き込みまくってくる巨獣。いわゆる偏差射撃までしてくるから、足を止めたら終わりだ。とにかく走り回って、攪乱しないといけない。それで攻撃も。負担が大きい。
「こっちを見ろ、デカブツが!」
レントが巨獣の顔面に大剣を叩き込むが、柔らかくしなった触手がそれを受け止めて見せる。
ちょっとこれは本気で強いな。
アンペルさんの空間切断がぶすりと巨獣を貫くが、それでも大して効いている様子がない。少なくとも重要臓器などにダメージが行っていないのだろう。
クラウディアの斉射が巨獣に襲いかかるが、触手がしなって全部弾き返す。
だが、その次の瞬間。
ディアンとパティが、それぞれ一本ずつ、触手を切断に成功。飛び離れる。
あの触手、かなりの強力な武器だが、少なくとも短時間で再生は出来ないらしい。大量の鮮血をぶちまけながら暴れる触手を、それでも振るい続ける巨獣。いや、これは。
呪文詠唱だ。
空から、何か来る。
みんな、避けて。
叫んで、一気に距離を取る。
振ってきたのは、火球か。それが次々辺りに炸裂する。高地全域が吹き飛びかねない破壊規模だ。
あたしの昔使っていた奥義。
無数の熱槍を叩き込んで、周囲を破壊する制圧魔術。
グランシャリオよりも、更に火力が上か。
皆が吹っ飛ばされ、地面に倒れ臥すのが見えた。
これはまずい。
ここまでやれるとは、想定外だ。あたしに迫ってくる巨獣。その動きが、スローに見えた瞬間。
真上から襲いかかったリラさんが、巨獣の背中に全力での突貫を叩き込む。
リラさんはおそらく、ずっとこの機会を狙っていたのだろう。彼方此方ちりちり燃えているが。
その闘志は全く揺らいでいない。
飛来するのは、投擲槍か。
今のでカラさんとセリさんの遠距離戦にもほころびが生じた。それで。
ざくりと、あたしの肩が抉られる。
凄まじい切れ味で、続いて焼けるような痛みが来るが。
あたしは笑うと、そのまま巨獣に走る。詠唱。巨獣は、流石に危ないと判断したのか、リラさんを触手をまとめて吹き飛ばすと、あたしに向き直って多数のシールドを展開して来る。
その時、立ち上がったレントとボオスが、全力で巨獣の脇腹に一撃を叩き込む。
いや、違う。
ボオスは多数の斬撃を連発して入れて。最後に、渾身の一撃を叩き込む乱舞技を入れていた。
「技名を叫ぶのはあんまり好きじゃないんだが、それでも威力が上がるならなんでもいい! カイザー……!」
巨獣が悲鳴を上げる。
効いている。
レントが、ボオスを薙ぎ散らそうとした触手を弾き返し、叫ぶ。
「やれっ!」
「エンフォースっ!」
ざくりと、巨獣の体に巨大な傷が抉り込まれる。
だが直後、触手の束が、二人をまとめて吹っ飛ばしていた。
そして向き直る巨獣だが。
ありがとうボオス。
時間、しっかり稼いでくれた。
あたしはその間に、熱槍二万四千を収束させ、手元に集めていたのだ。
巨獣が明らかに恐怖を顔に浮かべるが。
もう遅い。
死ね。
全力で踏み込む。
「フォトン、クエーサー!」
巨獣のシールドを全部まとめて貫通し、熱槍二万四千を収束した正面突破型のあたしの必殺技が、巨獣を穿ち。
次の瞬間には、奴を松明に変えていたのだった。