暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
神代の道具、いわゆる古式秘具を凌ぐ精度で錬金術の道具を作れるようになってきているライザ。
義手や義足はサルドニカで実戦投入したもので手応えを感じており、ライザは量産を開始。
この地でも戦傷者を助けることになります。
その日は夜まで薬を増やして、義手義足も作って、そしてそのまま砦にも大量に納品しておく。それで息を吹き返したり、手足を取り戻した侍も多い。彼等が感謝しにきて、アトリエを見てあやしの技だと驚嘆していた。
ただ、好意的な驚嘆だ。
だから、それで可とした。
あやめさんは常にメモを取っていて、時々配下らしい人に渡して走らせている。
勿論それで良い。
公認スパイを抱えることを、こっちから提案したのだから。
夜遅くに一段落したので、夕食と、それに風呂に入って寝る事にする。あやめさんも風呂を使うかと聞いたが、断られた。
それはそうだ。
一流の密偵だったら、知らないものは絶対に使わない。
使えると確信するまでは、さわりもしないだろう。
征夷大将軍が直に派遣してきた手練れである。
プロ中のプロだろう。
ロテスヴァッサにも古くにはそういう人がいたらしいが。まあ、国の堕落と腐敗が要因でいなくなったのか、或いは。
ともかくしっかり休んで、朝早くに起きる。
軽く体操をして体を動かすが。いつも一緒に体を動かしているパティが、訓練をしている侍達を見て呟く。
「洗練されていますね。 私が習った技の源流があります。 とにかく愚直に基礎を繰り返して、体に武芸を徹底的に叩き込む。 その先に、あらゆる魔物を断つ至高の領域があると信じている。 みんなそうです」
「生真面目で凄いね」
「……そうだったから、今までこの地を守れたんだと思います。 真面目なことを馬鹿にする風潮もありますが、真面目な人間が減れば減るほど社会はダメになる。 此処で色々学んでいくつもりです」
そうだな、確かにそうだと思う。
体操を切り上げてから、朝のミーティングをする。
いつの間にかまたあやめさんもいる。
朝食についても、もう済ませたという事で。いらないそうである。本当に徹底しているなあ。
とにかくクラウディアとフェデリーカが中心になって、持ち込んでいる干し肉なんかを使って肉中心の料理を作る。
これはなんでかというと。
今日は激戦が想定されるからだ。
この砦のかなり近くまで、魔物が迫っているという話だ。今日は手始めに、其奴らをぶっ潰す。
最前線まで敵を押し戻した後。
この魔物の大攻勢を指揮しているらしいベヒィモスだかも潰す。
そして、あの悪魔っぽい奴がいるのなら、それも蹴り砕く。
ただ一辺に全部はできない。
だから、順番に一つずつこなしてくことになるが。
地図を拡げて、戦況の確認。ボオスが呼んできてくれた侍大将に戦況について確認する。此処からかなり近い地点まで魔物が進出してきていて、連日小競り合いが起きていると言う。
本命の戦場はもっと北にある砦……大規模なものだそうだが。
そこでは連日、火が出るような戦いが行われ。
多くの侍が倒れているとか。
そうか、それでは一刻の猶予もない。爆弾なども充分。荷車にも薬を爆弾を充分に詰め込んだ。
「よし、みんな行くよ! 小手調べで怪我しないようにね!」
「応!」
立ち上がって、意気を上げる。
さて、ここからが。
この土地での戦闘の本番だ。
古代クリント王国の遺産は、東の地にもある。その一つが、今征夷大将軍の手にある遠めがねだ。
それを手に、征夷大将軍は、ライザリンの戦いぶりを見ていた。
万を超える熱槍を出現させ、驟雨の如く魔物の頭上から降らせている。それも一撃一撃が、砦を半壊させかねない火力だ。
話通り、いやそれ以上か。
この土地を守った最初の征夷大将軍も、魔術も武芸も尋常ならざる手前で、多くの夷の首を刎ねたと聞くが。
ただ、代々の征夷大将軍が引き継いでいる話もある。
その最初の征夷大将軍は。
実は人ではなかった、というのだ。
その出自も一応それっぽいものが伝承として残されているが、実ははっきり分かっていない。
この土地に数多の武芸をもたらし。
厄災そのものだった夷を斬り伏せ、首を刎ねて回ったその存在は。
今、名人として支援に来ている、同じ顔の女性戦士の一族と、同じような特徴を持っていた。
少なくとも土地の出身者ではない。
この土地で、あの謎の一族がすんなり受け入れられたのも、征夷大将軍がその伝承を引き継いでいたから。
連続して爆発音が轟く。
ライザリンだけじゃない。
子供が一人いた。子供といっても肌の色も普通と違ったし、手足に不自然に羽毛も生えていた。
オーレン族と言うそうだが、確かにあれも人ではないのだろう。
その子供が、凄まじい魔術を連発している。
ライザリンに、火力で劣っていないだろう。
純粋な戦士としても、ライザリンの連れてきた戦士達は凄まじい。
小柄な女性戦士がいたが、使っているのは完全に侍の技だ。大太刀を達人そのものの技で振るい。
今も次々と魔物を討ち取っていた。
「伝令!」
「聞かせよ」
「ライザリン殿、丸根砦に迫りし子鬼十三、ラプトル多数、鼬多数を撃破! 敵の別働隊は壊滅的な打撃を受け、敗走を開始! 一旦ライザリン殿は引き、状況を確認し次第、次の戦場を所望しているとのこと!」
「凄まじい。 名人を通り越して鬼神の域よ」
すぐに征夷大将軍は地図を持ってこさせる。
北の砦での戦闘は大苦戦が続いていて、敵を抑えきれていない。そのため敵の多くが戦線を破って、二條近くまで迫っている。各砦で応戦しているが、とても支えきれるものではなかったが。
たった十数人で。
一気に戦況がひっくり返りつつある。
「鷲津砦の方面が苦戦しておるな。 其方への救援を打診せよ」
「御意!」
母衣衆と呼ばれる精鋭伝令が即座に駆け出す。
戦術的な判断力を持つ精鋭侍衆だ。
一度自室に戻り、宿老衆を集める。ライザリンの実力については、疑う余地もないだろう。
また、ライザリンの話についても、既に周知してある。
懸念するものは当然いたが。
今は、二條に敵の本隊が押し寄せてくる事すら懸念しなければならない状況だ。それくらい状態が悪い。
北の砦だって、ガイアどの筆頭とした例の一族の援軍がなくては、支えられていたかも怪しい。
何度も二條が戦場になって来た。
その度に大きな犠牲を払って敵を撃退してきた。
だが、それで大きな被害を出し、その被害を回復させるまで何十年も掛かって来たのも事実なのである。
その轍を踏む訳にはいかないのだ。
「凄まじい戦ぶりは感心いたしますが、あやめによると、確かに夷のものと酷似したあやしの技を用いているようですな」
「だがその夷の悪しき遺産を滅ぼす事を目的ともしているとか。 どこまで信用して良いものか」
「少なくとも、あれだけの子鬼を撃破して、多数の侍も救っておる。 わしは信じてみたい」
「おうよ。 戦の駆け引きも名人のそれだ。 なんなら、次の征夷大将軍になってくれないか、打診したいくらいよ」
宿老の意見も割れている。
なお、次の征夷大将軍と言う言葉については、今では相手を褒める最上級の言葉であり。現役の征夷大将軍の前で口にしても別に不敬でも無礼でもない。
この国では一度作法が複雑化しすぎて身動きが取れなくなった時期が存在していて。
それをばっさり綺麗に切った事がある。
それ以来風通しが良くなり。
上下関係無く、意見の交換がとてもしやすくなったのである。
征夷大将軍は、宿老達に告げる。
「意見は割れておるが、いずれにしてもライザリンというあの娘。 凄まじい怒りを内在しておる。 そして怒りの矛先は、夷……あの娘曰く神代のものどもにむいているようではあるな」
「確かに我等も代々夷の放った鬼と魔物に苦しめられておりますな」
「話を聞く限り、ライザリンと言う娘が義憤に駆られるのも無理はありますまい」
「今は共通の敵を持つ者同士、連携すべきである」
そう、命令を下すと。
宿老達が、すっと立ち上がった。
「ライザリンの腕を確認するはもうよかろう。 各地で進出してきている魔物を各自おさえよ。 二條に温存していた主力を、ライザリンの北上にあわせ一気に叩き付ける。 北に寄せてきているベヒィモスなる大鬼……長くこの地を苦しめてきた大鬼を、今こそ討ち取るときが来た!」
「おおっ!」
「陣触れを出せ! 余も出る!」
「征夷大将軍の御出陣! これは我等も、負けてはおられませぬな!」
全員が沸き立つ。
征夷大将軍は、ライザリンが鷲津の戦いで勝利し次第、北の砦に向かうように指示を出すべく、伝令を飛ばす。
そして、二條に集う戦士達に。
決戦についに赴くと、陣触れを出すのだった。
ライザさんの広域制圧魔術が、立て続けに炸裂している。戦場全域が燃え上がるようだ。それでも、ライザさんは全弾のコントロールをしていて、味方には当てていない。防ごうとするシールドごと、巨大なラプトルを貫く熱槍。それが短時間で連射されるのだ。それも万単位。
魔物もたまったものじゃないだろう。
パティは戦場を駆ける。
また、子鬼と呼ばれている奴を見る。
どいつもこいつも空間操作術を使ってくる面倒な相手だ。ただし今まで交戦してきた超ド級と違って、複数の魔術を同時展開したり、恐ろしくタフだったりしないし、真正面からでもどうにかやり合える。
パティは残像を作りながら、間合いを侵略。
他の侍に注意を向けている其奴に、背後からすり足で近寄ったが。
次の瞬間、自分が敵と想定していたのと違う場所にいるのに気付いた。
即座に飛びさがる。
子鬼がこっちを見る。
パティの後ろから、ラプトルが飛びかかってくるが。それをクリフォードさんのブーメランが横殴りに吹っ飛ばす。大太刀を鞘にしまう。今のはなんだ。空間を操作して、パティを押し戻したのか。
いや、そんな事をするくらいだったら、直に切り裂いてくれば良い。
地面を蹴る。
侍は一旦さがった。子鬼の周りには、何人も戦士が息絶えている。此奴は本来そういう存在。
歴戦のこの地の侍でも、束になっても勝たせて貰える相手では無い。だからこそ、一体でも多く仕留める。
ジグザグにステップを踏んで、相手への間合いを詰める。子鬼が多数の氷の槍を生じさせて叩き込んでくる。鋭い攻撃だが、この程度であれだけの数の戦士を倒せたとはとても思えない。
だとすると、さっきの変な攻撃、あれが肝か。
間合いに入った。抜き打ち。
だが、次の瞬間、パティはまた押し戻されていた。いや、違う。敵との距離が離れていただけだ。
大太刀に手を触れていない。
どういうことだ。
即座に飛んできた氷の槍を避け。立て続けに飛来した雷撃をかわす。子鬼は殺した侍を踏み砕きながら、触手を振るわせて詠唱を開始。
もう一度だ。
真っ正面から突っ込んで見る。
不意にまた敵との距離が開く。飛び退いて、それで分かった。奴の詠唱が、さっきから戻っている。
つまりこれは。
時間操作の魔術だ。
ライザさんも、理論的には出来ると言っていた。
だけれども、それは例え超ド級でも、大規模なのは無理だし、連発も無理だろうとも。だとすると、勝機はある。
奴は恐らくだけれども、都合が悪くなると自分と周囲の時間を巻き戻しているとみて良い。
しかし今の試しで分かった。
それで限界だ。自分すらも巻き戻してしまう程度のものでしかない。それだったら、勝機はある。
再び突貫。
子鬼が、また時間を戻そうとした瞬間。
ライザさんがくれた、ハイチタニウムの大太刀を相手に投げつける。それが、投げた軌道をゆっくり戻るのが見えた。
其処に、突貫する。
やっぱりだ。連続して時間の巻き戻しは出来ない。
渾身の抜き打ちを叩き込む。
がっと、子鬼に斜めの斬撃が走った。
更に刃を返して、大上段からの唐竹を叩き込む。
子鬼と言っても、大きな熊くらいは大きさがあるが。それも、文字通り一刀両断。
グランツオルゲンの刃と。
この土地の侍達と同じ。愚直に繰り返して来た、日々の鍛錬が篭もった一刀が、敵を断ったのだ。
左右に別たれ、崩れる子鬼。
呼吸を整えていると、ライザさんが来る。
「今のは時間操作?」
「はい。 空間操作だけでなく、時間操作をする魔物もいるんですねこの土地は」
「厄介だ。 接近戦組は特に気を付けて!」
ライザさんが声を張り上げると、すぐに次に行く。
此奴に殺された侍に、胸に手を当てて少しだけ哀悼の意を示すと。
パティも次を斬りに行く。
兎に角、此処で暴れている魔物を少しでも倒せば、それだけこの地の人が楽になる。サルドニカでも見ただろう。魔物を放置しているとどうなるか。ましてや人間が魔物を侮るとどうなるか。
時間操作する魔物との戦闘は、ノウハウをこうして積まないといけないし。
積んだ後は展開して、後続に伝えなければならない。
この地では、多分達人技と集団戦だけで、こう言う事をする魔物に対処してきたのだろうが。
さっきの死体を見る限り。
毎回多くの犠牲を出していたのだろう。
許せない。
神代に対する怒りがわき上がる。それについてはパティも同じ。多分パティの場合は、愚かな貴族をずっと見続けたからだと思う。
神代の連中はあれらと同じだ。
ロテスヴァッサの無能貴族は、分厚い城壁に守られているだけだという事を忘れて、自分が偉いと勘違いした。
エゴを満たすためにはなんでもやったし。
どんな悪徳でも貴族だから許されるという寝言で平気で手を染めていた。
自分は偉いから何をしても良い。
その傲慢な思考は、神代のものとまったくおなじだ。
傲慢でエゴイスティックで、それでいながら世界を滅茶苦茶にした。そんな為政者が、何の正義を気取るというのか。
ラプトルに囲まれて苦戦している侍達を見たので、立て続けにラプトルの足を斬り伏せる。倒れるラプトルを、侍達が倒すのを横目に走る。
子鬼。
タオさんと交戦中。
こいつは空間操作か。タオさんがなかなか詰められないでいる。パティが突貫するのに気付くと、子鬼は触手を振るって、辺りを滅茶苦茶に切り裂く。範囲攻撃としてはおおざっぱだが。
敢えて狙いを定めない事で、効果的に打撃を与えることが出来る場合もある。実際空間操作系の魔術は一撃必殺なのだ。
其処に、ぶすりと黒い線が突き刺さる。
アンペルさんが、遠くから狙っていたのだ。
子鬼の動きが止まった。
さっきの子鬼よりちょっと大きいが、関係無い。
タオさんが乱舞技を叩き込み。
パティは跳躍すると、脳天を一息に刺し貫いていた。
子鬼が倒れる。
凄まじい爆発音。ライザさんが、こっちに迫っているラプトルの大軍に、フォトンクエ-サーを叩き込んだのだ。
侍達が息を呑んでいる。
つづいてカラさんが、世界が真っ白になるほどの強烈な雷を敵群に叩き込む。
文字通りのとどめ。
援軍だったらしいラプトルを主体とした魔物の群れは、交戦すら許されずに全部まとめて消し飛んでいた。
「だいたい片付いたみたいだね」
「はい。 残敵を掃討してから、負傷者を救助して回りましょう。 それにしても……」
辺りは魔物の死体の山。
侍も多くが倒れている。
まだ生きている魔物を片っ端から倒しながら、生存者を探す。こう言うとき、探知魔術がないパティは不利だ。
この戦闘を指揮していたらしい侍大将は戦死したらしい。
残敵を掃討して、負傷者を助けて。
砦に戻って、そう聞かされた。
ライザさんは無言で薬を出して、負傷者を助けて回っている。これ以上一人も死なせるな。レントさんが叫んで。ディアンが大勢を詰め込んだ荷車を忙しく運んで回っている。
腰を下ろすと。あやめという人が声を掛けて来る。
この人も戦っていた。
監視が目的であっても、魔物は共通の敵だ。当然、戦場ではその武働きも重要になるのだろう。
「見事な戦振りだった。 貴殿の流派は」
「私は家にいたメイド長から武芸を仕込まれました」
「確かメイドというのは使用人であったな。 ひょっとして、同じ顔をした優れた武芸を持つ一族のものか」
「……恐らくそうです」
やはりこの地にもたくさんいると。
戦場で体力を使い切ったので、悔しいがまずは回復しないと動けない。栄養剤を口に含んでいると、聞かされる。
大鬼……多分パティ達が認識している超ド級魔物。それになると、もっと強力な時間操作魔術を使うものがいるという。
ありうる話だ。
今まで時間操作系に遭遇しなかったのは、運が良かっただけ。
空間操作系も一撃必殺だが。
やはりこの地でも、時間操作系は危険な相手として認識されているそうである。
ライザさんが礼を言われている。
多くの侍を失ったが、それでも戦は勝利だ。山中どのもきっと冥府で喜んでおいでだろう、と。
山中という侍大将が率いていたのだろう。
戦いには勝ったが、多くを救えなかった。
パティは立ち上がると、まずは手を洗って消毒する。煮沸した水は、既に用意されている。
此処からは、救助の支援だ。
パティにも、医療は出来る。
特にこの間の大乱戦以降。その経験は増えていた。
あやめさんも、医療支援に戻るようだ。ライザさんは、既に義手義足を作り始めている。出来る事は、一つでもやらなければならなかった。
クラウディアさんと手分けして、力仕事から順番にやっていく。殺してくれと呻いている侍を元気づけながら、傷の深さに応じて並べていく。ライザさんが薬をどんどん持って来て、深手の人間から助けていく。基本的にほぼそれで助かる。普通だったら、この半分も助かるかどうか。
命の危険がある負傷者がいなくなった時点で、行動を変更。
リネン類の洗濯、負傷者の輸送など、力仕事を中心に手伝う。苦しんでいる負傷者もいるが、今は助けてあげられない。湯をどんどんディアンが湧かしている。ライザさんは、今は湯沸かしどころではないからだ。
湧いた湯を運ぶ。熱いから気をつけなければならない。パティの固有魔術であるエンチャントは武器の強化に普段は使っているが、こう言うときは桶の温度を固定するのに使ったりする。
これはこれで高等技術なのだが、この間の野戦病院での状況を見て必要だと判断して覚えた。小技に過ぎないが、それでもあれば一秒を争う状況で多くの人を救える。
クリフォードさんが戦場から偵察を終えて戻ってくる。一人まだ生きている人を担いでいたので、すぐにライザさんが治療に回る。
修羅場だ。
二條からかなりの数の侍と、荷車が出ている。
多分倒した魔物の素材を回収するのだ。侍大将が着込んでいる当世具足には、魔物の皮を利用しているらしいし。なんなら膠にしたり、それで大弓を作ったりする。侍達が使っている弓はもの凄い大きさで、ライザさんはあれはいいかもと呟いていた。あっさり再現しそうである。ただし使える人間も限られてくるだろうが。
使用人らしい人が、死体を洗って綺麗にしているのを見る。遺族の所に届けた後は、焼いて埋葬するという。鎧などは洗って、使えるように調整するそうだ。修復は専門の技師がいるらしい。
何も無駄にできないんだな。
そうパティは考えながら、助けられる人を助け続ける。
夕暮れ前には、呻き声は聞こえなくなった。二回の会戦に一日で完勝したと、後から来た北条という侍が褒めてくれたが。
この有様で完勝だと、普段はどんな戦闘をしているのか。
悲しくて、パティはずっと無言だった。
北条さんは、ライザさんに書状を渡している。案の場読めなかったようなので、タオさんが呼ばれて通訳していた。この地の書状はとにかく文字が達筆で、逆に読めないのである。
「……みな、集まって」
負傷者の手当て、義手義足の作成も一段落した所だ。手足を失った侍が、泣いて感謝していた。
サルドニカでも見た光景だが、本当に凄いと思う。
それはそれで、ライザさんの表情から、厳しい事態なのは一目瞭然だ。
リラさんが、代表して聞く。
「ライザ、それで征夷大将軍はなんと言ってきた」
「此処での戦闘は二條の部隊が引き受ける。 北の砦に出向き、敵の撃退に尽力して欲しい、だって。 距離的にはアトリエからほとんどない。 その砦にアトリエを作っても良かったけれど……」
ライザさんは門を開けて、いざという時の住民の避難用に使うと言っていた。
そうなってくると、最前線である方が良いだろうが、敵の目の前すぎるとそれはそれで問題だ。
「よし、今日中に門を開けて状態を確認。 タオ、時間を見て今のうちに座標を集めておいて」
「分かった。 パティ、クリフォードさん、支援お願いね」
「分かりました」
「あたしはこれから薬と爆弾をもっと増やしておくよ。 セリさん、薬草を出来るだけ増やしてくれるかな。 他の皆は、カラさんとリラさんと連携して、珍しそうな素材を集めておいて。 この辺りはだいぶ気候とか違うから、意外な所から凄い道具の素材が見つかるかも」
ライザさんは逞しいな。
ともかく、パティはタオさんと一緒の行動だ。
既に夜が近い。出来るだけ急いで、二十箇所ほどの座標を集める。その作業には、当然あやめさんの部下の一人が着いてきたが、説明をする。
世界の位置を調べていると。
こんな世界にした神代(此処では夷)の本拠地に乗り込むために、必要な作業であるとも。
勿論すぐに信じて貰えるとは思わない。だが、今日の苛烈な二連戦を経て、明らかにライザさんへの侍達の視線が変わっている。拝まれているのさえパティは見た。
座標集めは、統計という観点から数があればあるほど良い事はパティも理解している。
とにかく、戦いの時に備えて。
タオさんの仕事を今は手伝うだけだった。