暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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本作では集団戦は今まで小隊規模、大きくても中隊規模程度のものしか扱いませんでしたが(世界観的にもその程度しか戦士は集められないのもある)。

東の地では、文字通り国民全部戦士で千年以上総力戦を続けています。

この東の地編だけは、大規模会戦を何度か扱います。

ちなみにアガーテ姉さんやザムエルさんは、この地でも通じるくらいには強いです。逆に王都でぬくぬくとしている騎士なんかは(それもアーベルハイムが改革して終わりを遂げましたが)此処では瞬殺されるだけです。


3、地獄の最前線

血の臭いが尋常ではなく濃い。

 

古代クリント王国について、実際の資料を見たのは、あたしにとってはクーケン島の禁足地北にあるあの塔での手記が最初。

 

その時初めてアーミーというものの存在を知った。

 

この東の地では、規模こそ小さくなったがまだアーミーが存在している。住民全員とまではいかないが、非常に高い比率で戦士だからである。

 

そして知る。

 

恐らくは、アーミー同士の戦いが起きると。

 

こういう事態になるというのは。

 

北の砦に到着。多数の負傷者が後方に運ばれて来ていたのが良く分かった。壁に背中を預けて、荒く息をついている戦士は、怪我を手当てもろくにされていない。気が触れてしまった戦士が、転がされたまま顧みられてもいない。

 

今は、戦闘は小休止しているようだが。

 

この外の気配。

 

敵はまだまだ余裕充分だ。

 

それに対して、この砦にいる戦士……侍も忍びもなんだろうが。

 

もう限界だ。

 

こっちに来るのは、眼帯をしている例の一族の人。この迫力、長か或いはそれに近い存在だろう。

 

敬礼を、ロテスヴァッサ式のをされるので。

 

あたしもそれに返していた。

 

「ガイアだ。 錬金術師ライザリンどのだな。 活躍は風の噂に聞いていた」

 

「ライザリンです。 ライザと呼んでください」

 

「了解したライザ殿。 あまり無駄話をしている余裕がない。 見ての通りの有様でな」

 

「……すぐに手当てをします。 怪我人がこれほど出ているとは……」

 

二條から来ている薬師や巫女が回復の術を使っているらしいが、とてもではないが手も足りないらしい。

 

それはそうだろう。

 

今まで敵を防げていたのが不思議なくらいだ。

 

クラウディアとカラさんに砦の正面に展開している敵を探って貰う。その間にあたしは、皆で手分けして、負傷者を救助する。

 

薬で見る間に治っていく傷。

 

それを見て、いたいいたいころしてくれと叫んでいた侍が、はっと正気を取り戻す。人としての尊厳を回復出来たと思う。だけれど、この怪我疲弊。すぐに戦うのは無理だろう。医療を手伝って貰う。

 

気絶寸前まで働いていた回復術使いも休ませる。

 

更には、栄養剤も支給しておく。

 

大量にリネンがいる。

 

ただ、はっきりいって此処に負傷者を置いておくのは愚の骨頂だ。あたしは即座に人を運んでいるのに使う板と車軸だけを組み合わせたものを見つける。

 

負傷者は揺らすのが厳禁だ。

 

本当はバネとか噛まして揺れるのを防ぎたいし。なんなら板を二人で運ぶのが最適解なんだろうが。

 

この修羅場では、そんな事を言っている暇がない。

 

すぐに水をぶっかけて洗い流し、熱処理。血の臭いが酷すぎる。一体何人を運んできたのだろう。

 

持ち込んでいるリネンを被せてとりあえず完成。

 

なんとか動けるようにだけなった戦士に、それを使って負傷者を後送して貰う。酷い状態の負傷者はそうして救う。

 

軽傷の侍達には、薬を配っておく。

 

軽傷と言っても実際はかなり状態が悪いのを隠しているだけの侍も少なくなかった。戦場で意地を張るのは死に直結する。この地では意地と名誉がとても大事なのだと十河さんに行きがけに聞いたが。

 

それの悪い場面が出ている。

 

痛みというのは、理由があって生じるものだ。

 

それを隠すのは、「男らしさ」だの「戦士の誇り」だのではない。ただ体の異変の発見を遅らせるだけ。

 

体の何処かに痛みがある人は。

 

そう叫んで、何人かの負傷を発見。状態に応じた薬を支給。場合によっては後方にさがって貰う。

 

手際の良さを見て、ガイアさんが呆れていた。

 

「凄まじい手際だな」

 

「これでも本職のお医者さんと一緒に仕事をしていたんです」

 

「そうか。 ただ、せっかく助けても、今の有様では……」

 

敵の一部は既に浸透を開始していて、あたしが交戦したのはそいつらだ。

 

つまりこの砦は、既に主力の全部では無く、一部だけを貼り付けていれば大丈夫だと魔物共は考えている。

 

それだけじゃない。

 

怪我人の手当てを一段落させたので、あたしはパティに頼んで、アトリエに作り置きの薬を取りに戻って貰う。

 

この状態なら、即時での戦闘にはならないだろう。

 

砦はかなり背が高い建物で、木造で有りながら四階建てもあった。ただかなり大きな木を贅沢に使っているようだが。

 

背が高い中心部の建物は、「天守」と言われているらしい。

 

その天守から様子を見て、あたしは呻く。

 

敵の数が凄まじい。ちょっと多すぎる。

 

ざっと見ただけで、超ド級の魔物……此処で言う鬼が三体、いや四体はいるか。子鬼だって侮れない相手なのに、それが十体以上は見て取れる。しかも視界に入っただけでそれだ。特に子鬼はもっと何倍もいてもおかしくない。

 

これに加えて、更に格上のがいる訳か。

 

ベヒィモスとかいったな。

 

それは魔物が、調子づいて攻めこんでくるわけである。

 

「ライザ!」

 

「クラウディア、カラさん、敵の様子は」

 

「大物だけで考えても、大きい奴が六、小さい奴は四十三おるのう」

 

「……! 想像以上にいますね」

 

歴戦の侍達と、例の一族が此処では連携して戦っているようだが、それは大苦戦も止むなしだろう。

 

ここ数日で子鬼と言われる超ド級の幼体はあたし一人で十三を、皆を合計して三十以上を仕留めたが。

 

敵は北の地から来るといっていた。

 

ということは、これを潰さないと、北の地を調査するどころではない。

 

しかも。二人はくだんのベヒィモスはまだ確認できていないらしい。どうしてそんなものがいるかというのが分かるかというと。

 

忍びが狼煙を上げてきているという。

 

ただしその忍びは生還出来ていない。

 

遠くからその姿を見つけるだけで、命に関わる相手、ということだ。

 

これは難敵だ。

 

ただしあたしも、簡単にやられてやるつもりはない。

 

すぐに呼ばれたので、下の方にある広めの部屋に。座布団を貰ったので、それに座らせて貰う。

 

ガイアさん達例の一族も十数人はいる。

 

なるほど、サルドニカからいなくなったこの人達、ここに来ていたんだなと思う。

 

この人達、他の砦とかにもいたし、もっといるんだろう。

 

それにこの地の惨状を詳しく知っていた上で、何かしらの理由があるなら。一線級の戦士を、あらかた投入してくるのも納得出来た。

 

一人右腕を失っているな。ガイアさんも眼帯と言う事は、片目がないのか。

 

後で義手と義眼(目として機能する)の作成を打診するか。そう思いながら、「織田」という名前の侍大将……いや、確かもう一つ上の宿老だったか。の話を聞く。この宿老という地位の侍になると、征夷大将軍を選出する権利が貰えるらしかった。それ以上に宿老になった栄誉の方が大きいらしいが。

 

「敵の数は一向に減る様子もなし。 名人ガイアどのが来てくれていながら、まこと不甲斐なきことだ。 だが、将軍様より異国の戦士が送られてきている。 ライザリン殿達だ。 ここに来るまで、既にライザリン殿だけで子鬼十数を仕留めているという」

 

「真でござるか」

 

「真だ。 それに、我等に渡された業物を作った御仁でもあられる」

 

「おお……!」

 

侍達がどよめく。

 

見るとあたしが作った大太刀を何人かが腰に帯びていた。みんな、此処で戦う最精鋭と言う訳だ。

 

そしてその刀を打ったと言う事で、力を認めてくれたというのだろう。

 

織田さんは、あやめさんにも話を聞く。

 

まあそれが妥当か。公認スパイだし。

 

「お庭番のあやめどのだな。 貴殿から見てどうだ」

 

「ライザリンどのらの武芸、誠に絶倫無双。 ガイアどのら名人にまったく劣っていないと判断いたした」

 

「それほどか。 それでは期待できる。 ライザリンどの、何かしらの策はあるか」

 

「この数が相手になると、あたし達だけでは無理ですね。 しかし此処には、ガイアさんとその一族、それに勇猛な侍のみなさんがいます」

 

ぶっちゃけ、たくさんアガーテ姉さんがいるようなものだ。

 

サルドニカでも王都でも、警備の戦士なんていてもいなくても似たようなもので、ほぼ戦力にならなかったが。

 

一目で分かる。

 

あたしが作った大太刀を渡したこの人達は、充分に頼りになる。

 

「あたし達から仕掛けます。 敵の主力になっているこの地では鬼と呼んでいる大物を、次の出撃で一体、出来れば二体仕留めます」

 

「何!」

 

「大鬼を倒した例はあまり多くはない。 ここ百年でも四体だけだ」

 

侍大将の、老境に足を突っ込んでいる熟練の一人が言うが。

 

あたしは頷く。

 

むしろ四体も倒せているだけでも凄まじい。

 

あたしだって装備類で魔術を強化に強化して、それで今のフォトンクエーサーを放てるようになったのだ。

 

それだけじゃあない。

 

今回は、船の中で準備してきている。

 

前に切り札として用いたラヴィネージュ。究極の氷爆弾だが。

 

それに対応した、究極の火焔爆弾、雷撃爆弾、爆風爆弾を、それぞれ作りあげてきている。

 

どれも試作品だが、砦の前にわんさかいる……雑魚とは言い難いが、それでも空間操作とか使ってくる魔物以外だったら、まとめてなぎ払えるだろう。

 

作り方はもう覚えてあるし、一つはコンテナにストックしてある。

 

ジェムを大量に使ってしまうのでちょっともったいないのだが、それでも複製はしてある。

 

これらを、初手で容赦なく使って敵を削る。

 

それで、大物を狙う。

 

「最初に敵を大混乱させます。 その後、混乱に乗じて動きが鈍い大型を狙います」

 

「如何に将軍様が派遣してきた強者と言っても……」

 

「鬼を倒すとき、数十人の侍が毎度犠牲になっておる。 そなたらは無類の達人に見えるが、それでもその人数では……」

 

「いや、やるしかない。 鬼どもをこれ以上近づけたら、この砦も無事ではすまぬ。 一気に此処で敵の中枢を叩くしかあるまい」

 

織田さんが決断。

 

そして、何か絵図を持って来た。

 

この正面に展開している魔物の群れを統率している中に、明らかに首魁になっている大鬼がいるらしい。

 

それが通称牛鬼。

 

前の北の地からの襲撃でも姿が確認されている相手で。

 

とにかくとんでもなく凶暴で危険な鬼でありながら、手下を手足の如く使いこなすのだとか。

 

だとすると、神代が作った指揮官の役割を果たす魔物かも知れない。

 

超ド級の奴でも色々いる。

 

実際ネメドでは、手を出しさえしなければこっちに興味を見せない超ド級なんてものも見かけている。

 

神代から見て失敗作だったのかも知れない。

 

ただ、失敗作であっても人間には無害ならそれでいいし。成功作にしても、邪悪の権化であるのは間違いないだろうが。

 

幾つか作戦を決めて、それで解散。

 

ガイアさんに声を掛ける。

 

「ガイアさん。 義手義足を作ります。 手足を欠損している戦士と話して、図面を取らせて貰えますか」

 

「義手か。 しかし、中途半端なものは……」

 

「ライザリンどのの作った義手義足は、歴戦のもののふが本物と変わらぬと大喜びしていた。 私が保証する」

 

「……分かった。 頼もう。 今は少しでも戦力が欲しい」

 

あやめさんが横から口添えしてくれる。

 

あたしに対して油断はしていないし、なんなら今でも警戒しているのだろうが。それでもこうやって見た通りのことを口添えしてくれるのは助かる。

 

戦いが開始されるまで一刻。

 

決死の覚悟できているらしい使用人達が、ご飯を作り始める。保存食が中心だが、それでも食べておくのは必要だ。

 

これが大規模になると炊煙が生じて、魔物に気付かれる。そのため、こそこそと食べないといけないが。

 

あたしは図面を受け取ると、アトリエにひとっ走り。

 

ガイアさんの義眼についても、以前作った事があるので大丈夫だ。ガイアさんは目を失った際に、目を摘出してしまっているらしく、好都合である。

 

すぐに調合。

 

一刻もあれば充分だ。

 

義手と義眼を作って蜻蛉帰りする。

 

なお、護衛にはクリフォードさんだけに来て貰った。クリフォードさんは、前線の砦を見て大喜びだったようだ。

 

「神代のものとは違うが、ロマンの塊みたいな建物だ! くう、許可を貰って色々調べて見たいぜ!」

 

「そんなに昂奮するものなんですね」

 

「おうよ! ライザは気付かなかったかも知れないが、あっちこっちに仕掛けがあったんだよ! そういうの、調べて見たくなるだろ! 床にも壁にもだぞ!」

 

「は、はあ」

 

ちょっとスイッチ入ったか。

 

こうなるとあたしにはついて行けない世界で、知らない世界に酔い続ける。タオとクリフォードさんが仲良しなのも頷ける。

 

二人は結構年が離れているが、いわゆる忘年の交わりというやつで。

 

それには、この辺りの興味があるものに前のめりでめり込むのも原因なのだろう。似た者同士なのである。学者肌と現地での調査派でちょっと方向性は違うが。

 

砦に戻り、例の一族の戦士の所に。

 

あたしを露骨に警戒していたが、義手をセットする。この義手は神経と連動して、問題なく普通の体と同じように動く。更には、本人の情報をエーテルに溶かして確認し、その結果本人の体と全く同じように最終的に馴染むのだ。

 

人によっては隠し武器とか仕込みたがるが。

 

まあ、それは要望に応じて、というところか。

 

すっと傷口につけると、綺麗に吸着し、固定化される。

 

幻肢痛が最初ちょっとあるのが問題だが。

 

それが終わると、しっかり本物の手足として機能する。

 

例の一族の戦士が、驚きの表情を浮かべる。この人達、殆ど表情がないのに。手をぐっぱぐっぱしていて。

 

そして、すぐに大きめの槍を手にして、何度か振るった。

 

うおんと、凄い音で風が切り裂かれる。

 

侍達が、わっと声を上げた。

 

「話には聞いていたが、本当であったか!」

 

「わしの兄上の手も作って貰えるだろうか……」

 

「武勲次第ぞ」

 

「おう!」

 

別にそんなん挙げなくても、あたしは幾らでも義手も義足も作るが。

 

例の一族の人に礼を言われた。

 

こっちは善意でやっていることだ。

 

問題はガイアさんである。眼帯を取って貰うと、確かに目のある所が空洞になっている。持ち込んだ義眼をセット。

 

これは今までに、二度ほどしか試していない。上手く行くと思うが。

 

ぎゅっと目に押し込んだので、ちょっと心配だったが。しばしして、目がちゃんと動き始める。

 

ガイアさんは、はっとした様子で、あっちこっちを見て。

 

呆然とした後、大きく嘆息していた。

 

「これは本物と変わらぬ。 ありがとうライザどの。 これで失った死角を取り戻したわ」

 

「いえ。 頼りにさせて貰います」

 

「そろそろ時間ぞ」

 

織田さんが呼びに来る。

 

最初に出るのはあたし達だ。それはそうだ。最初の大規模奇襲攻撃をやるのは。あたしなのだから。

 

その後全員で押し出し、狙っている「牛鬼」の首を取る。

 

更にはもう一体か二体、超ド級を仕留めておきたい。

 

もっと大きいのがこの地にはいるときいている。それらとの戦闘を想定すると、更には神代の本丸にあるだろう最強ランクのガーディアンを想定すると。それくらいは出来ないとまずいのだ。

 

カラさんが、顔を上げる。

 

ずっと探索してくれていたのだろう。

 

「特徴から考えて、彼方千六百歩先の地中におるのうその牛鬼とやら」

 

「地中ですか。 まあいい。 地面から出てこなかったことを後悔させてやりますよ」

 

どうりで見つからなかったわけだ。その様子だと、まだ地中にいる奴がいるかも知れない。

 

しかし壮観だ。

 

魔術が効くから、フィルフサに比べると楽な相手だが。それでもあの超ド級はフィルフサの将軍と同等かそれ以上。空間魔術の使い手だと考えると、将軍の中でもかなり強い奴に匹敵するかも知れない。

 

あたしは爆弾を取りだす。

 

氷の究極爆弾ラヴィネージュ。これは既に、サルドニカ北の高地での戦闘で、猛威を振るっていて、実績もある。

 

炎の究極爆弾アストローズ。

 

アネモフラム数個分の火力を、無理矢理閉じ込めてある超危険物だ。解き放ち次第、辺りを太陽が直に降臨したような勢いで焼き払う。

 

雷の究極爆弾グランツァイト。

 

雷、それも巨大な積乱雲が作り出して、辺りに大量に降らせる雷撃を、一点集中したような代物だ。

 

そして、風の究極爆弾ヒンメルフェザー。

 

こいつは文字通り圧縮した台風である。

 

もう吹っ飛ぶとかそういう形容は生ぬるい。

 

これをぶち込んだ後に残るのは。爆圧で消し飛んだ残骸のみだ。

 

これら四つを更に凝縮した最強爆弾形態のツヴァイレゾナンスを、現在開発中である。危険すぎてすぐには作れないのだ。以前使った試作品とは次元違いのものとなるだろう。

 

この戦場では。これら四つを同時に炸裂させ、一気にまとめて何もかもを薙ぎ払い。大混乱している魔物を片付け押し通り、敵の首魁を蹴り砕く。

 

皆に頷く。

 

あたしは全力を込めて、爆弾を一つずつ投擲。投擲の度に蹴り込む地盤がガンと揺れて、それで魔物達がこっちを見る。

 

かなり高くに放り投げた。

 

それぞれが落ちてくるタイミングが同じになるように調整した。

 

前にパティが王都近郊の遺跡で落下事故を起こしたときに、タオに加速度がどうのという話は聞いた。

 

その時に勉強して。

 

複数の広域制圧型爆弾を、まとめて戦地に落下させる訓練を、こうしてやっていたのである。

 

なんか落ちてくる。

 

魔物達も気付く。

 

五月蠅そうに、超ド級が吠え猛る。それで、多分落ちてきたモノを潰してしまうつもりなのだろう。

 

だからあたしは、その瞬間に起爆していた。

 

戦場によっつ。

 

破壊の権化が出現する。

 

ラヴィネージュの範囲にいた魔物は、瞬時に氷像になった。そして、次の瞬間には砕け散っていた。

 

アストローズの爆裂は凄まじく、地面ごと融解させながら、魔物を瞬時に灰と化す。遅れて爆風が吹き荒れて、即死しなかった魔物を消し飛ばしていた。

 

グランツァイトの爆音が、全てを薙ぎ払い。閃光が。戦場の光をかき消した。それが収まった後には、粉々に引きちぎられた魔物の残骸と、雷撃に打たれて即死した魔物が大量に散らばっていた。

 

ヒンメルフェザーの破壊跡は残虐極まりなく、粉々に砕け散ったもうなんだか分からない魔物の残骸が転がっていた。

 

投げる前に、あたしは下を向いて耳を塞いでと叫んでいた。

 

やりそこねたおっちょこちょいがいたとは思えないが。いずれにしても、魔物の大軍勢に、大打撃を与えたのは事実。

 

突貫。

 

皆、ついてくる。

 

「ライザどのに続け! 混乱している魔物共を片っ端から斬り伏せろ!」

 

「皆の弔い合戦ぞ! 今までの恨み、十倍にして返してやれ!」

 

「エイトウトウ!」

 

凄まじい叫びとともに、侍達が一気に打って出る。

 

今の四連打に悲鳴を上げてもがいていた魔物は無視。後から来る人達が、当たるを幸いになぎ倒す。

 

いきなり、至近に現れたそいつが、触手を叩き込んでくる。

 

さっと散開する皆。

 

超ド級との戦闘にはなれている。此奴、恐らくは爆弾を封殺しようとした奴だ。全身が色々な合成で出来ているのは他の超ド級と同じ。触手がわんさか生えているのも。

 

此奴はなんというか、全身から植物が生えていて、それが全てうねうねと動いている。触手の数特化。

 

つまり魔術戦特化型か。

 

再びかき消える其奴。空間操作で移動しているとみて良い。

 

いや、これは。

 

「散開!」

 

叫ぶと、横っ飛びに逃れる。雄叫びを上げながら、其奴が空から振ってきて、地面を砕き散らしていた。

 

地盤ごといったかこれ。

 

それはそうとして、今の落下速度、明らかにおかしい。そうなると、まて。空間操作ではないな。

 

多分こいつ、自分だけ時間加速している。

 

パティにも聞いている。時間操作をする奴がいたと。

 

こいつもそれだということだ。

 

「ライザどの! 其奴は鬼、大天狗ぞ!」

 

「結構! 行きがけの駄賃に片付けます!」

 

「武勲を祈り申す!」

 

体勢を立て直しつつある魔物と大乱戦になり、例の一族の人達も、侍達も、少しずつ各個での戦闘になりはじめる。

 

とにかくとんでもない速度で巨体を動かしまくる超ド級魔物「大天狗」。

 

レントが遮って大剣を叩き込むが、一合だけ応対すると、即座に離れる。早すぎる。超ド級のガタイに、あの速度。

 

自分を加速しているとしても、相性が良すぎる。

 

後ろ。

 

ぐわっと、押し潰しに来る大天狗。あたしは熱槍を叩き込みながら離れる。だが、その熱槍を遅い遅いと触手で弾き返す。動きを止めないと無理か。

 

その時、カラさんが大魔術を展開。

 

ぶわっと、大天狗の周囲に冷気が舞う。大量のつぶてを見て、大天狗が一瞬だけ足を止めたその時。

 

大上段から、パティが。ハイチタニウムの刃を一閃させていた。

 

大量の触手が吹っ飛ぶ。

 

悲鳴が轟く。

 

いや、それは詠唱。詠唱まで加速してくるのか。カラさんの大魔術が消し飛び、パティが攻撃を防ぎきれず吹っ飛ばされる。タオが救援に行くが、手負いになった大天狗が激しく触手を振るい、辺りに鎌鼬を叩き込む。雑魚魔物も関係無し。まとめて薙ぎ払う雰囲気である。

 

だがそれは、今のパティの一撃で、加速できなくなった事を意味する。

 

ボオスとクリフォードさんが仕掛け、更に触手を叩き落とす。悲鳴を上げながら逃れようとする大天狗だが、やはり遅い。

 

その時にはあたしは、奴の頭上に躍り出ていた。

 

「みんな離れて!」

 

手元には、熱槍三万。カラさんの服の解析によって、最高位の布を作り。その布で服を仕立て直した結果、魔力の倍率が更に上がり、熱槍はついに三万に達した。それを一点に凝縮する。

 

本当だったら投擲が一番良いのだけれど、今回はこれでいい。というのも、この大天狗とやら。

 

自身を時間加速する以外では、鎌鼬くらいしか防御策がない。だったら、これで充分だ。

 

「フォトン……!」

 

大天狗があたしを見る。

 

シールドを張ろうとするが、クラウディアが放った大量の矢が、大天狗を貫く。一瞬動きが止まり。

 

それが最後だった。

 

「クエーサー!」

 

地盤ごと、光の槍が大天狗を貫く。

 

あたしが着地した背後で。大天狗が、噴き上がる溶岩とともに爆発四散していた。

 

 

 

パティの手当てを済ませながら、走る。

 

ガイアさん達は、驚くべき練度でまとまると、超ド級に仕掛けに行っている。他の超ド級はのたのたと集まろうとしているが、まだ猛威を残しているラヴィネージュやアストローズの余波に苦戦しており、こっちに近づけずにいる。

 

牛鬼とやらは、この辺りの筈だ。

 

セリさんが、地面に手を突く。同時に、大量の覇王樹が、其奴を地面から無理矢理引っ張りだす。

 

超ド級。

 

しかも、全身が鋭い爪みたいなのに覆われていて、巨大な目が幾つかついている肉塊。それでいながら、全身は確かに牛に似ていた。

 

おぞましい姿だが、此奴で間違いない。

 

この恐るべき軍勢の主、牛鬼だ。

 

他の超ド級と同時に戦闘になったらちょっと勝ち目がない。覇王樹を即時で粉砕して降り立つ牛鬼。

 

あたしは声を皆にかける。

 

「短期決戦。 一瞬で決めるよ」

 

「超ド級相手に無理を言ってくれるぜ……」

 

鋭い叫び声。かなりの数の走鳥が、こっちに迫ってきている。カラさんが雷撃の大魔術を叩き込むが、怯んでいない。

 

それだけじゃない。

 

他にも大量にラプトルやワーム。

 

最初の大規模攻撃に生き抜いた連中が、こっちに来ている。此奴の能力は、本当に統率なんだ。

 

やはり一瞬で決めるしかない。

 

突貫。

 

叫ぶと、全員で牛鬼に襲いかかる。牛鬼は大量の爪を動かす。硝子をひっかいたような音。

 

同時に、辺りが一気に粉砕された。

 

違う、全てが重くなっている。

 

覇王樹を潰したのも、今のか。

 

フェデリーカが悲鳴を上げて蹲る。これでは舞うどころじゃない。しかも此奴らのデタラメぶりからして、魔物だけは平気とかもあり得る。

 

更に重さが加速。地盤が割れ砕ける。牛鬼も爪を一層激しく動かしている。周囲全域の圧殺。

 

単純極まりないが、凶悪極まりない魔術だ。

 

空間操作系なのだろうか。

 

いずれにしても、このままだとまずい。やっぱり此奴ら、この地の侍達を苦戦させるだけはある。

 

その時、動いたのはリラさんだ。

 

強化魔術か精霊による強化かは分からないが、それでも凄まじい勢いで飛ぶ。飛ぶとき、骨が砕ける音がした。

 

それでも戦士としてのリラさんは、揺るがなかったと言う事だ。

 

そして、この重さが何百倍にもなっている状況。

 

リラさんを牛鬼が見るのと、リラさんがその鉄爪を牛鬼に叩き込むのと。リラさんが、牛鬼にめり込んで、大量の鮮血を噴き出させるのは、殆ど同時に思えた。牛鬼が悲鳴を上げる。

 

自滅同然の状態だが。

 

しかし、こっちも壊滅寸前だ。

 

顔を上げろ。

 

あたしは自分に叱咤して、立ち上がる。そして、この圧殺下でも詠唱していた魔術を練り上げる。

 

だが、今やればリラさんを巻き込む。

 

いち早く立ち上がったレントが、牛鬼に大剣を叩き込む。牛が断末魔の悲鳴を上げたかのような声。

 

更に、タオもボオスも続き。

 

ディアンは、雄叫びを上げながら、フルパワーでの一撃を叩き込んでいた。

 

牛鬼が、それでも爪を動かし、音を立てる。

 

アンペルさんが叫ぶ。

 

「まずい、魔物がもう来るぞ!」

 

「厄介じゃのう……」

 

カラさんがぼやいた。セリさんが、恐らく渾身の大魔術で、周囲を覆うように大量の植物を展開、迫る魔物の群れを無理に防ぎに掛かる。

 

長くは保たない。

 

あたしは、詠唱を終えて、パンと胸の前で手を合わせる。

 

見つけた。リラさん。

 

だったら。

 

「アンペルさん、あっちに向けて空間切断を! カラさんは、あの地点を!」

 

「おう!」

 

「任せよ!」

 

アンペルさんの放つ黒い線が、牛鬼を貫く。カラさんが圧縮した熱線が、同じように牛鬼の体を焼き貫く。

 

あたしはガタガタの体をなんとか動かし、走る。

 

その間もクラウディアが大量の矢を上空に放ち、セリさんが展開した壁を破ろうとしている魔物に浴びせかけ。クリフォードさんとパティも、牛鬼への総攻撃に参加。更にフェデリーカも、必死に神楽舞を再開。

 

あたしが此処でやらないで、どうするというのか。

 

あたしは走り、牛鬼の至近に。

 

さっきのアンペルさんとカラさんに頼んだ一撃で、牛鬼の体内の二箇所を、決定的に破壊して貰った。

 

これで、いけるはずだ。

 

なんどかバクテンして加速。遠心力を乗せ、更に踏み込みつつ、渾身の蹴りを牛鬼に叩き込む。

 

「いいいいっ、けええええええええっ!」

 

直撃。

 

まだ全身を振るい、集う戦士達に爪を伸ばし反撃を浴びせていた牛鬼の一点に、その蹴りを炸裂させる。

 

次の瞬間。

 

牛鬼の体の一部が消し飛ぶ。そして、リラさんが、血肉の中からどろりと落ちてきた。牛鬼が悲鳴を上げる。

 

終わりだ。

 

もう詠唱している余裕もない。だから、蹴り技で決める。更に体を旋回させつつ、あたしは両足で牛鬼の体を挟むと。

 

そのまま、捻りを加えて、投げ。

 

放物線を描きながら、地面に叩き付けていた。

 

轟。

 

肉片が爆発して、辺りに鮮血の雨が降り注いでいた。血の雨で虹が出来ている。いやな虹だ。

 

フォトンパイルブレイク。

 

サタナエルを屠った技だ。

 

対大型に使うのは初めてだったが。地盤を叩き砕いた上で、牛鬼の全身があたしの前で爆裂している。つまり、至近からの連続技としての必殺技としては、充分に有用であることが判明した。このサイズの相手でも、今のあたしの身体能力だったら、充分に投げられるということだ。

 

呼吸を整える。

 

これで、超ド級二体目だ。

 

そして、一気に奴による操作魔術が解除された。それで、此処に殺到していた魔物達が、算を乱す。

 

そこに、遅れて殺到してきた侍達が襲いかかる。あたしはちょっと少し休憩。皆もボロボロだ。

 

だが、まだ余力があるディアンが、すぐに侍達に混じって、魔物と戦いはじめる。薬を口に入れると、体力の回復を待って、あたしは戦線に加わった。

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