暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
サルドニカはホームグラウンドの筈ですが。此処が舞台の章では、フェデリーカの負担が激増します。
ただでさえライザがキュートアグレッション気味に接しているのに(笑)
アトリエにフェデリーカが戻ったのは深夜だったらしい。あたしはアトリエに戻ると、クラウディアが作ってくれた粥を食べて、もう一度風呂に入って。すぐに寝台に直行したからだ。
起きた時は、随分すっきりした。
加齢を止めた異常はあるとは言え、まだ体は二十代前半。
それはすっきりもするだろう。
外で体操をする。
流石に鍛えているから、筋肉痛になるような無様はしない。ただ、パティがいつもより起きてくる時間が遅かった。
ヴォルカーさんとアーベルハイムのメイド長に幼い頃から鍛えられているパティが、朝に遅れるのは珍しい事だ。
そこで、パティから聞かされたのだ。
フェデリーカやボオスともども、深夜に戻ったのだと。
体操で軽く体を温めた後、それについて話す。
「大変だったね」
「サルドニカはもう少し合議に加わる人員を調整した方が良いと思います。 多分合議制の弱点というものでしょう。 タオさんも、合議制も腐敗すると貴族制となんら変わらなくなるようだという資料を見せてくれたんですが、実例を見る事が出来ました」
「有意義だったね。 ロテスヴァッサ王国が文字通り終わる頃には、良い制度を作れそうかな」
「なんとも。 どうしても人間の国家は、属人的になるのかなと感じてしまいます。 寡占も合議もそれぞれの欠点があって、それぞれ腐敗する。 酷い場合は民衆そのものも腐敗する。 そう考えると、正解はないのだと思います。 でも、その中でより良きを選んで、人々を導く。 これは難事です」
そうだとあたしも思う。
でも、次世代の指導者になるパティがそれを分かっているのなら、この国はある程度は大丈夫だろう。
パティの世代の内はだ。
問題はそれ以降の世代の場合だが。
まあ、それはその時に考える。
その頃には。あたしは魔王になっておかないと、色々とまずいだろうなと思うけれども。それについては、他の誰にもまだ言うつもりは無い。
神代のカス共は、資料を発見したり、遺跡でログを漁れば漁るほど論外の連中だった事が分かるのだが。
しかしながら問題なのは。
人間として理解出来る範囲の論外だと言う事だ。
だから、人間は図に乗るとああなると言う事を、常に意識しないといけない。
図に乗っている人間を掣肘できる存在が必要になる。
それは、人間の正義を担保して、調子に乗らせる「神」ではダメなのだ。
悪さをしていると、容赦なく命を刈り取りに来る魔王でなければならない。
その結論は、神代の存在をみているとどんどん強くなるし。
あたしは神代の技術を全解析したら、魔王になるつもりである。
もしも魔王を倒そうという存在が現れた時は、その時は受けてやるのも良いだろう。
いずれにしても、今はまだ。
まずは神を気取った神代のバカ共の息の根を完全に止めるのが先だ。
朝ご飯にする。
フェデリーカは死んだように眠っていて起きてこないが。フィーが揺すっていると、やがて目を覚ました。
髪の毛ぼっさぼさで、完全に呆けている。
本当に限界だったのだと分かるので、栄養剤を渡す。
栄養剤を飲ませると、泣きそうな顔になったが。それでも正気は取り戻したらしい。よろよろと食卓について、みんなと一緒に食べ始める。
ディアンは流石に一番若いだけあって、回復力も凄い。
クラウディアが笑顔でよそった肉料理を、がつがつと見ていて気持ちが良いほど食べる。ただ、いつもより明らかに食べているから、体が要求しているのだろう。
パティも料理に参加して、かなりの量の朝ご飯が出る。
今日は肉と魚を贅沢に使った、見るからに英雄の食卓という感じだが。これもあの激戦を抜けた翌日だと考えると、まだささやかかも知れない。
「ふう、食べた食べた」
「散々だったぜ昨日はよ……」
「ボオス、ちゃんと誰も声かけなくても起きられたね。 流石」
「学生時代に散々鍛えたからな。 俺も追いつくために必死だったんだよ」
ボオスがぐっとお冷やを飲み干す。
あたしは途中で席を外して、井戸水を瞬間煮沸から冷やして、お冷やを大量に造って補給しておく。
煮沸しない水なんて、毒と同じだ。
だから、こうして時々補給しておくのである。
皆が食事を終えてから、ミーティングに入る。
まず、フェデリーカが、弱々しく手を上げる。
これは自分の仕事だと、分かっているからだろう。
「高地での激戦は、麓にまでその凄まじさが伝わっていたようです。 サルドニカの街にも動揺が広がっていましたが、どうにか戦いに勝ったことを私が伝えて……それでみんな静かになりました」
「というか、血まみれのフェデリーカを見てみんな黙り込んだみたいだったけれどな……」
ボオスが余計な突っ込みを入れたので。
あたしが咳払い。
割と本気で黙れという圧を掛けたのを察したのか。ボオスもそれで静かになった。それでいい。
フェデリーカはちょっと限界近いので。
とにかく、これ以上無理はさせられない。
「深夜近くまで、街の警備や配置についての会議が行われました。 高地での激戦については私も経緯を説明しましたが、やはりまだ警備に協力して欲しいという声も多く……」
「今日一日はいいよ。 あたしも爆弾も薬も増やしたいし、それに破けた服とかも補修したいし」
服を台無しにされたのはカラさんだけじゃない。
フェデリーカも腹に槍の直撃を貰って串刺しだったし。
あたしも散々斬られたのだ。
ディアンだって手をさっくり落とされた程である。
お薬でつないだとはいえ、破損した装飾品や服まではどうにもならないのである。
「私は今日は、サルドニカの支援に回ります。 昨日の状態を見て、フェデリーカには年も立場も近い私が補佐するべきだと思いましたので」
「俺もそうしてくれると助かる」
うんざりしていたらしいボオスが、パティの提案を歓迎する。
アンペルさんも挙手。
「サルドニカ北の集落も、やはり再度の襲撃を怖れている。 私も今日は、其方に回るつもりだ」
「なら俺もそっちに行くぜ」
「俺もいっていいか?」
クリフォードさんとディアンが提案。
ディアン一人を行かせるのは不安だが、この二人が一緒にいれば大丈夫か。ただクリフォードさんの負担がちょっと大きくなりそうだが。
それを聞いて、フェデリーカが胸をなで下ろす。
「アンペルさんにアンナの支援は必要なさそうですね。 パティとアンナが私を支援してくれれば、百人力です」
「それにしても例の一族の人達、どこに行ったんだろ」
「アンナも教えてくれません」
本当に悲しそうにフェデリーカが言うので。
それについては、黙るしかない。
ともかく、他の配置だ。
朝一で、セリさんには高地への入口をまた塞ぎに行って貰う。植物魔術というのはかなり便利だ。それをセリさんの、数百年生きて練り上げた膨大な魔力が底支えするのである。確かに巨大な覇王樹やら食虫植物やらを、多数配置できるのも納得出来る。
此処にレントとクラウディアも加わってくれる。
ただ、セリさんはそれ以降は植物の研究に戻って貰うのと。時々あたしに薬草を提供して貰う。
あたしは今日一日、薬を補充する時間だ。
昨日の激戦で、蓄えていたお薬をまた殆ど使いきってしまったからである。
神域のお薬を、そう簡単に本来は使えない。
それを潤沢に使いながらの戦闘だ。それは在庫なんて、あっと言う間に尽きてしまうのもやむを得ない。
後は爆弾の改良か。
火力は据え置きでいい。
冷気はどうも最終到達点みたいなのがあるらしく、ラヴィネージュはそれに到達しているようなのだ。
問題は出力と範囲。
範囲を絞ったものと、逆に冷気はそのままで、更に範囲を拡げた出力を高めたものを作る必要がある。
それと、カラさんの服を研究して、皆の装備に反映する事だ。
コンテナから、材料の蜘蛛の糸は見つけてある。少量だが、トラベルボトルに突っ込めばいい。
トラベルボトルも、全部で四つくらいある。
一つはフィー用に固定してあるが。
他はセプトリエンの回収用に固定しているもの、鉱物資源回収用に調整しているもので。今後最後の一つは、蜘蛛糸回収用でいいだろう。
「私はレントとともに守りに入る」
「わしも」
「総長老、その、服が直ってからにしましょう。 かなり大胆に肌が露出していますので」
「こんな老人の肌なんか、誰も興味ないじゃろ」
カラさんはこっちの基準では子供にしか見えないのでダメです。
そうあたしが説得する。
昨日は緊急時で時間もなかったから許されただけだ。応急処置だけしてある状態では、お外には出せない。
タオも鉱山の方に回ってくれるらしいので、これで一通り人員配置は決まる。
いつもよりちょっと遅い時間に、解散。
皆、それぞれ動き出していた。
ボオスはパティとフェデリーカとともに、ギルド本部に出向く。アンナにフェデリーカが状況を説明。
頷くアンナを見て、ボオスは心底安心していた。
街の喧騒が、止まっている。
それはそうだ。
鉱山への大規模襲撃。
その後は、地震でもあったのかというような凄まじい戦闘。
高地での戦闘は、サルドニカからも見えたらしい。
巨獣が放った火焔の雨の術は、それこそ隕石でも振ってきたかのようで、空が明々と燃えていたそうだ。
それだけじゃない。
ライザが総力で叩き込んだフォトンクエーサーの閃光も、全てを焼き滅ぼす破壊の光としてこの辺りで見えていたらしい。
それは、皆心配になる。
ボオスも帝王教育を叩き込まれてきた口だから、集団ヒステリーや皆が抱える不安と言う奴が、時にとんでもない事態を起こすことは分かっている。
前は何となく分かっていただけだったが。
ライザ達と和解した頃から、本当の意味で分かるようになった。
今だから思うが。
アンペルをつるし上げる時に。ヒートアップしていくクーケン島の住民を見て、ボオスは怖かった。
普段は穏やかな老人や。良識のある人物まで、アンペルを凄まじい勢いで糾弾しているのを見て。
人間というのは簡単に流されるし。
感情でこうも理性を簡単に失うのだと、恐怖していたのだと思う。
だからそれがぶちこわされた瞬間に、恐怖がピークになって逃げ出した。あの時のボオスは、本当にライザの糾弾通り卑怯者だったのだ。それどころか臆病者でもあったのである。
だが、同じ轍は踏まない。
今日はパティと一緒に、ギルドへの手配と、会議があるならそれの手伝い。更には、街の警邏だ。
案の場街の混乱を見てか、与太者の類がサルドニカに入り込んでいるので、パティと連携して制圧する。
ライザが傭兵十人分の実力はあると太鼓判を押してくれたが。
制圧用に渡されている警棒を使って、殺す気で襲いかかってくる与太者をぶちのめしていると、それが事実なのだと実感できる。
パティの腕はボオス以上だ。
文字通り与太者が、一撃で吹っ飛んで地面に叩き付けられる。それも頭から落ちないようにパティは計算までしている。
あれはすごいな。
そう思いながら、ボオスも次々と与太者を取り押さえ、駆けつけてくるのが遅い明らかに不慣れな警備に突き出す。
そして、与太者に絡まれていた街の住民に話を聞き取り。
壊されていたものなどについては、弁償の手配もするのだった。
昼少し前から、会議がある。
その会議の席で、不愉快そうにしている中小ギルドの長。だが、ボオスとパティが姿を見せると、黙り込む。
ライザの威しは効いている。
それはそうだろう。
高地での戦闘が、それこそサルドニカが巻き込まれれば一瞬で更地、というレベルの凄まじい代物だったことは、此処にいるアホ共でもわかる事だ。
ボオスも若干同情してしまう。
フェデリーカが、淡々と議題を進めていく。
「港から来た人員の内、現役の傭兵四人を雇い入れる事に反対はありませんね。 給金は割高になりますが、何の経験もない人を訓練する役割も果たして貰うので、当然の出資ではあります」
「……」
「いいか。 このまま行くとちょっとサルドニカの今年度予算を超えるな。 百年祭での出資もある。 サルドニカは相応に蓄えがあるが、この間の鉱山街での騒ぎでの保証でも、相当に消耗した」
ボオスがだから提案する。
憎まれ役を買って出るのが仕事だ。
これには、中小ギルドの連中のガス抜きの役割もある。
余所から来た支援役がこういう事を申し出るのは。純粋に憎まれ役として最適だからだ。
パティは問題が起きたときに調整をしてくれる。
それぞれ役割分担を、昨日からしていた。
だから会議も深夜で終わってくれたのだ。
それについて、フェデリーカは淡々と話す。
「予備予算から計上します。 仮に百年祭の収益がゼロだったとしても、それでも数年程度ならサルドニカの存続に問題はありません」
「問題はまだある。 北の入植地の人の定着が良くないようだな。 思うに、もう少し警備を増強するべきだろう。 現在街を離れている精鋭が戻って来たとしても、手が足りなくなるのではないのか」
「それについては、有志を現在募っている所です。 警備の人員を三割強化し……」
喧々諤々の議論が続くが。
それも昼が過ぎると、アンナが予算書を提出。
話を聞いているだけで、予算書を合間に作っていたのか。
とんでもない手際だな。
例のメイドの一族の有能さは知っているつもりだったが。これは王都のバカ貴族どもが重宝するわけだ。
全ての仕事を任せっきりにしてしまうのも納得であるし。
サルドニカの指導者であるフェデリーカの側にいるアンナが、その気になればこの街を何時でも乗っ取れることも分かる。
ボオスはちょっと冷や汗が流れるのを感じる。
本当にこの一族は、何が目的なのか。
人類社会を裏側から支配するつもりだったら、とっくに出来ている筈だ。基礎能力が、ボオスから見ても一般的な人間と違いすぎる。今のボオスでも、一対一で勝てるかちょっと分からない。
レントやパティでも疑問符がつくレベルだ。
それなのに、この一族はどうして支配に動かない。
それが、ちょっと怖い。
「予算書を見る限り、蓄えについては問題は無さそうですね。 それでは、一時会議は中断とします。 昼食後、鉱山街の病院について、増強の予算を……」
話を聞き流しながら、ボオスは思う。
クーケン島にも、アンナの同類であるフロディアがいる。
あいつもバレンツの名代として、すっかり島に溶け込んでいる。
それどころか、考えて見ると多分だけれど、行商人のロミィも同じ一族ではないのだろうか。
そう考えると。
あの一族が牙を剥いた場合、簡単に世界なんて手に落ちる。
いや、恐ろしいな。
ただそうとしか思えなかった。
セリさんが覇王樹で壁を造り、食虫植物も生やすのを見届けてから、タオはリラさんと見回りに行く。
戦闘の後片付けはまだやっていて。
戦闘の余波で崩れた岩の下敷きになっていた亡骸なんかが、彼方此方で見つかっていた。
ライザから貰った手袋をつけて、リラさんと連携して岩を動かす。そして、亡骸は身元確認してから、荼毘に付す。
他にも大規模襲撃で、彼方此方崩れている。
それらの復旧作業も手伝う。
レントはずっと高地への入口に貼り付いて、睨みを利かせている。
弛んでいる警備には、それが刺激になるようで。
全員その場で、気合いを入れて有事に備えていた。
話によると、警備の長だった人。もう五十の坂を越えていたそうだが。この間の襲撃で戦死した長は、非常に良心的で、慕われていた人だったそうだ。
ただサルドニカでは、職人が一番偉い。
医師ですら職人より下、とみなされるのだ。
戦士はどうしても格下の存在とみられることも多く、人員の派遣も後回し。
このままだと、何かあった時に対応できないぞといつも声を上げていたらしく。当日も襲撃の際に真っ先に高地への入口に駆けつけて、最後まで奮戦しながら、魔物の海に飲まれてしまったようだ。
もう死体がどれかすらも分からない。
その戦闘に立ち会った戦士がそう泣いているのを見ると、タオにも思うところがある。
滅茶苦茶に踏みしだかれたなかに、遺品らしい鎧の欠片も見つかってはいるが。あの辺りは血と臓物の山だった。
顔が分からないくらい酷く食い散らかされたのかも知れないし。
肉片になって散らばったのかも知れない。
それすらも今では分からなかった。
「タオ、こっちだ」
「分かりました!」
リラさんが声を掛けて来て、岩を一緒に動かす。
リラさんは強化魔術の凄まじい使い手と言う事もある。本人が言う所によると、精霊の力を借りているらしいのだが。一般的な単純に筋力や知能などの倍率を上げる強化魔術とは、オーレン族のそれは微妙に違うのかも知れない。
力にしても、レントに近いレベルだし。
戦闘ではまだまだレントでも勝てないだろう。
ただ、タオも鍛えている。
頭脳に強化魔術を使う事が今までは多かったが。
最近は速力の強化を中心に魔術を使えるように練度を上げていて。つまり足腰が強くなっている。
岩をどかして、しがいが埋もれているのを見つける。
まだ若い……若いどころか、十代の女性だ。
逃げ遅れて、落石に潰されたんだ。
今回の件で、死者61名とされたが。行方不明者は全員死者に数えられている。この数は、覆りそうにない。
くっと、思わず声が漏れる。
リラさんは、嘆息していた。
「警備の戦士に声を掛けてこいタオ。 この辺りの岩は、どの道どけなければならないだろう」
「分かりました」
他の場所でも、行方不明者の残骸が見つかったりしている。
この人は、綺麗な状態で見つかっただけ、まだましだったのかも知れない。
後二三日もすると遺体も痛み始めて、蛆もわく。
そうなる前に遺体を見つけて葬ってあげるのが、せめてもの生者の役割という奴である。
鋭い鳴き声。
アードラが飛んでいる。
リラさんは一瞥するだけ。
「あれはこっちを狙っていない。 高地の大物があらかた消えたから、高地の動物を狙っている」
「リラさん、それはやはり経験で分かる感じですか」
「ああ。 後は視線と、鳴き声の意味だな。 アードラも数羽あの戦いで落ちたが、それで縄張りが変わってより小型のアードラが此方に来ている。 それらが、良いエサ場を探して、新しい縄張りを飛んで廻っているという事だ。 ただ、人間を舐めて掛かったら、恐らく襲ってくる。 そうしないように、警戒はするべきだろうな」
あの高さのアードラの視線の向きも分かるのか。
すごいな。
タオは感心しつつ、鉱山を走り回る。
露天掘りとはいえ、すり鉢状に全部掘っている場所と、そうでない場所が雑多に混じり合っている。
普通に通路みたいに掘っている場所もあり。
そういう場所は、大雨になるとかなり危険な勢いで水が流れることもあるそうだ。
快足を生かして走り回り。
彼方此方で死んだ人の亡骸の一部や遺品を集める。
あの日倒した魔物の腹の中には、人間の残骸が山ほど入っていたらしくて。それらは既に荼毘に伏し済だ。
元が誰だったか分からないし。
そうするしかなかったのである。
昼少し前に、一度引き上げる。途中、音魔術を展開して周囲をまとめて調べてくれていたクラウディアと合流。
クラウディアによると、まだ不慣れな警備の戦士も多いが、それでも魔物が襲ってきている事はないようだ。
ただエレメンタルが一部で見かけられる。
こればっかりは仕方がないので、鉱山に入り込みそうだったらクラウディアが狙撃して仕留めてしまっているそうである。
まあ、仕方がないか。
エレメンタルといっても、オーリムのそれとは別物。
それに彼方此方で見られる浮遊する岩みたいなのとも別物。
「精霊」とはなんなんだろうな。
タオはそう思いながら、アトリエに戻る。
アトリエでは一心不乱にライザが調合をしていた。途中からカラさんもこっちに来ていたということは、服の解析修復も終わったということだろう。
クラウディアが食事を作り始める。
リラさんは、まだ疲れているから休むぞというと、ソファで猫になる。
パティ達はこれは多分、サルドニカで昼だな。
そう思いながら、タオは料理の手伝いを申し出る。
これでも料理くらいは出来る。
ただ、クラウディアの手際は凄まじくて、プロの料理人も吃驚の速度だ。タオは邪魔にならないように、支援しか出来なかった。
これはパティとフェデリーカが、台所では使われているのも納得だ。
アンペルさん達も戻ってくると、フィーがライザを促して、調合を終えさせる。
ライザは皆に、装飾品をアップデートすると言う話をした。例の繊維が研究できた結果、更に強化出来るらしい。
ありがたい話だ。
戦力の底上げになるし。
戦闘技術を幾ら磨いても、人間の力なんて倍率に限界がある。
タオから言わせれば、ライザの作る道具の凄まじさから考えれば、タオの力なんて誤差みたいなものだ。
勿論剣術で鍛えた強さが何倍にもなるんだから、意味がないとはいわないが。
ライザの作った装飾品を身に付けたド素人と、つけていないタオがやりあったら。勝てるかは微妙だと思う。
昼飯は、やっと量も内容も落ち着いた。肉中心だったのが、野菜と茸を比重を増やした、食べやすいものとなっている。
たくさん死体を見たばかりだが、それで食欲がなくなるほど柔じゃない。北の里でのあの地獄の糞便掃除や、王都地下での同じ仕事を経た後だ。このくらいで食欲がなくなるような鍛え方はしていない。
しばし食事をした後。
クリフォードさんが話す。
「サルドニカの老人衆の中に、溜まりの魔物を知っている人がいたよ」
「詳しく聞かせてください」
「ああ。 サルドニカを開拓して、街を拡げようと躍起になっている頃にな。 残骸になった周囲の街の遺跡なんかから、どんどん機械やらを集めていたらしいんだ。 その過程で高地にも出向いた決死隊がいて、大きな被害を出しながらも、あの源泉や、溜まりの存在は確認していたらしい」
ありうる話だ。
内容が矛盾だらけだった神代鉱山の手記よりも、信憑性はあると言える。
「あの巨獣を見て、みんな絶対に勝てないと悟って、一目散に逃げ出したそうだがな」
「無理もありませんよ。 あたし達だって、運が悪ければ全滅していた相手でしたし」
「そうだな。 老人衆は人影も見たって言っていた。 神代鎧の事だろうな。 ずっとあの鎧、番犬と一緒に遺跡を守っていたんだ」
そう、少し悲しそうにクリフォードさんはいう。
無益なことをさせられたからくり。出来る事といえば、殺人だけ。そんな事のためだけに、達人の技を持たされて、この世界に作り出されたのだろうか。
なんだか、悲しい話だった。
「今日の様子を見てから、溜まりの調査を本格的に行うよ。 ともかく……何も無駄にしてはいけない。 神代の技術はとくに野放しにはできない。 管理するにしても、封印するにしても、一度目は通さないとね……」
ライザの言葉もほろ苦い。
今日はその後も。
タオはひたすら、鉱山での警戒任務に当たるしかなかった。