暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
文字通り踏んだり蹴ったりでしたが、やっとドゥエット溶液に取りかかる事ができます。
一応サルドニカとしてはこっちが本命なのでしょうが、世界の危機に対する優先度を考えるとどうしても……。
変質したドゥエット溶液の原液を解析する。思ったよりこれが時間が掛かる。そもそも魔石も硝子も溶かすという性質が厄介なのだ。
酸も通さない硝子が溶けるというのが厄介であり。
前回もかなり工夫してドゥエット溶液を配布したのだが。
今回は更にそれに手を入れる事にする。
今まで改良してきた硝子の技術や、それに鉱物の技術なども活用する。
ただ鉱物はどうしても酸に溶ける。
金や白金が酸で溶けないことは有名だが、これですら王水といわれる最強の酸には溶けてしまうのである。
幸いドゥエット溶液は手がドロドロに溶けるような危ない代物ではないが。それでもその辺の硝子容器に保存は出来ない。
色々考えた末に、あたしが開発したのが、手元にあるものだ。
これは今まで倒して来た超ド級の魔物数体の胃袋を解析して、それで作り出した革袋である。
実の所胃袋も酸で溶けるのだが。どうして胃袋がなくならないかと言うと、溶ける端から再生しているからである。
この仕組みは、実際に人間の髪とかをエーテルに溶かして、はじめてあたしも知った。エドワード先生の医院で胃の病気については聞いていたのだが、胃にそういう機能があるとは驚きである。
この仕組みは動物も変わらないようで。
何種類かの動物のしがいをエーテルに溶かして解析してみた結果、まだ新しい死体では機能が動いていることが確認できたし。
何より分解を極限までやってみると、そういう仕組みになっていることが良く理解出来た。
それもあって、擬似的に生きた胃袋を作ると言う、ちょっと高度な事を錬金術で実施している。
ドゥエット溶液の改良については、何種類か作って見て、フェデリーカに試験を頼んでみた。
フェデリーカは疲れきっていたが、政治や戦闘に関しては腰が引け気味でも、こういう職人関連の事になると生気が戻ってくる。
すぐに調べてくれた。
ルーペまで使って状態を確認して、何度も駄目出しをしてくるので、大変に分かりやすくて助かる。
いずれにしても、一日で仕上げられたので、それで良かった。
容器は敢えて一つだけにする。
これは二つのギルドが共同しないと百年祭は上手く行かないと、示す意味があるからである。
硝子ギルドと魔石ギルドにそれぞれ顔を出してそれを告げ。ドゥエット溶液の改良版は、それぞれその場で職人に試して貰う。
あたしにまだ胡散臭げな視線を向けている職人もいたが。
フェデリーカの目は確かで、今まで以上に繊細な接合が可能になったと、皆口を揃えて喜んでいた。
ただ、ギルド本部にドゥエット溶液改を配置すると説明すると、皆難色を示したが。
其処は、フェデリーカが言う。
どうしても即座にやらなければならない作業は本部でやるように。
ただでさえ無為な争いで時間を無駄にしている。それならば、必要な作業については最初から本部でやるように調整をしろ。
百年祭は、そうでなければ成功などするものか。
そう言われると、職人達もぐうの音もでないようだった。
それよりもだ。
魔石ギルドを出る時に、アルベルタさんに言われた。
「ライザどの。 ギルド長は随分と逞しくなったな」
「死線を散々くぐりましたからね。 この間なんて槍でおなかをぶっすり刺されて、危なかったんですよ」
「血だらけで戻って来たと思ったら……!」
「大丈夫、あたし達がついています。 全ての片がついたら、サルドニカには名ギルド長が誕生しますよ」
フェデリーカが先に行ったから、目一杯褒めておく。
アルベルタさんは、ため息をついた。
「実際私は心配していた。 職人としては天賦の才があるが、どうしてもただの小娘に過ぎなかった。 無理をして背伸びをして、どうしようもないほど長としては未熟だった。 戻って来てからも、焦燥が酷くて時々何かに怯えているようにすら見える。 だが、それでも今まで以上に技術もしっかりしているし、荒事に関しては肝が据わったのも事実だ」
頭を下げられる。
これからも、ギルド長を頼むと。
そして、出立の日を聞かれた。
渡すものが、あるという事だった。
翌日から、少なくともサルドニカの街は一気に活性化したようだった。
高地にいたとんでもない魔物が、あたしの手で倒されたこともあるが。それ以上に、職人達がぐうの音も出ない精度のドゥエット溶液を見て、蓄えてきた技術の粋を叩き込み始めたのである。
あのお婆さんの亡くなった旦那さんが作った実用的なカンテラの量産が始まり。現実的な費用のものは街の彼方此方に飾られ。
祭のメインになるものは、非常に美しい細工がされ。ギルド本部の前で、喧々諤々の議論を交えながら職人達が腕を振るって細工していた。
これでいい。
皆の大半は鉱山とサルドニカ北の入植地の警備に向かって貰う。
あたしはレントとディアン、それにタオとフェデリーカ。後アンナさんと一緒に、彼方此方を見に行く。
巨大な歯車を用いている装置。
その工場。
それを確認にて、手入れをするためである。
前回のサルドニカ逗留でも直せるものは直したのだが、今回は更に本格的に手を入れる事にする。
そのためには、基幹インフラの回復や。
こういう大規模機械の修復が絶対だ。
だから直す。
淡々と確認後、レントとディアンと連携して、一つずつ歯車を外す。一つがあたしの背丈の四倍も直径がある歯車だが。
錬金術の装備で力を強化している二人に加え。
先にあたしが足場を組んで、一つずつを丁寧に分解していく。
無論錬金釜に入る代物ではないので。修復については、案がある。とりあえずモノを確認するが、やはり古代クリント王国時代のものだ。金属としては多分ゴルドテリオンがある程度混じっているが、それでもかなり劣化が酷い。
これはハイチタニウムを使ってしまおう。
ハイチタニウムは、鉱物関係を集めるのに使っているトラベルボトルで、素材を既に集めている。
このトラベルボトルの内部世界がもの凄い地獄みたいな環境で、中に出る魔物も凄まじいのだが。入る価値はある。ただ兎に角暑いので、トラベルボトルに出入りを繰り返すと体を壊しそうだ。その代わり滅多に手に入らない貴重な鉱石がざくざく取れるので、しばらくはこれで固定してしまうかも知れない。
タオが設計図を素早く起こしている。
あたしはそれに沿って、幾つかの分解した歯車を何度かに分けて調合。ハイチタニウムのインゴットは非常に作りやすく、量産は難しく無い。これは素材がとにかく見つかりにくいものであって、加工は容易極まりないのだ。しかもかなり軽く、油を少し噛ませるだけでぎゅんぎゅん回るだろう。
或いはこの技術が軽く見られたのは、作成難度の低さが原因ではと一瞬考えた。あの拗らせまくった様子がわかる神代の連中だったら、そういう理由で技術の重要性を低く見る可能性は否定できない。
順番に歯車を分けて作り、現地に持ち込む。
レントとディアンに指示して、順番通りに組み立てて貰う。
工場の人員は心配そうに見ていたが、錆びだらけの巨大歯車が、白銀の美しい新品に入れ替わるのを見て、瞠目していた。
くみ上げが終わる。前よりもずっと軽い。
流石に一つの工場で、丸一日使ってしまう。それでも、たった一日で済むと言うべきだろうか。
くみ上げた歯車を、タオの図面通り、元に設置していく、
降ろすときよりずっと軽いと、ディアンが喜んでいる。もとの歯車も、念の為に残す。
もとの歯車は錆びだらけだ。見た目通り触ってみるとかなり劣化が進んでいるので、さび止めのコーティングをし、表面の削れた部分はハイチタニウムで補填しておく。
これで、予備部品としては充分な筈だ。工場は非常に広いので、置き場所に困る事もあるまい。
歯車を使う機械そのものは、前回の逗留時に直してある。
新しい歯車のセット終わり。
足場解体終わり。
後は、動かして見るのだが。案の場、出力が跳ね上がったので、タオが制御を苦心していた。
この工場はこの歯車を用いてインゴットの加工をしていたのだが、前の数倍の速度で動いている。
度肝を抜かれた職人達に、タオがマニュアルを改訂して渡している。手際の凄まじさに驚かされる。
「とりあえず一つ目、と。 アンナさん、後幾つ工場があるんでしたっけ」
「この規模のものがあと二つ、大きい……回収してきた鉱石をまとめて粉砕して、溶鉱炉に運ぶ用途のものが一つあります。 最後のものは歯車も段違いに大きいので、此処での仕事の様子を見ながら日程を調整しようと思っていましたが」
「予定通りにやれそうですか」
「ええ、これなら問題はないでしょう。 明日から、更なる迅速な作業をするためにも、まだ訓練中の力が余っている人員もつれて来ます。 組織行動を学ばせるにも最適ですので」
アンナさんもアンナさんで、一度の行動で数度の利益を生み出している。
やっぱりこの人、事実上のサルドニカの支配者だ。アルベルタさんやサヴェリオさんですら、この人の前では子供も同然なんだなと、あたしは内心で舌を巻いていた。
アトリエに戻ると夜だ。
少しずつ鉱山の警備は楽になりはじめていると、そっちに回っていたリラさんが証言してくれた。
今回の件で、警備の戦士も気合いを入れ直したらしいというか。
フェデリーカが主導で、今までこうならなかった方がおかしかったのだと、徹底的な注意と警告を呼びかけ。
予算も潤沢に出て、それでやっと現場がまともに機能しだしたらしい。
まあ何度もあたし達が持ち帰った、警備の戦士では瞬殺レベルの巨大な魔物の死骸や。何度もボロボロになって戻ってくる様子。
更にあたし達の戦闘の余波で、鉱山北の高地が壊滅しかけている有様を見て、流石に誰もが危機感くらいは感じたのだろう。
警備がまともになるのは良い事だ。
サルドニカ北の入植地も、漸く落ち着き始めているらしい。
アンペルさんの代わりにクリフォードさんが周囲と話して、それで色々と問題を解決しているらしいが。
アンペルさんはアンペルさんで、病人などに声を掛けて、薬の手配や医院へ連れて行くこともやっているそうだ。
最初は怖れられていたが。
今ではかなり頼りにされ始めているという。
良い傾向である。
後は回収した遺跡の文書の解読などの時間も作っておく。タオは頭を使いっぱなしなので、蜂蜜入りのミルクを出しておく。まあ、あたしは材料を用意するだけで、適切に作るのはパティだが。
まだ婚約者だが。
二人して、すっかり連携が取れていて微笑ましい。それでいてきちんと距離も取っているので、周りが浮き足立つ事にもなっていない。
工場での作業について説明した後、あたしは練り直した計画を話しておく。
「後四日。 工場は三日で片付けるとして、予備日を一日確保しておいたよ。 その間に、各自出来る事はすませておいて」
「ライザさん、百年祭は今の状態では一月ほど後になります。 其処まで出立は遅らせられませんか」
「大丈夫。 そのタイミングに、こっちに門を通って戻れるようにするから」
「そうですね……。 分かりました。 東の地、フォウレと移動するにしても、私は時々サルドニカ二戻って執務をします。 それらの時は、お願いいたします」
フェデリーカが聞いてくるので、適切に応じられるようにしておく。
門を人工的に作るのも全ては神代の本丸に攻めこむ下準備だが、それを応用するのは別に問題ではない。
特にフェデリーカは、サルドニカの政務を色々とやらなければならない立場だ。
ミーティングが終わった後は、あたしは東の地で献上する大太刀二十振りをもう一度調整しておく。
これは現地の戦士達と交友を持つためにも大事だし。
何より苦戦が伝わる現地のために作る装備でもあるからだ。
後は、新しい繊維を調整して。
少しずつ布に仕立てる。
案の場もの凄い強度で、調整を入れていくと最強と言う言葉しか出てこない。ただこれを直に着ると多分肌がズタズタになるので、モフコットと挟み込むようにして裏地と表面を覆い、服として着られるようにする必要もあるが。
カラさんには、新しい服を寝る前にプレゼント。
前のは修復しただけだったので、完全に新しい服だ。
カラさんはこの中では圧倒的年長者だが、見かけは子供なので、見ていてとても微笑ましい。
多分リラさんやセリさんにはあたしとは違う光景が見えているのだと思うが。
以前のように、動きやすさを最重視し、全体に魔力を増幅する効果の模様も刻み込んだ強力な服である。
軽装戦士のために、他にもこの服を作っておく。
当世具足も頑張って調整したが。鎧を着る戦士の中には、鎧以外は布一枚という面子も多いし。
ディアンなんかズボンくらいしかはかないで戦っていて、それで傷が滅茶苦茶増えている側面もある。
例え布一枚でも。
紙一重の攻防が生じる達人級の戦士にとっては、それが命取りになったりする。相手の爪に毒なんかがあることも多いし。
カラさんは、着てみて子供みたいに喜んでいたので、やっぱりこの人がオーレン族の総長老だとは人目では分からないが。
それでも、喜んでくれたのは何よりであった。
「これは愛らしいのう。 ライザよ、そなたは実用一辺倒かと思っていたのだが、こういうのも作れるのだな」
「まあ子供の世話もクーケン島ではしていましたので、色々服のデザインは勉強もしています」
「ちょっとひっかかるが、まあよい。 魔力が更に増幅されるのが分かるぞ。 今後は更なる活躍を期待せい。 それにこれだけ魔力が上がれば、機動力ももっと上がろうな」
よし。
どうやら大丈夫そうだ。
ただ、内部にある繊維そのものに触らないように、時々メンテナンスが必要になるだろう。
ディアンとフェデリーカ、ボオスにも作っておきたい。クラウディアは大事な戦いの時には当世具足を着て出るので、その調整で良いだろう。
他の皆にも、普段着の調整として声は掛けさせて貰う。
ただこれは今すぐの急ぎじゃない。
布の生産については既に目処が立ったので、別に移動中でも問題は無い。サルドニカを離れた後に、船内でゆっくり作れば良いことだ。
翌日。
早朝から、タオとレント、ディアンを伴って工場に出向く。
万が一に備えて薬もたくさん持ってきている。
さび付いた大歯車が、白銀の軽やかなものに代わり、動きも何倍も良くなっているのはこの工場でも見ていたらしい。
あたしを見ると、工場長の媚びる顔が露骨だった。
此処は衣類などの紡績工場で、大本の動力に大きな歯車がついている。此処は昨日よりもだいぶ小さめの歯車だが、それでも人間の三倍くらい直径がある巨大なもので、しかも数が多い。
まずはタオが設計図をとり、それをあたしが頭の中で分割して組む。それが出来てから、足場を組んで一つずつ歯車を外す。
「おっと、ディアン、気を付けろ!」
「おわ! 壊れてるよこれ!」
「だましだまし使っているんだ! 気を付けてくれ!」
一番ちいさな歯車は、歯っ欠けになりかけている上に、歯車の耐久も限界近いようだった。
これでよく動いていたな。
あたしは感心しつつ、すぐに修復に入る。
昨日よりもかなり手際が改善していて。工場の人員も、巨大な歯車がどんどん生まれ変わっていく様子を見て、息を呑み。
古い歯車は補修して、予備部品として使えるようにもしていく。
タオは空いている時間は、文書の解読に当てて貰う。どんな重要情報があるか、知れたものではないからだ。
アンナさんが来たのは昼少し前だ。
前に鉱山で助けた人達が、昼飯を差し入れてくれたらしい。心がこもった魚料理だ。この辺りでも、魚料理は結構名物になっている。順番にいただく。レントが、時々ディアンに注意をしている。
「一人で持ち上げられるとしても、歯車は一人で絶対に持ち上げるなよ」
「おう。 もの凄く精密なんだよな。 分かってる」
「この分だと、この工場はだいぶ時間的に余裕が出来そうだな。 ライザ、あの大きな煙突はどうする?」
「あれはサルドニカで作れると思うから、あたしの専門外かな。 今回の歯車の交換で、かなり先までサルドニカは工場を稼働させられると思うけれど、それに甘えて技術が衰退するようでは困るからね」
アンナさんもそれを聞いて頷く。
納得してくれたようで何よりだ。
人間の子供ほどもある大きな凶悪な顔をした魚の蒸し焼きを食べ終えると、午後の作業に入る。
複雑に組み合わさっている歯車を、直しては組み立てて行く。
車軸もしっかり今度の修復にあわせて直した。
また、油もついでに要所に刺しておく。
非常に複雑に歯車が噛んでいるが。これは恐らく、最初は紡績の工場用ではなかったのだろう。
古代クリント王国の遺物だったとして。
元は何に使われていたのだろうか。
それがちょっと気になったが。
今はそれよりも、兎に角少しでも作業を進める必要があるのだった。
レントの発言は予想通りになり。
夕方少し前に工場の試運転まで終わる。実際に稼働させて見ると、あたしが前に直した機械の設定を変えないと危ないくらい、歯車がぎゅんぎゅん動く。
微調整もそれにあわせてしておく。
歯車がしっかり噛み合っていないと、動力を伝えるどころか、大事故の原因になりかねないのだから。
三回調整して、微細な動きを確認。
タオが可を出したので、ほっとした。
感謝の声に応えて、工場長と握手をする。いずれサルドニカの人達にも、この工場が自力で作れる日が来るのだろうか。
来たとしても、
古代クリント王国や、神代を再現してはならない。
あたしは複雑だったが。
タオがそんなあたしを見越してか、提案してくる。
「先に次の工場も見ておこう。 設計図も起こして、作業を前倒しでやっておこうね」
「うわー、タオさんあれだけ設計図書いても、まだ頭がつかえるのか。 俺だったらもう寝ちまうよ」
「人には得意分野があるだけだよ。 ディアンの腕力には、僕ではとてもかなわないからね」
「でもタオさん速いぞ。 うーん、俺ももっと頭を使うことを考えないといけないのかなあ」
ディアンがそんな事をぼやいているが。
良い傾向だと思う。
多分だが、フォウレの里の験者も、外では今のディアンみたいな経験を散々してきた筈だ。
その結果、今のフォウレの里で、老人を掣肘しながら里のために動いているのである。
そう考えると、ディアンがその足跡を辿るのは大事だ。験者のことを元々慕っていて。だからこそ不甲斐ないと感じて暴れん坊になった。
ただの暴れん坊が、後の里の主軸になるには。
こういう経験をたくさん積んでおくのが大事という験者の考えがあたしには分かる。あたしも王都をはじめとする色々なところを見てきて、色々な経験をしてきたからである。
次の工場は、上水工場だ。
とはいっても水をくみ上げて、簡単に煮沸して、井戸が通っている水道に通すだけのものである。
歯車は水をくみ上げるのに用いられていて、動力源の機械は此処も既にあたしが前回の逗留で直してある。
此処は歯車もあるが、それよりも蒸気を上空に捨てている煙突の襤褸が目立つ。
これは、修理を優先するべきだろう。
蒸気は錬金術でも扱って分かりきっているが。
水から蒸気になるときに、極めて危険な膨れあがり方をする。
この煙突が爆発でもした場合、この工場で働いている人間が、大勢事故でなくなりかねないだろう。
ただ、煙突そのものはサルドニカの技術で作れる筈だ。
あたしが手を出すべきじゃない。
「タオ、この煙突は今のサルドニカの技術だと、どれくらい掛かりそうか分かる?」
「工数と材料費で……」
「分かった。 後でフェデリーカに話しておこう。 予算が下りるはずだよ」
「そうだね。 歯車についてはもうメモが終わったよ。 明日は早朝から、すぐに作業が始められると思う」
それはあたしも同じだ。
様子を見に来ていた工場長は、態度が柔らかい。恐らくだが以前機械を直したことで、作業がぐっと楽になったと喜んでいたからだ。
此処の水はサルドニカの生命線である。
此処を失ったら、文字通りサルドニカは干上がってしまう。水を各自で汲みに行かなければならなくなり、その過程で重労働が生じる。それにより膨大なコストが無駄に生じるだろう。
王都も井戸水周りに問題があったが。
水があることが、大都市の条件だ。
出来るだけ質が良い水を皆が使えることも。
ともかく、必要な情報はあたしも頭に入れた。明日の朝から、すぐに作業を始められるだろう。
これで相当な時短になる。
一番大きな工場の歯車がちょっと大変なので、それについては時短を少ししておくくらいでいい。
その工場の対応にはリラさんにも来て貰うかな。いや、植物魔術で応用が効くセリさんが良いか。
そう考えながら、あたしは。
サルドニカで済ませるべき作業について、まとめをしていた。