暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
禁足地の中の禁足地、歴戦の侍も忍者も生還出来ない北の地。
生還出来ない理由をはっきり確認したライザは、踏破を目指します。
それは困難ですが、価値のある戦いです。
序、まずは打通へ
数度の戦闘を経て分かる。この辺りの魔物は、明らかに組織化されている。多数の種族の魔物が、明らかに連携している。しかしあの悪魔みたいな奴の姿はない。サマエルだったか。あれを倒してから、次は現れていない。
そうなると、この辺りの遺跡が何か悪さをしている可能性もある。
あたしはかなり疲弊が激しい皆を見やる。一度戻る事も想定しないとまずいだろうこれは。
それくらい、連戦が続いているのだ。
「ライザ!」
タオが手を振っている。
先行していたクリフォードさんと連携して地図を作ってくれていた。この辺りは山ばかりで、あたしが跳んでも周囲を把握しきれない。だから、あたし以上に高く跳躍できるクリフォードさんが本当に頼りになる。
あの人は今、この世界で最強のスカウトかも知れない。
既に聞いている。
そろそろこの辺りで海に抜けると。タオの説明だから間違いないし、それに海辺の特徴が空に現れ始めていた。
坂を駆け上がる。
峠の上に出ると、それが見えた。
海だ。
海がどこまでも拡がっている。この辺りの海は海流に問題があって、商船も殆ど通らないらしい。
東の地の侍や忍びが、必死の覚悟で船を出して調査したのだろう。少しでもこの辺りを調べ、勝機を探るために。
その調査が、今。
やっと実を結んだことになる。
「おおっ!」
「ついに海に抜けたか!」
伊賀さんをはじめとした忍びの人達が、歓喜の声を上げている。数度の戦いで消耗はしているが、それでもついにここまで来たのだ。
一度戻るのも手ではあるかな。
あたしはそう思いながら、この少し前に作った拠点へと戻る。皆の疲弊も溜まっているし。
この辺りで集めた素材も吟味しておきたい。
錬金釜は持ち歩いているので、調合も出来る。
とにかく、一度戦略上の目的は達した。最初の目的である、北の地の海までの踏破は此処に成ったのである。
まずは、皆で軽く話をする。
此処からどう調査をして行くかが問題になる。
最初に挙手したのは伊賀さんだ。咳払いすると、まずは海へ打通した事と、この地の魔物の異常性について征夷大将軍への報告をしたいという。
話については分かる。
それにだ。
「僕も賛成かな。 東の地の内部とはいえ人が住んでいる地域と同等の広さがあるこの北の地を、一度で踏破するのは現実的じゃない。 これから数度、怪しい場所を探って行くことになるし、人員の入れ替えや、なんなら戦闘専門の侍の部隊に来て貰うのもありだと思う」
「俺も賛成だな。 忍びのあんたらも良い腕をしてるが、それでも侍の突破力には及ばない。 この地の魔物には空間使いも時間使いもいる。 それが数で攻めてくる以上、調査には戦闘力も必要だ」
タオもクリフォードさんも賛成か。
更に言うと、クラウディアも挙手する。
「まずは大まかに調査しながら、敵の本丸を探す作業だよね。 ネメドの大森林より此処は危ないし、それ以上に広いみたいだよ。 私も一旦は戻って、一時報告を出すべきだと思う」
「私も同感です。 この地の長である征夷大将軍様には、一度情報を共有すべきです。 それに……タオさんの受け売りですが、この移動した範囲に遺跡はない。 それがそもそも成果の一つだと思います」
パティも賛成か。
反対意見はないかと見回すが、無さそうだ。
戦いたいと顔に書いているディアンですら、別に留まる必要は感じていないようであるし。
ならば、あたしの決断は決まっている。
「よし、一度戻ろう。 帰路で魔物がどれほど仕掛けて来るかもしっかり確認しておきたいし」
「ありがたし。 あやめよ、報告書をまとめておけ。 ライザ殿にはすぐに次の調査に出て貰うとして、我等がその足を引っ張る事があってはならぬ」
「承知」
助かる。
手練れの侍の力はアガーテ姉さんや全盛期のザムエルさんにも匹敵する。次はスカウトの忍びを減らして、侍を増やせばもう少し戦闘が楽になる可能性が高い。
帰路は行きよりもだいぶ楽になる。打通した経路の周辺をちょっと寄り道しながら調べるが。
魔物の戦力が異常な事。
ネメドなみに暑い事を除けば。
この辺りは、とても美しくて、自然豊かな森だ。
巨大な魔物や、子鬼が闊歩していなければ、こんなに緊張して歩き回らなくても良かっただろう。
途中で設置した拠点を経由して、その周囲も調べておく。
魔物は何度も戦ってその度に駆逐したが、規模を落としながらもこっちをあからさまに監視している。
隙があれば仕掛けて来るつもりだ。
本当に油断ならない。
これでは半端な戦力で踏み込めば、全滅するだけである。今まで調査が上手く行かなかったのも納得だ。
それこそ東の地の全戦力を投入しても、全土踏破は厳しいだろう。
だったらあたし達が少数精鋭を募って、それでピンポイントで調べて行くしかない。
遠くに見える印象的な地形なども、タオがメモを取っている。今までは、それさえ出来なかったのだ。
奇襲も多い。
野良の魔物は、この辺りは人間がいないこともあって育ちきっているようで。非常に強力だが。
それはそれとして、子供の魔物もいるにはいる。
それらも奇襲は仕掛けて来る。人間は見たことがない獲物に見えるのだろう。当然、全部返り討ちだが。
タオはその生態を、丁寧に調べていた。
「やはりネメド近辺と魔物の傾向が似ている。 考えて見れば、ネメドもそもそも神代に抵抗した土地だ。 無関係じゃないのかも知れない」
「違うのはフォウレの里の先祖は敗れて逃げた事だよね」
「うん。 だから使った生物兵器は、あの程度の数で済んでいたのかも知れないね。 この地では敗れなかった。 だから徹底的に魔物を配布した」
神代のやり口は本当に反吐が出る。
ただタオは、あくまで仮説だよと念押しする。
確かにこの辺りの遺跡に、それを示唆する証拠がまだ見つかっていない。それにあたしの仮説。
超大型の育成施設などもまだ見つかっていない以上、あくまでそれは仮説であると、自身に念は押さないといけないだろう。
まあ、実際に見つかっている数多の証拠で神代の錬金術師がカスの集まりだったことは事実なのだ。
だから、此処で起きている事を決めつけなければ、それでいいか。
北の地の境まで、一日少しほどで到達。山道ばっかり歩いて少し疲れたが。ともかく、北の砦に戻る。
まだベヒィモスのしがいは残っていたし、戦場の片付けは続いていた。
全員生還を、砦にいた姉小路さんは祝ってくれた。
疲れている皆に、丸根砦に設置したアトリエで、ゆっくり風呂に入って休んできてとあたしは告げる。
此処から、戦力を再編し。
状況の共有を行い。
そして、再度のトライ開始だ。
あたしも一日ゆっくり休んで、北の砦に出向く。薬なんかは補充はいらないが、爆弾とかはコンテナから幾らか補充した。
既に北の砦には、第二次遠征部隊の面子が集まっていた。今度は伊賀さんは出ないらしい。
あやめさんが隠密部隊の指揮を執り、侍の指揮は安東という侍大将が執るらしかった。見ると、まだ若い侍で、ディアンと殆ど年が変わらない。子鬼を二体倒しているが、とにかくまだ若くて集団の指揮に慣れていない。
ただし腕前は非常に優れているので、今回の遠征で武勲を立て、未来のためにお膳立てをしたい。
そういう話らしかった。
まあ有望な戦士にそういった措置をするのは。あたしとしても分からないでもない。
あたしもクーケン島ではそういう風に扱って貰っていたのだ。そうでなければ、とっくに結婚させられていただろうし。レントやタオとつるんで悪ガキ軍団なんて続けていられなかっただろう。
顔合わせしたあと、すぐに外で整列する。
当世具足に明らかに着られている雰囲気だ安東さん。ディアンが年も近いので絡みに行くが。安東さんはかなり緊張しているようだった。
「指揮などするのは初めてで、しかもこの先は初めて生還者が出たほどの死地。 最善は尽くすが、あまり交友などしている余裕はござらぬ。 無礼があれば詫び申す」
「うわー、堅いな。 それじゃ戦えなくないか」
「ディアン、まずは戦闘で手並みを見よう。 子鬼とはいえ、二体も倒しているなら、充分過ぎる手練れだよ」
「ライザ姉、安東が手練れなのはわかる。 これから伸びる竹みたいに勢いがあって鋭いし強い。 でも、緊張してると強さが発揮できないと思うぞ」
まあ、それもそうか。
今回は十人の忍び、侍が十五人ついてきてくれる。所帯が大きくなるから、仮説の拠点も大きくする必要があるが。
まあその程度の拠点で良いのなら、作るのは苦労しない。
荷車は五台体制になり、侍が全て引いてくれる事になった。なお、着いてくるのはみんな侍大将以上の人員らしい。
最低位の侍を足軽というのだが。
今回の遠征では、足軽は流石に従軍させられないと、報告書から判断したのだろう。この人数を遠征に出すだけでも、征夷大将軍は大奮発してくれたと言える。
タオが地図を先に拡げて説明。
今回は北の地に入ると、まずは北東に向かい、海への打通を目指す。
地図から見て、海に打通するまで三日から四日。帰路はその半分程度。戦闘は大規模なものが三回程度は想定される。もしも遺跡が見つかった場合、其処を守るガーディアンもいるだろうと。その場合は、超ド級相手の厳しい戦闘になる可能性が高いとも。最悪の場合は撤退戦になる。その覚悟もして欲しいと、タオは皆に告げた。
パティを一瞥。
昨日、ベヒィモスとサマエルとの戦いで失ったハイチタニウム主体の大太刀を、新調して渡したのだ。
基本的にハイチタニウムは作るのは難しく無いので、そんなに恐縮しなくていいのにと思ったのだけれども。
それでもパティとしては、刀を失ったのは剣士の恥として考えているようで。
もっと上手に戦わないとと、ちょっと気合が入っている。
パティとも安東さんは年が近い。その上若き俊英どうしである。それぞれ刺激があるかも知れない。
いずれにしても、あたしはしっかり見ていかないとまずいだろう。
打ち合わせが終わったら、すぐに出る。
安東さんは、誰にも対応が丁寧だ。若い天才は傲慢だったりするのだが、そういう事もない。
或いはだが、周囲にもっと優れた侍がいて。そういう侍が戦死した中自分だけ生き残ったのか。
考えられる話だ。
この地で言われる鬼は空間使い時間使いが珍しく無い。そういうのと戦い続ければ、初見殺しにどうしても当たってしまう。
ならば、運が良かったと思って、それで自信を持てない可能性もある。まあ、想像だが。
ともかく、戦地に出向く。
此処からは、油断すれば一瞬で命が吹き飛ぶ。勿論周りで支えはするし、あたしの目が届く範囲で戦死者なんか出させないが。
それでも、油断だけは、絶対に出来ない。
出立。
エイトウトウ、エイトウトウ。
北の砦から、そう勝ち鬨が聞こえた。
今まで触れる事も出来なかった土地が暴かれる。
閉鎖的で何もかも拒んでいるような土地だったら、むしろあたし達は普段アンペルさんがやっているみたいなダーティーな手管を使わなければならなかったかも知れないのだけれども。
この土地では、血縁での地位の相続禁止。
武を何よりも貴ぶ。
この二つがあったから、奇跡的に上手く行った。
あたしが感応夢で見た、タームラさんの言葉が、上手に引き継がれたこと。引き継がれたのも、此処の異常に厳しい状態が作用したこと。
それらがあったからなのだろう。
北の地に踏み込む。
侍衆に、レントが声を張り上げる。
「此処からはいつ魔物が来てもおかしくない! 逃げても絶対に逃げ切れないから、戦闘の時は円陣を組む! 防御陣を構築して戦いやすいように魔術で膳立てするから、心置きなく戦って欲しい!」
「応っ!」
「よし、みんな行くよ!」
あたしが先頭に立つ。
そして、タオが指示した通り、まずは北東を目指すのだった。
ガイアは半数ほどの同胞を北の砦に待機させ、残り半数を東の地各地に散らせた。
ライザリンが来るまでの戦いで五名、ライザリンが来てからの決戦で一名が戦死したが、それでもなんとか補充が出来る範囲内だ。
今までの厳しい戦い。
フィルフサの大侵攻とぶつかり合った時とか。
東の地での戦いで、超ド級とやりあった時とか。
そういうときに比べれば被害も驚くほど小さい。
それどころか、ライザリンの作った義眼。なんどか目に手をやったが、これの性能は。
明らかに、神代の技術を凌いでいる。
だから、報告をしなければならなかった。
報告書をまとめて、母のいる空間に出向く。
コマンダーは出払っていた。希望たるアインは睡眠中……というよりも、体の調整中だ。今までよりもずっと動けるようになってきたが、それでもまだまだ培養液に浸かっている時の方が長い。
早く培養液の外に出して。
普通の子供として過ごさせてあげたい。
ガイアは、その母の願いを知っていた。
同胞全てが共有している事だった。
「ガイア、戻って来てくれましたね。 多くの同胞を失いましたが、それでも東の地での凶事は避けられたようで何よりです」
「はっ。 ライザリンの強さ、能力、間近で確認して参りました。 それと……」
「分かっています。 義眼ですね。 今スキャンします」
幾つかの自動機械が来て、ガイアの全身をスキャンする。
同胞で最年長の体だ。
前バージョンのモデルは定期的に延命措置を受けなければならなかった。神代はそれで同胞の先祖を縛ろうとしていた節がある。
だが、それは上手く行かなかった。
東の地では同胞の前モデルであるタームラが反乱を起こし、赴任していた錬金術師達を全滅させた。
その後タームラは征夷大将軍となり、どうやれば神代と戦えるのかを教えて、それで寿命を全うした。
ホムンクルスという作られた命だ。
それでも、その生き方は。
神代の錬金術師なんかよりもよっぽど立派だったし。
何よりも誇り高い。
人間の要素を弄くって、性欲のはけ口兼都合がいい奴隷として作り出されたホムンクルスだが。
むしろ、よほど人間らしかったのだと言えるだろう。
「解析が終わりました。 これは革新的な技術が使われています。 データベースに残されているどの技術とも違いますね」
「やはり神代の誰よりも上でしょうか」
「……いえ。 そもそも神代は、技術を受け継いだだけの存在に過ぎません。 仮説ですが、誰かもっと祖となる存在がいた可能性があります。 データベースの中に、気になる単語を見つけています」
「お聞かせください」
母は告げる。
旅の人、と。
その存在は、全く正体が分からないと言う。というよりも、必死なまでに隠蔽している節があるとか。
神代の前の時代には、冬という破滅の時代があった事が分かっている。
何もかもが死に絶えた、悪夢のような時代だったそうだ。
ガイアもその惨禍は聞かされているが。
確かに我欲が人間の皮だけ被っていたような神代の錬金術師達が、そこから立ち直ったとはどうにも考えにくいのだ。
オーレン族のような互助を当たり前にしている種族や。
ライザリンのように、弱者のために全力を尽くし、邪悪に怒れる存在がいないと。絶対に人間は「冬」から立ち直ることなど出来なかっただろう。
ただ、その冬についても、記録が隠蔽されている。
母のハッキングは少しずつ進んでいるが、それでもまだ届いていないのである。
「それでライザリンはどうですか」
「凶猛にて慈悲深く、鬼神のようで有りながら慈母のようでもある。 強烈な二面性を持つエネルギッシュな人間です。 最強の才覚を持ちながら、欲望はほとんどなく、それどころか繁殖にはまるで興味がないようです」
「報告通りですね。 完全に異質すぎる存在です。 神代の錬金術師達は、欲望、特に性欲が強い人間は優秀で。 欲望のままに全てを蹂躙するべきだと常に説いていたようですが。 その真逆を行くライザリンが、神代の全てを越えていくのは面白くもあります」
そうだな。
ガイアも、ライザリンに対する敵意はなくなった。
ベヒィモス戦のあと、苛烈な戦闘で負傷して、疲弊しきったのに。
目が覚めるやいなや、負傷者の救命活動に尽力。多数の命を救った。
あれは計算で出来る事じゃない。
少なくとも神代の錬金術師だったら、無駄な事をしているとかいって、指をさして笑い転げていただろう。
「しばし東の地での監視を続行してください。 ライザリンの翻意だけには気を付けるようにしなくては」
「御意。 ライザリンは、この様子だと確定でここに来るでしょう。 後三ヶ月もかかりますまい」
「その時は、同胞全てを集めて、そして真実を話します。 ライザリンは今までの観察を分析する限り、それで我々と敵対する可能性は少ないでしょう。 なぜなら……」
母は、神代の技術から生まれた鬼子。
ある意味、神代の敵なのだから。
一礼すると、ガイアは東の地に戻る。多数暴れている子鬼共を、同胞とともに駆逐しなければならなかった。