暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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苛烈な戦い。しかも連戦。

しかしながらその意味はあります。

此処こそ禁足地の中の禁足地。

誰も足を運べていない、魔郷の中の魔郷。

それほどまでに守りを固めている場所です。神代の遺跡があるとすれば……それは超重要な遺跡なのです。


1、連戦踏破

沼地だ。先行していたタオが、広大な湿地帯を確認。同時に、あたしは即応していた。

 

「全員後退! 先に見つけていた荒れ地に展開するよ!」

 

「はっ!」

 

「皆、さがれ! 遅れれば死ぬぞ!」

 

あやめさんの指揮する忍びは一丸になっているのに対して、安東さんはやっぱり指揮が不慣れだ。

 

だが、それも承知で侍大将達は安東さんを立てている。

 

間近で戦闘する所を見て、それは納得出来た。

 

凄い才覚の持ち主だ。

 

個人武勇と、今後の将来性という観点では、恐らく東の地の至宝とも言える。

 

この土地では、「若い者には旅をさせよ」という諺があるらしい。

 

まさに今、次代の征夷大将軍を、そうして育てているというわけだ。

 

走る。

 

もう魔物達は動き出している。

 

四十名弱のあたし達なんて、それこそ万に迫るだろう魔物からすれば、エサに過ぎないし。

 

何よりも人間に対する凄まじい敵意が、魔物達には植え付けられているのである。

 

地響きだ。

 

ずっと遠巻きに見守っていた魔物達が、一斉に迫ってきている。本来だったら沼地で身動きが取れなくなった所を強襲するつもりだったのだろうが、それに気付かれた。だったら、もう今仕掛けてしまおう。

 

安直な思考だが。

 

それもまた、有りなのかも知れない。

 

セリさんが手を振っている。

 

既に覇王樹の壁と、地面の下に張り巡らせた強靭な根。それに、空に向けて種を発射する対空砲の役割を果たす植物多数。それで作りあげた野戦陣地は完璧だ。今度の探索では、前回の探索の轍を生かし、こうして要所に野戦陣地を構築して、魔物が増え始めたらそこを中心に探索を広げている。

 

此処の魔物は、獲物を引きずり込んだと思うか、或いは少数で突出したと判断すると。一斉に雪崩のように襲いかかってくる。

 

だから、忍び衆は全員でまとまって動くように指示してある。

 

足が速いタオとクリフォードさん、パティとリラさんも同じだ。

 

侍衆と一緒にいる本隊と、この偵察チーム二つで周囲の探索を進め地図を埋め、今度の第二次遠征は今までは順調に進めていた。

 

セリさんが作りあげた野戦陣地に到達。

 

遅れている侍衆に、急いでと叫ぶ。

 

全方位から、既に魔物の群れが迫っている。ラプトル鼬走鳥サメ、本当になんでもいる。あたしはセリさんが展開した植物を蹴って跳躍すると、さっそくフォトンクエーサー広域制圧型を叩き込んで、熱烈な歓迎をさせて貰う。

 

それで、皆が野戦陣地に逃げ込む時間を作ることもある。

 

クラウディアも、上空に矢をぶっ放す。

 

それは炸裂して、魔物の群れを頭上から襲う。次々に倒れながらも、魔物は劫火と矢の雨、それにカラさんの大魔術をかいくぐって、野戦陣地に押し寄せてくる。

 

侍衆が、覇王樹にわざと明けている穴の一つを担当。接近戦組もそれぞれ穴を担当して、猛烈な肉弾戦に突入する。

 

此処には丁度簡易拠点も作ってある。

 

それを砦にして、敵を迎撃するのだ。

 

既に第二次遠征での大規模戦闘は二回目。タオの見た手だと、明日には海に着くという話だが。

 

この北東方面は水はけが悪いようで、またまん丸の湖も複数見られた。

 

今まで危険すぎて地図にも起こせなかった地点が、地図になっていくのは良いことなのだが。

 

それには、こうして途方もない数の魔物を捌かなければならない。

 

レントが押されている。マンドレイクが来ている。凄まじい金切り声を上げようとしている所に、あたしが熱槍千を束ねて叩き込む。

 

即座に炎上するマンドレイクだが。

 

燃えている表皮を吹っ飛ばして、内側からすぐになまめかしく濡れた体が姿を見せる。突出も出来ない。

 

そこに、クリフォードさんが斜め上からブーメランを叩き込む。

 

半ばまで抉るようにマンドレイクの体に食い込んだブーメランが、断末魔の絶叫を挙げさせる。

 

「やるな! 俺も負けていられねえ!」

 

「逸りすぎるなよ」

 

前に出るレントを、ボオスがたしなめる。

 

レントの大剣がうなりを上げ、右に左に大型の魔物をなぎ倒すが。どれも成長しきった鼬やラプトルだ。強いには強いが、今のレントの敵じゃない。

 

あたしは周囲に気を配りながら、要所に熱槍を叩き込み、時には爆弾を叩き込む。

 

投擲したアネモフラムが、今丁度面倒そうな魔術を放とうとしていた子鬼に直撃。だが、流石は鬼だ。

 

それに耐え抜くと、凄まじい怒りの咆哮を挙げた。だが、その時には、敵の中をつっきったパティが。その背後から一刀両断していた。

 

すぐに戻ってくるパティ。その撤退を援護する。

 

魔物は戦意が衰えない。

 

本当に狂熱に浮かされているように、全滅するまで突撃を繰り返してくる。子鬼もそれは同様だ。

 

真夜中に、戦闘が終わる。

 

負傷者もかなり出ていたので、すぐに手当てをする。

 

安東さんが、精根尽き果てた顔をしている。

 

個人で武勇を振るうのと勝手が違う。

 

そう顔に書かれていた。

 

「よし、交代して休んで。 明日はどういうルートで進むかだけれども」

 

「ライザリンどの、体力は底無しでござるか」

 

「いいや、結構疲れていますよ。 とにかく、交代して休んで、無理がないように明日に備えてください」

 

熟練した侍大将が音を上げているが。あたしだって体力は無限じゃあない。

 

ただ、この拠点はしっかりした風呂を作っていて。水についても地下深くから吸い上げている。

 

大々的にやると毛細管現象だので土地に塩害を招くのだが。

 

この程度の規模だったら問題ない。

 

会議を終えてから、風呂をゆっくり楽しむ。その後は、主に忍び衆が見張りをしてくれるというので、頼んで休ませて貰う。

 

周囲は魔物の残骸の山だが。

 

処理は明日でいい。

 

そもそも食糧は荷車に積んで持ってきてある。今回の行程の分は充分だし、なんなら倍に伸びても平気だ。

 

一晩ぐっすり休んでから、起きだす。

 

起きた時には、三交代最後の見張りをしていた忍び衆が、休みに入る。パティも同じくらいに起きだしてきたので、並んで体操をする。

 

レントがあたし達の盾なら、パティは剣だ。

 

鋭いまっすぐな剣筋はまさに見事で、常に先陣を切って敵を断つ。

 

今後も頼りにさせて貰う。

 

その真面目な性格は貴重だ。真面目な事を馬鹿にする風潮なんか滅びろ。真面目な人間が減れば減るほど、社会は暮らしづらいだめな所になるのだ。

 

体を動かして、すっきりしてから朝食にする。

 

流石にこの人数だとクラウディアとパティとフェデリーカだけだと厳しいので。侍衆で料理が出来る人にも手伝って貰う。

 

朝の時間帯は、忍び衆は休んでいて貰う。

 

ギリギリまで休んで貰って、食事が出来たら起きて貰うくらいでいい。

 

この時間帯は、もう奇襲なんて受けることはないし。

 

それに、だいたい分かる。

 

今回の第二次遠征は外れだ。

 

海のすぐ近くまでもう来ているのに、超ド級の気配もない。それに、海のすぐ側に遺跡を作るとも考えにくい。

 

だいたいこの沼地だらけの地形。

 

遠くから発見してくれといわんばかりだ。

 

超ド級としても動きづらいだろうし、少なくともこの辺りに遺跡は無い。帰りに少し寄り道をするにしても、あまり期待できないだろう。

 

そうなると次の第三次遠征。

 

北の砦から北西に進むルートが本命か。

 

食事は肉が中心だが、これは力をつけるためだ。侍衆が食事をしている内に、あたしは外に出て、腐り始めている魔物の死体を全部焼き払ってしまう。スカベンジャーが危険を悟って逃げ出す。風をカラさんが操作して、こっちに煙が来ないようにする。

 

全部まとめて焼き尽くすのは、この地に住まう魔物に見せつけるためだ。

 

人間に手を出したらどうなるか。

 

人間を舐め腐っている獣なんて、それこそ害を為す存在以外の何者でもない。多少措置は厳しいが。

 

こうやってしっかり対応してしまうのが最良である。

 

そうして、距離をちゃんと取れば。今後は人間ときちんとやっていけるようになる。動物との接し方の基本だ。

 

知識人ぶった輩が人間も動物だとか抜かすが。畜産経験者から言わせれば、本当に救いようがない寝言である。

 

動物と違う生き方をしているから、人間は文明を構築し、なんとか持ち堪える事が出来ているのだ。

 

文明の利点ばかりつまみ食いして、何が人間も動物だ、か。

 

ともかく、今まで千数百年分たまった膿を、こうして出してしまわなければならないのである。

 

焼き尽くした死骸は崩しておく。

 

そうすることで、長い年月を経て肥料になり。この土地を豊かにするだろう。

 

一通り作業が終わった所で、また北東に向かう。

 

案外あっさり海に出ていた。この方面も、打通成功だ。

 

海岸際には山が多いのだが、これには理由があるのだろうか。ちょっとあたしには分からない。

 

ただ、変な形の入り江が多いな、とは思う。

 

「これ、なんだろうね。 丸い入り江に思えるけど」

 

「隕石が落ちたにしては不自然なんだよね。 ライザの大火力魔術でも、此処までの破壊規模は出せないでしょ」

 

「やろうと思えばできない事もないけれど、やる意味がないかな」

 

「そうお前が考えてくれる奴で助かる」

 

ボオスが嘆く。

 

確かに、これは何かしらの破壊が起きた残骸だろうか。クラウディアが、手を振る。

 

「ちょっと、これを見て!」

 

「!」

 

音魔術の使い手であるクラウディアは、周囲全ての地形を殆ど完璧に読んでいる。だから見つけられたと言える。

 

走り寄って、あたしは見る。

 

それは、恐らく石材の一種で作られた、何かしらの建造物。これは見覚えがある。神代の遺跡の壁材だ。

 

ただし、神代のものじゃない。もっと古いと思う。

 

既に草木に覆われてしまって、形も崩れているが。

 

「面妖な。 これは一体……」

 

「鬼共が何かあやしの術でも使ったのか!」

 

「いや、これは恐らく神代以前の建物の残骸ですね。 神代の遺跡は見つからなかったけれど……調べられるだけ調べます。 あやめさん、周囲の警戒を。 安東さん、奇襲に備えてください」

 

頷くと、あやめさんはすぐに忍び衆を散らせる。

 

安東さんは不慣れではあるが、侍衆と供に、周りを厳しく監視した。

 

あたしも周囲を調べてみる。

 

建物だとすると、とんでもない大きさだ。

 

しかも倒壊している様子で、なおも下手な邸宅なんかよりも大きい。これはいったい、なんだ。

 

クリフォードさんが手招きしてくる。

 

見ると、一部は融解しているのが分かった。

 

「これは何か溶けていますね」

 

「これ、硝子です」

 

「そうだ、どうやら此処は窓で、硝子が使われていたらしいな」

 

フェデリーカが即座に特定。

 

しかもだ。

 

此処はどちらかというと影になっている部分だ。其処でも硝子が融解する程の熱を受けたという事になる。

 

少し考えた後、クリフォードさんが言う。

 

「世界の半分くらいは完全な荒野で、人が入れない土地になってる。 時々命知らずが行く「破滅の荒野の大地」なんかは、大陸全土がそんな有様だ。 俺も、一度だけそういった人が入れない荒野に行ったことがある」

 

「流石というかなんというか。 それで良く生還出来ましたね」

 

「魔物すらいなかったからな。 植物も生えていねえ。 そういった所で、似たようなものを見た。 硝子が溶けた後だ。 硝子だけじゃねえ。 こういった、神代のものかもわからねえ、年代を特定出来さえしない巨大な建物の残骸が、半ば溶けていやがった」

 

本当に一体、何があったのか。

 

タオが内部を見てきたが、首を横に振る。

 

フィーが飛んでいって、押し戻すような動作をした。此処からは入らない方がいいと言うのだろう。

 

どうも奥の方は入るとまずいみたいだ。

 

タオも、どうも嫌な予感がするようで、足は踏み入れなかった。

 

「ダメだ。 資料なんかの類はない。 硝子が溶けるような熱が浴びせられたんだ。 資料なんてみんな溶けちゃったんだろうね」

 

「クリフォードさんが、人が入れなくなってる土地で似たようなものを見たって」

 

「僕もその話は既に聞いているんだ。 ただ、これではいつ何が起きたのかさえ分からないね。 建物の残骸を見る限り、どんなに好意的に見積もっても神代のものなんだろうけれど、それも神代のいつかさえも分からない。 ひょっとすると、神代以前のものかも知れない」

 

タオでもこうまで言う程だ。

 

そうなってくると、これは一体何なのか。

 

持ち帰れそうなものはほとんどないが、一応サンプルとして溶けた硝子や、散らばっている建物の残骸を回収する。

 

そして簡易拠点で、錬金釜に溶かして分析してみる。

 

なるほど、確かに硝子だ。

 

でもこれ。

 

あたしのフォトンクエーサーの収束型でようやく出るような熱で溶かされて、半ば硝子として構造が破綻してしまっている。

 

あの建物に、フォトンクエーサー並みの熱が叩き込まれたのか。

 

いや、違うだろう。

 

もっと遠くで、更に狂った熱量が炸裂して、その余波を浴びてなぎ倒されたのだとみるべきだ。

 

建物の残骸を調べて見るが、これは恐らくは。

 

石灰などを主体としていて、極めて強固な構造体だ。ちょっとやそっとでダメになる代物ではない。

 

それが一瞬にして焼き切られた気配が残されている。

 

本当にこれは、どんな熱量が炸裂したのだ。

 

ただ、分かった事がある。

 

「タオ、クリフォードさん、アンペルさん。 これ四千年以上前に熱を浴びて壊されてる」

 

「!」

 

「符合しない? 例の奴と」

 

「冬だな」

 

百年以上ずっと晴れさえしなかった暗黒の時代。

 

その時代と重なる可能性があるのだ。

 

千年前くらいに終わった神代は、二千年以上は続いたという説がある。もっとかも知れない。

 

冬がいつに起きたのかは分からないけれども。

 

少なくとも神代の頃にはその異常気象は収束していたとみて良いだろう。

 

いずれにしても、もう少し調べて見たいので、サンプルはしまっておく。後は、一旦戻るべきだ。

 

帰路も急ぐ。

 

侍衆も不安になっているようだった。

 

一応確認して見るが、あんな建物はどこでも見ていないという。

 

千数百年も神代やその後継の文明に対して独立を保ち、その支配をはねのけてきたこの地で知られていないのだ。

 

だとすると、一体。

 

ともかく、帰路も時々来る魔物を退けながら、急ぐ。

 

安東さんはやはり不慣れだが、それでも歴戦の侍衆がいてくれると、一手の守りは任せられるのが大きい。

 

覇王樹で作る簡易陣地で敵を防ぎ止めつつ、広域攻撃を連続で叩き込み、子鬼はあたし達が集中攻撃して仕留める。

 

それで、帰路も犠牲者を出さずに、どうにか突破する事が出来た。

 

二度目の帰還。

 

大きく拡がった地図。

 

だが、喚声で帰還を迎えてくれた侍衆に対して、あたしは素直に喜ぶことが出来なかった。

 

 

 

三度目の遠征を始める前に、準備をする。

 

成果を出している以上、征夷大将軍も宿老達も態度が柔らかくなる。あたしがこの地に根付く気はない事にはちょっと残念そうにしているが。それはそれで、あたしとしても譲る気は無いし。

 

何よりもあたしは。

 

何処の集団にも肩入れするつもりは無い。

 

いずれ魔王になるつもりであるから。

 

それはそれとして、まずは話を聞かせて貰う。こんな戦いしかない土地でも、伝承に詳しい人間は少しは残っている。

 

本当に戦闘に参加できないものは、そうして伝承などを受け継いでいるそうだ。

 

これについては、初代征夷大将軍である「田村」(おそらくあたしが感応夢で見たタームラさんだろう)という人物が、伝承を引き継ぐようにと厳命したからなのだろう。

 

何人かを呼んで貰う。その間に、あたしは第三次遠征の準備をする。

 

今度の遠征で、かなり広めに北の地を調べる事が出来る。移動先だけを見るのではなくて、途中で高所から辺りを確認して、地図に起こしているのだ。それだけではなく、音魔術でも熱魔術でも今の時点では怪しいものはみつかっておらず、今の時点で遺跡を見落としている事はないと思う。

 

ただし、それでもまだ遺跡を見落としている可能性もあるので、第四次遠征は北の地を西から東へと横切る形で調査する予定だ。ただこれに関しては、もしも第三次遠征でなにも見つからなかった場合は、だが。

 

今のうちに物資を集めておく。

 

お薬を作り爆弾を増やす。

 

超ド級と多数の魔物が同時に現れた場合。あの神代鎧が姿を見せた場合。

 

それこそ、物資を惜しんではいられないからである。

 

流石に疲れきったのか、フェデリーカは戻るや否や、線がきれたようにぐったりと眠ってしまった。

 

気の毒だし、それについてどうこういうつもりはない。

 

パティは丁度時間も出来たので、侍に技を見せてもらいに行っているようだ。

 

貪欲な剣への追求。

 

欲を強く持つにしても、こういうものだったら良いだろうに。

 

あたしは調合を進めつつ、溶けた硝子と建物の残骸についても念入りに調べておく。一体何で溶かされたらこうなるのか。

 

無言で確認していく。

 

その過程で、どうもこの破壊的な変化が生じたのは、どうやら4100年から4150年前の間らしいと分かってきた。

 

硝子は文字通り悠久の時を越えるものなのだが。

 

それでも此処までの破壊を行うとは。

 

どうも均一な超高熱を加えられたらしい。

 

完全に焼き切られた人間の残骸も感知。

 

僅かだが付着していた。

 

あの建物に暮らしていた人だろう。

 

悲しい話だった。

 

建物は、瞬時に熱で焼き切られ。中にいた人間はまとめて全て焼き尽くされてしまったとみて良い。

 

建物そのものも瓦解して、硝子も溶けた。おぞましい程の大破壊を経て、あの野ざらしの建物が残った。

 

恐らく、世界にある人が入れない土地には、こういうものが他にもわんさかあるのではあるまいか。

 

これは何が起きた。

 

神代の前には、多様性があったとサマエルは言っていた。

 

もしも、この破壊がその神代の前の出来事だったとすると。

 

本当に奴が言ったように、世界は神代の前に一度滅びたのかも知れなかった。

 

それが人間以外の手によるものなのか、人間の手によるものなのかまでは分からないが。持ち帰ったこれがサマエルの言葉を裏付けているのは事実だ。

 

かといって、その言葉を全て鵜呑みに出来ないのもまた事実である。

 

クラウディアが戻る。

 

大きな魚を運んでいた。

 

取れたての大きな魚らしい。凶悪な顔をしているが、地元でも喜ばれる美味なのだとか。

 

すぐに料理を開始する。

 

フェデリーカがふらふらと起きだすと、クラウディアを手伝う。

 

体力がついてきている筈だが、それでも今回の強制行軍は厳しいのだろう。

 

「クラウディア、此処からフォウレに直行する方が近いんだっけ」

 

「調べて見たけれど、近いね。 ただ船があまり多くは無いかな。 戦いが一段落して、戦士の需要も減っているし。 一応バレンツにサルドニカから早馬を出して、商機であると話はしてあるんだけれど」

 

「流石にめざとい」

 

「ふふ、これくらいでないと商人はやっていけないの。 それはそうと、どう調査は」

 

分からん事だらけだと、正直にいっておく。

 

どうもサマエルの言葉が妄言だけではない様子である事はなんとなくは分かってきたのだけれども。

 

かといって、それを鵜呑みにも出来ない。

 

そういう話をすると、クラウディアは考え込む。

 

「タオくんやクリフォードさん、アンペルさんの話を聞いてみるしかないね」

 

「うん。 頼りになるブレインがいて助かるよ」

 

「ライザだって相当だと思うけどなあ」

 

「そうでもないよ。 相変わらずまだまだおおざっぱだし」

 

あたしも錬金術や戦闘を離れると、やっぱりおおざっぱだ。

 

こればっかりは誰もが認める事で、お前は出来るだけキッチンに立つなとボオスに言われるくらいだ。

 

多分、こういう所が母さんがあたしを認めない理由の一つなんだと思うが。

 

万能の人間なんて存在しない。

 

あたしはその辺りを、今更力と時間を注いで直すつもりなんぞない。

 

「戻りました」

 

パティが戻ってくる。汗をしばらく拭っていた。相当激しい乱取りをしたのだろう。

 

料理をしているクラウディアを見ると、すぐに頭巾を着けて手伝いに回る。話によると、なんとガイアさんから直接技を見せてもらったそうである。

 

流石に凄まじい技だったそうで、幾つも学びを得たとか。

 

ガイアさんは例の一族の戦士でも、恐らく筆頭に近い存在の筈だ。

 

そしてあのルックス。

 

多分だけれども、神代のあのタームラさんと同じ。

 

だとすると、あの一族はホムンクルスなのか。

 

でも分からないのは、タームラさんは短命だったらしいのに。その様子が例の一族には見られないこと。

 

だいたい例の一族は、どうして人間社会に入り込んで、人間を助けるようなマネをしている。

 

例の一族の助力で、どれだけ各地で人間が助けられているか分からない。

 

この東の地だって同じだ。

 

本当に何が起きているのか、あたしには分からないが。

 

これも情報を集めていくしかないか。

 

みんな戻って来た頃に、大きな魚の豪快な料理が出来たので。皆で舌鼓を打つ。

 

タオに聞いてみるが。引き継いでいる伝承は神代の錬金術師だろう「夷」を撃ち払う過程と、その後が主体で。

 

神代以前の可能性が高いあの建物に関するものは、ほぼなかったそうである。

 

そう、「ほぼ」だ。

 

「一つ気になった話があったんだ。 陽の神が人間の無法に機嫌をおそこないになられ、世界は闇に閉ざされ、百の年それが続いた。 地下で人は暮らし続け、獣に戻ろうとしていた頃、ようやく陽の神はお怒りを解かれた。 それから長い年月をかけて、やっと世界に緑が戻った。 戒めよ。 陽の神はまたお怒りになるかも知れない」

 

「冬」と話が似ているな。

 

いずれにしても、大きな情報だ。

 

ともかく、遺跡があるようなら見つけたい。少しでも、情報を神代の本拠地に乗り込むためにも。

 

集めないとならないのだから。

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