暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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本作東の地である二條は、東の地の中心地であると同時に最前線都市であったりします。

東の地の中で「北の地」と呼ばれる魔郷から南下してくる強大な魔物を迎え撃つための要塞が、いつしか都市になりました。

東の地の長である「征夷大将軍」も、基本的に常に二條に居を構えています。


1、征夷大将軍

遠くから二條が見えてくる。

 

遠くからでも分かるが、アスラアムバートにだいぶ規模が劣る。サルドニカよりも規模は数割劣るだろう。だが、かなり栄えている街だ。

 

周囲は分厚い土塀と堀で守られ。

 

多くの砦が周囲に作られて、多数の戦士が行き交っているのが見える。あれが全部侍だろう。

 

十河さんに聞いたが、北の地からの魔物の襲来があると、いざ二條というかけ声とともに、侍が集まるそうである。

 

また、二條は本来はその魔物との戦闘の最前線として構築された街であるらしく。

 

二條が実質上のこの土地の中心地になっているのは、戦闘が大前提になっているこの東の地らしい状況であるとも言えた。

 

二條に入る。

 

服などはかなりクーケン島やサルドニカとも違っているが、技術的な面では劣っていないようである。

 

というか神代の時代から技術は劣化し続けているのがこの世界の現実なので、それはどこであろうと同じなだけだろう。

 

流石にみんな鎧姿ではないが、男女ともに鎧姿が目立つ。当世具足をつけている人は、兜をそれぞれ個性にしているようだ。

 

ただ当世具足もガチガチに固めているわけではなく、動きを阻害しない作りにしている。それを見ると、鎧が廃れた東の地以外と、根本は同じ。対魔物を想定しているから、重装鎧は必要ないと言う訳だ。自分でも試着はしてみたのだが、軽さと動きを邪魔しない装甲になっているのが当世具足。

 

或いは古い時代の当世具足とは、今のは違っているかも知れない。

 

建物は木造が殆どで、ただ重要な基礎などには石材などを使っているようである。色々な意味で、石造りが主体のクーケン島とも王都ともサルドニカとも違う。辺境の集落の家屋が強いていうなら似ているけれど。

 

あれらに比べると、きちんと最初から木材を中心に作っているのが分かる。

 

此処は、決して他と劣ってはいないんだな。

 

それが分かって、あたしは色々と凄いなと思った。吸収できる技術があれば。どんどん学んでいきたい。

 

すれ違ったのは、例のメイドの一族の人だ。メイド服で当世具足ではないが、別に珍しがられてもいない。

 

つまり、腕利きであればそれでいいという超実利主義と言う事だ。

 

それはそれとして、訓練所では多数の足軽が槍を振るっているのを、侍大将らしい険しい顔の女性が訓練している。

 

人材は生えてこない。

 

アガーテ姉さんは、そう言って運動神経が別に良くない子も見捨てず、やれることを仕込んでいた。

 

そうして仕上がった一人がタオだ。

 

此処でも、人材は生えてこないことを前提にしているということだ。

 

子供も見かける。

 

まとめて学問を教えているようで、当然武術や魔術も仕込んでいるとみて良い。此処は最前線だが。

 

此処を落とされたら終わりくらいの覚悟で、この地の人達はいる。

 

それも分かる。

 

最悪の場合になんかさせない。

 

往来を見ながら、あたしはそう内心で呟いていた。

 

ディアンが手をかざしながら嬉しそうだ。

 

「ライザ姉、強そうな人が幾らでもいるぞ!」

 

「そうだね。 確かに此処の戦士達は、何処に出ても恥ずかしくない技量だと思う」

 

「そういって貰えるのは光栄でござるな。 貴殿ら程の名人にそう言われれば、普段鍛えている甲斐があるというものだ」

 

十河さんにそう言われると、ちょっと恐縮する。

 

この人も屋内なんかでは意外と小柄で、ひげで若く見える顔を誤魔化すような工夫をしていることが分かる。

 

苦労人なんだ。

 

まだ年齢は三十代で、充分に戦える年齢だろうが、こんな場所だといつ死んでもおかしくはないだろう。

 

当然奥さんと子供もいて、坂井を出るときにあたしも挨拶をしてきた。

 

この人も、死なせる訳にはいかないな。

 

そう思いながら、すぐに城へ。

 

城と言っても、華美な施設はなくて、典型的な要塞だ。木と土壁で作られているが、とにかく頑強なのが分かる。

 

鎧では無くてちょっと豪華な服を着ている人達がいるが、あれは魔術師だな。

 

こっちだと巫女とか陰陽師とかいうらしいが。

 

魔術を用いて、城の警備をしているのだろう。誰もが魔術を使えるこの時代。戦闘向けではなくても、探知系の魔術を使えれば、充分に戦闘では役立てる。誰もが何かしらの芸を磨いて、北から迫る凶悪な魔物に備えている訳だ。

 

入口では一応十河さんが説明をしていたが、それほど時間は掛からず通して貰えた。此処に来るまでに、少なからず子鬼を倒したという話もしていて。十河さん程の侍大将が、という話もあったから。

 

まあ信用は得られているとみて良い。

 

城の中は入り組んでいて、監視も今まで以上に多い。

 

草の臭いがするが、それほど臭いはきつくない。城の中では履き物はなし。そして、木張りと草で編んだ床が独特だ。この草による床は、畳というらしかった。

 

待合室で待たされる。

 

そこで、漸く話が出来た。かなり張り詰めていて、雑談する雰囲気でもなかったからである。

 

というか、今でも監視されている。

 

十河さんはフレンドリィに接してくれていたが、決して油断もしていなかった。

 

あれは常在戦場の人だ。

 

だから、相手が人間でも油断はしないと言う事だろう。

 

「既に大太刀とインゴットは貢ぎ物として納められた筈だよ。 腐敗している場所だと、納めた品が横流しされたり付け届けとかが必要になったりするんだけれど、此処はそういうのもなくて無駄な出費が抑えられるね」

 

「クラウディアは、そういう相手も見てきているんだね」

 

「たくさんね。 私はまだ若いから、舐められる事もどうしても多くて。 険しい顔をする事も増えたの。 でも此処だと、単純に武技だけで相手を判断して接してくるから、むしろやりやすいかな」

 

「ある意味とても理屈が単純だな」

 

リラさんがそういうと複雑だ。多分、リラさんも同類だと思うのだけれども。

 

咳払いするクラウディア。

 

此処の一番偉い人である征夷大将軍とこれから面会する。アーミーがある意味此処ではまだ存在している訳だ。勿論昔とは規模も組織の複雑でも比較にもならないだろうけれども。

 

「平伏はちょっと違和感があるな」

 

「相手が王族と同じだと思ってください。 椅子がない文化ですから、それが適切に思います」

 

「パティはある意味宗主国の要人だろ。 良いのかそれで」

 

「かまいません。 ロテスヴァッサに所属してくれているだけで充分なくらいです。 多少は下手にも出ます」

 

文句を言う男性陣に対して、パティとフェデリーカはクレバーだ。

 

フェデリーカも文句一つないようだった。

 

やがて呼ばれる。

 

やっぱり監視付きだし、あまり信用はされていないんだなと分かる。それはそうだろう。十河さんが結構偉い人なのは分かるけれども、まだその言葉を全面的に信頼する訳にもいくまい。

 

あたしが同じ立場でも、いきなり胸襟を開くわけにもいかない。

 

その辺りは、分かっている。

 

広い部屋に出た。

 

武装したかなりの使い手が守りについていて。

 

それで、この辺りにと言われた辺りに、座布団を貰って座る。床に座って応対する文化は初めてだから、練習はしたがかなり心配ではある。命の危険云々よりも、違う文化が保全されている場合。足を踏み入れた以上、それにあわせるのは当たり前の事だ。

 

やがて、さっと戦士達が緊張したので、来たのだと分かる。

 

中肉中背だが、確かにこの地で最強の戦士だというのが分かった。それくらい、武の気配が強い。

 

そのまま礼をする。

 

地面に這いつくばるような感じだが。

 

此処には椅子がないので、それで自然だろう。

 

相手側も、礼をしたようだった。

 

あたし達の主君では無いから、相応に対してくれている、ということなのだろう。

 

面を上げられよ。

 

そう声が掛かって、やっと顔を上げる。

 

この正座というのは膝に負担が掛かるなあ。そう思って、短時間で切り上げたいと思ったが。

 

最悪足は崩してもいいと言われているので、場合によってはそうさせて貰うつもりである。

 

征夷大将軍は非常に目つきが鋭くて、切れ者だという話は聞いていたが、確かにそう感じる。

 

髪型なんかは他の戦士と同じで、そり上げているが。

 

あれは兜を被るのにそれが適しているかららしい。

 

まあ、そういうのは文化である。

 

あたし達がどうこう言うつもりもない。

 

相手側も、十河さんはその辺りをどうこうは一切言ってこなかった。こっちの文化を尊重してくれているのだ。

 

こっちだって、相手の文化を尊重するのが当たり前だ。

 

軽く話をする。

 

この地には、いにしえの時代の愚かな者達が残した負債を一掃するために来た事。各地で魔物を倒して来たのもその一環である事。

 

全て話してしまうが。

 

これは敢えてだ。

 

この土地では、夷と称しているいにしえの存在に土地を滅茶苦茶にされているが。それは此方も同じ。

 

十中八九その正体は神代の錬金術師だ。

 

「ほう。 そなたらは夷の事を知っているのか」

 

「知っているも何も、後ろに控えているオーレンの民三名は、その夷に世界を丸ごと滅ぼされたんです」

 

「なんだと……」

 

「本当じゃ」

 

カラさんがそう答える。

 

一瞬だけ征夷大将軍の視線が、カラさんの視線とぶつかり合うが。

 

敵意の類は無い。

 

カラさんも化かし合いは得意だろうし。

 

何より色々あったし、人を見る目も確かだろう。ふむ、と考え込んだ後、手札を明かした此方に対して、征夷大将軍も理解をみせてくれた。

 

「夷と呼んでいるあの邪悪なるものどもは、他の世界にまでその魔手を伸ばしていたというのか」

 

「それだけじゃありません。 この世界の人間も、自分達以外全て殺そうとしていた節まであります。 動物も植物も、自分好みの存在だけを生かして、それ以外は全て消し去ろうとしていたようです。 そのために作られたのが……この地では鬼と呼ばれている魔物や、出自がよく分かっていない千数百年前から不意に世界に姿を見せた大型で強力な魔物達です」

 

「すぐには信じられぬ話ではあるが、其方には学士がいると聞いておる。 アスラアムバートでも実績を上げている俊英だそうだな」

 

「はい、此方のタオになります」

 

タオが一礼する。

 

征夷大将軍は、側近らしい戦士を呼んで、耳打ち。

 

それから、部屋を変えるぞと言った。

 

どうやら、此方に興味を持ってくれたようだった。

 

 

 

椅子が用意された板張りの部屋に通される。

 

征夷大将軍の左右には、この国でも最上位に入るだろう侍が二人控えている。なるほど、重要な話と判断して、応対では無く話し合いに移行するわけだ。

 

「椅子、あるんだな」

 

「ボオス」

 

「よい。 この土地では椅子はあるにはあるが、戦場などで使う事が多くてな。 屋内では床に座る事が多いのよ」

 

「靴を脱いで家の中で行動すると分かりますが、足が開放的で助かりますね。 ただ直に座ると、膝がいたくて」

 

あたしも本音を口にして。

 

将軍はからからと笑った。

 

だが、目は笑っていない。

 

本番は、此処からである。

 

「そなたらが驚天の技を使うこと、それにその纏っている幾らかの装備の性能についても聞いておる。 この土地でも武芸は研究されていて、武具についても百般と言われる程色々と試行錯誤されてきた歴史があるからな。 単刀直入に聞かせて貰おう。 そなたらこそ、夷なのではないか」

 

「技術的には夷と同じです。 しかしあたし達は、夷の技術が悪用されないように世界を回っているのです」

 

「聞かせよ」

 

順番に話す。

 

クーケン島で起きた出来事。

 

門を通じて、オーリムに出向いた事。

 

フィルフサの大軍勢との戦い。

 

それが終わった後、それぞれが成長して、各地で調査をして。

 

王都でもそれを行った事も。

 

その過程で、神代という邪悪の存在がはっきりしてきた。

 

「それまでは五百年前に滅びた古代クリント王国が邪悪だとあたしは考えていました。 しかし古代クリント王国なぞは、神代の模倣者に過ぎなかったのです」

 

「年代が符合するな。 五百年前にこの地に略奪に来たクリント王国なる者どもがいたが、あれも夷の技を使ったと聞き及んでおる」

 

「良く撃退出来ましたね」

 

「連中は優れた装備を手にしていて、兵も多かったが、長年桁外れの魔物を相手にしてきた我等を甘く見るではないわ」

 

まあそうだろうな。

 

そもそも最強の戦士が長になるような土地であり、あの子鬼でも生半可な魔物とは比較にもならない。

 

そんなのと年中戦い続けているのだ。

 

アガーテ姉さん級の戦士が、幾らでもいる。そういう土地なのであるここは。ある意味、オーリムが近いかも知れない。

 

「しかしどうして夷の知識を得ながら、夷と同じように世界を手にしようとしない」

 

「夷のやり口が許せないからです」

 

「感情論か」

 

「違います。 技術を持つ者には、それに対する責任があります。 夷……神代の錬金術師については、色々な資料を見つけて調べました。 彼等は力があったら何をしてもいい、欲のままに動くべきだ、自分が気にくわないなら殺して良いし、自分達は絶対正義だと疑ってもいませんでした。 つまり彼等は、本当に身勝手極まりないエゴイストだったんです」

 

あたしが怒りを言葉に乗せると。

 

皆もそれに同意する。

 

色々と思惑は違えど、此処に集う同志は、全員神代への怒りをたぎらせている。

 

征夷大将軍はまた少し考え込む。

 

「夷とそなたを分けるのは、つまり思考ということだな」

 

「はい。 最終的に、神代の技術は人間が変わらない限り、解放しないつもりでいます」

 

「ほう」

 

「このまま人間が世界の覇権を取り戻した場合、何度でも神代は現れる。 そう、あたしは思っています」

 

それをさせないために。

 

あたしは、神代の技術は全て回収して、人間の手には触れないようにする。

 

人間が種族として変わったときに、それを解放する。

 

今まで、神代の技術で多くの人を助けてきたが。

 

具体的にその技術の使い方を教えた事はない。

 

何よりも、今の人間ではリバースエンジニアリングなんて不可能だ。そもそも劣化に劣化を重ねた古代クリント王国の技術すら再現出来ないのだから。

 

「概ね分かった。 とりあえずそれを信頼するには、武勲を立てて貰いたい」

 

「北の地ですね。 今回は、其処を調査して、この地を荒らす魔物の駆逐に来ています」

 

「心強いが、今までそなたが蹴散らして来た子鬼とは次元が違う相手ぞ」

 

「分かっています。 それでもどうにかいたします」

 

協力をお願いします。

 

そう、あたしは頭を下げていた。

 

この人は、少なくともロテスヴァッサの愚昧な王族とは違う。意見もしっかり持っているし、あたし達の言葉に耳も傾けた。

 

バカは相手の言葉を聞かない。

 

自分に都合良くしか世界を解釈しない。

 

楽な生き方だろうが、それが力を持った存在が神代で。神代が二つの世界に今でも爪痕を大きく残している事を考えると。

 

人間は、バカであってはならないし。

 

少なくとも、バカではなくなろうと意識しなければならないとあたしは思う。

 

人間の頭の出来はそれぞれだが。

 

少なくとも自分を絶対正義と考えて。他の全てを皆殺しにしようだの、他の財産を独占しようなんて平気で考える輩は。

 

最悪のバカだ。

 

この人は違う。

 

だから、あたしも話をするし。交渉をする。

 

そして、相手は受けてくれた。

 

「よし、信じるか否かは実績次第よ。 客将として、大鬼ベヒィモス率いる北の魔物との戦闘に参加して欲しい」

 

「分かりました。 拠点をいただきたいのですが」

 

「拠点とな」

 

「空き地を借り受けたく思います」

 

この地では、土地の所有権について非常に厳しいとクラウディアに聞いている。だから、先に誓約書を出す。

 

土地はあくまで借りているもので、所有権はあたしにはないこと。

 

その土地に作る建物は保安上の機密は確保するものの、要人の調査は許すこと。

 

何を作ったかについては閲覧しても良い事。

 

それらが記してある。

 

征夷大将軍はそれを見て、なるほどと唸った。

 

そして、人を呼んで、土地を手配してくれる。十河さんの屋敷くらいの広さ、土地は最前線に近い方が良い。

 

この二つについても告げて、二つ返事で良いと征夷大将軍は答えてくれた。

 

中々話が分かる。

 

こっちとしても、話を進めやすくて助かる。

 

「拠点はこの近く、二條の外の砦の中ですね。 今日中に作ります」

 

「屋敷を一日でか」

 

「監視をお願いいたします。 此方としても怪しい事はしていないことを示しておきたいのです」

 

「わかった。 あやめ」

 

はいと、残像を作って一人女性が現れる。

 

軽装の戦士だが、出来る。

 

この人は、恐らく忍びなのだろう。

 

「そなたが監視に当たれ。 ただし、くれぐれも失礼がないようにせよ」

 

「御意」

 

今の気配。

 

ずっと見張っていた人だな。

 

これは、今後は堂々と監視すると言う訳だ。それはそれで別にかまわない。あたしとしても、公認スパイどうぞと言っているのである。是非是非公認スパイを出してきてくれ。そういう本音だ。

 

後は、大太刀の様子はどうかとも聞いておく。

 

素晴らしいと、その時だけ征夷大将軍の表情に、生の感情が宿ったのが分かった。

 

「あれほどの業物、滅多にない。 すぐに前線の侍達に配布した。 二振りだけは、わしの側に置くことにした」

 

「なんならもっと作りますが」

 

「いや、それはベヒィモスとの戦いを凌いでからだ。 今も戦地では、多くの侍が苦戦しておる」

 

「分かりました。 加勢を急ぐべく、準備します」

 

一礼して、城を出る。あやめという人が、いつの間にかいて、案内をしてくれる。着ているのは布服だけで鎧はないが、全身が地味な色合いで、顔も隠している。多分、忍びというのはそういう感じなのだろう。

 

二條を出て、外に。

 

砦に案内されるが、二條の外はこういう砦が幾つもあって、二條と連携して守りを構築しているらしい。

 

全員が戦士。

 

そういう土地柄だから、出来る守りの構造なのだろう。

 

内部に案内されると、前線から戻って来たらしい負傷者が呻いている。早速、出番が来たようだった。

 

此処は野戦病院も兼ねている、ということだ。

 

「アトリエを構築する組と、負傷者を救助する組に分かれるよ」

 

「よし、組み合わせは」

 

「セリさんを中心に、タオ、クラウディアは医療班に当たって。 お薬は荷車から惜しみなく使って」

 

「分かったわ」

 

クラウディアが袖をまくる。

 

残りの面子は、アトリエの構築だ。

 

案内されたのは、砦の一角の空き地だ。見た所、丁度良い石材などもある。これなら充分にアトリエを作れる。

 

既に昼をだいぶ回っているが、今日中で余裕だろう。

 

それにだ。

 

負傷者の中には、手足を失っている人も多い。

 

すぐに義手義足を作って配布してあげたい。

 

命を取り留めても、戦士としてはあれはもう致命的だ。此処では一人でも手練れが必要だろうし。

 

何より此処で暴れているのは神代の負の遺産だ。

 

それによる被害は、出来る範囲で抑えたいのである。

 

アトリエを組む。

 

もう慣れたものだ。今までのフィルフサの突発的な討伐で作った仮組みのアトリエも考えると、そろそろ十個に迫ろうとしているかも知れない。

 

淡々と皆で手分けして、あたしが建築用接着剤や他の部材を作りあげていく。

 

監視しているあやめと言う人が、度肝を抜かれているのが分かったが。それでもしっかり監視を続けている。

 

すぐに基礎が出来、柱が立ち。あたしが作った合板で、床、壁、天井、屋根、順番に作っていく。

 

フェデリーカが硝子細工について幾つかアドバイスをくれたし。それにサルドニカであのお婆さんにたくされたカンテラも作る。このカンテラについては、フェデリーカに許可を貰って、砦に配った。

 

此処では灯りは松明を用い、夜には多くの油を用いていたようだったので。此処の守りについていた侍大将は、そのまま使えて長持ちする灯りを見て、大喜びしてくれた。

 

こうやって、技術はみんなのために使うべきだ。

 

夕刻には、アトリエが出来る。

 

あやめさんが、部下らしい若い女性の戦士に手紙をしたためて、すぐに走らせている、見た通りを征夷大将軍に報告しているのだろう。

 

あたしとしてはそれでいい。

 

中に入って、細かい所まで調整。

 

錬金釜で、早速義手義足の作成に入る。淡々と作業をしている内に、クラウディアが手足の欠損、大きさなどについてまとめてくれていた。

 

あたしはそれにそって調合し、人を助ける。

 

フィーが長旅で疲れたようで、ボオスの頭に乗ってそれで眠り始める。ボオスは呆れたが、フィーを追い払うような真似はしなかった。

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