暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
対機甲師団戦とでもいうべき激戦を乗り越えて、ライザはサルドニカの神代の遺跡二つ目に辿りつきます。
ドゥエット溶液のために必要でもあったのは、色々と偶然が重なった結果です。
序、毒ガス遺跡
薬などの補充を済ませて、高地に再度挑戦。鉱山北部の高地は、随分と静かになっていた。
分かっている。
一時的なものだ。
執拗なくらいに魔物を駆逐した。
人間に手を出すとどうなるか、徹底的に叩き込んだ。
これで、しばらくは少なくとも鉱山は安全になるはずだ。
結局あれから、死者数は変わらず。
重傷者が死者に変わらなかった事だけは、あたしも良かったと思うが。とにかく、鉱山の警備の甘さ。連日あたし達が魔物を片付けているのを見た警備の油断。それらの大失態が、古代クリント王国時代から見て数十分の一まで人間が減っているこの時代なのに。多数の犠牲者を出す惨事を招いてしまったのだ。
だから、あたしも徹底して対策はする。
全自動で魔物を駆逐してくれる道具でもあればいいのだが。
流石にそれは思いつかない。
神代鎧がそれに近そうだが。
あれは作るのにかなりのコストが掛かるし。何よりも危険すぎて、どうやって動いているかがまだ分からないのだ。
とにかくフェデリーカが一生懸命時間を作ってくれたし。
何よりも、工場などの大規模設備の修理に関しても、日程を調整してくれている。
だったら、あたし達もそれに答えるだけだ。
全員にマスクをつけさせる。
つけたことを点呼してから、ドゥエット溶液の原液の溜まりに。湧き出している箇所から見ても、かなり濃くなっている。
一応溜まりのぶんも採取して調べて見たのだが、フェデリーカが言うにはやはりそれではまだダメらしい。
濃度を上げるだけでは、駄目と言うことだ。
神代鎧の残骸も回収したから、今は毒ガスが溜まっているだけの場所になっている。時々小物のエレメンタルを見かけるが、あたし達を見るとそそくさと逃げていく。
無視して、遺跡に。
タオが遺跡の戸を開ける。
その間、遺跡から幽霊鎧や、他ガーディアンが飛び出してくることを警戒し。皆、陣列を整えて、固唾を呑む。
戸が開いた。
やはり、すっと開く。
この遺跡は、まだまだ現役と言う事だ。
劣化が激しかった古代クリント王国や、それ以前の遺跡。王都近辺にあったようなもの。それらを知っているから、差が激しいことを思い知らされる。
本当に、神代が終わってから、坂を転げ落ちるように技術が劣化していったんだな。
それが分かる。
とはいえ、神代の連中も少なくとも今まで情報を見る限り、もっているテクノロジーだけが優れていただけのボンクラの集まりだ。
一体テクノロジーはどこから来たのか。
それがわからなかった。
クリフォードさんが遺跡の中を覗き込み、クラウディアが音魔術、あたしが熱魔術。カラさんは複数の探知魔術を展開。
しばしして、クリフォードさんが頷いて、タオと一緒に先に遺跡に入る。
そして、すぐに戻ってきた。
「内部に敵影なし」
「……一部、神代鎧の格納庫みたいなのがあるけれど、とても狭くて修理をするだけのスペースになってる。 在庫も出払っているみたいだ」
「予想が当たったね」
神代鎧がわざわざ出ての戦いを挑んできた。
外に分かりやすい番犬まで置いていた。
遺跡の内部を要塞化して、其処で戦う方が有利なのは分かりきっているのに。
神代の連中がアホだったから、出て戦えと命令した可能性もあったが。
まあ、外で戦わざるを得ない理由があったと考える方が自然だ。
遺跡内部に更なる大戦力が、という最悪の予想もあったのだが。しかしそもそもとして、遺跡の場所が分かるように番犬を配置することが得策ではないのである。こういう施設は、隠蔽してこそなんぼだ。
内部に踏み込む。
トラップは警戒する必要があるが、それもないようだ。
ごく狭い坂道を下ると、其処は広めの空間と、四方に通路が延びているだけの場所。どうやらこれだけらしい。
神代の遺跡というか、これは純粋な研究施設だな。
規模にしても、サルドニカ北の神代鉱山とは、比較にもならなかった。
まずは、全員で移動して、安全を確認する。
トラップはそもそもないようだ。
一箇所は神代鎧の格納スペース。タオが言うとおり、見た事がない装置があった。いずれ取り外して、持ち帰っても良いかも知れない。これで神代鎧をメンテナンスしていたのだろう。
一箇所は研究スペースだ。
研究日誌がある。すぐにタオとクリフォードさんで回収。
研究機具もあり、神経質なくらいにしまわれていた。
奧にあったのは居住スペースか。見た感じ、十人程度が働いていたようだ。働いていた人間の姿はない。
神代鉱山同様に、何らかの理由で放棄された、と見るべきだろう。
最後は倉庫だ。
ハイチタニウムのインゴットがかなりある。これは回収しておくべきだ。それと。
中央部では、此処も何かを生成していて。それはまだ動いている。
コントロールパネルを調べる。
タオが、調べていて、なる程ねと呟く。
「此処もパスワードは設定されていない。 神代鎧と超ド級魔物の守りに、よっぽど自信があったんだろうね」
「……いや、それもあるが。 面白い記述を見つけた。 この日誌だ」
アンペルさんが、日誌に目を通している。
ざっと見ていて、面白い内容を見つけたようだ。
それによると。
東の蛮族共以外に敵はいなくなった。××××(聞いた事もない名前だ)王国を滅ぼして、我等に敵対する存在はこの世界にいなくなった。
戦闘では我等の作りあげたゴーストバトルアーマー4式が大きな戦果を上げ、敵国の兵士を蹴散らした。既に科学では錬金術に太刀打ちが出来なくなっている状況だ。大規模破壊兵器でもゴーストバトルアーマー4式には致命打を与えられない。これは明らかに汎用性と頑強性において、上の連中が作りあげた生体式戦闘兵器を凌いでいる。それならば優秀な方を採用するべきでは無いのか。
それなのに我等は認められない。
高貴な血統だか何だか知らないが、不公正だ。
科学文明に対して圧倒的攻勢を掛けているとは言え、このような不正が許されてなるのか。
こんな事を続けて、功績に報いないでいると、いずれ破綻するぞ。
それどころか上の連中は、自己神格化まで始めている。
よその世界にも攻めこむつもりのようだ。
つきあっていられん。
「だそうだ。 分からない言葉も多いが……神代の権力闘争は、オーリムに攻めこんだ連中が圧倒的優勢ではあったものの、こういったハイチタニウムの派閥などを押さえ込めてもいなかったようだな。 少なくとも相当に不満が鬱屈していたようだ」
「そもそも神代の人間そのものが傲慢極まりない思想を持っていたようなのに。 此奴らも同類だって、気付けなかったのかな」
「気付けないんだよ自分の事は」
クラウディアに、あたしが嘆く。
事実、自分が傲慢になっているかは、よく自分を戒めるようにしないと気付けないものなのである。
あたしだっていつも気を付けるようにしないといけないと思っているが。
「それで、これは何をしているんだ」
「今調べてる。 ……どうも例の溜まりから溶液を採取してる。 それだけじゃないねこれは。 ええと……地下の水脈とかから幾つかの液体を採取して、それで。 ……!」
「どうしたタオ」
「此処で作っているのは、毒ガスだ」
何だってとレントが声を上げる。
タオによると、此処で生成された毒ガスは、「邪魔な動植物」を「根こそぎ掃除」するために用いられていたらしい。
彼等は「テラフォーミング」とその作業を呼んでいたようだが。
更に、タオが記述を見つける。
「フィルフサって言葉もある! 此処の研究者達は、「テラフォーミング」の画期的生体素材であるフィルフサが開発された事をとても悔しがっていたようだ。 つまり毒ガスはフィルフサと同じ目的で開発されたんだよ」
「野郎……!」
レントが拳を握り込む。
あたしも殺意がわき上がってくるが、深呼吸。
この遺跡は、停止させる他無いだろう。
「タオ、停止は出来る?」
「毒ガスの生成は、とっくの昔に在庫がパンパンになっていて、これ以上の生成は中止されてるよ。 ただ、一部が漏れ出しているんだ」
「まさか外の毒ガスは……」
「そういう事だね」
なんてこった。
それにしても、此処を早めに発見できて良かったとしか言えないだろう。
毒ガスの処理が出来ないか、タオに確認して貰う。頷くと、すぐに調べると言ってくれた。
あたしも毒ガスの成分を採取。
それにしても、これで振り出しかと思ったが。
そうでも無さそうだとタオが言う。
「此処の溜まりを使って、何かできないか研究者は色々とやっていたみたいなんだ。 データを記しておくから、目を通してよ。 ひょっとしたら、ドゥエット溶液を更に強化出来るかもしれない」
「分かった。 後で目を通しておくよ」
「かー。 これほどロマンを感じない遺跡は初めてだ。 早く潰しちまおうぜ」
「クリフォードさん、気持ちはわかるけれど、使えるものは回収しよう。 こんな酷い遺跡だけれども、技術には罪は無いよ」
あたしだって、此処に爆弾を叩き込んで吹っ飛ばしてやりたい気分だが。
それでも技術そのものに罪は無い。
ただ、分かった事はある。
古代クリント王国どころか、それ以上に神代の連中は腐っていた。それも、錬金術師は上から下まで満遍なくだ。
何が「テラフォーミング」だか知らないが、要は自分が気に入らない存在を皆殺しにして、好きなように世界を造り替えると言う事ではないか。
そんな事、許される訳がないだろうに。許されるとしたら、それは畜生の理屈だ。人間の理屈では無い。
それを平気で実行できるくらい、連中は思い上がっていた。
錬金術師は少なくともそうだ。
これでは、錬金術師では無い人達は、塗炭の苦しみどころではなかっただろうなとも思う。
それともお情けで与えられた技術で、今より豊かに暮らしていたのだろうか。
いや、これだけのおぞましい独占欲と独善性だ。
そんな事を「下々」に許していたとは思えなかった。
タオとクリフォードさん、護衛のリラさんを残してアトリエに一度戻る。其処で、ミーティングだ。
フェデリーカはボオスとパティと一緒に、サルドニカの支援。
サルドニカ北の集落については、クラウディアに見にいって貰う。
鉱山はレントとカラさんに頼む。ディアンも守りに入りたいというので、行って貰う事にする。
ディアンは鉱山街で友達が何人かできたらしい。
この短時間で、と思ったが。
ディアンに助けられた子とかが結構多く。
ディアンは故郷の、尊敬する人達がどうしても保守的になっている事でぐれていただけなので。
元々孤児に近く、同年代の子供と一緒に暮らしていた事もあって、面倒見もいいらしいので。
友達は結構簡単にできるようだった。
「俺、皆に足りないものとかないか聞いてくるよ。 ライザ姉を怖がってるやつもいるけれど、病院とかの事はみんな感謝しているんだ」
「分かった、お願いね。 あたしが出向くよりも、そういう風なやり方の方が、動きやすいし戦略も立てやすい」
「私は悪いが、回収した文書を解析する」
「私もちょっと薬草を増やしておくわ」
アンペルさんとセリさんは、それでいいと思う。
とりあえず、解散。
皆さっと散る。
あたしは毒ガスを解析。これは分解するための作業だ。なるほど、あの溜まりに生物が寄りつかないわけだ。
更には。毒ガスは多分超ド級のあの魔物には、なんら有害では無かったのだろう。
下手をするとだが。彼方此方で、毒ガスは実用化されたのかも知れない。ばらまかれて、それで。たくさんの動植物が根こそぎにされて。神代の連中にとって「格好良い」とか「美しい」生物が、代わりに我が物顔にばらまかれた可能性はある。
世界に根付いているラプトルなどの、明らかに出自がおかしい魔物の数と戦力を考えると。
その可能性は否定出来なかった。
ともかく、エーテルに溶かして解析は終わった。分解は出来る。それにしても、本当にこれは。
この毒ガス、人間にも通じる。
つまり、毒ガスで気にくわない人間を皆殺しにしていた可能性だって否定出来ない。記録が出てこないとなんとも言えないが。
それをやってもおかしくない連中である事は。あたしも嫌になるくらい思い知らされていた。
とりあえず、ドゥエット溶液の原液については、やってはいけない配合などを記しておくこと。
発生する毒ガスへの対処方法など。
具体的にどのような害が出て、どうすれば助けられるか、等を調べておく。
この毒ガスは、空気より重いらしく、あの溜まりには定着して余所に拡がることはなかったようだ。
この空気より重いと言う性質が非常に厄介で、戦略兵器として悪用しようとすればそれこそ人間を根こそぎに殺せる。
毒性は其処まで強くないのだが、体への悪影響は遅効性で、致命傷になる量を吸い込むと助からない。
解毒薬は調合しておくが。
とりあえず溜まり付近にある毒ガスを無毒化する分だけでいいか。あの毒ガスのせいで、生態系にも悪影響が出ているし。
普通に使う分には、余程変な事をしない限り……例えば飲んだりとか、しない限りはそれほど害にはならないのだ。
こんなものを思いつくと言う事は。
神代は、さぞ悪意に満ちた時代だったのだろうなと、あたしは暗澹たる気持ちになる。
ともかく噴霧式の容器に入れて、解毒薬は出来た。この後は、サルドニカでもしもの時があった時用の解毒分を作っておく。
吸い込んだときの症状についても確認しておきたいが、普通だったら動物実験をする所だが。
今回は、あたしがエーテルに溶かして解析済なので、それは必要ない。
毒ガスがもしも作られて。
サルドニカで散布された場合。出る症状と、対処方についてメモを残しておくが。多分これはタオに後で清書して貰った方が良いだろう。
他にも作業を進める。
薬の増産。
サルドニカを離れたら、激戦地と噂の東の地に出向くのだ。
其処でも在庫が尽きないくらいお薬は増やしておきたい。移動中にも調合はするが。それでも意識して増やしておくべきだ。
更にカラさんの衣服から解析した繊維も増産しておく。
これをベースに、皆の服、つけて貰っている装飾品を強化する。布製品としては、これ以上の基礎繊維は考えにくい。
魔術に対する親和性、強度、いずれも尋常じゃない。
これに今まで錬金術で培った技術を追加して、ポテンシャルを極限まで引きだしておくのである。
そうすることで、更に皆の力を底上げできる。
神代鎧の登場で、まだまだ皆の戦力向上を図らないといけない事が分かってきた。やっぱり物事は、経験してみないとダメだ。
カラさんの記憶よりも、神代の技術や戦力が増している可能性もある。
ただその場合、神代の連中は何処に消えて、何をしているのかが気にはなる。どう話を聞いても、欲望に悪い意味での動物的に忠実的な輩で。欲望を満たすためには文字通りどんなことでもする連中だろうに。
其奴らはどうしてこの世界で偉そうにふんぞり返っていない。
戦略的に有意義なはずのオーリムへの侵攻は諦めたのか。
或いはもっと有意義な別の世界を見つけ出して、其処を絶賛侵略中なのだろうか。
ともかく。手は打てるだけ打っておかないとまずいのである。
淡々と調合を進めていると、時間がどんどん過ぎていく。
サルドニカはまだ混乱が続いている様子だが。傭兵にとって特需だと言う話を聞きつけたのだろう。
近隣から、力自慢も集まり始めたようだ。
ただ人間の中で如何に力自慢でも、魔物からして見ればドングリの背比べであり。ただ力が強い程度の人間なんて、魔物のおやつになるだけである。あのアガーテ姉さんですら、魔物には一対複数の戦術を皆に叩き込む程だ。基礎的な魔物との戦い方を知らない「命知らず」なんて、名前の通り命を捨てるだけである。
だから訓練が必要になる。
即座にサルドニカの警備に開いた穴は埋まらないだろう。
一日はそうして過ぎ。
翌日には、あたし達は溜まりに出向いて、其処で毒ガスを無力化する。毒ガスを無力化するというと、ディアンが大喜びで褒めてくれたが。それで天狗になっていたら神代と同じになる。
だから、面と向かってそういうのは褒めてはいけないとだけ、やんわりと言っておいた。
さて、遅れてしまったが、ここからがサルドニカにとっては転機でもある。
溜まりにあるドゥエット溶液の採取をしておく。これはある程度量を確保しておいた方が良い。
毒ガスで幸い変質はしていないようだが。
それと、タオと一緒に座標も確保しておく。タオによると、見えない線を引いたように、ある所からすっと座標が変化しているようだという。例の区分けされている場所なのだろうか。
いずれにしても、解析は専門家に任せるしかない。
それらが終わってから、アトリエに戻り。
いよいよ、ドゥエット溶液の改良を、始めるときが来ていた。
というわけでろくでもない遺跡の真相です。
テラフォーミングというのは今では非常に有名な言葉ですが、もしも人類が恒星間航行を可能にし、別の生命がいる星に辿りついて、自分が住みやすいように改造しようとした場合。
元いた生物を躊躇なく殺戮した上で、地球産の生物をばらまく可能性が高そうです。
SF作品に出てくる侵略エイリアンと、何が違うんでしょうね。
神代の錬金術師がやろうとしたのは、そういった行動の延長線上に過ぎません。