暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
※東の地について
本作における東の地は、サルドニカの近海にある島国です。
サルドニカは此処と僅かだけ交流があり、文化や血などが流入している経緯があります。現在でこそ第二都市になっているサルドニカですが、立ち上げの頃とかはごたごたがたくさんありましたし(これは原作でもそう)、武芸に優れた東の地の戦士は初期の混沌のサルドニカでは重宝されたのです。
東の地とサルドニカの文化交流は限定的だったため、王都などにはほとんど文化は届いていませんが。大太刀などは王都にまで業物として伝わっている他、優れた武芸の話だけは風聞として伝わっています。
だから、東の地がやばすぎる魔郷だと言う事は、話半分にしか伝わらず。
侮ってサルドニカから東の地に渡海した挙げ句、あっと言う間に凶悪な魔物に殺される戦士が後を絶ちません。
十河上野介は重要拠点である坂井の街を任された侍大将であり、大小三十の北の魔物との戦に参加してきた歴戦の侍である。
だからこそ、馬上でライザリンという戦士の戦いぶりを見て、瞠目していた。
他の戦士達も名人と呼ぶに相応しい達人である事は分かっていたが、あのライザリンは頭一つ抜けている。
鬼に全く怖れずに挑み、それどころか蹴りで体内を粉砕して、炸裂させるようにして倒してみせた。
あれで職人としても超一流か。
凄まじい。
文字通り、歴史の転換点に現れる英傑だ。
馬上で息を呑む。
やがて、鬼と一緒にいたラプトルの群れも全滅。門を開けさせる。其処まででいい、という合図だ。
一緒に船に乗ってきた「腕自慢」どもは、戦いを見るだけで腰が引けてしまっている。やはりあれらが特別なのだろう。身に付けている装備も、なんだか格が違うように見えていた。
「鬼を含め、魔物の死骸を運び込め! 今日は宴ぞ!」
「大漁ぞ大漁!」
「名人の戦ぞ! 勝ち鬨を上げよ!」
「エイトウトウ! エイトウトウ!」
足軽達も、皆歓喜している。北の戦況が著しく良くなく、名人ガイア殿が連れてきた精鋭の力がなければ、二條まで侵攻を許しているかも知れない。
長い間魔物とやりあってきたが、どうしても戦士はいつも強い者がいるわけではない。気まぐれに攻めこんでくる魔物のせいで、侍は命を落としていく。そして魔物は平気で戻っていく。
鬼を倒せる侍はあまりいない。
ましてや単騎で迎え撃ち。その支援があれど、あの迅速な撃破。まさにほれぼれする戦ぶりだった。
武芸ある者を素晴らしいと思わない奴は、侍として失格。そう教育を受けてきたし。今では十河もそう心から考えていた。
戻って来たライザリンに、十河は声を掛けていた。
「天晴れな戦ぶりぞ。 今日の戦ぶりは、将軍様に必ずや報告させていただこう」
「ありがとうございます。 それで……一つ頼みがあるんですが」
「何かな」
「土地が欲しいのでは無くて、行動用の拠点をいただきたく。 屋敷が建つ程度の空き地を確保していただければ、此方でどうにかしますので」
なるほどな。驚天の技を用いるのだ。まあそれくらいはいいだろう。どれくらいの事が出来るのか、見てみたくもある。
十河は頷くと、将軍様にとりはかろうと約束していた。
回収したラプトルは、皮を剥ぎ骨を取りだす。全て無駄にはならない。肉も全て燻製にして蓄える。
坂井の西の方は田が拡がっていて、ある程度の安全圏を確保できているが、米は必要量を常に確保できるわけではない。西にだって魔物は出る。東に出ていたような鬼が出ると、侍大将が何人も戦死するような大戦になることも多いのだ。
鬼の死骸も回収するが。
基本的にこれは食べられない。
ライザリンどのが体内から何か回収していたが、それはどうでもいい。何かに使うのだろう。
大きな釜のようなものを屋敷で使いたいというので、好きにして貰う。
手足を失っている者はいないか。
そう声を掛けられたので、何人か呼ぶ。驚きだ。手足を作り出し、その者達にあてがうではないか。
稚拙な義手義足などとはまるで次元の違うものだ。手足としてほんものと見分けがつかず、きちんと動くようである。
流石にちょっと十河も怖くなってきた。
「驚天の技よ。 どうなっているのか……」
「出来るようになったのは最近です。 元々はこの世界にあった技術なんですが」
「そうか……」
征夷大将軍というのには、立派な意味がある。
この土地は、古くから夷とよばれる敵に襲われてきた。特に千数百年前に来た夷は、土地の者を奴隷にし、全てを奪い尽くそうとした。その者達と激しく戦い、多くを斬り捨てて土地を守った伝説の侍が最初の征夷大将軍だ。
以降、その夷がまき散らしたとも言われる鬼を主軸にした魔物と、東の地はずっと戦い続けている。
だから征夷大将軍は、この土地で一番偉い。
それはそれとして、皇と呼ばれる形式的にはもっと偉い立場にいる存在もいるのだが。ずっと侍が現実的には権力を握っており、それはあの夷の到来以来、ずっと変わっていない事実だった。
さきに早馬を出しておく。
これも馬を走らせるのでは無い。特別に訓練した鳥を飛ばす。馬だと、魔物のエサになってしまう。
どういうわけかラプトルは馬が大好物なようで、東の地全域にいるラプトルは、どれも馬を見つけると執拗に狙って来る。
だから馬は指揮官用だ。
基本的に戦場では使えない。いざという時に一気に間合いを詰めるときなどには使うが。基本は徒歩で戦うのが侍だ。
人間が相手だったら、話も違ったのだが。
「おお! 足が、動くぞ!」
「手の感覚がある! 何年ぶりであろうか、大太刀を握るのは!」
「すまぬ、この指も治せるか?」
ライザリンどのの神域の技を見て、部下達が無邪気に喜んでいる。手足を失うと、それで戦いには大きな枷が出来てしまう。それをどうにかしてくれるのであれば、本当に侍としては嬉しいのは分かる。
だがこの力。
手紙には送ってある。
ライザリンどのの武芸、比類なし。名人として来てくれているガイアどの達と同等以上の実力であると。
しかしながらその振るう力。
ひょっとすると夷のそれやもしれぬ。
常に警戒の目をつけられたし。
ライザリンどのは下々を助ける事をなんとも思わぬ様子。慈悲深きお方よ。更には魔物を仕留める事を目的に来てくださったと言う話でもある。
だがもしもライザリンどのが翻意した場合。
この土地は灰燼と帰し。
再度立ち上がる事かなわぬだろうと。
これは征夷大将軍に対する正直な報告だ。
今の征夷大将軍は、武芸よりも冷徹な知性で戦場を制御し、それで認められて征夷大将軍になった。
血縁制で征夷大将軍を決めないのがこの土地の良い所で。
基本的に最強の侍が征夷大将軍に就任し、戦えなくなると隠居して後続に技を渡している。
だから常に頭の質を保ててきたのだが。
だからこそに、ライザリンどのの頼もしさと。
危険性を同時に伝えなければならないのだった。
(続)
東の地編本格的に開始です。
東の文化とライザの交流を刮目せよ!