暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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超巨大魔獣の後始末です。ついでに観測者も。

どこぞにそんなタイトルで顰蹙を買った作品があったようななかったような(笑)


3、ベヒィモスの亡骸

皆が体調を取り戻し、北の砦の負傷者も対処が一段落した。ふつう戦場での怪我、特に鬼相手の場合は殆ど助からないと侍達は言っていた。

 

だが、手足を失った戦士に義手義足を手配し。

 

目を失った戦士には義眼を。

 

そして惜しみなく薬を放出して、医療を続けて。あたしが目が覚めてからは、負傷者全員を救った。

 

助けられなかった人もたくさんいる。

 

だけれども、これで東の地は、しばらくは安泰だろう。ただ国内には多数の魔物やあの子鬼がいるし。

 

それらに対処しなければならないのだが。

 

ベヒィモスを含めて、倒した超ド級は短時間で七体。まあ一体はベヒィモスの暴走に巻き込まれた形だが、細かい事はいい。

 

それよりも北の砦の更に北には、あいつと同格の「大鬼」が十数体はいるという話がある。こっちのが大事だ。ただ、ベヒィモス戦ではっきり分かったことがある。

 

二日、負傷者の救助に当たり。それから、征夷大将軍と面会する。

 

重要な事が分かったからだ。

 

征夷大将軍自身も負傷していたが、既に怪我は回復している。それほどの総力戦だったのだ。

 

あのグランツオルゲンの大太刀を持った武士も、数名が倒れたと言う事で。

 

それらの大太刀は一度引き取って、調整しておいた。以降も、東の地で活躍してくれるだろう。

 

北の砦の一室で、話をする。

 

数人の宿老もいる。まあ、本当は将軍だけに話したかったのだが、仕方がない。征夷大将軍が、ある程度腰を低くして話してくれる。こっちとしても、譲歩が必要だろう。致命的ではない範囲でだが。

 

「ライザリン殿。 貴殿のおかげで、倒す方法すら思いつかなかったあの大鬼「ベヒィモス」を倒す事が出来た。 なんなりと褒美を出そう」

 

「分かりました。 それでは、予定通り北の地の調査許可を」

 

「うむ。 それと、次世代の征夷大将軍になってくれぬだろうか」

 

「残念ながら、あたしは色々と体を弄っていまして。 ……その話はお受けできません」

 

そうかと、残念そうに征夷大将軍は言う。宿老の中には、心底残念そうな顔をするものもいた。

 

咳払いすると、話をする。

 

ベヒィモスについてだ。

 

「あの異常な動きと不可解な強さを見て、違和感を覚えました。 具体的に結論から説明いたしますと、ベヒィモスはそもそも二條にまで攻め入る体力がないのだと思います」

 

「それは楽観に過ぎよう」

 

「順番に説明いたします。 あの巨怪と同格のモノが十数体いると聞いています。 例えばそれらが二体でも同時に姿を見せたら、東の地はとっくに更地だったのではありませんか。 それどころか、ベヒィモスが進んでくるだけでも二條は落ちていたでしょう。 それが、如何に勇敢な侍の皆さんの尽力があるとはいえ、千数百年も持ちこたえている」

 

「ふむ、確かにそれは妙な話だ。 続きを聞かせてくれ」

 

征夷大将軍は切れ者という噂通り、すぐに違和感に気付いたようだ。

 

咳払いすると、順番に説明した。

 

ベヒィモスは、途中から逃げようとしていた。あれはあたしに恐れなんかなしていない。違う理由だ。そして、ベヒィモスを間近で見ていて良く理解出来た。あいつは単に体力が尽きる寸前だったのだ。

 

そして恐らく、あのサイズの存在だ。生物の常識など通じない。

 

何かを食べて回復とか、休んで回復とか、出来ないのだろう。もし出来るのなら、それこそ時間をかけて二條に行けば良いはず。奴はそれをしなかったのだ。それをされていたら、どうにも出来なかったのに。

 

「恐らくですが、北にある夷の何かしらの遺跡。 そこでベヒィモスや同類は、力を補給できるのでしょう。 それも何十年も時間を掛けて。 まんたんまで体力を回復しても、それでも二條までいけない程度しか体力はないんです。 この仮説なら、全てに説明がつきます」

 

「ふむ……確かにあんな大鬼が、何体も現れていたらとっくに二條は焼け野原になっていたであろうな。 ライザリン殿の言う言葉には一理も二理もある」

 

「はい。 故に北の地を調べ、夷の遺跡があれば停止して参ります」

 

「話は分かったが、手練れの忍びですら北の地からは生還しておらん。 今回の大戦で、多くの手練れの侍や忍びが命を落とした。 力を取り戻すには一世代以上は掛かる」

 

宿老の一人、姉小路さんが慎重な意見を口にする。

 

確かにそれも事実だ。

 

だが放っておけば。そう遠くないうちに、神代の魔物がまた、多数の眷属を連れて現れる。

 

それに、である。

 

あたしが最も懸念しているのは違うことだ。

 

北の地には、魔物を生産する設備がある可能性が高い。サマエルの言葉もそれを裏付けている。

 

子鬼なんか、別の地方で見た事がない。タオにも確認したが、報告例もないらしい。つまり、東の地にだけ子鬼が出る。そして生物的に、生殖出産によって子鬼が増えている可能性は極めて低い。

 

あれは色々な証拠から、ほぼ確定で神代の生物兵器だ。だとすると、勝手に増えるようにはしていない筈だ。増える機能があるとしても、コントロール下におけるようにしている筈。そうでなければ、フォウレでもサルドニカでも配備されていない。成功作だから、彼方此方に配備されているのだ。その目的が果たされているとはとても言えないだろうが。少なくとも各地に配備したのは、それが成功作だからである。そして武器というのは、コントロール出来ることが成功の最低限の条件となる。フィルフサなんかは分かりやすい。あれの王種は狂気の源泉がつけられていたのだ。王種は今でこそ野放しだが、昔は神代のコントロールを受けていた可能性が極めて高い。ついでに将軍はともかく、王種は「母胎」に汚染された土から勝手に生えてこないだろう。

 

もしも北の地で超ド級魔物の幼生体「子鬼」を生産しているのだとしたら。最悪、それらが超ド級魔物にまで成長して、海を渡ったりしかねない。

 

そんな事になれば、他の地方に血の雨が降る。

 

超ド級魔物一体だけで、王都を潰すのに充分な戦力を持っている。他の都市でも同じ事だ。

 

東の地の侍が強いのは事実だが、それだってベヒィモスやそれに匹敵する超ド級が、もっと無法に進軍していたらどうなっていたか分からない。

 

それにだ。

 

そもそもとして、この世界には人が住めない場所がごまんとある。

 

タオに調べて貰ったが、陸地の内半分以上はそうだと言うことだ。そして、それらは神代以前からという可能性もあるらしい。

 

サマエルの言葉もある。

 

この世界が壊滅に瀕した決定的な原因は神代の錬金術師どもだ。それに関しては疑う余地がない。

 

その前に何があった。

 

神代が始まったのも妙だ。

 

あたしにはまだ、知らない事が多すぎる。だったら、知っていかなければならないのである。

 

「北の地の調査は、誰かが成功させなければなりません。 この地の……いや世界の千年未来の先のためにも」

 

「確かにその通りだ。 しかし貴殿らを失えば、人間には千年先があるかも分からない」

 

「その通りじゃ。 此処はこらえてくれぬか」

 

「……わしは乗ろう」

 

姉小路さんに対して、不意に宿老の一人がそういう。

 

伊賀さんと言う人だ。

 

忍びを束ねる「お庭番」の長をしているらしい。

 

「この地では、クリント王国やらが興って滅びるまでも、ずっと関係無く他とは異次元の魔物とやりあってきた。 それも楽にやれてきたわけではなく、多くの侍と、侍が守るべき民の命を吸い上げながらだ。 全てを賭けて武芸を磨いてきた侍も忍びも、子鬼ですら倒せぬ事がある。 死んだら奴らに貪り喰われ、体を持ち帰る事も弔うことすらも出来ぬ。 そんなだから、多くの事が失われた。 民には楽しみもない。 今では外に我等の歌や踊りが残っている有様だ」

 

そうなのか。

 

伊賀さんが言う。

 

フェデリーカの神楽舞は、失われたこの地のもの。

 

サルドニカに伝わったあと、踊り手が鬼との戦いでみんな殺された。それで失伝してしまったのだという。

 

それ以外にも、この地で蹂躙されて失った文化は山ほどあると言う。

 

この地では武力以外に注ぐ事が出来る余力がない。

 

だから、それらを復興することさえ出来ない。

 

「わしは子も孫もみんな鬼や魔物に殺されて、血筋も絶えた。 これが終わるのであれば、わしはなんでもする」

 

「伊賀殿!」

 

「ライザリン殿。 他の誰も行かないというのなら、この老骨が助力しよう。 この悪夢を、終わらせてくれぬか」

 

あたしは顔を上げると、征夷大将軍を見る。

 

この地は修羅の地だ。

 

それを受け入れているかとも思っていたが。

 

やはりそんな事はない。

 

サルドニカが再興し始めたのはたったの百年程度の昔だ。その間に失われた文化すらある。

 

そんな話を聞いていて。

 

なおかつ、悲惨な身の上を聞いていて、黙っていられるほど、あたしは神代の錬金術師どもみたいなカスではない。

 

伊賀さんが嘘をついていないこともあたしには分かる。

 

その程度は、人間を見てきたからだ。

 

「分かった。 助力を出そう」

 

「将軍様!」

 

「ライザリンどのがいる今以外に、いつ北の地を調べられよう。 侍衆が行っても無駄であろう。 ガイア殿達も、此処の守りにいてほしい。 腕利きの忍びを集めよ。 少しでも支援させる」

 

「ははっ!」

 

伊賀さんが、部屋を出て行く。

 

姉小路さんが、悪いことが起きなければ良いのだがとぼやくが。

 

あたしが、そんなものは。

 

力でねじ伏せてやるだけだ。

 

あたしも頭を下げると、部屋を出る。北の砦の負傷者も減り、野戦病院も規模を縮小している。

 

交代で休んでいた回復術者も、少しずつ戻り始めているようだ。

 

多くの集落から、この決戦の為にはせ参じたのだ。

 

勝っても、得られるのは名誉だけ。

 

そんな時代は、確かに終わらせなければならないだろう。

 

準備もあるだろうし、一度アトリエに戻る。爆弾やお薬の在庫をチェックし、増やしていく。

 

それとグランツオルゲンも増やす。

 

時間を見てベヒィモスのしがいを見にいった。そして、サマエルの死体や、他にも使えそうなものは回収してきた。

 

その中にあったのだ。

 

今までで最大で、最高密度のセプトリエンが。

 

勿論、それで良いグランツオルゲンを作れるかは、試してみないと分からない。もっと調べないと、構造が分からないからだ。

 

パティとレントに声を掛けて、戦場の跡地に行く。

 

倒した「大鬼」どものしがいを調べて、セプトリエンを集めていく。

 

少しでもデータが欲しい。

 

それほどセプトリエンはよく分からない品なのである。

 

大鬼の死骸は調べたいから、焼かずに残して欲しい。そう告げてあったのだが。死体は案の場痛み始めていて。

 

衛生的な観念からも、早めに焼却処理はしないといけない。

 

だからさっさと作業を進める。

 

腐りかけの死骸から、使えそうな素材は手際よく引っ張り出す。そして、処理が終わり次第、焼いて貰った。

 

これらの肉片をエーテルで溶かして調べて見ると、やはりというか。

 

大鬼……超ド級魔物も、人間の要素を取り込んでいる。

 

他にもあらゆる生物の要素が混じっているのが分かる。異臭を消すようにとクラウディアに時々言われるので、消臭剤の散布と消毒を時々する。

 

考え込んでいると、あやめさんが来る。

 

奥にある門は見せていない。

 

一応、危険な機密があると話はしてある。ただそれに関しても、後で見せておくつもりではあるが。

 

「ライザリンどの」

 

「何か問題が起きましたか」

 

「いえ。 今、お庭番衆を集めています」

 

あやめさんの失った腕は、義手で補完済だ。

 

本物と同じく動くと、あやめさんは本当に驚いていた。それ以上に喜んでいたようだ。

 

腕くらい失うのは覚悟の上。

 

そう決めて戦場に立った。それがよく分かる。

 

だけれども、失ったものが戻ればそれは嬉しい。かなり年季が行った侍でも、義手に本当に喜んでいる人は多かったのだ。

 

「どうしても北の地に行くのですね」

 

「はい。 出来るだけ誰も死なせぬように努力はします」

 

「侮らないでいただきたい。 貴方方ほどではないにしても、我等も諜報に全てを賭けてきた一族。 足は引っ張りません」

 

「そうでしたね。 信頼はしています」

 

これは本当だ。

 

幾つか、軽く打ち合わせをしておく。お庭番衆と言われる腕利きの忍びが十名ほど、作戦に参加してくれるそうだ。

 

その分の食糧などは、今のうちに準備しておく。

 

後は遠征になる可能性があるから、携帯式の組み立て便所などもいるか。アトリエほど本格的には作らないが、風呂とトイレ、更には寝所があるだけで、全然違うのだ。

 

爆弾なども増やしておく。

 

どうせ現地には遺跡防衛用の超ド級がいる。

 

サマエルが死んでも、まだまだ動いているだろうし。

 

そいつら相手に、消耗する訳にもいかなかった。

 

「北の地の具体的な広さとかはわかりませんか」

 

「この東の地と同等かそれ以上とだけ言われています。 海側からの調査も行っていますが、少なくとも大陸とはつながっていません」

 

「分かりました。 調査記録をお願いします」

 

「了解しました」

 

頭を下げると、あやめさんがさがる。

 

さて、他にもやる事が幾つかある。

 

タオとクリフォードさんの様子を見に行く。

 

タオは熱心に、書物の調査をしている。此処でも追加されたし。もう門はつなげてあるので、小妖精の森にあるあたしのアトリエにもいける。其処に蓄えた本も、時間を見て再調査しているようだ。

 

クリフォードさんは、タオほど精密に本を読み込んでいないが、それでも勘でいきなり正解に辿りついたりする。

 

この辺りは年の功という奴だ。

 

軽く進捗について聞くと、幾つか分かってきた事があるという。

 

「まだ単語レベルでしか確認できていないんだけれども、錬金術師達が「冬」って呼んでいる事件が起きたみたいだね」

 

「冬?」

 

「四季の冬じゃねえ。 明確にそれとは違うものだ。 百年以上も、ずっとこの世界にはまともな日光が差さなかったらしい」

 

「えっ!?」

 

あたしは農家出身者だから分かる。

 

そんなんになったら作物は全滅だ。作物の大半は、そもそも人間が弄った結果、人間が手入れしないとあっと言う間に虫や病気のエジキになるし。ちょっと天候が不順だと、露骨に収穫量が変わる。

 

それなのに、百年間冬が続いた。

 

それは一体、何が起きたのか。

 

「神代の前にそれがどうもあったらしいんだ」

 

「サマエルが言っていた破滅と関係しているのかな」

 

「なんともいえねえ。 資料をもっと集めねえとな」

 

「ただ、もしもそんな事が起きていたのだとすると、この世界の動植物は一度全滅に近い打撃を受けたんじゃないのかな。 神代は諸説あるけれど、三千年くらい前までさかのぼれるって話もある。 仮に三千年だったとしても、百年の冬があったのなら、それから復興できるとは思えないよ」

 

なるほどな。

 

確かにあたしもそう思う。農家の娘だからこそというべきか。

 

フィーがあたしの懐から顔を出す。

 

どうしたの、と聞くと。ちょっと不安そうに鳴く。

 

ああ、これは皆にご飯を食べて欲しいんだな。あたしもそうだが、この二人は放っておくと食事どころか風呂にも入らない。

 

「二人とも、フィーがお嘆きだよ。 食事とお風呂」

 

「おっと、そうだったな。 疲れも溜まってるわ俺様」

 

「僕も少し目が痛いかも知れない。 ありがとうね、フィー」

 

「フィッ!」

 

フィーも嬉しそうだ。

 

さて、あたしもまだまだやる事がある。

 

だけれども、一度休憩を入れておくか。

 

少し休んで、疲れを取る。そのうちに、クラウディアが戻ってくる。外で交渉ごとを頼んでいたのだが。

 

どうやらお庭番衆が集まるのは二日後らしい。

 

サマエルだけではなく、まだあの悪魔っぽい輩が控えている可能性だって否定出来ない。

 

出来るだけ、大勝利の後は速攻を仕掛けるべきだろう。

 

「分かった。 それじゃあ、それまでは充分休みを取っておいて。 あたしも可能な限りそうする」

 

「ライザ、調合と調査をずっとするのは、休みとは言わないよ」

 

「分かってる。 フィーも悲しむしね」

 

クラウディアのお小言だが、これは仕方がないだろう。

 

ボオスとクラウディアが、お礼を言いに来る侍衆に応対してくれる。その間、あたしは休みを入れながら、遠征の準備を進めておく。

 

二日はあっと言う間だ。

 

元々東の地に来るのも、予定をだいぶ超過していた。

 

しかもこっちに来てから、相当に激しい戦いが続いて、どれだけ時間が過ぎたのかもちょっと曖昧だ。

 

だから、遠征は出来るだけ無駄なくやるべきだろう。

 

神代の連中は、今の時点ではあの悪魔もどきくらいしか動いていない。それと勝手に動作した群島くらいか。

 

だけれども、あたしの真意に気付いたらどう動くか分からないし。

 

そもそも連中が今まで黙りなのも不可解だ。

 

相手につけいる隙を与えないためにも。

 

急がなければならないし。

 

それと同時に休まないといけないのも、また難しい両立だった。

 

 

 

準備が整ったので、出る。

 

あやめさんみたいな素性を隠した人が丁度十人いる。その中の一人は、あの伊賀さんらしかった。

 

宿老が直に出てくる訳だ。

 

本気度が分かる。

 

この地で宿老というと、征夷大将軍を選ぶ権利がある戦士だ。侍だけではなく、忍びからも、場合によっては巫女や陰陽師からも選出されるらしいが。

 

いずれにしても、失敗は出来ないな。

 

一旦アトリエに鍵を掛ける。状況を見ながら、現地に簡易拠点を立てて、それを中心に調査を進める事になる。

 

北の砦を通ると、侍達がエイトウトウと声を上げているのが分かる。

 

勝ち鬨だ。

 

あたし達が勝ってくることを期待してくれている。俄然、引き締まる。

 

タオには、この辺りの座標は既に集めて貰っている。護衛付きで山などにも入って、調査もして来たらしい。

 

それで分かったが、やはり大型の魔物がわんさか山にはいる。

 

ただこの辺の大型は、この間の会戦にあらかたかり出されたらしく。今は空白地帯になっていて。

 

楽に調査が出来たらしい。

 

それが良いことだ。

 

忍びの人達が、かなり大きな荷車を持って来たので、三台体勢で行く。荷車は忍び衆に任せる。

 

ベヒィモスの残骸を横目に、北へと走る。

 

この先は、文字通りの魔郷だ。

 

東の地ですら魔郷だが、それでも人がまだ住んでいる。ここから先には。それすらがない。

 

「緑はかなり濃いね」

 

「幾らか植物は採取したけれども、非常に生命力が強いわ。 浄化用の植物とどうにか配合できないか試しているところ」

 

セリさんがそんな事を言う。

 

確かにフィルフサを仮に全部倒したとしても、オーリムが全部浄化されるわけではないのだ。

 

徹底的な下準備は必要だろう。

 

そのままあたしは急ぐ。

 

ベヒィモスが伏せていた辺りは盆地になっていて、水が流れ込んで沼になりはじめている。

 

こっちを伺っているラプトル。

 

かなりの大型個体だが、仕掛けては来ない。

 

本当なら駆除対象だが、今は放置でかまわない。とにかく、北へと急ぐ。

 

時々方位磁針を活用しながら、急ぐ。

 

タオには地図を忍び衆と連携して埋めて貰う。更には、座標もついでなので集めて貰う事にする。

 

夕方近くまで移動を続ける。

 

伊賀さんが、驚嘆していた。

 

「この速度で行軍して、息一つ切らしませんな」

 

「そういえば……」

 

フェデリーカは、大丈夫だ。息を切らしていない。それなりに急いでいたのだが。

 

まあここのところ、本当に激しい戦い続きだった。

 

嫌でも鍛えられたのかも知れない。

 

人によっては体力が何しても伸びない場合もあるけれど、フェデリーカは伸びると言う事だ。

 

それなら、伸びるだけ伸びた方が良いだろう。

 

「フェデリーカ、無理はしていない?」

 

「フェデリーカ様には、私が体力を抑えて移動するコツをお教えさせていただきました」

 

「はい、みっちりしごかれました」

 

あやめさんの言葉に遠い目をするフェデリーカ。

 

そ、そうか。

 

まあ、それでしっかり着いてこられるなら良い事だ。

 

では、一旦此処に拠点を作る。

 

ささっと石材を組む。合板を作って、組み合わせる。アンペルさんが、それを見ていて呟く。

 

「もうこれは私が教わる立場だな」

 

「アンペルさん、あたしは色々おおざっぱなので、もっと今後教えて貰わないと困りますよ」

 

「そうだったな」

 

てきぱきと作って、夜営用の家完成。風呂とトイレもある。キッチンはないが、その代わり火があるので、それで料理をして貰う事になる。着替えについては、遠征が終わるまではなんとか我慢して貰うしかない。

 

ただ、此処は人外の地だ。

 

一応休めるように作ったが、交代で見張りは立てないといけない。

 

忍び衆が、交代で見張りを買ってくれると言う。

 

それは助かる。

 

いざという時にならす鐘について説明しておく。ガンガンと結構凄い音がする。しかも簡易拠点内だけに響く。

 

これは音魔術を発生させる仕組みで、クラウディアのアドバイスを受けながら作った品だ。

 

説明を終えると、男衆を連れて、石材と木材を補充に行く。

 

今の所、それなりに緑が豊かなだけの地だ。

 

補充にも忍び衆がついてきてくれて、手伝ってはくれるが。

 

警戒しているのは仕方がないだろう。

 

この地は、入って生きて帰ったものがいないのだから。

 

 

 

翌日も、早朝から北上を続ける。

 

二交代で見張りをしてくれていたらしい忍び衆が、夜にかなりの数の魔物が此方を伺っていたと教えてくれた。

 

そうか。

 

この様子だと、充分に引き込んだと判断したら、一斉に襲ってくるのかも知れない。

 

その時は返り討ちにしてやる。

 

爆弾も増やしておいたし、お薬も。

 

はっきり言って、時間空間を操作できないデカイだけの魔物だったら、遅れを取る事はないだろう。ベヒィモスみたいな頭がおかしい規模でもない限り。

 

辺りは山が多くて、見晴らしが悪い。

 

時々クリフォードさんが跳躍して、かなりの高度から周囲を偵察してくれる。ブーメラン操作にどんどん磨きが掛かっていて、あたしより高く空に舞っている。空中殺法の切れ味も増すばかりだ。

 

みんな、化け物みたいな魔物相手に、戦歴を伊達に重ねていないのである。

 

「いるなあ。 子鬼も何体かいる」

 

「うーん。 クラウディア、カラさん、どう思う」

 

「私の音魔術の範囲でも、かなり集まって来ていると思う」

 

「ただデカブツはおらぬのう。 この様子では、仕掛ける最適な場所に入り込むのを待っているのではあるまいか」

 

死地は要塞の中だけじゃない。

 

自然の地形の中にも存在している。

 

あたし達に魔物の大軍が追従しているとしたら。死地に入って身動きが取れなくなった所を、全滅させに来るかも知れない。

 

忍び衆は神経質なくらい周囲を伺っているが。

 

それもやむを得ないだろう。

 

ただ、超ド級七体が失われたばかりで、魔物共は主戦力を欠く。そしてあたしの仮説を裏付けるように、ベヒィモス級は姿を見せていない。

 

とにかく、まずは海まで抜けるべきか。

 

「クラウディア、タオ、地形には気を配って。 あと、魔物の数がこれ以上増えるようなら、こっちから仕掛けて間引こう」

 

「分かった。 それにしても、この数は……」

 

「あれだけ削ったのに、まだ幾らでもいやがるな」

 

「いいじゃんか。 仕掛けて来るだけ叩き潰してやる!」

 

ボオスが嘆くと、ディアンが逆に大喜びしている。

 

まあ、ディアンが喜んでいるのは。戦えるからじゃなくて、有害な魔物を叩き潰せるからだろうが。

 

夕方まで山間の地を進んで。見晴らしがいい場所を見繕って拠点を作る。これは手当たり次第の調査がいるな。

 

それに、周囲の魔物の気配は濃くなるばかりだ。

 

この先に、平野がある。

 

不自然なくらい何もない平野で、草が雑多に生えているだけだ。其処で一度魔物を誘き寄せて、間引く。

 

定期的にそうしないと、とんでもない数で仕掛けられて、数の差で押し潰されてしまうだろう。

 

山の上で跳躍して、クリフォードさんが地図を作ってくれる。

 

クリフォードさんによると、非常に険しい山が続いていて、とてもではないが遠くまでは分からないと言う。

 

何度も海側から調査もしていると言う話だから、遺跡があるとしても海のすぐ近くではなく内陸の筈だ。

 

簡易拠点の中で、伊賀さんとあやめさんと、タオを交えて話す。

 

あやめさんは伊賀さんの後継者として考えられているらしい。なんでも伊賀さんの亡くなったお孫さんの婚約者だったらしい。腕を見込まれてそういう縁談が組まれたそうで、それを聞くとフェデリーカはとても複雑な顔をした。自分と境遇が被ったから、かも知れない。

 

「海側からの調査の結果を聞くに、後二日ほどで海に抜けるはずです。 この地の調査はまったく出来ていないと言うことですが、この辺りの情報も持ち帰れていないんですか」

 

「ああ。 手練れの忍びを二十名以上投入した調査でも、誰も生きて帰っておらぬ」

 

タオには相応に口調が堅い。

 

これは、あたしはあくまで特別とみているからなのだろう。

 

忍びは血の掟と鉄の結束で戦うものらしく。

 

あたしは征夷大将軍の代理として、此処では接すると先に言われている。

 

ちょっと恐縮してしまうが。

 

ただ好き勝手に動かれるよりはいいだろう。

 

「妙ですね。 魔物の動きが消極的すぎる。 それに子鬼は確認されていても、大鬼はいない。 手練れの忍びが生きて帰れないというのは、どうにも」

 

「みな、嫌な予感がする」

 

話に入ってきたクリフォードさん。

 

それを聞いて、全員が一気に緊張した。

 

この人の予感は、あたしのそれより当たるのだ。それは、忍び衆にも事前に説明をしてある。

 

すぐに外に展開する。

 

もう薄暗くなってきているが、魔物には夜の闇はむしろ味方だ。荷車について。あたしが叫ぶと、忍び衆が荷車にさっとつく。

 

あたしは即座に方針を決めた。

 

「もしもあたしが仕掛けるなら、数で押し潰すか自分に有利な場所に追い込むか、或いは罠に掛けて自滅させます」

 

「ふむ、それでどうする」

 

「クラウディア、あっちを調査して。 カラさんは、魔物の数を。 セリさん、植物魔術での壁の展開を準備して」

 

「任せよ」

 

カラさんが、全身が淡く輝くほどの魔力を全身から放ち、忍び衆が瞠目する。

 

凄まじい童だという声が上がるが。

 

まあ、神代の頃から生きていると説明しても、すぐには信じてはくれないよな。それはあたしもわかる。

 

クラウディアに頼んだのは、平地への道の確認。地面の下に、何かしらの罠がある可能性もある。大丈夫、問題なし。クリフォードさんは、全方位が危ないと言っているが。ならば。

 

「よし、一気にあっちの平原まで山を駆け下ります! セリさん!」

 

「分かったわ」

 

セリさんが。植物魔術を全力で展開。山にある木々や草が、全てさっと海でも割れるかのように、左右に分かれ、道を作る。おおと、忍び衆が瞠目する中、あたしは叫んでいた。

 

走って。

 

皆、山を全力で駆け下りる。

 

簡易拠点はもう仕方がない。総力で山を駆け下りる。

 

凄まじい勢いで、殺気が全方位から噴き上がった。やはりわざと内部に引き込んで、まとめて始末する気だったわけだ。

 

だが、大物もいないこの状況。

 

舐めて掛かった事を、後悔させてやる。

 

パティが、先行して山を駆け下りる。平地に出ると、手を振って来る。セリさんが再び植物魔術を展開して、巨大な覇王樹を多数生やして、平原に簡易陣地を作る。其処に、全員で飛び込んでいた。

 

闇の中に、大量の目の光が浮かぶ。

 

何体いるか知れたものじゃない。地下からの奇襲に警戒する必要があるが、周囲にはセリさんの展開した頑強な壁もある。空はうちにはスペシャリストも多い。

 

「セリさん、ねんのために地面の下から奇襲できないように、根を徹底的に張ってください」

 

「人使いが荒い、とは言っていられそうにないわね」

 

「来るぞ!」

 

伊賀さんが叫ぶ。

 

山崩れのような音とともに、途方もない数の魔物が全方位から来る。

 

これは、誰も生還出来ないわけだ。

 

ただし、それも今日で終わりにしてやる。

 

あたしは跳躍すると、さっそく全力で熱槍を展開。

 

それを、周り全部にいる魔物に、熱烈にプレゼントしていた。

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