暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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さて東の地に渡ることになります。

ただし東の地ノットイコール日本ですので、それはご承知おきください。

この世界で何が起きたのかも、そろそろ分かり始めます。


3、荒海を越えて

船旅はもう何度も経験したが、東の地はそもそも島国。しかも周辺の海の気が荒く、現在でも水上での戦いを得意とする戦士が多いそうである。

 

そういうわけで。

 

船団が合流した日の夕暮れから、空模様が大変怪しくなりはじめた。

 

海の天気は元々変わりやすいものだが、それでもこの荒海は異常だ。文字通り小山のような波がうねりまくっている。

 

基本的に、甲板には出るな。

 

そう厳命がされた。

 

各地から集められてきたらしい腕自慢の戦士達が、大波を見て真っ青になっている。人間ではどうしようもない凄まじい自然の猛威。

 

それを目の当たりにすれば、それは怖れるのも仕方がない。

 

カラさんも、これでは大魔術で後押しどころではないと、いじけて船室に立てこもってしまった。

 

一度、船室で皆で集まる。

 

最悪の事態に備えて、エアドロップはちゃんと持ってきてはある。

 

ただこれの場合、東の地に向かうとしても、数日余計に掛かる。その間、魔物に襲われる可能性も高い。

 

出来れば船で無事に渡りきりたい。

 

タオが。座標を何度か採取していたが、困り果てていた。

 

「かなり数字が忙しく変わってる。 何かしら僕がまだ把握できていない法則性があるのかも知れない」

 

「よくこの状態でそんな事が出来るな」

 

呆れ気味のボオスだが。

 

これくらいの神経がないと、遺跡探索なんて出来ない。

 

クリフォードさんもそうだが。人生を副業にして、それでやるくらいの覚悟が必要なのである。

 

「それで、島国だと聞くが、無事につけるのであろうな」

 

「最悪の場合はライザの鍵で扉を開いて、避難するしかないかも知れないな」

 

「それは最後の最後の手段ね。 海上で扉なんて開いたら、一体後でどれだけ始末が大変かも分からないし」

 

レントには釘を刺しておく。

 

それが期待されかねない状況だからだ。

 

クラウディアがバレンツを代表で話に行く。

 

この船はかなり高度な磁石を搭載しており、それと星を見る装置を使って、確実に進むのだという。

 

羅針盤だなと、アンペルさんがいう。

 

本来の意味での羅針盤だ。錬金術で様々なものを読むのに使っているのとは違う。無論あたしが残留思念を読むのに使っているのとも違う。航海のためのマストアイテムである。

 

大型の商船にはほぼ確実に搭載しているらしく、この船も例外では無いということだ。

 

問題は船団を組んでいる他二隻だが、無事についてきている事を祈るしかないだろう。

 

夜半過ぎまで船は大揺れして、何度も傾いた。本当に丘を乗り越えているような高さまで上がって、それで落ちる。

 

とんでもない風と巨大な波が起きている証拠だ。

 

東の地の周囲の海は何処もこんな有様らしく、それで文明が保全されたという経緯があるらしい。

 

明け方に漸く静かになったので、今の内にと皆に寝るように促す。

 

流石にあたしもしんどかったので、休ませて貰った。

 

目が覚めてから体操をして、揺れる中で体を動かす練習をしておく。魔物が乗り込んでくる可能性は大いにある。

 

ただ海の魔物の場合、わざわざ船に乗り込んでこないで、船ごと食おうとしてくるだろうなとも思う。

 

そういう手合いには。大火力でお出迎えし。あの世に叩き落とすか、それとも丁重にお帰り願うしか無さそうだ。

 

昼過ぎには海の機嫌が良くなる。幸い船団の船は無事だが、一隻はマストが損傷してしまっていた。

 

連結して、海の男達が修理をしているが、ちょっと手伝うか。

 

あたしは男衆を連れて様子を見に行った後、木材から補強剤を調合して、船に運び込む。交渉はクラウディアがやってくれたので、邪魔は入らなかった。

 

マストを起こし、急いで立て直す。

 

急がないと、また海が機嫌を損ねる可能性が高い。

 

マストを起こして、その周りを包むように補強材で固める。そうすることで、前よりも頑丈になったくらいだ。

 

感謝されるが、感謝の言葉は無事に東の地についてからでいいと答えておく。

 

実際、まだまだ先はあるのだから。

 

此処からはカラさんが追い風を大魔術で起こして、船足が上がる。

 

遠くの方で、巨大な雲が天を貫かんとそびえているのが見える。山よりも巨大だ。でも、ああいう雲はクーケン島の近くでも、乾期の前後には見る。

 

だから、驚かないが。

 

ただ海上で見ると、ちょっとぞっとはしない。

 

あの下が大雨で海も荒れているのは確定だからだ。

 

音魔術が展開された。クラウディアのじゃない。

 

つまり船長が何か話すらしい。

 

「あー、乗り込んでいる者達。 船足が上がっている事もあって、昨日の遅れを取り戻すことが出来そうだ。 また嵐に捕まらなければ、明日の昼には東の地に着く。 だがあそこは歴戦の戦士でも瞬く間に手足を失うような地獄の土地だ。 今のうちに、覚悟を決めておくんだな」

 

それで通信終わり。

 

青ざめている屈強なはずの戦士達。

 

これは全土にフィルフサがいると同等の状態を想定しないとダメかな。

 

あたしは、そう思いながら、船室に戻る。

 

今のうちに、幾つか話をしておく。タオが海図と採取した座標を見比べながら、腕組みをしていた。それでいながら、気がつくと回収した文書の解読に戻っている。マルチタスクはあたしも得意だが。

 

タオのは更にそれより上なのだろう。

 

「流石に気合で耐えるのも辛くなってきていた。 明日に着くのは助かるな」

 

「そうじゃな。 嵐に捕まらなければ、だが」

 

「嫌な事を言わないでくれ……」

 

「単なる事実じゃよ」

 

うんざりした様子のボオスを、カラさんがからかっている。

 

その間に、あたしは皆に服を配っておく。

 

「はい、じゃあこれ。 試作品」

 

「お、カラさんの着ている凄い繊維の服だな」

 

「裏地と表布にモフコットをいれてガードしてあるけれど、内部の繊維そのものには絶対に触らないようにね。 一瞬で肌がすり下ろされる事になるよ。 そうならないように何重にも安全策は講じてあるけれど、万が一もあるから気を付けて」

 

「恐ろしいなあ」

 

まず、軽装の人員を中心に配る。

 

フェデリーカにも袖を通して貰う。普段のギルド長としての正装を、殆ど完璧に再現しておいた。

 

リラさんも軽装を好むので優先。

 

アンペルさんやタオにもだ。

 

レントは上半身はほぼ裸に鎧を着込んでいるし、その鎧も部分的なので、ズボンの部分を新しく作る。

 

問題はディアンだ。

 

普段からパンツ1丁で、体には装飾品だけ、みたいな格好である。

 

今の年齢だと良いが、もう少し背が伸びて育ってくると、多分周りから色々言われるだろう。

 

フォウレの里が熱帯だった事もあるのだろうが。

 

元々寒さには強いらしく。

 

魔物の攻撃を鎧で防ぐのが現在では現実的ではないこともあって、みんなディアンみたいな軽装である。

 

というわけで、パンツを作っておく。

 

皆に着て貰って感想を聞くと、ディアンが跳び上がって、天井に頭をぶつけそうになった。この船は大きくて、船室もかなり広めなのだが。

 

「すっげえ! 体が更に軽くなったぞ!」

 

「それはいいけど、女子がいる所で服は脱ぐなよ」

 

「分かってる。 一緒に暮らしてた子供らの前では、特に見本になるようにって、デアドラ姉に散々言われたからな。 俺も子供に嫌われるのは嫌だから、それはしっかりやっているんだ」

 

ディアンは意外な所で真面目だなあ。デアドラさんも確か家の中では下着1丁が珍しく無いと聞いていたが。

 

ちょっとその辺りは、どうコメントして良いのかよく分からない。

 

でも、上半身に上着を羽織れというと、要所だけ装備品で固めているからいいというのである。

 

最近は苛烈な戦場で動き回る事もあって、やっと靴はいつも履いてくれるようになったのだが。

 

そもそもこの間の超ド級の魔物と神代鎧の戦いでも腕を落とされていたし。

 

もう少し、体を大事にする意識が必要だと思うのだが。

 

まあ、験者もほぼ似たような格好だったし、ああだこうだいうと文化に対する無理解になるか。

 

それはそれで良くない。

 

フェデリーカは、少し動いてみて、それで調整を入れて欲しいと言ってくる。待ってました、という奴である。

 

即座に要望を聞いて、調整を入れる。

 

むしろこの作業は、とても楽しい。

 

「やはり神楽舞には微細な調整がいるんだね」

 

「そうですね。 それもあるんですが、実はこの服左右対称ではないんです」

 

「へえ?」

 

「神楽舞をしている時、ちょっとだけ重心が右に傾くようになっているんですが、それは右旋回が動作として多いのが原因なんです。 服もそれにあわせて、幾つか微調整をしていて。 能力がぐんと跳ね上がるのも分かりましたが、それでもやっぱり少し右が傾くようにしておきたいです」

 

ふむふむ。

 

理解出来た。

 

そのまま他の皆の話も聞きながら、調整を入れておく。

 

レントはズボンだけ新しいのに履き替えてきて、それでも更にパワフルで速くなったと喜んでいる。

 

タオは更に速度が上がるそうである。

 

それを見ていて、パティも欲しいと言い出したので、勿論作る。クラウディアの分も、である。

 

クラウディアに話を聞いたのだが、あまり筋肉質になるように見えると取引時に相手を萎縮させたりするので、鍛え方を工夫して筋肉が露骨に見えないようにしているという。音魔術で補佐しているとは言え、クラウディアの弓術は見た目よりもずっと力がいるのである。

 

そういう事もあって、重要な戦闘時に着て出る当世具足の下につける服で、更にパンプアップ出来るのは嬉しい事だと言われた。

 

とにかく皆の分をどんどん作る。

 

パティは胸鎧以外の服を全部新しくこれで仕立てた。

 

蜘蛛糸とはいえ、覆っているのはモフコットで。これは単純に羊の毛だけで作っているものでもなく。最近はシルクや他の繊維を混ぜて肌触りを向上させ、更に強度も上げているし、見た目も絹に遜色ない。

 

パティの着ている絹中心の服と見た目からもそう劣るものではない事もあり。

 

更にパティは広めの所で、大太刀を抜き打ちしてみせる。

 

速い。

 

これは更に速くなったか。

 

それも速いだけではなくて、威力もそれに伴っている。

 

呼吸を整えると、剣舞の動きを順番にやってみせるパティ。その全てが今までよりも更に速く、正確になっている。

 

「すげえ! 戦士としてはやっぱり俺より上だな!」

 

「ありがとうございますディアン。 ライザさん、装飾品に調整を入れて欲しいんですが。 思考能力の強化支援、掛けられますか」

 

「いいよ。 やっぱりその動きを続けると、頭がついていかない?」

 

「体は今まで以上に速くパワフルに動きますが、それを補助する頭脳が追いつかなくなってきています。 実の所今までの動きと速度で限界だったので、今後加齢を考えると……」

 

パティは正直だ。

 

頷くと、すぐに調整に入る。

 

皆、広いところで試したいとわいわい喜んでいる。セリさんも、これなら更に迅速に薬草を育てられそうだと、少し嬉しそうだった。

 

全員に行き渡るまで、たっぷり一日かかる。

 

翌日の朝には、あたしのも当然含めて服は全員分新調。

 

ただし今までの服だっているし、予備も必要になるから、幾つか予備の服も作っておく時間がいる。

 

案の場膨大なジェムがいるので、トラベルボトルに入って素材を回収しておく。

 

蜘蛛糸のトラベルボトルの中には、当然おっきな蜘蛛がわんさかいるので、フェデリーカが可愛い悲鳴を上げたりしていたが。

 

前は虫が苦手で毎回青ざめていたパティは、淡々と邪魔をする蜘蛛を追い払っていたし。タオもそう。

 

でも、別に虫を克服したという話は聞いていない。

 

「蜘蛛は大丈夫になったの?」

 

「少しずつならしているのもあるんですが……」

 

例えば絹なんかは、蚕の糸から作る。

 

これは金持ちはみんな着ているし。パティの場合は、実際に作られる現場を見に行く事も多いだろう。

 

養蚕業の人と接して、現実を見るのは重要。

 

パティはそう考えるだろうし、蚕の生態については見にいって、調べていると前ちょっと話を聞いた。

 

まあ蚕は実際、成虫は特にモフモフして虫としては異例に可愛いが。

 

「実は蜘蛛は虫じゃないんです」

 

「ああ、そういう」

 

「種族としては虫に極めて近いらしいんですが、蟹や海老もそれは同じらしいんです。 蟹や海老と似たようなものだし、生態系の守り主だと思うと、いつの間にか大丈夫になりました」

 

「そっか、それはいい心がけだね」

 

フェデリーカが、そういう問題じゃないと泣き言を言う。

 

こっちは虫は確か耐性があったはずだが、此処の蜘蛛はちょっと大きすぎるのが怖いらしい。

 

魔物にも虫系は普通にいるし、なんだったら超ド級の魔物達にも虫要素はあったのだが。

 

あれらは大きすぎるので、却って怖くないのだとか。

 

不気味の谷現象の一種かも知れない。

 

「それはそうと、黄金色の珍しい蜘蛛だな。 警戒色でもなく、動きもおっとりしている」

 

「こやつらは頑強な巣で身を守ることもするのでな。 基本的に動き回らなくていいから、性格も穏やかでのう」

 

リラさんに、カラさんが説明をしている。

 

食えるのかとクリフォードさんが聞いて、それで限界が来たらしくフェデリーカが倒れそうになる。

 

あわててパティが支えるが。

 

その間にあたしは、さっさと採集を続けた。

 

魔物が出ると面倒だ。

 

フィーの様子を見ると、ドラゴンの素材で作った世界にいる時みたいに、別に気持ちよさそうにはしていないし。

 

体調だって回復しているようにはみえない。

 

やはりドラゴンの側にいて、それで生きる生物なんだなとよく分かる。

 

別にオーリムだから元気になるわけではない、ということだ。

 

それと、恐らくオーリムの素材で作った世界だからか。周囲には永久氷晶を代表とする、貴重な素材もある。

 

これらは親和性が高いからだろう。

 

もう少しでトラベルボトルは完全解析できそうなのだが。まだもうちょっと追いつかない。

 

「よし、戻るよ」

 

「船の状態も気になる。 体力は温存した方が良いだろうな」

 

「ん? ボオス、最初に出ないの?」

 

「……察しろ」

 

まあ、船酔いが苦手なのだから、そうだろうな。

 

そして船から出ると、喚声が聞こえた。

 

陸だ。

 

東の地だ。

 

どうやら丁度着いたらしい。魔物と遭遇しないで済んだから、体力を温存できたのは大きい。

 

オーリムに本来住んでいただろうそれなりに強い魔物が出るのだあのトラベルボトルの中は。

 

貴重な素材を回収出来たので、今は可とするべきだった。

 

 

 

東の地はとにかく緑が濃い土地だ。少なくとも視界に入っている範囲の山々は、文字通り青々としている。

 

ただし、彼方此方に砦が作られているし。

 

港もかなり堅固に要塞化されていて、いつ戦乱になってもおかしくない作りになっているのが分かった。

 

建物は事前に聞いていた通り木造が中心だ。その他に地元産らしい紙がかなり使われている。これはちょっとサンプルが欲しいなと思いながら。マストを直した船の船長から、謝礼を受け取った。

 

まあ、それだけで充分である。

 

「街、見て回れないかな」

 

「少し待ってね。 東の地って事前に調べてあるけれど、色々と因習が他と違って、手続きがいるんだ」

 

「任せるぜクラウディア」

 

「俺もついていく。 違う風習の地で、どうやりとりをするのか見て学んでおきたい」

 

パティとフェデリーカも手を上げて、それに倣う。

 

なら、四人に任せるか。

 

程なくして、当世具足をちょっと省いたみたいな姿の戦士が何人か。当世具足の屈強な戦士が来る。

 

軽装の戦士は槍を、当世具足の戦士は馬に跨がり、更に大きな槍を手に。弓矢を背負って、更には鞍に大太刀をつけていた。見るだけで分かる。全員、相当な使い手だ。此処が修羅の土地だというのは、嘘では無いらしかった。

 

馬から下りる偉そうな戦士。

 

集められた力自慢腕自慢達を一瞥すると、配下らしい戦士にどこどこに連れて行け、と指示を出す。

 

クラウディアを見ると、多分即座に察したのだろう。

 

大槍を休めの姿勢に変えると、軽く一礼をしていた。

 

「バレンツ商会のクラウディア副頭取でござるな。 拙者この土地にて侍大将を務めている十河上野介と申す。 いつも貴重なる金属と武具の仕入れで随分助かっている。 今回は重要な案件があって、御自らおいでになったと聞いておるが」

 

「はい。 此方のライザリンがくだんの錬金術師です。 今回はライザリンの重要な用事もあって、親友である私が一緒に参りました」

 

「ほう。 貴殿が。 話通りまだ年若い」

 

とはいっても、きちんと敬意を示してくれる。

 

ついてきて欲しいと言われたので、一緒に街の中を行く。

 

みんな着ている服は随分サルドニカとも違う。

 

住民は殆どが大太刀を持っているようだが、質はそれぞれで随分違うようだ。髪型も独特の結い方をしていた。

 

何もかもが違うな。

 

木と紙で作られた家が多いが。それ以外に土もかなり使っているようだ。それでいながら生活水準はそう王都と変わっていないようである。

 

水周りも清潔なようで、不衛生な汚物の臭いは殆どしていない。

 

ただ、やっぱり体を欠損している人が多いし。

 

時々男女問わずに凄い使い手の気配もある。

 

それだけでなく、視線をずっと感じる。

 

監視をされているか。

 

まあそうだろう。

 

クラウディアに世話になっていると十河と言う人は言っていたが。それでも油断するつもりは無いということだ。

 

やがて、大きめの建物に案内される。

 

土と竹かこれは。

 

それらを組み合わせて、思いの外頑強な作りにしている。王都のもとの遺物をそのまま邸宅にしているような家と違って、これは毎回作っているものだと判断して良いだろう。もとの文化におぶさって貴族を気取るのよりは。工夫しながら建物を自力で建てる方が、あたしから言わせれば立派だ。

 

屋敷の中は何かしらの植物で床が覆われていて、その他は木張りだ。

 

武器は預けるようにと言われたので、入口の戦士に渡しておく。

 

クラウディアを中心に、あたし達は軽く入口で作法を習う。

 

王都で言うメイドみたいな立場の人が、履き物は脱ぐこととか、上座がどちらになるかとか、色々説明してくれる。

 

ボオスは熱心に頷き。パティもじっと耳を傾けていた。

 

必要になれば、此方で話をするつもりなのだろう。

 

十河という人に、広めの部屋に通される。

 

そこで布で作られたマットみたいなのが出される。座布団と言うそうだ。それに座って、まずはクラウディアが順番に話をしていった。

 

先にあたしが作ったインゴットと大太刀が引き渡される。

 

それを見て、十河という人の目の色が変わる。

 

「おお……! 何たる業物か!」

 

「ライザリンの最新作です。 既に実戦で使えることは確認しております」

 

「これはすぐにでも将軍様に届けたい。 此方の金属もまた、加工のしがいがありそうだな。 職人共が喜ぶであろう」

 

「お納めください。 その代わりに、この地の最高権力者である征夷大将軍様と面会をいたしたく」

 

すっと、十河さんの目が細められる。

 

家の中だと当世具足は脱いでいるが、それでも威圧感はまるで変わらない。

 

この人、アガーテ姉さんやザムエルさんと同格の戦士だ。

 

それだけ修羅場を潜ってきている歴戦のものなのだ。

 

「ライザリンというそのものが戦士としても職人としても、魔術の使い手としても驚天の存在だとはよく分かった。 何を目的としている」

 

「この地にいる強力な魔物の討伐がまず一つ」

 

「それは我等としても願ってもない。 クラウディアどのも含めライザリンどのと供の戦士達、いずれ劣らぬ名人とみた。 それであれば、今苦戦しておる北の地での戦闘で、必ずや皆の助けになろう」

 

「もう一つは、その北の地の調査です」

 

死ぬぞと、ずばり言われた。

 

この土地では、表だって戦う「侍」という戦士階級が非常に多いらしく、十河さんもその一人であるらしい。

 

それとは別にあたし達で言う密偵みたいな仕事をする「忍び」という人達もいて。この人達が魔物の襲撃を事前に調べたり、各地で警戒をしているそうだ。まあ密偵とスカウトを足したような仕事であるのだろう。

 

「今ベヒィモスという凄まじき魔物が暴れておるが、これは今暴れているのがそやつなだけで、北の地には同格のモノが十数体はいると言われておる。 ベヒィモスだけでも四体いると言われていてな。 どんな忍びでも、何度も潜入に成功するものはいないと言われている程の地獄よ」

 

「此処にいる戦士達は、そういった魔物を何体も斬り伏せて来ました。 特にライザリンは、魔術が一切効かない強大な魔物を倒す事数回に達しております」

 

「それほどであるか。 バレンツの副頭取の言葉、何よりこれらの武具を考えると、疑う訳にもいかぬな……」

 

腕組みした後、十河という人は顔を上げていた。

 

どうやら、決断してくれたらしい。

 

「分かった。 将軍様の所へ案内しよう。 力自慢を称する者どもが、この地では足軽にも劣る連中で、何の役にも立たず辟易していた所よ。 一目で分かる名人がこれだけ来たのだ。 きっと戦地で、多くの死地にいるものを救うであろう」

 

ぐっとクラウディアが頭を下げる。

 

これで一歩前進か。

 

一旦今日はこの邸宅……屋敷と言うそうだが。此処で止まって、明日征夷大将軍という人がいる場所に行くらしい。

 

その間、タオが提案。座標を取りたいそうだ。

 

まあそうだろうな。

 

当然監視がつくが。あたしも一緒に街に出て、座標を取る。ディアンも着いてきたのは、屋敷の中が窮屈だったかららしい。

 

クラウディア達は、先に屋敷の人間に礼儀作法の類を聞いておくそうだ。

 

座標を取って、彼方此方回る。

 

軽装の当世具足を着ている戦士が、不審そうにいう。

 

「見た事がないからくりだが、それは何をしておる」

 

「ああ、これはこの土地の測量みたいなものです。 土地の情報が、どうしても欲しいもので」

 

「この土地は我等のものぞ。 千数百年ずっと守り抜いてきたのだ」

 

「分かっています。 貴方たちの土地を侵すつもりはありません。 貴方たちとともに、魔物と戦うために今回は来ました」

 

そうか、と戦士はいうが。

 

やっぱりかなり警戒されているらしい。

 

十河と言う人は頭が柔軟そうだったが、この土地にずっといる人達となると、やはり閉鎖的にもなるか。

 

クーケン島とそういう点では同じ臭いがする。

 

ちょっとあたしとしては、あまり嬉しくない。

 

街の広さは、クーケン島と同じくらいか。街の外側は溝が掘られていて、雑多な柵と見張り台がある。

 

これは防御施設に依存しているのでは無く、戦士の質でこの土地を守り抜いているのだとみた。

 

それはそれで凄い事である。

 

実際見張り台には、当世具足の戦士が一人はいて。

 

その実力は、あの十河さんと大差ないように思えるのだった。

 

「街の外は良いですか。 軽く肩慣らしに、この土地の魔物とやりあいたいんですが」

 

「……三人だけでか」

 

「いえ、後で皆と合流してからでかまいません」

 

「どの道城に向かう過程で嫌と言うほど魔物とはやりあうことになる。 この「坂井」から将軍様のいる「二條」までは普通だと急ぎで二日ほどだが、それは普段の話。 今は倍は掛かると考えるべきだ。 馬は外では危なくて使えたものではない。 せいぜい足を引っ張らぬようにな」

 

うん、冷たい。

 

だけれども、この人はいい戦士だ。動きを見ているだけでも分かる。

 

街を見ていると、さっき連れてこられた「腕自慢」達が訓練を受けていたが。どうやら予想通り。

 

けちょんけちょんにされている。

 

みんな一から鍛え直しだろうなあれは。

 

そう思ったが、何も言わない。実際船内でも、あんまり強そうな気配は感じなかったし、妥当だろう。

 

街の外の気配も、オーリム並みにきつい。

 

フィルフサも、此処では爆発的な侵略は不可能なのかも知れない。それくらいの魔郷である。

 

ふと、当世具足を着た、例のメイドの一族の人とすれ違った。

 

此処にもいるんだなと思って驚く。

 

屋敷に戻って、それで伸びをする。椅子がないから、座布団とやらに座りながらだが。

 

「タオ、それでどう座標は」

 

「どうせ徒歩で移動する過程で嫌と言うほど集まるだろうから、それでいいよ。 それよりも、治安が随分しっかりしているね」

 

「そういえばそうだな。 みんな荒くれなのに、人間同士で争う気配が殆ど無かった」

 

ディアンも、あの戦士の実力は肌で分かったらしい。

 

十河さんら当世具足の戦士は更に格上だ。

 

やはりこの土地は、事前に聞いていた通りの場所だと言う事だ。

 

「で、ライザ。 アトリエはどうするの?」

 

「まずは征夷大将軍という人に会ってからにしよう。 あたしとしても、最前線が此処とは思えないし。 出来れば最前線に近い街でアトリエを構えて、其処を拠点にしたい。 二條って言っていたっけ。 そこでこの屋敷くらいの広さの土地が貰えたら、そこに立ててしまおうね」

 

「アトリエを建てたら、門を開くんだね」

 

「うん。 少しでもデータは取っておきたい。 この土地がもし魔物を支えきれない場合、住んでいる人達が逃げるための道にもしたいからね」

 

恐らく神代の魔物なのだろうが。

 

此処にはあの高地にいたのと同レベルの輩がわんさかいる。特に北の地という場所には。そう判断して良いだろう。

 

クラウディアが来る。

 

作法について確認したというので、皆で共有する。

 

なるほど、格上の相手と話すときは、まずは平伏するのか。床に座る文化なのだし、それも当然かも知れない。

 

それにこの何かの植物で編んだ床、意外と清潔だ。

 

殆ど虫の気配もない。

 

それと細かいやりとりは、クラウディアがやるということだ。

 

パティとフェデリーカが、話をかわしている。

 

「今はかなり寒い時期だそうですね。 それで皆この肌の色と言うことは、元々肌の色が濃いのも納得です。 私の先祖が此処にいたと言うのもなんとなく分かります」

 

「ネメドみたいに常時暑いわけではないようですが。 それと随分と独特な文化ですね。 いずれアーベルハイムと正式な交渉をしないといけないので、この土地に対する接し方をお父様と相談しないと」

 

「早馬はクーケン島から出すつもりですか?」

 

「そうですね。 サルドニカよりクーケン島の方が近く着くようですので。 ただ、まずはアトリエですが」

 

ボオスはと言うと、腕組みしてメモした内容を見ている。

 

ちなみに、メモに使っているあたしの作ったゼッテルを欲しいと言われたらしい。クラウディアも、取引量を増やすつもりだそうだ。

 

ただ、この土地はとても閉鎖的なことも思い知らされたとか。

 

「禁足地に入ったら即座に斬ると何回か脅された。 あれは本気の目だった。 皆、気を付けろよ。 特に其処の三人な」

 

「うーん、先に禁足地の詳細を聞いておきたいね」

 

「同感だ。 ただの古い建物だったら、命がけで忍び込むほどじゃない。 しかしこの様子だと、ロマンの香りがビリビリするんだよなあ」

 

「そうだな。 門があっても、この魔物の質だと、フィルフサも簡単に侵攻はできないだろう。 この地に来たのは初めてだが、これほどの魔郷があったとは」

 

さて、そろそろ良いだろう。

 

あたしは手を叩く。

 

「よし、じゃあ街の周辺にいる魔物を叩くよ。 クラウディア、十河さんに許可を取ってきて貰える?」

 

「分かった。 この街の戦士達にも、ある程度力は見せておくのは私も賛成。 この街というか東の地では、強い人間は無条件で尊敬されるみたいだから、魔物を倒せば倒すほど、交渉もやりやすくなるはずだよ」

 

「腕が鳴るな。 ちょっとこの建物、風通しはいいが俺の背丈だと窮屈だったし」

 

「レント」

 

リラさんがレントをたしなめる。

 

確かに、ちょっと建物の背丈は小さい。

 

それは、あたしも認めざるを得なかった。

 

十河さんの許可を取り、街の東門から出る。北門から二條という土地に向かうらしいのだが。

 

この街の東には相応に強い魔物が出ていて、駆逐はしきれていないらしい。

 

ならば肩慣らしだ。

 

街から出るやいなや、わっと魔物が姿を見せる。ラプトル、それも凄い大きい奴ばかりである。

 

それだけじゃない。

 

のしのしと歩いてくるのは、今まで戦って来た要塞型の超巨大魔物……の小型版に見える。

 

彼奴らほどでは無いが、魔力量からして、空間を切り裂くような魔術を使って来かねない。

 

丁度良い。

 

全部ぶちのめす。

 

「行くよ! レント、あの大きいのを抑えて! 他の皆は、群がってくる連中を順次叩きながら、隙を突いて大きいのを仕留める!」

 

「おおっ!」

 

「散開!」

 

ざっと散る。

 

街の中から、かなりの数の「侍」が様子を見ている。この程度の敵に勝てないようなら、この先死ぬだけだというわけだろう。

 

結構結構。

 

だったら、此処で十河さんにある程度話を脚色して貰った方が良い。

 

ラプトルはでかいだけでなく動きが速い。かぎ爪で、容赦なく体を引き裂きにくるが、熱槍の直撃を浴びせてやる。なんとそれをシールドで受けに来るが、熱槍が一秒ほどの拮抗の末に貫通。

 

火だるまへと変えていた。

 

悲鳴を上げながら跳ね回るラプトルの首を蹴り折る。更に空中から、多数の熱槍を周囲に叩き込む。

 

フェデリーカの舞いは。更に鋭さを増している。このレベルの相手だったら、もう恐れもしないか。

 

レントが大型の猛攻を捌きながら、一撃を頭に入れる。さがる大型を見て、街の中からおののきの声が上がった。

 

「鬼を単騎で押しているぞ!」

 

「海向こうから来る奴らは、あの名人の一族以外は取るに足りないと思っていたが……!」

 

「あの魔術使いも凄まじい!」

 

ま、せいぜい褒めてくれ。

 

あたしは着地すると、水平に跳んで主力らしいレントの相手に襲いかかる。触手を振るって即時詠唱を終える魔物。小型とは言え、超ド級の魔物と同種なのだろうだけの事はある。

 

多数の真っ黒い何か得体が知れない槍を生成して、辺りにぶっ放す巨獣。だが、魔術の完成速度も、狙いも甘い。

 

残像を作りながら真横に回り込んだあたしが、渾身の蹴りを叩き込んでやると、一瞬後。蹴りを叩き込んだ向こう側から、巨獣の内臓が破裂して噴き出していた。

 

流石に即死する巨獣。

 

また、喚声が上がった。







本作の東の地は、武が何よりも貴ばれる土地です。

こう言う土地の方が、ライザが受け入れられるのは早かったりします。
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